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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
三章 神谷神奈と文芸部
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32 部活――今日からよろしく――

三章開始です。

2025/09/21 文章一部修正+誤字修正










 宝生小学校の四年生の教室。

 癖毛な黒髪少女、神谷神奈は世にも珍しい異世界転生者である。


 トラックから子供を助けて死んでしまい、色々あって忍者やら魔法使いやら宇宙人やらが存在するこの不思議な世界に転生した元男。そんな神奈も今年でもう小学四年生だ。


「はーいみんな、四年生になってから一か月だし、そろそろ部活動を何にするか決めたかなあ? 期限は今週までなので、決まってない人は早めに決めてくださいね」


 宝生小学校は四年生から部活動に入るが、神奈はまだ何に入るか悩んでいる。

 友人である笑里と才華に入る部活を訊いたところ、笑里はバスケットボール部、才華は茶道部と判明した。神奈はどちらも合わなそうなので入部は止めておく。運動部に入っても、チート級な身体能力のせいで誰も神奈についてこれない。茶道は単純に退屈そうだから入らない。


 担任教師の言う通り期限は今週まで。神奈は早く決めなければと焦る。

 クラスで行う朝礼が終わった後、入る部活をまだ訊いていない夢咲(ゆめさき)夜知留(やちる)のもとへ訊きに行った。彼女は神奈の問いにごく普通に答えた。


「え、私? まあ文芸部にしようかと……」


「文芸部……そんなのあったっけ?」


 文芸部というのは簡単に言えば普段から本を読み、文化祭などがあればそこで文集を出したりなどする部活だ。しかし数日前に配布されたパンフレットで文芸部の名前を見かけた覚えがない。真剣に見てはいなかったが、何かを見落とすレベルで見ていないわけではない。神奈は宝生小学校にある部活動全てを一応把握している。


「うん、確かに今はないんだけど。前は在ったみたいなの。だから私がまた再建出来たらいいなと思って」


「へえ、あと一週間だろ? 部員は集まったの?」


「まだ規定の人数には届いてないけど、私の他に三人」


 部活動を立ちあげるための最低人数は五人。

 つまり、文芸部を復活させるのに必要な人数はあと一人。


「ん? なんで何も言ってくれなかったのさ。言ってくれたら入ったのに」


「神奈さんはあの二人と同じ場所に入ると思ってたんだよ」


「いや、バスケとか茶道とか、ちょっと合わなそうでなあ。で、あと一人なら私入るけど入っていいのかな?」


「うん、それはもちろん。でも神奈さん本に興味あった?」

「ない」


 夢咲の問いに神奈は考えるまでもなく即答する。


「え、ないの?」


「うん、ない。正直言って興味は全くない。たまに読むけどその程度でしかない」


 あまりにもあっさりと、興味なし発言をされた夢咲は戸惑う。


「なら、なんで文芸部に……」


「そんなの他にいい部活がないからに決まってるじゃん」


「あ、そうなの……。まあ別に本好きな人じゃないと入れないなんて決まりはないから良いけどね」


「よし、じゃあ私も今日から文芸部の一員だな」


「うん、よろしくね」


 神奈が差し出した手を夢咲が握り、しっかりと握手をする。

 文芸部に入ることを決めた神奈だが、残りの三人のことを知らないので、上手くやっていけるかが早くも心配になる。


「他の部員、今まで会ったような変な奴等じゃないといいけど……フラグにならないよな?」


 一週間後。文芸部の面々が揃う日になっても不安は消えない。

 なんせ神奈の周りには初対面の相手を殴る少女、金銭感覚がズレている金持ち、やたら執着してくるストーカー忍者、不完全な予知能力者、地球を侵略しに来た侵略者という、普通と掛け離れた者が集まっている。新たに出会う人間達が普通の人間である保証はない。


