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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三章 神谷神奈と文芸部
68/608

33 機械――ロボットは素晴らしい――

2025/09/21 文章一部修正+誤字修正









 文芸部復活から一週間。

 平日は毎日集まって部活動を行い、そして新しい本を持っていく度に神奈は泉からネタバレをくらう日々。そこだけは本当に嫌だと思う神奈は、部員のことを何も知らないことに気付いた。泉にもネタバレしなければならない理由があるのかもしれない……あっても困るが。


 知らないから知ろうとする。まずは簡単に文芸部らしく、本の話題を投げかけて神奈は他の面子のことを知ろうと思う。同じ部活で活動する以上、何も知らないまま終わるなど悲しすぎる。


「泉さんは何を読んでるんだ?」


「わた、し? 今読んでいるのは十年前に出版されたミステリー小説だ、よ。この小説の面白いところは三角関係を超えた六角関係、ね。この本ならではのドロドロした展開がいい、の。特にあの五人目の不倫相手が輪ゴムの性質を利用して企んだトリックは良かった、わ。神谷さんも読、む?」


「いやいいよ、もう楽しめないだろうし」


 ネタバレされたらその『面白い』部分をもう楽しめない。神奈の読もうと思っていない本でも、読もうとしている本でも、最悪なことに泉はネタバレを欠かさない。ミステリーなら犯人やトリック、恋愛ものならば最終的にどうなるのかとその過程までしっかりとネタバレする。


 極力、神奈は泉に本の話題を出さないと遅すぎる決断をした。

 心に誓ってすぐ、泉の後方にある机に一冊本が置いてあるのが目に入る。


「その本も泉さんの?」


「あ、これも私の本だ、よ」


「……絆?」


 その本の表紙には【絆の結び方】というタイトルが書かれていた。


「誰かと仲良くなりたいのか。あんまりそういう本って実践には向かなそうだけどなあ。友達になりたい人でもいるの?」


「……う、ん。絶対に仲良くなりたい人がいるん、だ。だからこの本は私にとって聖書みたいなものな、の」


 その本について語る泉の目には、何がなんでも成し遂げてみせるという堅い意思が秘められている。深く踏み入るのに躊躇する神奈は当たり障りのないことを言っておく。


「そっか、その人とも頑張れば仲良くできるよ。霧雨は何読んでるんだ?」


 霧雨和樹という男。彼のことが神奈は気がかりでならなかった。

 初日に自己紹介で一人だけ発明が趣味と言い張り、なぜか白衣を着てゴーグルを頭につけている。もはや経験則から神奈は変人の類だと決めつけている。


「俺か? これだが」

「……なんだよこれ」


 神奈が霧雨に見せられたのは何かの設計図。

 形からして人型の機械で、細かい設定などが書き綴られている。


「これは家庭用ロボットの設計図さ。俺はこんな便利なロボットを作り出して世界を変えるんだ」


「夢がでかいなおい……ていうか本ですらないな」


 文芸部としての活動中に読む……というか書くものではない。


「神谷、君に一つ良いことを教えよう!」

「なんだよ」


「ロボットは、素晴らしい!」

「……あ、そう」


「む、理解していないな? よし、今日の帰りに俺の家に案内しよう」

「あ、はい」


 もうこいつはいいやと神奈は霧雨の話を適当に流す。

 夢咲とは仲が良いので、次に神奈が話すのは斎藤だ。三十センチメートルはある大きく分厚い本をいつも肩から下げていて、部活動中に読むのはそれと一緒の本だった。


「なあ斎藤君、それはなんの本なんだ? いつも持ち歩いてるけど」


「……ああ、この本は父親の形見なんだ」


「えぇ」


 急に空気が重くなった。誰のせいだと神奈は自問自答するが、私であるという答えしか出ない。しかし形見の本で詳細を訊きづらいとはいえ、いつも持ち歩いて読むのを見ると内容が気になってしまう。


