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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三.一章 神谷神奈と花愛す者達
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33.91 ハイパープロテインα

いつもの割り込み投稿







 早朝。早起き出来た黒髪の少女は気分よく朝を過ごす。

 少々癖毛だが整った顔立ちの少女、神谷神奈は魔法少女ゴリキュアというアニメのキャラクターが描かれているパジャマを脱ぐ。下着姿になった神奈はクローゼットから取り出した黒いズボンを履き、青いパーカーに袖を通す。


「気持ちのいい朝だ。珍しく自分で起きれたし」


「いつもは私が目覚まし時計代わりに起こしてますもんね」


 そう話すのは神奈が右手首につけている白黒の腕輪。

 魔力を秘めた特殊な道具であり自由自在に言葉を操る腕輪に、神奈はほぼ毎日起こしてもらっている。そうしてくれなければ学校の授業が始まるまで寝ているからだ。


「何か良いことありそうだなあ」


「早起きは三文の徳と言いますし、案外良いことあるんじゃないですか?」


 早起きをすると健康にもよく、他に良いことが起きるかもしれないという言葉だ。三文というのは昔にあった一文銭三枚を意味していて、ほんの少しだけということを表している。そんな意味を今教えられた神奈はパンと両手を合わせる。


「今日も平和で終わりますように。事件とか起きませんように。よろしくお願いします神様仏様どっかの偉い人」


 去年も大概だったが今年も妙な事件が起きてしまった。

 数日前。他人の魂を本の中に取り込んで、本の世界を体験させるという本来なら夢のような出来事を味わえる素敵な魔法が起こした事件。希望していない者まで入れたせいで救出に行かなければいけなくなったのに加え、魔法使用者である荻原ララの打倒など色々起きていた。


 滅多に事件など起こるわけがないという考えは捨てるべきだ。気を緩めたらすぐに何かしら起きる。こうした神頼みで頻度が低くなるなら毎日神頼みをするだろう。


 神に祈りを捧げた神奈はそれからのんびり学校へと向かう。

 早起きしたお陰で余裕があるため、普段よりゆっくり歩いても問題ない。いざとなれば走って秒で到着するので気分は楽なものだ。


 宝生小学校に到着したのは七時四十分。出席確認まであと四十分はある。

 神奈が自分の教室の扉を横へスライドして教室内に足を踏み入れようとした時、室内を見て動きが硬直した。


「ここ……小学校だよな?」


 教室内には――マッチョがいた。それも大勢。

 身長二メートルはあるだろうか。筋肉が逞しい男女が揃って椅子に座っている。これが小学校の教室などもはや悪夢としかいえない。


「おーい神奈ちゃーん!」

「おはよう神奈さん」


 声を掛けてきたのは神奈の友達である笑里と才華だ。

 オレンジ髪の活発そうな少女と、ゆるふわパーマの黄髪で理知的な少女。友達の声が聞こえて安堵した神奈は表情と気を緩めて背後を振り返る。

 ――そこには二人の少女の可愛らしい姿などなく、教室内と同じ異常なマッチョの姿。もう女子小学生の面影などほとんどない二メートルの巨体があった。


「ぎゃああああああああああああああ!」


 恐怖で引き攣った顔になり神奈は思いっきり悲鳴を上げた。



 * * * 



「起きてくださーい! 神奈さーん!」


 朝。珍しくもなく腕輪の大声でベッドから起き上がる。

 まだ瞼が重く半開きになっている神奈は「夢……?」と呟き、周囲を見渡す。当然かのように今いる場所は学校ではなく自分の部屋だ。


「へへっ、そうだよ、夢だよ。あんなの夢じゃなきゃな……」


 しっかりと悪夢の内容を神奈は覚えている。

 珍しく早起きして学校に向かえばマッチョの巣窟だったなど、悪夢としか言いようがない。断じて同級生に大人もビックリなマッチョなど存在していないのだから。


「どんな夢を見たんですか? あっ、神奈さんがマッチョになった夢とか?」


「断じて私はあんなんにならん! もうこのままプニプニボディでいい!」


「ほとんど脂肪ないから言うほどプニプニでもないと思いますけどね」


 そんな目覚めを迎えた神奈は宝生小学校へ向かう。

 何となく今日二度目のような気がして少し気分が悪いし、笑里と一緒に行くような時間は過ぎているため走って遅刻を回避しなければならない。

 散々な朝だと思いながら神奈は学校に辿り着き、教室の扉の前に立つ。


(……夢ではこの先がマッチョの山だったよな)


