33.2 図書室――本を読めよ――
2025/09/23 文章一部修正
夢咲が文芸部を作ってから二週間が過ぎた。
その二週間では特に変わった出来事はない。速人が神奈に挑むと返り討ちで気絶して放置されたり、斎藤と泉はそれを気にせずに本を読む。霧雨が本すら読まず設計図を見たり、思いついたことを紙に書き殴る。文芸部らしくないが、それこそが神奈達の日常と言えるだろう。
しかしこの場所は文芸部。文章を書いたり朗読したりする予定で夢咲が設立したのに、全く本を読まない人間に苛つきを覚えていた。そしてそれが爆発するのも早かった。
「霧雨君……本を、お願いだから本を読んで」
切実な願いだった。文芸部部員だからせめて本を読んでくれという一つの願い。
やたら小難しい数式を紙に書く霧雨は鉛筆を持つ手を止めて、夢咲の方に振り向く。
「確かに、一理ある。文芸部といえば本を読むものだしな」
「それなら」
「だが断る!」
ほんの一瞬、夢咲の明るくなった表情がすぐ暗いものに戻る。
神奈達の呆れた目にも霧雨は態度を変えず、鼻で笑う。
「はっ! 俺は俺のしたいことをする。どうして誰かに束縛されなければいけな……い、の……か……ゆ、夢咲?」
夢咲は霧雨のすぐ隣まで歩いて行き、光のない瞳で見つめる。
闇を感じさせる瞳にはさすがの霧雨も恐怖を感じてしまう。
「あの、夢咲、何か怒って……いやすまない。確かに本を読まないのは真剣に部活動をしていないのと同じだな? それを怒っているんだろう?」
「分かっているなら、今すぐ図書室にでも図書館にでも行って本を借りてきてよ」
「……はい」
暗い瞳で見つめられる恐怖に負けた霧雨は首を縦に振る。
「……ただ、いきなり本を借りてこいと言われてもな。何を借りたらいいのか分からん」
本を借りに行こうとした霧雨は第一の壁にぶち当たる。
普段本を読まない者が読もうとしても、どの本を読むか悩んでしまうものだ。ロボット工学などの専門知識が載る本なら読んだことはあるが、そんなものは普通の小学校に置かれていない。他に気になる本があればいいが望み薄だろう。
「それならまずは有名な本から読みましょう。ほら、今話題になってる恋愛小説とかどう?」
「それって『恋の恵』って本か、な? あれはいいよ、ね。元彼とよりを戻すかと思いきや唯一の理解者だった幼馴染の長司と最終的に結婚するのはいいラストだった、よ」
霧雨は第二の壁にぶち当たる。文芸部のくせにネタバレという禁忌を口にする泉の存在だ。
「……ネタバレされたんだが」
「ちょっと泉さーん、どうしていつもネタバレしちゃうのよ」
「どうしてなんだろう、ね。本の話題が出されると自然に口が動いちゃうん、だ」
「なんか山があるから登る的な理由だな。ていうかもうそれ呪いの域じゃん」
悪意なくネタバレする方が質が悪い気もする。
「なら図書室の魔女に相談してみたらどうかな」
分厚く大きな本を読んでいた斎藤が顔を上げて提案する。
その『図書室の魔女』という言葉に夢咲達はそれはいいと頷くが、全く知らない霧雨は首を傾げる。
「図書室の魔女? 誰だそれは」
「知らないの? 最近は噂になってるじゃない。図書委員の荻原ララさん」
そこで神奈も「あぁ」と呟き、いまいち理解出来ていなかった話に加わる。
「そういえば才華から聞いたことあったな。なんでも図書委員として本関係の相談を受け付けているんだとさ。霧雨もオススメの本とか訊いてきたらどうだ?」
「神谷さんの言う通り、詳しい人に訊いた方がいいと思うよ。ここだとネタバレが飛んでくるから」
「そうだね私もそれがいいと思う、よ。オススメというなら伝説の勇者に憧れて旅に出る少年の話とか面白い、よ。住んでいた村は焼かれるんだけど、その犯人がなんと村長の――」