「ちょっと見せてもらうことって出来るの?」


「ああ、まあいいけど汚さないでね?」


「……そこの机の上に置いてくれ」

「うん」


 汚さないでと言われるとかなり見づらくなる。だがそれでも見たい神奈は夢咲が掃除した机に置くよう指示した。新品同様に掃除されて光沢すらある机に斎藤が分厚い本を置き、それのページを神奈が開く。


「……なんだこれ」

「あはは、そう言うと思ったよ。この本を見た人はみんなそう言うから」


 神奈が見せてもらった本には、どこの国の言葉か分からない文字が作文のようにぎっしりと書かれていた。パラパラとページを捲ってみても、全ページがその読めない文字で埋まっている。こんなものを読んでも日本語じゃないやという感想しか出てこない。


「僕も最初見たときはなんだこれって思ったよ。でも何か意味がある、書いてある以上その文字は読める。だから僕も必死になって、この本を受け取ってからの三年間をひたすら解読に費やしてきた。その甲斐あってかようやく数行読めるようになったんだ」


「三年かけて数行って、読み終わるまでに何十年……いや百年以上はかかるか」


「それでも僕はこの本を読む。これだけが僕の目標なんだから」


「……そっか」


 この本を最後まで読み切ることは不可能に近い。たとえ読み終わったとして、得られるものが何かあるとしても、消費した時間に釣り合うものは得られないだろう。それを理解していても読み続けるのが斎藤の意思だった。


 *


 時が進み、下校の時間になる。

 今日は笑里も才華も用事があるので、神奈は速人を除いた文芸部一同と帰ることにした。速人は部室に来たら神奈を襲い、一撃でノックアウトされるのがもうお決まりのパターンだ。気絶した速人は神奈によって部室外に放り出されて放置されている。


 夕方。神奈達は各々話しながら歩き、一番近い霧雨の家に到着した。

 今時珍しい和風の屋敷といった感想が一番に出る家だ。


「それじゃあみんな入るといい。面白いものを見せてやろう」


 誰かの「え」という声が聞こえてくるなか、神奈は冷静にそういえばそんなことを言っていたなと思い返す。霧雨が部活中、家に来るよう言ったのは神奈のせいなのだが興味はない。用事があると告げて断ろうかと思い始めている。


「あ、わた――」

「私一人暮らしだから、家事とか大変だからゴメンね」

「私も今日は早く帰らない、と。親に叱られちゃうか、ら」

「僕は本の解読を少しでも長くやっていたいからね」

「なるほど仕方ない、じゃあ神谷だけでいい」


 神奈は心の中で『おい!』と叫ぶ。

 三人の言ったことが嘘ではないとしても、逃げたとしか思えない。


「私も用事が――」


「神谷は行くと部活中言ったぞ? まさか断るのか?」


「今日はなかったの思い出したわあ」


 神奈は断ることを完全に諦めた。


「よし、じゃあ付いて来い。では来ない者はまた明日だな」


 霧雨が身を翻して和風な家の玄関に向かうと、三人はそれぞれが別れの挨拶をして帰っていく。神奈も帰りたいが、テキトーでも約束したのだからと渋々霧雨の後を追う。


「……やっぱり納得いかない」

「約束したのだから来い」


 そう言いながら霧雨はインターホンの傍にある妙な板に手を当てる。


『承認システムを起動。確認しました。おかえりなさいませ霧雨和樹様』


「なんじゃそりゃあ!? おい、全然家と世界観合ってないぞ! 何その近未来感!」


 霧雨が手を当てると、妙な板から声が聞こえて扉が勝手に開く。和風の家とミスマッチなシステムだ。


「何ってただの指紋認証システムだが」


「そんな当たり前みたいに言われても」


「まあ中に入れよ、この程度で驚くのは早いぞ」


 前を歩く霧雨の案内のもと神奈は家に入る。

 廊下を歩いていると、一台の丸い円状の機械がやって来た。


「あっ、これ知ってるな。自動で掃除してくれる掃除機だろ? 確か名前はレンバだっけ」

「ふ、これはただのレンバじゃないぞ」


『おかえりなさいませ和樹様。本日の家の掃除は完了しております』


「喋ってる!?」

「これはレンバを改造し、人工知能を与えて喋れるようにした改良版だ」


 玄関の時点で驚いていた神奈だったが、掃除機には素直に「へえ、これは凄いな」と褒め言葉を送る。


『おや、侵入者ですね。排除します』


 そう言い終えた後に、レンバが突然戦車のように変形してレーザーを放つ。神奈は辛うじて躱すが、レーザーは家を一直線に貫通していた。貫通した穴の周囲には焦げ痕が残っている。