 悪夢のせいで開けるのを躊躇った神奈は手をかけた状態で一旦止まり、深呼吸してから何があってもいいよう慎重に開けていく。

 教室内にはほとんどの生徒が揃っていて、当然の如く彼ら彼女らの姿は小学生らしい子供の姿だ。警戒していた神奈はホッとして息を吐く。


「おーい神奈ちゃーん!」

「おはよう神奈さん」


 ビクッと肩を震わせた神奈は恐る恐る身を翻す。

 オレンジ髪の活発そうな少女と、ゆるふわパーマの黄髪で理知的な少女の二人。当然筋肉質でもなければ巨体でもない姿の二人が歩いて来る。


「……ふぅ。おはよう笑里、才華」


「どうしたの? 珍しく汗なんて掻いて」


「うわ本当だ。神奈ちゃん大丈夫? 汗すごいよ?」


 額からブワッと汗が噴き出ているが「もう大丈夫だよ」と神奈は返す。

 危険視していた事態は過ぎ去った。結局は全て夢なのだから、予知夢などではないのだから考えすぎだったのかもしれないが。


「お、秋野、藤原、神谷か。おはようだな」


「この声、霧雨か。おはよ……う……?」


 振り返った神奈は硬直した。笑里はいつも通り挨拶をしているが、才華は目を見開いて顔を青褪めさせている。


「ん? どうした?」


 視界に映るのは霧雨(きりさめ)和樹(かずき)という少年――ではない。

 額にはゴーグル。筋骨隆々の身に纏うのは所々はちきれそうになっている白衣。身長二メートルはあるその姿は小学生に見えない。


「誰だあああああああああああああああああ!」


「何を言っているんだ? 俺だよ俺、霧雨和樹だ」


「お前みたいな奴知るか! 異世界の霧雨だろ、筋トレが趣味とかの! 帰れ! 本物の霧雨をどこへやりやがった!」


「面白いことを言うな。だが俺は本人さ。俺の大胸筋もそう言っている」


「本人だったらそんなこと言わないよ! てかもう別物だし!」


 霧雨という少年なら筋肉というより科学に目を輝かせるタイプだ。

 断じて大胸筋が語っているなどと言うような男ではないし、こんなに逞しすぎる肉体ではなくヒョロヒョロの細身である。目前の男は校内に侵入した不審者とした方がまだ納得出来る。


「まあ待て待て。悪ふざけをしたのは謝るから」


 そう言った男の全身から白煙が噴出する。

 白煙が晴れると、神奈の目前にはよく知っている姿の霧雨がいた。


「効果切れか。いやあスマンスマン、実験でちょっとな。詳しいことは一限目が終わった後にでも話すから待っててくれ」


 普段通りの姿に戻った霧雨はそう告げて自分の教室へと戻っていく。

 呆然としている才華に「入らないの?」と笑里が呑気に訊いている。その前にいる神奈も才華と同じく驚愕したまま硬直している。


「……あれ、もう魔法じゃん」


 もはや魔法と遜色ない科学力。神奈の呟きに才華もこくりと頷いた。


 それから出席確認と一限目終了後、神奈は四年二組の教室へ向かう。

 朝に起きた霧雨の変化について聞くため隣の教室に入ってみれば、霧雨の周囲には速人を除いた文芸部メンバーが集合していた。


 狐色で、狐の耳が生えているような髪型。腰には大きく分厚い本をベルトで固定している少年、斎藤(さいとう)凪斗(なぎと)

