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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三章 神谷神奈と文芸部
77/608

33.9 荻原――作ればいい――

2025/09/27 文章一部修正









 砂の巨人が霧雨達に攻撃し出した頃。

 空を飛んだ神奈はある程度上昇すると、一気に荻原の近くへ急降下して降り立つ。


「よかったの? 彼女達に任せて」


 荻原は砂の巨人とは神奈が戦うと予想していた。他の面子……霧雨、笑里、夢咲の三人では勝てないと直感的に分かるからだ。神奈なら全ての砂を殴り飛ばし続けられるので危険はない。その間に他の三人で挑んでくるか、避難させるかすると思っていたのだが予想は外れた。


「勝つことは無理だ。それは私でも分かるけど、時間を稼ぐくらいやれるだろうさ」


「へえ、随分と信頼するんだ」


「そりゃあな、まずは信じてみなきゃ始まらない。お前も、誰かをこんな世界に送らせて、楽しく過ごさせなくても本を好きになってくれるって信じたらどうだ?」


 本を好きになってくれないと思っているから荻原は強硬手段をとっている。現実からの隔離という、最悪の手段。本当に好きになってくれると信じていれば、こんな魔法を使うこともないはずだ。


「言ったでしょ? 私はもう現実に戻りたくない」


「私も確かに言ったはずだぞ。ずっとこの世界にいるわけにはいかないってな」


「なら丁度いい。あなたが勝てばこの世界から出られる。私が勝てばこの世界に残れる。どちらの想いが強いか、試そうよ……!」


 弱肉強食。強い者だけが願いを叶えられるのは一つの答えだ。

 無数の砂が動き出し、三十を超える腕が作り出される。神奈を握り潰そうと、それぞれが意思を持っているかのように動き出す。神奈は何十もの腕を走り回って回避して、安全確保のために〈フライ〉の魔法で上昇する。


 空中に逃げても伸びて追る砂の腕に嫌気がさすが、神奈はどれだけ迫ってきても避けてみせる。しかし、油断していたわけではないが、背後から迫る砂の腕には気付かなかった。


「うおっ、後ろからもか!」

「捉えた」


 砂の手が後ろから神奈を掴むと、それに続いて次々と砂の腕が殺到する。無数の手に握り潰されようとしている神奈を見た荻原は喜びの声を上げるが、すぐ驚きに変わる。

 音がこもっていたが確かに「そい!」という声が荻原には聞こえた。

 その瞬間、神奈を拘束していた手が全て粉々に弾け飛ぶ。


「ふうぅ……うげ、ちょっと砂が口に入った」


「後悔するよ、ここで戦闘不能にならなかったことを」


 荻原が片手を真上に掲げると、神奈が弾き飛ばした砂が違う形に再構成される。腕を作っていた砂だけでは足りないのか周囲の砂も集合していく。

 砂が集合する途中、荻原はツタで作られた球体に気付いた。


「へぇ、周囲の砂をなくすことであれ以上の強化を防ぎ、再生速度も落としたってわけね。そのそこそこ賢い策に免じて巻き込まないであげる」


 神奈の前に、三十メートルを超える砂の巨人が作り出された。


「さっきの奴の強化版ってところか? やめとけよ、相手にならないから」


「そうでしょう? そんな怪物を相手に出来るわけがない!」


「いや私が言ったのはそういう意味じゃなくて」


 砂の巨人が両腕を組み合わせて振るおうとする。その前に神奈は突撃して拳を振るうと、巨人の胸の中心部分に風穴が空く。神奈はその穴から巨人の背後へと抜け出た。


「――こんなでかいだけの砂じゃ倒せないってことを言ってるんだけど」


 呆気ない終わりに荻原は目を見開くが、すぐに両手をパンと合わせると巨人が修復され始める。


「あなたがそれを倒せる術もないはず」


 倒す術がないからこそ、神奈は本体に突撃してきたのだと荻原は理解している。どんなに強い力で殴ろうと砂は消滅しない。無限に再生する砂の巨人を倒す術はないのだ。


「神奈さん、魔力弾です。爆発で吹き飛ばせるかもしれません」


「ま、他に手はないからやろうと思ってたしそれでいくか」


 神奈は腕輪の助言通りに、手のひらに魔力を集中させて魔力弾を作り出す。大きさは手のひらサイズで小さく、とても巨体を吹き飛ばせるようには見えない。魔力を込め続けると魔力弾の色が薄い紫から濃く変わっていく。十分にエネルギーが溜まったと考えた神奈は、手に持つそれを巨人に投げつけた。


