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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三.二章 神谷神奈と究極の魔導書
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36 特訓――それぞれの力――

2025/09/28 誤字修正+文章一部修正









 帰宅してから、神奈は腕輪に新たな魔法を訊くことにしていた。正直な感想としては今回も役に立たないと思っているが、他に特訓といっても神奈にはやることがない。今までも神奈は身体能力のゴリ押しで勝利を収めている。


「ではこんな魔法はいかがです? 〈遠隔操作(リモートコントロール)〉、略してリモコンです!」


「なあ、本当になんでいつもいつもおかしな魔法を教えてくるわけ?」


「この魔法はなんといっても、手を触れずに操作出来ることが最大の利点です」


 文句を受け流して腕輪は説明を続ける。神奈が魔法に文句を言うことはいつものことだからだ。


「ん、待てよ? この魔法ってもしかして敵を操作出来たりするのか? なら凄い魔法なんじゃ――」


「操れるのはテレビのリモコンだけです」


「なんだ、やっぱりいつもの使えない魔法か」


「あ、もしかして神奈さん他の物も操れるって期待してました? 残念ながらエアコンのリモコンも電気のスイッチも操れません。本当にテレビのリモコンだけにしか使えない魔法なんです!」


「そんなものを操りたいと思ったわけじゃないわ!」


 そろそろ神奈は腕輪に魔法を教わるのを止めようかと思い始めている。毎回のように変としかいえない魔法を教わっていれば、当然の思考である。レイから魔技(マジックアーツ)でも教わった方がマシだ。


「ところで神奈さんは、本当に特訓なんて無意味だと思いますか?」


「え? いや、別に意味ないって思ってるわけじゃないけど、何すればいいのか分からなくて」


「なら近くにある武術道場に行ってみたらどうです? ほら神奈さんって武術経験なかったですよね? 格闘技を習っておけば戦略の幅も広がるかもしれませんよ」


「……格闘技? 習ったことなかったっけ? 気のせいかな、前世の記憶が薄れている気がするんだけど。まあこの世界に来てもう十年くらいだし、多少忘れててもおかしくはないよな? 十年って生きれば長いしな。前世で何やってたかなんて思い出せなくてもしょうがないな。うんしょうがない。それじゃあ近くの道場……ってそこ秋野道場じゃないよな?」


「違いますよ、確か夢野道場って名前だった気がします」


 こうして神奈は夢野道場という場所で格闘技を体験すべく入門。しかし、入って一日で道場主の夢野から「君に教えることはもうない。あとは自分自身で伸ばすんだ」と言われ、半ば追い出される感じで卒業した。


「さて……寝るか」


 結果、神奈の修行は一日で終わった。



 * * *



 とある一階建ての民家。

 そこはかつて神奈に敗れた宇宙人、レイ達の住処。そこに最近一人の少年が通っている。


 斎藤凪斗。神奈と同じ部に所属し、今回の騒動のきっかけにもなった男でもある。究極の魔導書の一冊を持っている彼は、レイに魔力の扱い方を指導してもらっていた。


 民家の庭にいる斎藤の体から薄い紫色の光の粒が溢れて、それが手の中心に集まっていく。光が球体の形となり、斎藤はそれをいくつもの円が描かれた白黒の的に放つ。

 斎藤が放った魔力弾は十メートル離れた的へと直線状に飛んで行き、あと一メートルというところで進行方向がいきなり変わる。当然だが的の中心に当たらず、端の方に掠って消える。


「またダメか……」


 悔しそうな感情を顔に出して斎藤は歯を食いしばる。

 何も知らない状態から一週間も経たずに魔力弾を生成し、的に僅かばかりでも当てることが出来るなら上出来だ。しかし、斎藤はこの結果に満足しなかった。六日後には狩屋との決戦が待っているのだ。生半可な実力では勝てるはずがない。それに加えて、文芸部員の友人を巻き込んでしまったことも悔いている。


「いや、でも段々と上達はしているよ。この調子なら、魔力弾を的の中心に当てるのに二日もかからないよ」


「……それじゃ遅いんです。あの的は動かないけど、実際の戦いになれば敵は動く。こんなヘボヘボ魔力弾じゃ、どう足掻いたって勝ち目がない」


「只者じゃない男と戦うんだろう? そのために力をつけたいっていうのはいいよ。でも焦って無理な特訓をしても、空回りして意味がないと思う。自分に出来ることをコツコツやっていくのが順調なレベルアップへの道だよ」