 肩までストレートに垂らした黒髪の少女、(いずみ)沙羅(さら)

 ボリュームある藍色の髪が首に巻きついている垂れ目の少女、夢咲(ゆめさき)夜知留(やちる)


「来たね、神奈さん」


「夢咲さんも呼ばれた感じ?」


 こくりと夢咲は頷いて視線を霧雨に戻す。

 全員揃ったことで彼はゴホンとわざとらしい咳をして語り始める。


「まずは集まってくれて感謝する。俺が朝、筋肉モリモリマッチョに変身していた件について話を始めよう。まず俺が飲んだ薬について説明しようか」


 そう言って霧雨が机に置いたのは白い錠剤。

 中心に【α】という文字が刻まれているだけで、薬屋で売っているようなごくごく普通の物にしか見えない。


「これはハイパープロテインα(アルファ)。俺が開発した筋肉強制成長剤だ」


「ああ、それであんな……あんなになるか普通? 異常だろ」


 プロテインは日本語でタンパク質。だがここで言っているのは筋肉を育てるのに貢献するプロテインサプリメント。筋肉だけでなく髪の毛や爪などに良い影響を及ぼす薬……であるが、当然市販のプロテインを飲んでもいきなりマッチョになりはしない。


「筋肉の爆発的な成長を一時的に促す薬でな。誰もテスターになってくれないから自分で試すしかなかったんだ。まだまだ試作段階だが中々に上手くいっていると思うぞ。デメリットとしては効果時間が五分程度なのと、効果が切れたら全身が筋肉痛になるくらいだし」


「ぜ、全身が筋肉痛って……すごいことになりそうだね……」


 斎藤が引き気味に感想を述べる。


「さっき授業終わりの号令の時。プルプル両足震わせるだけで起立しなかったのってそういうことな、の?」


「ははっ、まあな。それで実はこの薬まだまだデータ不足なんだ。どうだ? お前達の中で誰か飲みたいやつはいないか?」


 斎藤、夢咲、神奈の三人は頬を引きつらせて無言になる。

 苦労なくマッチョな肉体になれるのは確かに凄い。しかし全身が筋肉痛になるというデメリットを聞かされた以上、軽い気持ちで薬を飲んでみたいと思いはしなかった。それに自分の体が大柄になって逞しすぎる筋肉に覆われた状態を想像してみると気持ち悪い。何せマッチョという存在に憧れはないし、顔が小学生のままなのでアンバランスなのだ。


「なら私がやろう、か」


 三人が黙っていると泉が軽く手を挙げて告げる。

 予想外の発言に三人は正気かと言わんばかりに目を見開いて凝視する。


「おお本当か、それは助かるぞ」


「私は力を求めているんだ。何にも負けないで何からでも守れる力、を」


 白い錠剤を手に取る泉は決意したような表情で語った。


「ちょ、ちょっと待て! さすがにそれは……なあ?」


「そ、そうだよね。女の子があんなになるのは……ねえ?」


「二人とも僕に押しつけようとしている目なんだけど! 嫌だ、飲みたくない! でもマッチョな泉さんも見たくない!」


 泉沙羅は紛れもなく女子小学生である。そんな彼女がボディービルダーすら凌駕した肉体を手に入れた姿を想像などしたくない。はっきり表してしまえば霧雨より気持ち悪くなるだろう。

 しかし本人は乗り気であり、神奈達の声で止まりはしなかった。泉は躊躇いなくハイパープロテインα(アルファ)を口の中へ放り込んでしまったのだ。


 飲んだ瞬間、泉の全身の筋肉は暴れ出す。

 ボコボコと泡立つように膨れだして身長もグングン伸びる。プニプニ女子小学生から、ゴリゴリマッチョの怪物女性へと変化していく。


「今なら何でも出来る気がする。この、筋肉(マッスル)パワー、で」


 ゴリゴリマッチョに変貌した泉はそう言って二組の教室から出ていった。



 ――その頃。

 四年一組の教室にて、教卓付近に集まっている生徒達が多くいた。男子女子が集まっている理由は腕相撲だ。今も二人の男子が、椅子の上に立ちながら教卓に肘を付けて勝負している。

