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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三.一章 神谷神奈と花愛す者達
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33.93 全身複雑骨折くらい覚悟の上さ


 ――翌朝、宝生小学校。

 元気に挨拶して来た笑里に神奈は「おはよう」と返し、続けてやって来た才華とも挨拶する。日課のような挨拶の後、神奈は笑里が持っている花へと視線を落とす。


「その花……」


「ああこれ? 綺麗でしょ、家のポストに入ってたんだあ」


 見せつけるように前面に突き出す笑里がそう言う。

 その花は特徴的な青い茎と潤朱の花弁。紛れもなく神奈の家にも昨日届けられていた不気味な花であった。


「気に入ったから学校にも持って来ちゃった!」


「私の家にも変な花が届けられていたみたい。パパが執事達に言って処分しちゃったみたいだから見てないんだけど、たぶん同じ花だと思う」


「なるほどね。私の家にもあったし、もしかしたら町の人達全員に行き渡っているのかもな」


 自分だけならともかく神奈以外にも届いているのなら嫌がらせなどの線は消える。いったい何が目的かは不明だが町にある家全てに花を送った何者かがいる、そういうことだろう。

 目的が不明とはいえ花を一本送る程度なら可愛いものだ。これが時限爆弾などの危険物なら話は別だが花なら事件性はない。人間が一本の花で死ぬことなどそう起こらない。


「えっ、じゃあみんな持ってるかな。私ちょっとみんなに訊いてくる!」


 神奈達の元から笑里が離れ、片っ端からクラスメイトに話しかけ始める。

 内容はもちろん件の花を持っているかどうか。そして図々しくも貰えるかどうかを訊いていた。


「持ってるぜその花、いらないしやるよ」

「漆黒の闇に生きる我にとって花など不必要」

「いいよ。何か勝手に家に送られたって不気味だしあげるよ」

「この花は根性があるし、僕の熱意は伝えられただろうし一本でも生きていけるはずさ! 花、頑張って咲き続けるんだ! 枯れるなよ、花あああああああ!」

「いらん。こんなものくれてやる」


 熱井や速人などなど、なぜか学校にまで持って来ていたクラスメイト達から笑里は花を集めきった。一本だったあの潤朱の花は一気に二十本以上にまで数を増やす。

 もはや花束のような花達を手に持つ笑里は笑顔で戻って来る。


「こんなに増えたよ二人共!」


「へえ、さすがにここまで本数が揃うと綺麗に感じるわね。見たことがない花だけどいったいどういう名前なのかしら」


「花屋の売り物みたいな状態だな。いいんじゃね」


「帰ったらお母さんにも見せちゃおうっと!」


 手元に集まった花達を見て喜んでいる笑里。

 微笑ましい状態で朝を過ごした神奈達はそのまま朝のホームルーム、続いて一限目である体育の授業に入る。

 四年一組の生徒は全員半袖半ズボンの体操着に着替えて校庭に整列した。さすがにここまでは花も持ってこられない……と思いきや、笑里は自分の半ズボンの両ポケットへと花達を突っ込んでいる。


 本日の体育の授業はサッカーだ。

 男性教師から告げられた内容は一クラスで十一人グループ三つを作り、それぞれ二戦ずつ試合を行うというもの。当然神奈は仲の良い者達と固まった。


 最初は二人組で軽いパス練習をした後に試合開始だ。最初から神奈達のチームは試合なのでツイていないと思いつつ、白線で描かれたサッカーコートの中心で一列に並ぶ。

 相手チームも一列に並んで向かい合い、礼儀として頭を下げ合う。


「神谷神奈、この球蹴りで勝負だ」


「隼君達、お互い頑張ろう! 勝負なら受けて立つ!」


 速人がお決まりの勝負宣言をすると、それに返したのは熱井であった。


「ええい貴様ではない! もういい、全員叩き潰してやる」


 Aチーム。神奈がいるそのチームは笑里、才華の二人に加え、夢咲、真崎、熱井と愉快な仲間達。対するBチームは仲良しで集まったものの数が足らず、消去法で余っていた速人を加えたメンバー。脅威的なのは一人のようなものである。