 レイは斎藤から事情を聞いており今まで通り訓練を(おこな)っている。

 斎藤はレイの言葉で焦りや悔しさを心の奥に押し込めて、もう一度光を集めて魔力弾を的に放つ。すぐに上手くいくことはなく、的にはまた掠るだけで終わった。


「そうですね、僕も地道に頑張ってみます」


「うん、それがいいだろうね。でも一つだけ言わせてほしい」


「なんですか?」


「君の使う究極魔法とやらは魔力消費が大きすぎる。君が使えるのは一回きりだ、つまりその一回に全てをかけるしかない。絶対に外してはいけない。戦局をよく見て使わなければ自滅するだけだ」


「……はい」


 レイが言ったことは紛れもない事実。究極というだけあり、魔力消費が大きすぎるのが唯一の欠点。だがそれを補える威力がある。だからこそ十分に気を引き締め、冷静に状況を判断する必要があるとレイは考えている。


「そういえばディストさんと、グラヴィーさんはどうしたんですか?」


「ああ、グラヴィーはバイトに行ってる。ディストの方は……まあ今はそんなことより」


 その先の言葉を濁してレイは答えなかった。


「君に一つ教えたいことがあった。僕らが使う魔技を習得してみないかい? 君はいわば爆弾だ、一発だけは凄い威力の兵器。あれ以外の魔法攻撃が出来ないと戦いは厳しいだろう?」


「……それは」


 斎藤も魔導書の力に頼り、一発しか撃てない魔法を当てるために相手の攻撃を躱し続ける戦い方には問題があると考えている。今回の相手にそんな作戦が通用するとも思えない。


「そこで魔技だよ。段階をすっ飛ばした訓練さ」


 現在の斎藤では魔力弾を当てることすら出来ない。そんな魔力コントロールでは魔法を使えても敵に当たらない。難しいものなら使用すら不可能。繊細な魔力コントロールが出来なければ、究極魔法を使用しても扱いきれずに魔力切れを起こす。彼が今やっている魔力弾のコントロールは、究極魔法使用を安全にするためでもある。


 狩屋という男の話を聞いたレイは、究極魔法一発だけで勝てるかを不安に思っている。ある程度は相手の魔力を減らしておかなければ、いかに究極魔法といえど一発で倒せない可能性がある。一発で倒せなければ斎藤の敗北は確定だ。


「……分かりました、やります。勝つために」


「さあ、あと六日だったね、それまで頑張ろう。難易度が低いものを教えるよ」


「はい!」


 斎藤は気合を込めた声を喉から発する。

 熱が入る弟子を見てレイは優し気な笑みを浮かべた。



 * * * 



 どこか和風を感じさせる外観をしている屋敷。

 ここは以前神奈も入ったことがある霧雨家。


「ええぇ、なんだか外観を台無しにするような造り……」


「そうか? 正確には俺がこの家を改造したのだがな」


 ここに二人の少年少女がいた。

 少年はこの家に住む機械大好き少年の霧雨和樹。

 少女は文芸部部長である夢咲夜知留。

 二人は客室と書かれた紙が襖に貼られた和室で、向かいあって座布団の上に座る。


「それで、私になんの用なの?」


 夢咲は霧雨に呼び出されてこの場所に来ていた。戦いを控えている今は自分の訓練に集中したい夢咲だが、戦いで何か出来ることが増えるならばと呼び出しに応じた。


「泉でもよかったんだが、お前について興味が出てな。何か特殊な力を持っているだろ? 俺の不思議レーダーがビンビン反応するんだ」


「……ええ、予知夢を見ることが出来るのが私の能力。内緒にしておいてほしいんだけど」


 意味不明な方法で見抜かれたが、戦いで役に立つ可能性がある以上、夢咲は自分の力を知らせておくのが必要だと考える。


「なるほど少し予想外だが、そんな能力を持つお前に是非着てほしいものがある」


「着てほしいもの?」


 霧雨が指をパチンと鳴らすと、女性のような見た目の家事専用ロボットが一着の服を持ってきた。夢咲はそれを手に取り、綺麗に折り畳まれた服を広げてみると、首から下の全てに黒い布があるのを確認する。市販の服とは何かが違う。


「それは運動能力超向上服。着ればその人物の身体能力を大幅に向上させる。試作品だが、これを夢咲に今回の戦いで着てもらいたい」


 説明された黒い服は夢咲にとって夢のような力だった。

 予知夢が出来ても何か起きた時に自分では対応が限られる。だが身体能力が上昇して敵と戦えるようになれば、弱い自分でも何かを解決出来るかもしれない。夢咲は神奈の影を頭に浮かべてそう考えた。