「うわあああ! 私が今読んでる小説のネタバレは止めてえええ!」
夢咲がちょうど読んでいた本のようで、なんとしてもネタバレは聞きたくないと大声を上げて泉の声を掻き消す。
「あれ? 本を読まない人間なら私の足下にも転がってんだけど。こいつはいいのか?」
神奈の足下には、いつもの如く勝負を挑んでは返り討ちにあった速人が寝ている。
「彼はいいよ。今まで部活中に起きていたことないし」
「こいつも本を読んで大人しくなってほしいなあ」
叶わない願いだとしても神奈はそう願わずにはいられない。勝負を挑まれて相手をするのが面倒だからだ。一時期大人しくなっていたのに、自重を止めて毎日のように戦いを挑んでくる。
「……不公平だ」
「何か言った霧雨君?」
「いやなんでもない。はぁ、明日には借りた本を持って来るから、今日のところはいいか? どうせもう部活の時間は十分もないことだし」
部活終了時刻まであと十分を切っている。
指摘された夢咲も気付き、慌てて席に戻ろうとする。
「まずっ、今日中にこの本を読んでおきたかったのに……!」
それから部活は無事終了し、倒れたままの速人を外に出すと夢咲達は部室から出て鍵をかける。読みたかった本は結局読み切れず、残りは家で読むと決めた夢咲は急いで帰っていった。
*
霧雨は下校する部員達を見送った後、図書室へと向かう。
最終下校時刻が近いので、三階の階段前にある図書室付近に人足はない。もしも休み時間なら図書室の中も外も多少は生徒がいるはずだ。
霧雨が図書室に入ると、中には眼鏡をかけた大人しそうな少女が座っていた。いくつか開けられた窓から夕日の光と弱い風が入ってきて、白いカーテンと少女のセミロングの髪を揺らす。少女の髪は上半分を纏めて残りを下ろすハーフアップスタイルなので、下ろしている部分だけが風で揺れている。
健全な男子なら可愛いと思うかもしれないが、霧雨和樹という人間はどう足掻いても機械が最優先なので何も感じない。
「すまないが、図書委員か? 今から時間があるなら嬉しいんだが」
読書していた少女は霧雨に気付き、視線を手に持つ本から傍に立つ霧雨に移す。
「そう、図書委員の荻原ララ。時間なら多少ある。何か用?」
「お前が荻原か、ならちょうどいいな。俺は文芸部所属の霧雨和樹だ。本を探しに来た。何かいい本を知らないか?」
「この世界にある本はどれもいい本だと思う」
無表情に淡々と、どこかズレたことを述べる荻原に対して、霧雨は参ったなと額に手を当てる。
「そういう意味ではなくてだな……読書初心者でも読みやすいオススメの本はあるか?」
荻原は無言で頷き静かに立ち上がる。彼女は入口側の隅から二つ目の本棚に歩いて行くと、一冊の本を手に取って戻ってくる。そして手に持つ一冊の本を霧雨に差し出す。
「これは、女王と暗い森……?」
本を受け取った霧雨はタイトルを読み上げる。
タイトル名から内容は想像出来ないが、この本が荻原のオススメなのだろう。
「女王シリーズ。とある国で国民から人気のある女王が色んな問題を解決していく物語。いま私が読んでいる本も女王シリーズ最新作」
「これが、面白いのか?」
荻原は頷いて肯定する。
面白いと肯定されたのは関係なく、霧雨はとりあえず読めればなんでもよかったので手にした時から借りていく気ではあった。それでも面白いかどうか訊ねたのは、面白くない本を好き好んで読みたくないからだ。
「分かった、ならばこれを借りていく。読み終わったら返しに来よう。その時は二冊目を借りるかもな」
文芸部内で本を読んでいれば夢咲もとやかく言わない。
霧雨は微笑を浮かべて図書室から出て行こうと歩く。