「あんな小さなエネルギー弾でどうにかできるわけが」


 魔力弾が巨人に触れた瞬間、途轍もなく巨大な爆発を起こした。

 巨人を構成していたほとんどの砂を吹き飛ばし、神奈の着地と同時に残りが崩れ去る。


「……なら、これならどう?」


 砂の巨人を構成していた砂が、荻原の元へと一点に集まって山刀の形を作り出す。当然ながら砂の巨人と同じく砂が凝縮されているので、攻撃力という点においては本物を超えている。


「〈砂姫の山刀(アレナマチェテ)〉。ズタズタに切り裂いてあげる」


「やってみろよ、出来るならな」


 荻原は神奈に接近して〈砂姫の山刀〉を振るう。

 数回、数十回と振られたそれを全て躱す神奈は、またしても死角からの攻撃に気付けなかった。足が自由に動かなかったので、何かと思って下を見れば砂の手が神奈の足をがっしり掴んでいる。動きを一時的に封じられた神奈は焦るが、もう遅い。荻原の振るう〈砂姫の山刀〉が迫る。


「うげっ、砂の手!? やばっ」


「今度こそ捉えた……!」


 焦った神奈は迫りくる〈砂姫の山刀〉を拳で粉砕した。


「なっ……」


「隼の方が技術的には上だな。速度だけの単調な振り方じゃ私には当たらないぞ。まあ私より速ければ話は別だけどさ。……てかそんなに驚くか? 砂なんだから殴れば壊れるだろ。さっきのゴーレムも殴れば風穴空いたじゃん」


「ふざけないで、そんなやわな代物じゃない。本物すら凌駕する硬度と切れ味。それに加えて、先程よりも高密度に圧縮したから頑丈になっているはずなのに……」


 ありえないものを見る目をしている荻原は危機感を抱いた。

 この勝負は最初から勝敗が決しているのではないか。そう思えてしまう程に神奈は強い。


「くっ……!」


 歯を食いしばった荻原は後方に跳ぶ。攻撃されたから避けたわけでもなく、これから攻撃されるのを感じたわけでもなく、ただ単に少しの攻防で神奈に恐怖してしまっただけだ。


 何もしていないのに後ろに跳んだ荻原を、神奈は何をしているのか疑問に思うと同時に警戒する。何か意味があるのではと身構えて目を凝らす。残念ながら何の意味もない。


 重い沈黙と共に膠着状態になった二人。

 時間をかけすぎると霧雨達が危険だと思い神奈が動き出す。


「……おい、来ないなら私から行くぞ」

「……ぅ、ぁ、うあっ、あああああ!」

「どうしたお前!?」


 砂が斜め後ろに盛り上がった。どこまでも高く伸びる塔のように、荻原が立っていた場所だけが伸び続ける。


「逃がすかよ!」


 砂の塔は神奈の一撃によりあっさりと崩れ去る。

 完全に崩れ去る前に荻原は後ろに跳び、新たな砂の塔を生成した。

 後ろに逃げるように伸びる砂の塔を神奈はまたもや破壊する。一撃で破壊された砂の塔から荻原はまた後ろに跳び、新たに伸ばしていた砂の塔に乗り移る。右後ろだったり左後ろだったりはあっても、何度も繰り返されるそれはまるでイタチごっこだ。


「逃げるのもいい加減にしろよな……!」


 埒が明かない。神奈は〈フライ〉で空を飛び、後方に伸び続ける砂の塔に乗る荻原に一秒もかからず追いつく。なんのリアクションも見せない荻原に神奈は殴りかかった。拳が直撃すると荻原の頭が消し飛び、残った体や服が急に砂となって散っていく。


「砂で分身を作ったのか」


 砂を集めて固定したり、分身を作ったり、意外にも砂を操る力は応用が利く。神奈と荻原の実力差は歴然でも、砂を操る能力で荻原はなんとか逃げている。


「本物は……見つけた!」


 空中と地上の両方を見渡して、神奈は砂漠の上を滑るように移動する荻原を発見した。

 神奈は追うべき相手へと急降下していく。それに気付いた荻原は立ち止まり、砂で十以上作り上げたギロチンの刃を飛ばす。単調な軌道を描いて飛ぶ十以上の刃を神奈は全て躱し、荻原の正面に勢いよく着地した。