「……なんで私なの? 自分で着ればいいのに」


 黑い服を隅々まで観察した夢咲は、渡されてから考えていた疑問を口に出す。

 パワードスーツは開発者が着て戦うのが定石。憧れから作られたであろう服をどうして他人に着させるのか、それが最大の疑問だった。


「俺は余程のことがなければ試作品の実験を自分でしない。危ない思いをするのは嫌だからな。それに俺が着るよりも、予知という強力な能力を持つお前に着てほしいのだ。その方が強いだろう」


「なんか最低な気がするけど……分かった、私もみんなの役に立ちたいし。今回はその服を着て戦う」


「よし、早速だが試運転といこう! これから期日まで調整で忙しくなるぞ!」


 喜びの表情で立ち上がった霧雨は、またしてもやって来た家事専用ロボットから何かを受け取る。それは物の長さを測るのに使われるメジャーだった。いったい何を測るつもりなのか。


「さあ、早速その服を脱いでくれ」

「……は?」


 欲望丸出しにしたような発言に夢咲は困惑する。


「だから服を脱げ、下着も全てだ。早くしてくれ」


 そして困惑した末、夢咲は立ち上がる。


「私、帰るね」

「いや帰るな帰るな! さっきパワードスーツを使うと言ったばかりだろうが! 誤解するな。今そこにあるのは、さっき出ていった家事専用ロボットに合わせて作り上げたものなんだ。サイズ的にお前には合わない。だから一から寸法を合わせて作る必要があるんだよ」


「……それ、間に合うの?」


「もち。一日、いやサイズ変更だけで中身は一緒だから……一時間で終わらせる!」


「急に時間が短くなった! ……でも、その性能は大丈夫? 私が脱いで裸を見せる価値がそれにある?」


 試作品とはいえ、その機能は実験も(おこな)ったので保証されている。実験でどんなことをしたかといえば、包丁捌きや、洗濯物を畳む速度向上など、主に家事全般での実験だ。その時は時間を普段の半分以上短縮することに成功している。

 人間で試していないので暴走の危険はあるが、電気信号で動くのは人間も、霧雨が作った家事専用ロボットも同じ。霧雨が発明する人型ロボットは構造が命ある人間にかなり近い。


「疑うな疑うな、性能については保証してやる。それと俺はお前の全裸が見たいわけではなく、あくまでも測定のために脱げと言ったんだぞ。安心してくれ、興奮なんかしない」


「……私が気にするんだけど。まあいいか、その性能が予想以下だったら……蹴り上げるからね」


「何をとは訊かないでおこう……」


 自分から服を脱ぎ始めた夢咲は一糸纏わぬ姿となる。

 霧雨は後ろからメジャーを引っ張り、体の様々なサイズを測定していく。

 こうして夢咲パワードスーツ着衣計画が始動した。



 * * * 



 とある薄暗い森の中。

 ここでは一人の殺し屋がよく修行をしている。

 緑溢れる木々の間を高速で走り抜けながら手裏剣を投げ、あらかじめ設置していた的の中心に当てていく。その殺し屋、黒ずくめの服装をしている隼速人の心中は穏やかではない。


(あの時、俺はあの男の近くにいたというのにみすみす逃がしてしまった。それだけでも恥だというのに、以前は神谷神奈以外の相手にも負けた。……どうしても自分を許せない!)


 今度は特殊な形状により、ブーメランのように手元へ戻る手裏剣を投げた。合計八枚の手裏剣が円の軌道を描き隼のもとへ戻る……はずだった。速人のもとには手裏剣が四枚、つまり半分しか戻って来ない。木々に刺さったのかと考えたが、そんなミスはしないと自分に言い聞かせる。

 明らかな異常に速人は周囲を警戒するよう感覚を研ぎ澄ます。


「……殺気」


 背筋が凍るような殺気に気付き、振り向くと四枚の手裏剣が連続で投げつけられる。驚きはした速人だが、冷静な判断で手裏剣が刺さる場所を予測し、最低限の動きで全ての手裏剣を躱す。

 手裏剣を投げられたのが右斜め前の木の上だと分かり、お返しとばかりに正体不明の敵へ手元の手裏剣四枚を投擲する。


 薄暗さから正体が分からない敵は、四枚の手裏剣全てを右手の指で掴んで止めた。しかし問題ない。手裏剣が止められたのは想定内だ。速人は右腰につけている手裏剣入れから残りの手裏剣十枚を取り出し、一気に投げつける。