その霧雨の背中を荻原は無機質な目で見続ける。
「あなたは、違うかな?」
誰に対して言ったわけでもない言葉は図書室内で消えていく。
*
文芸部で霧雨に本を読むよう夢咲が口にした翌日。
部活が始まると霧雨は普段通り窓際の席に座ると、面倒そうに一冊の本を取り出してパラパラとページを捲り始めた。それを見た夢咲は驚きの目を向けて口を開く。
「霧雨君……本当に、読書するの?」
「は? 夢咲が言ったんだろう、この俺に本を読めと」
何を言っているんだと、霧雨は広げた本から夢咲に視線を移す。
「そうだけどちょっと意外で……」
「なんなんだ、本を読まなくていいなら俺は読まないぞ。空想の話に浸るよりも、俺は技術を進歩させて空想に近付ける方が楽しいからな」
「ち、違う、違うって。ただ霧雨君のことだから、本に偽装させた機械でも持って来るのかななんて思って」
「……お前は何を言っているんだ?」
話を聞いていた神奈がそこに口を挿む。
「いや、お前はそれくらいやりそうだぞ。あの掃除機とかロボット見たらそれくらい出来そうだと思えるって」
改造された霧雨家では指紋認証や顔認証で開く扉、ゴミを自動で除去する掃除機、挙句の果てには家事全般をやってくれるお手伝いロボットまでいる。そんな近未来感が漂う家を作り上げた張本人ならば、どんな物でも作り上げることが可能なのではと神奈は思っている。
「まあ確かに出来るがそんなことはしない。俺はこれまで文芸部なら好きなことが自由に出来ると思っていたのだが、やはり部活動だしな、真面目に取り組む必要はある。もしも読書が嫌なら俺はもう文芸部を辞めている頃だ。どうせ人数は俺が減っても大丈夫だしな」
霧雨が退部しても残り人数は五人なので部活自体は存続できる。もしも自分のせいで部活が廃部になるなら辞めないが、問題ないなら気に入らないことがあればすぐに辞めてしまう性格だ。
「それは残ってくれてありがとうって言えばいいのかな」
「別に礼を言う必要などないさ。なんとなく居心地がいいから居ることにしただけだ」
笑みを浮かべる霧雨に文芸部一の危険人物が声を掛ける。
「それにしても女王シリーズを選ぶなんていいセンスだ、ね。一作目の女王と暗い森は最後に――」
「うわああ! もうダメだって言ったでしょ泉さん!」
ネタバレしようとする泉の口を夢咲が両手で押さえつけてなんとか阻止する。せっかく本を読もうとしてくれているのに、ネタバレされて興味が失せてしまえば本当に部活を辞めてしまうかもしれない。
「図書室の魔女だったか。無表情で人形みたいな奴だったが、そいつに紹介されたんだ」
それには最初に図書室の魔女の話をした斎藤が反応する。
「荻原ララさんだね。女王シリーズってシリアスな展開ばかりなのに苦手な人が少ない作品だから、僕も良い本だと思うよ。今は九巻まで出ているから、一作目が面白いと思えれば長く楽しめるだろうね」
「そうか、まあそうなることを願うさ」
いつもと違い、床で気絶する速人以外が読書する部活動が始まった。
それぞれが黙々と自分の持ってきた本を読み進めていき、あっという間に時間が過ぎていく。あまり期待しないで読んでいた霧雨も読んでいる本を面白いと思ったのか、部活動終了時刻までずっと読み続けていた。
薄く赤い綺麗な夕日が沈みそうな頃、文芸部も一日の活動を終えて解散していく。
部員達が帰る中、霧雨は一人で図書室に向かう。手には今日読み終わった『女王と暗い森』を持っている。
図書室に入ると、昨日と同じ場所で本を読む荻原を見つけた。霧雨は荻原の近くまで歩いて行き、読み終わった本を渡す。
「……面白いとは思った。次巻はどこだ」