「もう逃げるのは諦めろよ」


「ひっ、近づいてくるな!」


 荻原にとって神奈という人間は現実に連れ戻そうとする悪魔だ。最初は実力行使で世界に居続けてやろうと思っていたが、それが出来るほどの強さが荻原にはない。伸びてくる手を拒む荻原は後ろに跳び、両腕を横に広げてから胸の前で手を合わせる。そうすると、神奈の左右から砂が津波のように襲いかかり、立方体に固まる。


「今の内に……!」


 逃げよう、どこか遠くへと行こうと荻原が背を向ける。

 神奈から遠ざかろうとした時……立方体の砂の檻は粉砕された。


「どこに行くんだよ」


「あ、ああ……」


 恐怖が強くなる。両膝が震える荻原はもはや歩くことすら出来ない。

 ゆっくりと振り向く荻原に、神奈は拳を握りしめながら言い放つ。


「お前が行くべき場所は、いや帰るべき場所は元の世界だ。確かにこの世界はお前にとって夢のような場所なのかもしれない……私にもお前の気持ちは分かるよ。でも今回、私がこうやってお前の邪魔をしたのは他人を巻き込んだからだ。もしもまたこの世界に来たいと思ったなら、次はちゃんと魔法を制御して一人で行ってこいよ」


「や、やめて……この世界こそ、本を愛する者にとっての楽園……」


「話は向こうで聞いてやるよ……だからもう帰れ、そして帰らせろ!」


 叫びながら振られた拳一つで、本を愛しすぎた少女の幻想は脆く崩れ去る。

 違う世界から迷い込んだ生命の魂は全て解き放たれた。誰かに成り代わった者は肉体がその元の誰かに戻り、魂が強制的に追い出されていく。そうではない者……神奈、夢咲、笑里の三人は体が徐々に薄くなって消えていく。


「短い間だったけれど、なんだか貴重な体験をさせてもらいましたね。さて……体が戻ったことですし、色々とやるべきことをやりましょうか」


 そして誰かに成り代わられていた者達は、静かに元の日常へと戻った。



 * * *



 宝生小学校にある図書室。

 事件の元凶である虚ろな目をした荻原は面倒そうに会話する。


「それで分かってくれた?」


 今日、ついさっき起きたこと。多くの生徒を救うために、神奈達が危険を顧みずに本の中へ飛び込んだことを、荻原は問い詰めてくる者達に語っていた。

 状況を説明された斎藤、泉、才華からすれば非現実的な話である。斎藤は話の二割くらいなら理解出来ていたが納得は出来ない。


「ふざけないでくれよ、本の中に入ったってなんだよ! 嘘をつくならもう少しマシなものに」


「嘘じゃないと思、う。そういう不思議なことが世の中にはあるか、ら」


「そうね。それに神奈さん達が行っているんでしょう? 笑里さんが足を引っ張っていないか心配だけど、きっと大丈夫よ」


「ふ、二人共……信じるのか?」


 才華も泉も非日常を知っている。才華の方は神奈と常日頃から会っているので慣れすぎている。


「でも、もう戻れないかもしれない」


 そう荻原が呟いた瞬間、手に持っていた本が青い光を発し始めて、白いモヤのように見える人の魂が溢れ出す。それが今まで閉じ込めてきた魂達だと理解するのは遅くない。


「この、光は……!」


「たまし、い」


「白いわたあめみたいなのが飛んでいった! 本当にあれが……!」


「……え? 今何か見えてるの? 噓、本が光るところしか見えないとか、仲間外れにされてるみたい……」


 そして白い魂が向かう先には神奈達と……荻原もいた。

 四人の少女の生気がない虚ろな目は徐々に光を取り戻していく。


「ふぅ、さて、戻ってきたぞ……荻原」


「神谷さん、夢咲さん! 動いたってことは、えっと……終わったの?」


「ふふ。終わったよ、斎藤君。これでみんな元通りだから安心して」


 斎藤、泉、才華の三人が荻原の横を抜けて、戻ってきた神奈達に駆け寄る。状況がうまく呑み込めていない斎藤も細かいことを気にせず、終わったという点だけに喜びを表す。泉も何があったかを訊く様子はない。


