神様は普通が良いです
「え? 今、なんて?」
どうやら昨今の神様というのは、老眼な上に耳も遠くなったらしい。
仕方がない。もう一度、ハッキリと、大きな声で言ってやろう。
「だから、チートなんか要らねぇから、日本に産まれ直させろよ」
「いや……」
神様は少し引いてから、
「いやいやいやいやっ! ここはっ! チート能力でもってイチャイチャハーレム無双をするに限るでしょっ!?」
限らねぇよ。ってか、
「ハーレムも無双も要らねぇから。日本で新作のテレビゲームでもさせろ」
俺の予想では、次の人生ではフルダイブ型のゲームが登場するに違いない。
そうなれば、命のやり取りを全くしないで、安全に無双もハーレムも出来るはずだ!
更に言えば、異世界の飯と日本の飯。どっちの方が口に合うか。考えるまでもない。
ゲテモノや見慣れない料理が食べたいならば、海外旅行に出ればいい話だ。
「え? えぇ? 異世界でチートすれば、どれもこれも手に入るんですよっ!?」
「もうどうでもいいからよぉ~。俺を日本に転生してくれねぇ? なぁ?」
「それはダメです」
おい。
「なんで異世界は良くて、元の世界はダメなんだよ」
しかも食い気味で言いやがったぞ。それが腹立つ。
「そ、それは……企業秘密です!」
「お前は経営者か」
「いいえ! 神様です!」
知ってるよ。ついでに年老いてるのもな。
「……どうせ、もう一人の奴がターゲットだったにも関わらず、」
俺の推測を口にする度に、
「俺を先に殺しちまったから、」
神様は滝のような汗かいては、
「証拠隠滅のために俺も異世界に送り込もうって魂胆なんだろ?」
そっぽ向いた。ほぼ認めたな。この駄目神。
「………………」
「なにか言ったらどうなんだ? おい、どこ行こうとしてんだ?」
「と、トイレに」
「お前……そのまま逃げるつもりだろ?」
図星だったようで、腰を上げかけた神様は、そのまま静かに腰を降ろした。
おい、この神様からチート能力を貰って転生した奴は、本当に大丈夫なんだろうか。すごく不安になってきたぞ。
「まぁいい。俺も隠蔽に協力するから、日本の比較的豊かな家庭の子に転生してくれ」
「…………!」
おい、今なんか閃いたみたいな顔が見えたんだが?
「分かったわっ! ニホンに転生させますっ! 今すぐにっ!!」
「おい、待て。なにか企んで」
「はい、さようならっ!」
「おいコラっ! 話の途中だろ……っ!」
眩い光に包まれた俺は、その眩しさから回復した。訳なんだが……
「あの駄目神……」
目の前に広がる大草原。広々とした青空。
そこに羽ばたいている鱗状の体躯をしたトカゲのような生物。
「あのヤロウ……!」
無理矢理、俺を異世界に転生しやがったっ!