本を受け取った荻原は席から立ちあがると、元々王女シリーズがあった本棚に案内してくれる。彼女は返却された本を本棚一番上のスペースに戻した。女王シリーズは発売中の九巻全てが揃い、しっかりと並べられる。
「礼を言う。お前はこの本が好きなのか、今日も九巻を読んでいただろう?」
荻原は無言で頷く。
「そうか、なら感想などを言い合えるかもしれないな」
またも荻原は無言で頷いて答える。
「……じゃあ、また明日だ」
沈黙は苦手ではないが長すぎたので、霧雨は女王シリーズ二巻を手に取り図書室を出ていく。
霧雨は荻原とどうしても話したいわけではない。ただ、女王シリーズを読んでみたところ予想以上に面白いと思えたので、自分が面白いと思えた点とつまらないと思えた点を感想として言い合いたいと思っていた。それは文芸部でも出来るが、泉がいると続きの巻のネタバレを喰らう可能性がある。安心して話せるのは荻原しかいない。
感想を言い合うだけなら夢咲とでもいいのだが、今さら本の感想を言い合いたいと口にすれば夢咲や神奈に揶揄われる可能性がある。プライド的な問題で霧雨は話すことを止めた。
それから毎日、霧雨は部活中に本を読み、部活終わりの短い時間のみ図書室に足を運ぶ。話すことが苦手なのか無口な荻原も次第に霧雨と話すようになった。感想の言い合いをするようになると放課後だけでは時間が足りず、授業の合間の休み時間や昼休憩にも図書室に通い始めた。
* * *
「最近、鬱の生徒が多くなっているらしいね」
ある日の部活中、夢咲がそんなことを言いだした。
話の核となる『鬱の生徒』には神奈達も気付いている。廊下ですれ違うと分かるが、虚ろな目をする覇気のない生徒が増加しているのだ。
鬱とは一種の病気。喜びや悲しみも感じなくなったり、何に対してもやる気がなくなったりする精神的な病だ。肉体にも影響が出ることがあり、息苦しくなったり食欲がなくなったり様々な症状がある。
「ああそれな、一番びっくりしたのは熱井君だ。いつもは暑苦しい叫び声をあげてるのに、最近魂の抜け殻みたいになってるし」
神奈のクラスでも鬱の生徒が何人かいる。その内の一人である熱井心悟は普段熱血なのだが、ある時期から人が変わったように静かにっていた。無口無表情ともはや別人と言える変わりようだ。
鬱の生徒は学校全体に存在する。しかも生徒だけではなく、教師にまで鬱の者が出始めていた。これは明らかに異常だと誰でも分かる。
「かわいそ、う。きっと人生に絶望しちゃったんだ、ね」
「小学生が人生絶望って何があったのか知りたいな。たぶんあれはただの鬱病じゃないぞ。短期間で学校全体ならもう三十人は出てるんじゃないか? 出すぎだろ」
「学校の人がなっているんだから、やっぱり学校に原因があるのかな?」
三十人も短期間で鬱の人間を出したら、その学校には何かあると言っているようなものだ。
斎藤は鬱病者が宝生小学校の生徒と教師しかいないことに目をつけた。共通点はそこしかなく、どこか別の場所で何かが起きているとは考えられない。
「幸い、といってはダメなんでしょうけど、まだ被害は少ないわ。それでも増えているのには変わりない。この問題、私達も独自に調査してみましょう」
「そうだな、まあ既に私は友達と調べてるけど。……誤解がないように言うけど何も分かってないからな。何人か医者とか研究者とかに検査させたんだけど、脳波が弱くなっている以外異常がなかったんだ」
神奈の足下で気絶中の速人以外は賛成的な意見を述べ、鬱病者の調査に乗り出す。
調査といっても本格的な調査ではなく、怪しい噂や物がないか聞き込みで確かめるだけだ。どんな人生を歩んでいようと神奈達はまだ小学生。出来ることには限りがある。
*