 一人は燃え盛る炎のような髪型をしている熱血少年、熱井心悟。もう一人は平凡な容姿の少年。二人は互いに精一杯腕に力を入れている。


「ダッシャアアアアアアアア!」


 勝利の雄叫びを上げたのは熱井だ。

 そんな彼の周囲では次の挑戦者を決めるため話し合いがされていた。


「次は私ね」

「何言ってんだよ俺に決まってんだろ!」

「僕がやりたい。勝ってみたいんだ!」

「俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ!」

「ふっ、紅蓮の如き熱を打ち破るのは我の闇なり」


 人気者の彼に挑みたい者は多くいて、自分がやりたいと各々が主張していた。そのためガヤガヤとうるさい空間になりつつある。


「――私がやってもいいか、な?」


 突如加わった声に場が静まり返る。

 全員の視線が声のした教室の入口方向へ向けられて、声の主を見た。

 入口に立っているのは逞しい筋肉が特徴的な女巨人。……いや、小学生からならそう見えただけで五メートルや十メートル以上あるわけではないが、二メートル近くある身長は驚異的だ。


 可愛らしい私服はパツパツで、上衣は肩から胸辺りまでしか隠しておらず、ボディービルダーのようなシックスパックの腹筋が露になっている。スカートは太もも中心より上といった具合で辛うじてパンツを隠している程度。当然その下には肥大化した筋肉に覆われた脚が存在をアピールしている。


「やあ、君は確か隣のクラスの泉さんだね! 腕相撲の相手をしてくれるというのなら大歓迎さ!」


 少し前とは変わり果てた姿でも、何を基準にしたのか熱井には誰なのか分かったようだ。その発言で周囲も泉沙羅だと認識した。


「ああ、泉さんかあ」

「ちょっとイメチェンした?」

「隣のクラスの子なのか。あんな目立つ奴いたっけ……」

「……まさに、筋肉の化身。我の敗北か」


 泉は教卓の前に立って腕を曲げる。

 高身長ゆえ熱井のように椅子の上に立つことなく腕が届く。むしろ高身長すぎて多少やりづらそうにしながら眉を寄せた。

 互いに手を握り合う……べきだが泉の大きな手が熱井の手を握る。手の大きさが違いすぎて握り合うことなど出来なかったのだ。


「ふふ、血が煮え滾るようだよ。力の全てをぶつけるんだと全身が張りきっている! さあ、始めよう!」


「う、ん」


「うおおおおお! 絶対に勝あああああつ!」


 ――勝負は一瞬で決した。

 始まる前から分かるだろうが明らかな体格差。やって初めて分かる圧倒的な力の差。熱井の体は浮き上がり、横に高速回転しながら黒板に叩きつけられた。

 あまりに呆気ない決着に沈黙が降りる。


「存外、大したことなかった、な」


 泉は期待していたのだ。己の筋肉をぶつけられる相手になりえるのではないかと、そこそこ超人の域に足を踏み入れている熱井に相当期待していた。しかし結果は力の半分も発揮せず圧勝してしまっている。


「ふ、ふふ、凄いね泉さん。どうやら僕の力は君の足元にも及ばないようだよ。だが!」


 倒れていた熱井が立ち上がって言い放つ。


「どんな差があっても僕は諦めない! 勝利出来なくとも食らいつく覚悟を持っているぞ! せめて一矢報いるんだ! 諦めるな! ネバーアアアアアアギブアアアアアアアップ!」


 暑苦しい叫びを上げて熱井は教卓に片肘をつく。

 雄叫びを上げたからといって力が増したわけではないし、先程と勝負の行方が変わるわけもない。熱井は再び黒板へ叩きつけられた。


「熱井いいいいいいい!?」


 敗北した姿に周囲の生徒達は叫ぶ。


「俺達も熱井に続けええ!」

「神よ、僕達に勝利を!」

「私の腕がバキバキ鳴るわ!」

「筋肉の化身の打倒か。フッ、我が力を試すには丁度いい。この身に宿りし漆黒の獣を解き放ち、圧倒的な腕力で捻り潰してやろう! 行くぞ、この世界を滅ぼす力を振るうのは些か心が痛むがやむを得ま――」