「笑里さん、お疲れ様。何かいい経験はできた?」


「うん! 面白かった!」


「……凄い経験をしたはずなのに、驚くほど何も伝わらないわね」


 才華は笑里に訊いていたが、単純すぎる笑里では細かいことを伝えられない。

 再会を喜び合う中、一人離れて立つ荻原を神奈は鋭い視線で射抜いていた。


「……意外、というわけではないわね。向こうで私に会ったんでしょ? その目が全てを物語っているから分かる。というか記憶がなだれ込んできた」


「ああ、会ったよ。そしてお前が間違っていることが改めてよく分かった。誰かを現実から遠ざけてしまうその力は、お前の目的に使うことは出来ない……したらダメなんだ」


「間違い? ダメ? 私にはこれしかないの。ああやって素晴らしさを伝えるしか方法はなかった。名作を勧めてみても評価されない。興味もない物は評価しようとしない、それが人間」


「かもな……。まあ私にはどう言えばいいのか分からないから、なんにも言えないんだけど。お前のやり方は間違っているし、次もやろうとするなら私は止める」


 お互いの睨むような視線がぶつかり合い、荻原は歯を食いしばって叫ぶ。


「それなら、何かを言う権利なんてあなたにはない!」

「それなら俺には権利があるよなああああああああ!」


 叫び声と共に図書室の窓ガラスが一枚粉々に割れてしまう。その原因は霧雨が空を飛んで、図書室内に突撃して来たからだ。神奈達の周囲に割れた窓ガラスが散らばり、轟音と共に現れた霧雨は机の上を滑り、そのまま壁に激突して壁にすら穴を空ける。


「ええええ! 霧雨君!?」

「てか窓! 壁! 色々大丈夫か!?」


 壁を突き抜けた霧雨は穴から無傷で姿を現す。

 彼は両肩に付けた四角い筒状の機械と手に持つ妙なスイッチを捨てる。


「大丈夫だ、後で俺が直しておく! 〈ソラトベール〉で空を飛ぶのには実験不足だったし、窒素を膜の形に固定して窒素装甲を作り上げる〈ちっそんアーマー〉もまだ検証段階だったが、どうやら上手くいったようだ」


「何も上手く言ってねえよ! 窓と壁もだけど図書室めちゃくちゃじゃん!」


「安心しろ、()()傷つけていないさ」


 本を傷付けなければ荻原の固有魔法である〈本渡り(ブックインヴェンド)〉は発動しない。霧雨が本を傷付けない理由はそれだけではない。荻原が悲しむからという理由が一番だ。


 霧雨は目覚めてから急ぎ荻原のもとへと向かおうとした。しかし、既に家に居た霧雨の足では学校到着まで時間がかかりすぎる。時間短縮のため開発したばかりの機械を使い、本棚に被害が出ない軌道で学校まで飛んで来たのだ。


「和樹君それ私にも後で貸して! 凄い楽しそう!」


「後でな。まずは俺の意見を荻原、お前に告げてからだ」


 目を輝かせてねだる笑里を霧雨は軽くあしらい、荻原に顔を向ける。


「俺の夢は、俺が作った発明品を世界中に広めて人々に使ってもらうことだ!」


「……いきなり、何?」


「だから俺の夢だよ。お前の夢は俺と似ている。本の素晴らしさを伝えようとしているんだろ? 俺も機械の素晴らしさを伝えようとしている。それで俺は自分で素晴らしい機械を作ろうと研究している……だからお前も作れ! 全人類が面白いと読みたくなるような本を、自分の手で!」


「自分で、作る……?」


 本は小説家などの人間が書く物で、読者は世に出る本を他人に勧めることしか出来ないと荻原は決めつけていた。実際に書きたいと思ったことはある。それは無謀な夢だと思い挑戦を放棄した。だから、荻原は面白い本を勧めるためにしか行動してこなかったのである。


「作るなんて、私には……」


「やる前から諦めていたら何も出来ないだろ。俺もそうだ、凄い発明品を作るために失敗し続けて成功へと近付いていく。もしも諦めていたら何も出来ない。お前はお前のやり方でいいと思うが、それも一つの選択肢だと思うぞ」


「でも、でも……」


「はっ、お前の熱意はそんなものか。そういえば本の中でお前は異世界を優先していたな。俺と感想を言い合っていた時のお前の熱意は、鬱のような状態だったとしても、消え失せない程に強いものだったぞ」