部活動終了後、霧雨はまたしても図書室へと足を運ぶ。
前日借りた女王シリーズを返してから次巻を借りるためと、荻原ララと会話をするためにだ。会話といっても本の感想を言い合っていただけだが、今日の霧雨はそれ以外にも話をしてみようと思っていた。
最近は毎日会う間柄だというのに霧雨は荻原のことをほとんど知らない。知っていることといえば図書室の魔女と呼ばれ、女王シリーズの本が好きで、無口無表情ということだけ。だからこそ他の部分も知りたいと思う。
「好きな食べ物はなんだ?」
「……ない」
「趣味はなんだ?」
「……読書」
「俺と話すのは、楽しいか?」
三個目の質問に答えは返ってこない。
沈黙は否定か肯定か。霧雨としては楽しいと思っていてほしい。
「ふぅ、そういえば最近は鬱の生徒が多いな。実は文芸部で調べようという話になってしまったんだ。お前は大丈夫か? 無口だし表情がないから鬱か正常か分かりづらい。心配だぞ」
「……平気」
会話が続かない。どんな話題を出そうとも返ってくるのは沈黙か、一言だけの返答。会話を続けようとする気持ちが荻原にはない。もう少し仲良くなりたいなど所詮自分の我儘だったかと霧雨は諦めて、女王シリーズの次巻を借りて帰ろうと思い荻原から離れる。
女王シリーズは本棚の高い位置、指が触れる程度の高さにあるので取り出しづらい。荻原の身長は霧雨より大きいから苦ではないが、霧雨は少し苦労する。背伸びしてなんとか指で掴んで取り出すが、持っていたのが指だったことと、限界まで背伸びしていたこともありバランスを崩して本を床に落としてしまう。さらに運が悪いことに本を踏んでしまった。
「し、しまった、無理をせずに荻原に頼めばよかったな。いやだが男子としてのプライドがあるし」
本の白い表紙には上履きの跡がくっきりと付き、よく目立つ。
「ああ、こんなことなら家にある小型汚物洗浄機や、折り畳みハイパー脚立を持って来るんだった。まあ本の場所が高すぎるから仕方ない。不慮の事故だろう」
自慢の発明品がこの場にあれば躓くこともなく、本が汚れても綺麗に出来た。霧雨はこの場に発明品がないことを悔やむ。
「だから荻原……これは、不可抗力だ。明日返すときには汚れを落としておくから……」
さらに運悪く、本を踏む瞬間を荻原に見られてしまったのを悔やむ。
「あなたは、違うと思っていたのに……」
相変わらずの無表情だが悲し気な雰囲気と声。それは初めて荻原が見せた変化だ。
「どうしてみんな、本を雑に扱うの……?」
「違う、俺は雑に扱ったりなんて」
「あなたも本の凄さを分かればいい。この魅力を、全て」
謎の威圧感が荻原から、いや荻原が持っている本から放たれている。本は青く光り始める。たじろぐ霧雨だが、すぐにそんなことは気にならなくなる。……もっと重大な問題が発生したからだ。
「なんだ……これは、引き寄せられている! 何かに、本に吸い込まれている!」
自分の意思とは関係なく青く光る本に近付いてしまう。
いくら抵抗しようと吸い込まれるように霧雨は前に出てしまう。
そしてさらに驚愕する光景が霧雨の目に映る。背を向けて逃げようと振り向くと、視界に入ったのは信じられないものだった。
「俺の……体だと!?」
自分の体が霧雨にははっきりと見える。
一部ではなく全身。他人の視界のような光景。
虚ろな目をしている自分が確かに見える。
「この目、他の鬱になっている奴らと同じ……! 荻原、まさかお前が全ての元凶――」
青く光る本に吸い込まれることに抵抗する手段がない。
霧雨は……白いモヤは、本の中に勢いよく入ってしまう。
「知って、反省してね」
こうして霧雨和樹も鬱病者の一員になってしまった。




