33.6 護衛――うさぎ跳びする王――
2025/09/27 文章一部修正
玉座に座る女王の正体が霧雨和樹という衝撃の事実。
ウエストからふわっとしたスカートになっていて、緑色のグラデーションがきれいなドレスを着る霧雨は、男と知っていれば女装しているようにしか見えない。肩先まで出た襟元で鎖骨がよく見えるオフショルダーのドレスは、女性が着れば華奢なイメージをアピールすることが出来るが、霧雨が着ても何も得しない。
しかし男性といっても小学四年生だからか、運動をろくにしない霧雨だったからか、女性であると言われれば信じてしまえるように着こなしている。胸が平らなのも男性という以前に小学生四年生だからおかしくない。見た目だけは様になっていた。
「どういうことだよおい! なんで女王が霧雨!? キャスティングどうなってんだ!」
「こっちも驚いたわ! なぜお前達が襲撃してくるんだ! というかどうしてここにいる!」
現実を受け止めようとして、やはり受けとめきれず神奈が叫ぶ。それに霧雨も思わず立ち上がって叫び返す。
神奈達を囲む多くの騎士も、霧雨の近くにいる長めの髭を生やす大臣も、蚊帳の外の人間は全員がどういうことだと目を丸くしていた。
「うるさい、私達だって襲撃したくてしたんじゃないし来たくて来たわけでもないわあ! だいたいなんだその恰好は、完全に女装じゃん! 助けに来てやったのに女装趣味に目覚めてるとかどういうことだよ!」
「め、目覚めたとか言うな! 俺だってしたくてしているわけがないだろう! こういう服は気付いたら着ていたんだ、ドレスだのティアラだの誰が好き好んでつけるか! 止めさせたければ俺の白衣を今すぐ持ってこい!」
「持って来れるわけないだろうがこっちは現実に帰れない覚悟で来てんだぞ! お前が帰れや、みんな心配してんだ!」
「それはありがたいが帰り方が分からんのでな! 騎士団をほとんど戦闘不能にしてくれたどっかの誰かさんは当然知っているんだろうなあ!?」
「知ってるに決まってるだろうがバカか! いいからサンディアって場所行くぞおい! 手紙読んだなら行くぞおい!」
「これから準備しようという時に厄介なのが現れたんだ! ややこしい事態にした誰かさんは責任とってくれるんだろうな! 護衛に選ぼうとしていた騎士数人やられたらしいんだが!」
「私達が護衛だよ文句あっか! 周りが不満そうならぶっ飛ばすぞ!」
「もう誰もぶっ飛ばすな! 護衛の件は考えておいてやるからさっさと出ていけ、残った騎士で総攻撃するぞ!」
「考えるんじゃなくて即オーケーしろよ! もう面倒だから早くサンディアに行きたいんだけど!」
神奈と霧雨が怒鳴り合いながら会話していると、キラキラと目を輝かせる笑里が崩れない笑顔で口を開く。
「ねえねえ、ドレスきれいだね! 和樹君だっけ? 私は笑里っていうの、よろしくね!」
「「空気読めよバカ!」」
時と場を弁えない自己紹介に神奈と霧雨の気持ちは一つとなる。その時点で言い争いは一旦終わり、置いてけぼりだった他の人間の脳が再起動した。
剣を襲撃者に向けていた騎士達と、女王の傍にいる大臣は困惑の表情で自らの主を見る。誰とも分からない者と、内容は把握出来ないが旧知の仲のような口喧嘩をしていたのは誰でもおかしいと思う。
霧雨がこの地で意識を取り戻したのは女王になってからだ。それまで女王はローラと呼ばれる女性だったが、なぜか霧雨の姿になって意識は奥底に沈んでいる。
女王が違う人間になったことに周りの人間は誰一人気付かない。騎士や大臣という彼らの目には、今まで通りのローラの姿が目に映っているのだ。もしも別人だと気付いていたら必死に主を捜すことだろう。