 荻原は霧雨と感想を言い合っていたことを思い出した。その時は鬱のような状態だったが、情熱の炎は弱まっていなかった。確かに楽しかったのだ。


 誰かと感想を言い合うのも良いが、自分の手で作り上げた物語の感想を言い合えたらどんなに楽しいだろうか。荻原は答えを考え続け、いつの間にかそんなことを考える。

 ――そして熟考した後、決意する。


「分かった。私も、自分の手で作り上げてみせる。世界中の人々に本が素晴らしいものであると伝えられるような、最高の物語を作り上げてみせる」


 宣言した荻原の瞳には情熱がこもっていた。確かな意志が秘められていた。


「その時は、一番に読ませてあげる」

「俺だって、一番はお前に見せてやるさ」


 二人はそう言うと徐々に笑いだす。

 置いてけぼりになっている神奈達は無理に会話に加わらない。荻原の件は霧雨に任せるしかないと、一連の話の流れで気付かされたからだ。荻原の問題は、何かを作る夢を持つ人間にしか解決出来ない。


「はぁ、ごめんなさい。制御出来ない力のせいとはいえ、あなたをこの中に閉じ込めてしまった」


「別に気にしていないさ、貴重な体験が出来たとでも思えばな。むしろあの体験を発明にも活かしたいと思っている」


「……本当にごめんなさい、あなた達にも謝らないといけないよね。本当に、ごめんなさい……もう、あんなことはしないから許して、なんて……虫がよすぎるよね」


 霧雨に頭を下げたあと、荻原は振り返って神奈達にも頭を下げる。

 謝罪を受けた神奈達の表情は複雑だが怒りはない。


「謝罪ならいいよ。まあ、でも、どうせ謝るなら閉じ込めていた奴等全員に謝ってこい。そうすれば許されるってわけじゃないけど、しないよりマシだ」


「そうね、そして謝罪が終わったら……きっと新しい道を晴れやかな気分で進める」


「私はいいよ、楽しかったし!」


「……ありがとう。本当に、ありがとう」


 感謝を述べる荻原の目からは涙が零れ、すんなりと床に落ちる。


「さあ荻原、明日からは忙しくなるぞ。俺達は夢を叶えるために……」


「ねえ、あの機械から音がしないかしら? なんか小さくジジジジって変な音が」


 床に捨てられている機械から音がすることに才華が気付いた。

 全員が注目するそれは霧雨が持ってきた空を飛ぶ機械と、窒素を固める機械だ。その二つからジジジジと妙な音が鳴っている。明らかな不調。嫌な予感しかしない。


「なあ、その、こういうのってさ……ギャグマンガでよくあるよな」


「んもう、何言ってるの神奈ちゃん! ここはギャグマンガの世界じゃないよ?」


「いやもうこれ確信出来るんだけど。霧雨はどう思う?」


「まあ確かに、まだ安全性も不確かなものだし……可能性はあるな」


 不吉な未来を全員が予測する中、夢咲だけは二秒後に迫った未来を見て叫ぶ。


「全員伏せて! 爆発するよそれ!」

「やっぱりなあああああああああ!」


 大きな爆発音と共に二つの機械は爆散して、破片が周囲に飛び散る。幸いなことに弾け飛んだだけで炎は出ていない。図書室が火事になる最悪の事態は免れた。しかし燃えはしなくても、傷痕を残している。


 ――本にも傷が付いたものがあった。


 誰かが「あ」と口にした時にはもう遅い。神奈達は荻原から一番近い本……つまり、手元にある王女シリーズ最新巻が青く光り始めるところを見た。


「ちょっと待て、さっき帰ってきたばっかだぞ! もう終わっただろ! 本当に待て、待て、待てよおい! おいいいいいいいい!」


 荻原の〈本渡り〉がまたもや発動した。霧雨は喚くだけで抵抗出来ず、神奈以外の全員が青い光を浴びて魂が体から抜け出す。そして呆気なく本に吸い込まれて、図書室には神奈と魂の抜け殻だけが残った。


「巻き込まれなくてよかったですね」

「……加護って、凄いな」


 荻原達が戻って来るまで、神奈は寂しく腕輪と会話しながら待っていた。










腕輪「爆発オチなんてサイテーですね」


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