「いや危なっ!」


「おっと、すまんすまん。排除システム切るの忘れてた。普段俺以外が入ることないから、俺以外が入って来たら侵入者として排除する機能を付けていたんだ」


「掃除機になんて機能つけてんだよ!」


「おいおい、これは排除した後の死体や、吸い込んだゴミをレーザーで消滅させることが出来る優れものだぞ」


「……普通に怖いわ」


 その後も、どう見ても襖なのに自動ドアだったり、家事をやってくれる手伝いロボットなど様々なものを見せてもらった。とりあえず神奈が思うのは、ここが全然和風の家ではないナニカだということ。見た目に騙されて詐欺に遭ったような気持ちになる。

 一通り見終わり、霧雨が客室と言う和室で神奈は寛ぐ。


「どうだ? 機械というのは素晴らしいだろう」


「まあ面白いものではあったな。あの家事手伝いロボットなんて私が欲しいくらいだし」


「ふむ、金さえ貰えれば作るが」


「ちなみにいくらだ?」


「ざっと二百万は超えるな」


「……だろうな」


 お茶汲み、掃除、料理などが出来る人型ロボットだ、安いはずがない。

 神奈の分のお茶がなくなると、人型ロボットがお茶を口から注いでくれる。口から注がれるところを見てからは飲む気が失せているが、ありがたい機能だとは思う。


「でも金はどうしてるんだ? 費用結構かかるだろ」


「なに、ちょっと株でな」


「大損しなきゃいいけどな」


「大丈夫だ、損はしないように計算している」


 ロボットの口から注がれたお茶を飲んだ霧雨はまた口を開く。


「機械は、ロボットはいつだって時代の最先端だ。この世界を変えられる力なんだ。いつか世界中に俺が作った機械を売り、世界中の人々が使ってくれる時代になるのが俺の夢だ」


「やっぱり、でかい夢だな」


「夢はでかい方がいい。その方が叶え甲斐があるからな」


「夢、か」


「お前の夢は何だ? 何かしたいことはないのか」


「私は……もう、ない」


 悩んだ末、神奈は告げた。

 前世では魔法を使うことが夢だった。未練となってこの世界に転生したりもした。しかし、その夢はもう叶っている。どんなにしょうもなくても魔法は魔法だ。神奈の夢はリセットされて、また無の状態へと戻っている。


 夢について深く考えていたので、それからの霧雨の話は神奈に届かない。

 霧雨家からの帰り道、神奈はまだ先程のことを考えていた。あまりに考えすぎて帰る前に霧雨から「大丈夫か?」と心配されている。


「夢かあ」

「神奈さんは焦らなくても大丈夫ですよ」


「そうなのかなあ……。笑里は空手道場を作るって言ってたし、才華はたぶん親の会社を継ぐよな。霧雨は全世界に自分の機械を周知させて使わせること。斎藤君は形見の本の解読。周りは夢を持っているのに、今の私には何もないんだ」


「でもまだ小学生ですし、そのうち夢を持てますよ」


「そうかな」


「はい、きっと」


「そうだな。夢なんて無理に作るもんじゃない、自然とできるものなんだ。私にもいつか……」


 人生は焦らず生きるのが大切である。確実に一歩ずつ前に進んでいけば道は開けていく。

 神奈は沈む夕日に手を翳し、掴む動作をしてからまた歩き出す。









腕輪「神奈さんの夢を考えました! ありったけの夢をかき集めた海賊王になり、願いを叶えてくれる竜を呼び出す球を七つ集め、火影になることです! ついでに伝説の食材を手に入れたり、大魔王を倒したり、色々ありますね!」


神奈「……すごいジャンプしてんな私の夢」


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