荻原の〈本渡り〉の効果で、登場人物に成り代わった場合は周囲が抱く違和感を激減させている……だから気付けない。そしてだからこそ、今までとなんら変わらない女王が、過去に面識のない者達と友人のように話すことはありえない。騎士達と大臣が混乱するのも無理はない。
「じょ、女王様……あの者達とは、お知り合いでございますか?」
状況を把握しようと大臣が隣に立つ霧雨に問いかける。
焦った霧雨は脳を高速回転させて言い訳を急速に組み立てていく。
「……その人達は私が呼んだ傭兵よ。最近は城内で騎士の練習を見る機会がなかったから、護衛に相応しい実力があるか確認したかったの。抜き打ちの襲撃でね。勝手な真似をしたのは謝るわ」
最近女王シリーズを読んでいた霧雨ならば、ローラという女王のフリをするのは難しくない。先程は神奈達が来たことで動揺して言葉の真似も崩れてしまったが、辛うじて大臣の問いで冷静になれた。今まで通りに演じて話せる。
「ぷふっ! お、女言葉……」
「おい笑うなよ夢咲さん、こっちまで笑いそうになるだろ……!」
「なんだか本物の女王様みたいだね」
騎士達に包囲されたままの状態でよく笑えるな、と霧雨は神奈達を睨む。
「そ、そうだったのですか? し、心配したのですぞ……女王様はもう少し我々の気持ちも考えてほしいですな。騎士達の実力を確かめるためとはいえ、さすがにこれはいくらなんでもやりすぎだと思いますぞ」
「ですからそれは謝ったではないですか。被害は出さないつもりでしたし、気絶している騎士達にはいい訓練になったでしょう。最近は悪魔の動きも活発化しています。相応の訓練をして早急にレベルアップしてもらわなければいけなかったのです」
「確かに、それについては一理ありますが……しかし、今後何かを企てた際にはしっかりとワシにもご相談いただきたい。ただでさえ短い命の老いぼれだというのに、ビックリしすぎて死んでしまうところでしたぞ。そ、れ、に! 先程の言葉遣いはなんですか! 女王様ともあろう方が汚い言葉遣いをして!」
「申し訳ありません。まあとにかく今回のことはこれで終わりです。サンディアへの護衛もそこにいる傭兵達にしてもらう予定ですので。さあ騎士のみなさんも剣を下ろして」
「はあ、まあ女王様がお決めになられたのなら信用出来る者達だと思いますが。そういうことも次からワシに報告するようお願いしますぞ」
混乱した場がなんとか収まりかけた時……一人の男が苛ついた声を上げた。
「納得出来ませんな女王様。それではまるで我々がこの傭兵達よりも弱いように聞こえる。いや、そんなことよりも、我々では護衛が務まらないかのようではありませんか」
声を上げたのは騎士を纏める騎士団長の役職に就く男。
彼以外の騎士は、神奈達へ向けた剣を下ろして鞘に収めている。彼だけは鞘に収めず強く握りしめていた。
「我々は今まで女王様とこの国をお守りするため訓練に励んできました。確かに若い者達は負けてしまったかもしれませんが、この場に駆けつけているのは皆熟練の騎士達。ましてや私は騎士団長、こんなどこの馬の骨かも分からない少女達に劣ると言われては、我慢出来ませぬ……!」
騎士団長からすれば神奈達は強いが誰かも分からない傭兵。しかも外見はまだ幼ない子供。外見で判断するのが良くないといっても限度がある。そんな神奈達に自分の仕事が奪われたような気持ちになり、憎く思ってしまった。
……それが霧雨の想定通りだとも知らずに。
騎士団長の言葉を想定していた霧雨は迷わず返答する。
「それではどうです? 一度あなたも試してみては」
「は? 試す、ですか?」
「はい。そこにいる私の知り合いの傭兵達は、子供でも立派な実力を秘めています。ですから試すのです。先程あなた達が試されたように、今度はあなた達が試せばいいのです。その子達を倒せたのならば護衛は騎士の中から選び直します」