 十枚の手裏剣は曲線の軌道を描いて敵に向かい、途中でいきなり速人の方へ戻って来た。


「なっ、くそが……!」


 受け止められるのは想定内だが、投げた手裏剣が途中で自分に返ってくるなど予想外。

 速人は左腰にある鞘から刀を抜き、手裏剣十枚を刀で弾き飛ばす。


「後ろ……!」


 敵が背後から迫ってくることに気付き、振り向き様に刀を振り下ろす。


「お前は……あの時の」


 振り下ろした刀は敵に二本の指で受け止められてしまった。


「合格点ギリギリといったところか。久し振りだな、貴様と会うのは」


 敵の正体はかつて速人が戦い、病院送りにされた相手。ディスト。

 速人は動揺した心をすぐに持ち直し、右足で蹴りを放つ。

 蹴りが到達する前にディストは刀を放して、後方に下がることで回避する。


「今さらなんの用だ。もうあれからだいぶ時間は経ったはずだぞ」


 体勢を元に戻して刀を構える速人は問いかける。


「確かにあれからかなりの時間が経った。貴様のことなど聞くまで忘れていたが、聞いて思い出したぞ。あの時、神谷神奈に助けられた雑魚だ――」


「それ以上要らんことを喋るなら首を斬り落とすぞ? なんの用だと訊いたんだ」


「不本意だが貴様の特訓相手として来てやったんだ。一人でやるより効率的な特訓が出来るだろう」


 苛立ちを見せるディストはそう告げる。

 一人よりも二人の方が、実力向上のために有利なことは間違いない。


「断る」


「何?」


「お前の手など借りん、協力など無用だ! 失せろ……死にたくなければな」


 速人は刀を真っすぐディストに向ける。先端が尖った明らかな凶器が向けられても、ディストの態度は変わらない。沈黙が少し続いた後、ディストが自然体で「ああ」と呟く。


「怖いのか?」


「なっ、なんだと……!」


「貴様は俺に随分ボロボロにされた。もう少しで死ぬところだったのだ、恐怖があって当然だろうな」

「ふざけるな!」


 顔に怒りの表情を露わにして、速人はディストに斬りかかる。

 斬撃を難なく躱したディストは再び距離をとる。


「ほう、やる気になったか?」


「黙れ。これは特訓じゃない、ただの害虫駆除作業だ。俺は強くなった。もうあの時と同じだと思わんことだな」


「ではそれを見せてもらいたいものだ」


 今、因縁の対決が始まろうとしている。その対決はレイによって仕組まれていた。

 喫茶店にて神奈が日常の出来事を話す時、必ずと言っていい程に速人の話題が出る。それは迷惑だとか邪魔だとか、決して良くは言っていない。ただ、狩屋との決戦が決まった翌日のこと。喫茶店でレイと談笑している時、つい「あいつ大丈夫かなあ」と心配そうに呟いてしまっていた。それを聞いたレイは神奈の不安を一つでもなくすため、特訓相手としてディストを速人のもとに向かわせたのだ。


 もちろん神奈が知ることはないが、知っても特に何か思うことはない。他にもっと心配な人間がいるのだ。速人はまだ自分でどうにかしそうだからいいが、夢咲や霧雨、泉は戦力になるかすら怪しい。もし神奈が知ったら泉の方に行けと言っていただろう。


 両者が睨み合い続け、先手を取るべく殺意を滾らせた速人が向かっていった。

 この戦いは決戦日の前日まで続くということをまだ二人は知らない。



 * * * 



 商店街の片隅にある本屋。そこに文芸部の一員である泉沙羅はいた。


「特訓って言ったって私戦えないんだけ、ど。今から何かやったって付け焼刃だし無駄だよ、ね」


 一応の興味で『誰でも出来る護身術』や『今から出来る格闘!』など、戦い向けの本を手に取るが、どれもパラパラとページを捲って見ては置いてあった場所に戻す。

 ――泉は既に諦めモードだった。









腕輪「遂に決戦の日、隼が先陣をきり戦いが始まった。しかしあの男が呼び出した者たちは手強く苦戦を強いられる! 本当に勝てるんでしょうか? 次回、桜ふぶ飽きましたね……次回も見てくださーい」


神奈「割とすぐに飽きてるし! 次回予告のつもりなら最後までやれよ!」


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