魔物は普通が良いです
狼らのボス。その体躯は、ただでさえ熊のような大きさの狼達よりも、更に二倍から三倍ほどの大きさらしい。
あまりの大きさから、雑魚はもちろんのこと、前の洞窟の主すらも戦わずに逃げ出した。と、そんな噂があるらしい。
そして俺は、狼達の餌にならないように、少し怒り気味で『初心者の洞窟』とやらにやって来た。
「で? お前らのボスはどこに?」
「洞窟の奥だ」
と、洞窟の目の前まで連れてこられて俺は思う。
なんで、狼らのボスに会う必要があるんだ?
餌が欲しいってことなら、コイツらが俺を殺したうえで運べばいいだけのこと。
それをしないってことは、俺に何らかの問題解決をさせよう。という魂胆に違いない。
もちろん、餌になるのは勘弁なんだが……面倒事の臭いがプンプンする。
「洞窟内の魔物は、俺達が喰っていく。安心して進むがいい」
「お、おう」
安心できる単語がなかったんだが? え? 魔物が出るのか? それを食っちまうのか? ついでに俺も食べやしねぇだろうな?
色々なーー主に食される事に不安を感じるが、断れば即座に俺が餌になる。
「はぁ」
ここは従って、さっさとまともな街に行こう。
魔物も生き物である。
「狼だっ!」
「逃げろっ!!」
魔物同士の会話は、その魔物の系統であれば、ある程度は意思疏通が出来るらしい。
「や、やめてっ!」
「た、頼むっ! 子供たちだけはっ!!」
ただ、狼とゴブリンでは、言葉の系統から会話が出来ないらしい。
「あぁあっ! 腕、腕がぁあ!!」
あとは方言みたいな地域で訛りが酷いときくらいだろうか。日本なら青森と沖縄の人らが、現地の方言で会話出来るかどうか。
「パパっ!」
……出来んだろうなぁ。
「うぐっ……こ、子供達には指一本も触れさせんぞっ!!」
ってか、
めちゃくちゃ居心地が悪いっ!
なんだよ! ゴブリンの言葉まで翻訳しやがって!!
片っ端から噛み付いては腹に溜め込んでいる狼達には、ゴブリンの悲痛な叫びは聞こえてねぇみてぇだし!
その狼の中央にいる俺! マジで悪役じゃねぇか!!
「お、おい、狼ども」
「どうした人間」
口の血を拭けよ。
「じゃなくてだな……子供を襲うのは辞めたらどうだ? な?」
「子供? コイツらは全て成獣であろう?」
「そうでござる。身なりが小さい故、人間殿は小童と勘違いされているのでござろう」
おい、武士風の狼。マジで子供が混ざってるんだが?
「く、来るなぁ!?」
……向こうもかよ。
俺は一度、ここまで連れてきた六頭の狼を召集。
これから先の魔物には、襲われた時以外は食い殺さないようにきつく指示した。
従ってくれればいいんだがなぁ……
「半分くらいがヨダレを垂らしてたからなぁ……」
ステレオな蹂躙劇は、まだ続きそうな予感がする。