「は、はは……ありがたき幸せ。さて、話は聞いたな傭兵。この俺とお前達のどちらが強いか勝負だ!」
強く握りしめる剣を一番近い笑里に向けて宣言する。
騎士団長は全く勝ち目のない相手に勝負を挑んでしまったのだ。
「準備はいいか? こちらはいつでもいいぞ」
「うーんと、試合ってことだよね? それならやってみる! いくよ!」
「こいぐはっ!? ば、ばかな……」
決着は一瞬だった。
先に動き出した笑里の拳が騎士団長の腹部に直撃。
鎧の防御力も意味なく騎士団長は両膝を突いてしまう。
勝負を挑む相手が夢咲だったら騎士団長にも勝ち目はあっただろう。
「これで異論のある人はいないでしょう? 護衛には彼女達を連れていきます。騎士のみなさんは私が外出している間に国を守っていただきたい。みなさんの強さと愛国心はよく知っています。ですからお願いしますよ」
霧雨の狙いは正にこの状況。
誰とも分からない人間を護衛にすると言っても誰も納得しない。だからそれを誰でも納得出来るような茶番を……騎士団長にとっては真剣勝負だったが、霧雨にとっては茶番である戦いを仕組んだ。
結果は霧雨の思い通りとなり、口うるさい大臣や真面目すぎる騎士団長を旅の一員から外すことが出来た。さらにフォローも忘れずに、大事な国をお願いすると言って騎士の不満を中和する。気絶した騎士団長以外の騎士達は、全員が大声で「はっ!」と元気よく返事をした。
* * *
水分が奪われる熱気。照りつける太陽。
空は青空と天気だけは良い砂漠地帯を神奈達は歩く。
辺り一面砂だけの地面を踏みしめながら、一行は砂漠の王国サンディアを目指していた。服装は砂漠という熱帯地域に備えて、火傷しないよう白いターバンを頭に巻き、肌に密着しないゆったりとした服だ。
騎士団の協力もあり準備は全てネイジャー王国内で完了した。気絶から目覚めた騎士団長は笑里に『女王様をよろしく頼む』と言える程吹っ切れていた。強さをしっかり確認して、嫉妬が憧れに変わったのだろう。
「暑いなあ……」
気温は四十五度以上。身を焦がすかのような太陽光に笑里は思わず呟く。弱音ではなく事実であるが、それを口に出されると余計に暑くなる気がすると他の三人は思う。
「それにしても……つまらないな」
「そうだね、つまらないね」
神奈と夢咲の二人がそう言って前を歩く霧雨の方へと視線を向ける。
「なんだ、何がつまらないって? お前達まさか、本の中だから楽しいなんて思っていたんじゃないだろうな」
「「いや、ドレスとかもう着ないんだなって。それに女言葉も使わないし」」
「そっちか! ふざけるな二度と着るかあんなもん! 言葉もローラに合わせてやっていただけだ、関係者が誰もいないのに真似る必要なんてないだろ!」
女性らしい服装や言葉遣いを好き好んでやっているわけがない。あれをやっている間も霧雨は神奈達に後で揶揄われる覚悟はしていたが、実際に言われてみると冷静ではいられなかった。
「暑いなあ……」
「そういえばお前、ここが本の中だっていつ知ったんだ?」
「入ってすぐだ。理由は……ローラの声が聞こえたんだ。今も普通に聞こえる」
「えっ、ローラがいるの!?」
もしかしてローラに会えるのではと夢咲は興奮する。
「そりゃいるだろう、ここは女王シリーズの世界だぞ。主人公がいなくてどうする」
「おそらくローラの魂が霧雨さんの中にあるんですよ」
「……今のは誰だ?」
「暑いなあ……」
まだ腕輪の声を聞いたことがなく首を傾げる霧雨に、神奈は大雑把に説明する。
「今のはこの腕輪だよ。喋る機能があるんだ。それで腕輪、ローラの魂ってなんだよ、ローラは本の登場人物だろ? 本に出てくるだけの登場人物が魂なんて持ってんのか?」