 全員がポジションについた後、男性教師が持っている試合開始の笛が鳴る。

 まず動いたのは横にいる真崎からボールを受け取った熱井だ。彼の熱意溢れるドリブルは素早く、雄叫びを上げながらグングンと敵陣地を突き進んでいく。


「ぬおおおおお! 僕の今までの人生、これまでに得た全てをこの試合で使う! 全身全霊、熱き魂を込めたシュート! 止めれるものなら止めてみろおおお!」


 一気にゴール前に辿り着いた熱井が渾身のシュートを放つ。

 勢いのいいボールがゴールへ向かっていき――速人の膝蹴りであっさりと止められてボールを奪われた。


「やかましい奴め……」


 素早く速人がドリブルでAチーム陣地へと切り込む。


「おおいボール! 何止められてるんだお前、もっと根性見せろよおお! 冷めすぎだぞボールウウウウウ!」


「ボールに根性とか熱意求めんなよ! ああもう、あいつを止められるのは私だけか……!」


 約一秒。速人がゴール前にまでやって来た時間だ。

 シュート体勢へと入る前に神奈が立ち塞がる。


「ふっ、やはり来たか。だが俺達はどちらも素人、サッカープレイヤーとしての能力は互角。これなら十分に勝ち目はある」


 右に、左に、フェイントを織り交ぜて動く速人に神奈は付いていく。

 惑わされることなく前面を塞ぎ続けているためシュートは出来ない。


「どうか、な!」


 やがて隙を突いた神奈の蹴りで速人の足からボールが奪えた。

 その蹴りの威力は凄まじく、勢いよくBチーム陣地へと向かっていき――キーパーを吹き飛ばしてゴールへと突き刺さった。要はAチームゴール前からBチームゴールへと飛んでいったのだ。まさかの先制点に全員が神奈だからと納得する。


(プレイ回数の差が勝敗を分けた。前世の経験ってのは活きるもんだな)


 神谷神奈。前世でのサッカープレイ回数、二回。


「くっ、次こそは俺が勝つ……!」


 悔しがる速人が自陣に戻って、他の生徒も一度ポジションについてから試合が再開される。


「そう、極端な話! ここからシュートしても点は入る!」


 センターサークルから速人はいきなりボールを蹴り飛ばした。

 実際のところ、速人でもゴールからゴールまで飛ばせるのだ。半分の距離であるセンターサークルからなど鼻で笑えるくらいに簡単、朝飯前である。


 しかし当然そのシュート軌道上に神奈が立ち塞がる。

 Aチームのキーパーは笑里なので問題はないのだが念には念を入れての判断だ。速人の打ったシュートを神奈は強引に蹴り返す。


「何いい!? だが!」


 蹴り返したシュートは直線で速人へ向かい、蹴り返される。

 速人が蹴り返したシュートを再び神奈は蹴り返す。

 弾丸の如きボールがABの陣地を行き来する高速ラリーが始まった。


(……これ私達)

(……することないわ)


 夢咲と才華、いやほぼ全員が思っている。

 この高速ラリーに割って入ろうものなら大怪我確定だろう。一般人レベルの生徒が直撃でもして、当たり所が悪ければ死ぬかもしれない。


「うおおおおお! 僕が止めてみせる!」


 そこに一人、勇敢に立ち向かう者が現れる。熱井心悟だ。

 速人がボールを蹴り返そうとした瞬間、彼は全速力で走って行く。それに驚いた速人はボールを蹴り返すのではなく足で受け止めた。


「どけ、怪我をしたくなければな」


「怪我が怖くてサッカーが出来るかい? 僕は元から、全身複雑骨折くらい覚悟の上さ!」


 熱井の発言に神奈は「いや覚悟しすぎだろ!?」と遠くからつっこむ。

 転んで膝を擦りむく程度ならともかく骨折までいくともはや事故である。どんなプロのサッカープレイヤーでもそこまでを想定してプレイしていない。


「なら望み通りにしてやる!」

「熱井いいいいいいいいい!」


 容赦なく速人は熱井へ向けてボールを蹴った。腹部に鋭いシュートが突き刺さり吹き飛ぶ様を見てクラスメイトが叫ぶ。

 そんな熱井ごと迫るボールに対して神奈が出来ることは何もない。


(さすがに蹴り返すわけには……。蹴ったらたぶん熱井君が死ぬ)


 腹に加えて背中にも衝撃を与えれば、前後からの衝撃が体中へ行き渡って本当に複雑骨折するかもしれない。痛みでショック死する可能性もなくはないので神奈はシュートを躱した。

 Aチームのキーパーは笑里だ。あの怪力なら受け止めることも出来る。そう信じて疑わない神奈は自陣のゴールに立つ笑里を見つめる。


「大丈夫、受け止められるだろ。……笑里?」


 彼女は俯いて一向に動かない。ボールと熱井は凄まじい速度で飛来しているというのに、視界に映ってすらいないかもしれない。

 半ズボンの両ポケットに花を突っ込んでいる笑里は――前のめりに倒れた。


「笑里!?」

「笑里さん!?」

「秋野さん!?」


 必然の如くボールは熱井ごとゴールに入る。だがもう試合どころではない。

 二人も怪我人が出たのだ。さすがに試合続行は厳しいので笑里と熱井は保健室へと運び込まれた。熱井の方は少し腹に青アザが出来ていた程度で本人も「大丈夫」と告げている。しかし笑里の方は原因が原因だけに保険医も大丈夫とは言い切れなかった。


 なぜなら笑里の倒れた原因は――栄養失調だったのだから。








熱井「ふっ、じゃあ続きをやろうか! 次こそ隼君のシュートを止めてみせる! この僕の血と汗と努力、そしてみんなの想いで絶対止めてみせるんだ!」


神奈「いや、休んどけって……」



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