 四年一組の生徒達十数人が順番に泉へ挑む。

 ある者は黒板に叩きつけられ、ある者は床を跳ねて天井に激突し、ある者は多少拮抗したが普通に負ける。当然かもしれないが泉に勝てる人間など存在しなかった。


「ふふふふ。これが新たな私の力、か」


 勝者の泉は意味深にほくそ笑み、右腕に力を入れて膨張した筋肉と浮き出た血管を見つめる。

 そんな風に一人笑っている彼女の後ろ、教室入口で笑里と才華の二人が唖然としていた。


「沙羅ちゃん、ちょっと変わった?」


「いや、え、ちょっと? これちょっとなの?」


 二人の声を聞いた泉はゆっくりと振り返り、にやつきながら笑里の体を見つめる。


「我の力を試す段階は終了した。次は貴様が我が筋肉(マッスル)パワーの餌食となる番、だ」


「口調まで変わりだした!」


「えへへ、腕相撲かあ。負けないよ!」


「こっちは乗り気だし! 何でなの!?」


 やる気満々で勝負を受ける笑里。フンと鼻息を吹いて拳を握る彼女は教卓へと歩いて行く。

 場の雰囲気に乗り遅れて困惑している才華は、これから始まろうとしている勝負をただ眺めることしか出来ない。


「よーし、勝つぞお」


「馬鹿め。我に勝とうとは愚かな、り」


 笑里と泉の腕相撲が始まった。

 開始早々決着したこれまでと違い二人の腕はほとんど動かない。力が拮抗しているため、ほんの僅かに押しては押し返されるという展開が続く。


「やはりな、貴様は強い。この我の次に、な!」


「うーん強いなあ。こんなに強かったんだね沙羅ちゃん。今までこんなに強いと思わなかったよ、神奈ちゃんより強いんじゃない?」


「当然だ。我は全種族の頂点に立つ存在なのだから、な!」


 勝負が動き出す。泉が笑里の腕をさらに押し始める。

 負けてたまるかと笑里も「ぬぬぬう!」と必死に力を入れているが戻らない。戦況は泉に有利なままでこのまま勝負が決着する――かに思われた。


 唐突に、泉の全身から白煙が噴き出す。

 異常事態に「え?」と泉の気が逸れたことで力が少し抜けてしまい、僅かにその状態に力が勝っていた笑里の腕が再び上がる。


 全身を覆い隠す白煙が段々薄くなって消えると、そこにはすっかり元の可愛らしい姿に戻った泉がいた。

 ハイパープロテインα(アルファ)の効果時間切れだ。五分という短い時間をたった今使い切ってしまったのだ。


「あっ、ちょっとタンマで――」

「そりゃあああああああああ!」


 元の女子小学生へ戻った泉は引き攣った笑みを浮かべて、そのまま力負けしたことで横に高速回転して黒板に叩きつけられる。

 あまりの衝撃に気絶してしまった泉。勝利した笑里は「やったあ!」と喜んで、両手を振り上げながらぴょんぴょん跳んでいる。


 そんな時、教室に戻って来た神奈と夢咲は硬直した。


「……なあにこれえ」


 気絶して倒れている十人以上の生徒。筋肉の化身となって出て行ったはずの泉までその中に含まれている。倒れている生徒達の中心で無邪気に笑顔で跳び回っている笑里。四年一組の教室の状態を把握したくても思考放棄したくなる。


「カオスですね……」


 硬直している神奈の右腕についている腕輪がそう呟いた。







腕輪「日常ではギャグ補正が働いている笑里さんと互角なんて……」


神奈「たぶん、どっちもギャグ補正みたいなもんだから……」


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