「神奈さん達は勘違いしていますよ。本という人の手で作られた紙と文章は次元を越えて新たな世界を創ります。誰かが本を書いたり、ゲームを作ったり、そうするだけで設定が元になった世界が創られるんです。私達が来たのは女王シリーズが元となった世界ですね」
「さらっと流されたがその腕輪凄いな。出来れば分解して仕組みを調べたいが今は止めておこう。それで腕輪の言う通りなら、この世界は本の中などではなく、本当の異世界ということになるのか?」
理解力が人並外れている霧雨は、混乱する神奈の代わりに問いかける。
「それが限りなく正解に近いです。本の中の生物が意思を持たないなんて作者や読者の勝手な考えで、実際は全ての生命が個々の意思を持っています。そこに魂が宿っていても不思議ではないでしょう?」
「十分不思議だよ……それで霧雨、ローラの声が聞こえるのは本当なのか?」
「ああ、目覚めた時にはもう聞こえていた。あっちからすれば体、というか存在をいきなり乗っ取られたような感じらしい。俺の事情を話して状況に納得してもらったが、お前達が騎士団を襲撃したことについて怒っていたぞ」
「すいませんでした、全て笑里が悪いと思います」
「暑いなあ……」
「お前少しは我慢しろよ! そして会話に交ざってくれよ!」
トボトボと元気なく最後尾を歩き、暑いとしか言わない笑里に神奈はほんの少しキレた。
そんな中、霧雨は眉間にシワを寄せて怪訝そうな表情を浮かべていた。
「……分かった、やってみよう」
「もしかして中にいるローラと話していたの?」
不自然な独り言を聞いた夢咲は予想を口に出す。
「そうだ、どうやらローラ本人の能力を俺も使えるらしい。暑さを凌ぐために今使ってみてはどうかと言われた」
「暑いなあ……」
「黙れ」
立ち止まった霧雨は目を閉じて集中し始める。
「ローラの能力って?」
「植物操作ね。自分の意思で緑を生み出すことも出来るの。ローラというか、契約している悪魔の能力だけど」
数秒で神奈達の周囲に異変は起きた。
砂漠では水が少ないため植物がほぼ生えない。しかし、唐突に霧雨の足下を中心に緑が広がり始める。ツタが伸び、葉が大きくなり、花が咲く。緑は増殖し続け、やがて一つの大樹が育つ。その大樹を作り上げた本人が手を掲げると、大きな葉が四枚舞うように落ちる。
「この葉っぱを日傘代わりにしてみろ。太陽光を少しは遮断してくれるはずだ」
葉と茎を繋ぐ細い部分である葉柄を掴み、霧雨は全員へ差し出す。
日傘代わりの葉は大人は、人間二人は下に入れるくらいの大きさで、見事に太陽光をガードしてくれる。暑さがマシになったおかげか笑里の呟きは終わった。
「こんな能力があったら砂漠の環境変えられるんじゃ……」
「なんなら神奈さんも魔法を習得しますか? 実は〈グリングリン〉という魔法がありまして、それを使えばどこだろうと小さな花を一輪咲かせられるんです!」
「……先を急ごうか」
「ちょっ、ええ!? 心が躍りませんか!?」
「踊らない」
数時間後、神奈達はようやく砂漠の王国サンディアへと辿り着く。
サンディア内も当然暑さは変わらず、日傘代わりの葉も目立つという理由で使えないため道中よりも暑く感じられる。汗がダラダラと流れて服がべたつくが、発汗は体温調節に重要なので仕方ない。
「サンディアでするべきことは……」
城下町の隅で神奈達は集まり、神奈が木の枝で砂の地面に文字を書く。
「サンディア王と話すこと……くらいか? 夢咲さんが物語を知ってるから聞き込みとか面倒なことしなくてもいいよな?」
「このままボス戦といきたいところだが、物語に支障が生じても困るからな。それでサンディア王と会うにはやはり正体を明かさなければいけないか。つくづく面倒だな」
物語内でサンディア王と会話して協力するのだから、最低でもサンディア王と出会わなければ物語を終えたことにならないかもしれない。この世界から出られない最悪の事態を避けるため、神奈達は人生で最も慎重に行動する必要がある。
「そういえば道中で砂嵐なんて起きなかったな。定期的に起きるって話じゃなかった?」
「うーん、本にも定期的としか書かれていなかったし……詳しい時間帯は分からないわ」
「……ねえ神奈ちゃん、なんだか騎士さんがうさぎ跳びしてるんだけど」
「はい?」
何を言っているんだろうと神奈達は笑里が指す方向に目を向ける。
住民も含めて変な人間を見る冷たい目をしていた。それもそのはずだ、なぜなら……本当に騎士がうさぎ跳びをしながら町を回っているのだから。
神奈には思い当たる節があるがそうだと思いたくない。
学校の生徒で、こんな風にうさぎ跳びをする熱血男子がいる。彼も霧雨と同じ状態なので、荻原によりこの世界へ飛ばされているはずだ。もし彼がサンディア王に成り代わっていたら、騎士が阿呆なことをしているのにも納得出来る。
「ねえ神奈さん……私、こういうことをさせそうな人を知っているんだけど」
「奇遇だな、私もだよ。でもまさかだろ、騎士があんなバカらしいことに従うってことはさあ、命令したやつは王様クラスの権力持ってるってことだろ? あのさあ、あんな人間が王様になってたら国が滅ぶぞ……」
「きっと心悟君だよ、クラス委員の」
「おい待て笑里止めろ。さらっと絶望の淵に叩き落す現実をぶつけるのは止めろ。薄々そう思っているけど考えたくない」
「よっしゃああああ! あと城下町を五周だあ! 騎士たるもの鋼のような精神を持っていなければダメなんだろう!? 僕と一緒にうさぎ跳びし続けて強靭な肉体と精神を手に入れるんだ!」
暑苦しい声が神奈達に聞こえてくる。クラス委員を務めている男の声だ。目立つし発言がいちいち暑苦しい男を見間違わない。笑里以上に元気すぎる声を聞き間違いもしない。
「なあ、王様いったいどうしたんだろう。いきなりうさぎ跳びなんて」
「分からねえよ。少し前まで砂嵐が酷かったから、ストレスでおかしくなったのかも」
「やばいよやばいよ、王様ペース上げ始めたぞ。もう普通に走ってるのと速度変わらないぞあれ」
うさぎ跳びする騎士達は割と余裕そうだ。
鎧を着ていないからだろう。砂漠の騎士達は鎧を着ない。金属の鎧を着ると熱で倒れてしまうため、強度が多少強いだけの布で編まれた服を鎧代わりとしている。
いきなり変化したサンディア王こと熱井心悟に騎士達は違和感を抱いているが、偽物だと王に言い放てば即座に首が飛ぶ。そもそも偽物という証拠もないし、もしかしたらストレスでおかしくなっただけかもと考えられる。
熱井と騎士達はうさぎ跳びで遠ざかり見えなくなった。
「おーい! しん――」
笑里が大声で熱井に声を掛けるのを、神奈が口を両手で押さえて防ぐ。
「バカ止めろ! ややこしくなるだろ! なあ夢咲さん、霧雨。あんなサンディア王と協力は無理だ。もう出会いとか調査とかすっ飛ばしてボス戦に行こうよ」
登場人物の面影がまるでないサンディア王と関わっても、物語を破壊するだけなのではと不安に思い、関わらないことを提案する。夢咲も霧雨も頷き合うとそれに賛成する。
「うん、正直もう見ていられないし」
「ローラも関わりたくないと言っている。俺も賛成だ」
笑里が口を押えている手にタップすると、神奈は手を放して笑里に同意を求める。少し悩んだ笑里だったが「神奈ちゃんが言うなら……」と熱井に関わらないことに賛成した。
「よし、じゃあ次はついにボス戦だ」
「そうですね。これで全てが終わります。私達の運命、キャロットの運命、そして荻原さんの運命も、これで最後――」
「誰だよキャロット! 人参だよね!? ああもういいや、出発!」
本の世界から脱出するため、神奈達は事件の元凶を討伐しようとサンディア城下町を出て行った。