「ふう、緊張するな」


「もう、みんな普通の人って説明したでしょ? そんな緊張する必要ないって」


「……だといいんだけど」


 話している内に文芸部の部室前に着き、夢咲が扉を開く。それと同時に三人の部員が神奈達に視線を向ける。視線を気にしながら神奈達は用意されていた椅子に座った。

 椅子は六つあり、円状に置かれているので全員が向かい合う。


「お待たせみんな。うん、全員揃ってるね。じゃあまず簡単に自己紹介からやろうか、私以外と面識ないよね?」


「じゃあ、この部を立ち上げた部長からってことでいいんじゃないのか?」


 無難なスタートをするために神奈が発言した。


「じゃあ、私のことは知ってると思うけど夢咲夜知留。趣味はお絵かきかな」


(そこは読書って答えないのか、文芸部なのに)


 夢咲の自己紹介が終わると、彼女の右に座る神奈に視線が集まる。


「あー、私は神谷神奈。夢咲さんと同じ四年一組だよ……今日からよろしくな!」


 何かを言おうと必死に考えた神奈だったが、趣味で思い当たることがなかった。普段やっていることといえば魔法を覚えるくらいだが、そんなことを大真面目に自己紹介の場で言ったら変人扱いされてしまう。魔法は知名度が低く、一般人は存在することを知らないのだから。


 次は神奈の右隣に座っている男子だ。狐色の髪で、狐の耳が小さく出ているような髪型をしている。そして何やら分厚い本を、肩から掛けられる専用ケースに入れて下げている。


「じゃあ、次は僕だね。僕は斎藤(さいとう)凪斗(なぎと)、四年二組。趣味は読書。よろしく」


 あまりにも無難な自己紹介。その普通さに神奈は感激して喜色満面になる。


(ふ、普通だ。なんという普通さなんだ! 今まで私の周りにこれほど普通としか思えない奴がいたか? いやいない、断言出来る!)


「えっと……なんかすごい微笑んでるんだけど、大丈夫かな。え、僕なんかした?」


 順番に自己紹介は進んでいく。

 次に自己紹介したのは黒髪を肩辺りまで下げた少女。


「私は四年二組の(いずみ)沙羅(さら)で、す。趣味は読書か、な」


(喋り方が特徴的だな。あ、この子私と同じ黒髪だ。この世界あんまり黒髪いないから珍しいな)


 次が最後、なぜか白衣を着て頭にゴーグルを付けている少年。


「俺は霧雨(きりさめ)和樹(かずき)。四年二組だ。趣味は機械いじりとか、発明だな」


 最後にされた自己紹介には普通さなど感じず戸惑う。本を読む部活に対して無関係な機械いじりや発明という趣味なのも、白衣にゴーグルという恰好もあり、彼からは異質な雰囲気が出ている。

 部室にいる全員が自己紹介を終えたが、その時ふと全員が違和感に気付く。


「椅子、一つ多くないか?」


「そうね、私達は五人なのに椅子が六個あるから気になってた、の」


「顧問のじゃないのか?」


「うーんと実は――」


 椅子について考えていると、黒く回転する物体が入口から神奈の方に飛ぶ。目元に飛んで来た物に咄嗟に反応し、手で掴むと手裏剣だった。手裏剣といえば思い当たるのは一人しかいない。


「うわっ、なんだ? 手裏剣……っておいまさか」


「はははは、神谷神奈! 今日こそお前を倒してやる!」


 裏社会のエリート一家の次男。神奈に勝負を挑み続けて一年にもなる男子、(はやぶさ)速人(はやと)だ。


「なんでこんなところにいるんだよ!?」


「あ、えーと、紹介します。本日入部した隼速人君です」


「はああああ!? おい、こいつどう考えても文芸部って感じじゃないだろ! こいつは運動部だろ、走って汗でも流してろ!」


 一流の殺し屋として育てられた速人の身体能力は、神奈に及ばずとも高い。運動部に入ればたちまちエリートとしての本領を発揮しただろうが、そんなものに興味を持たないのは神奈と同じだ。


「お前がこの部に入ったと聞いてな。急いで俺も入部させてもらったぞ。入部理由は神谷神奈を倒すためだ! くたばれっ!」

「そんなわけにいくか!」

「ぐあああっ!」


 速人は呆気なく神奈のアッパーで吹き飛び、部室入口近くに倒れて気絶した。


「賑やかな人だ、ね」

「僕は本が読めればいいからどうでもいいかな」

「俺もやることの邪魔さえしなければどうでもいいな」


 一連の異常なやり取りを見ても三人の態度は変わらない。


「お前ら少しは興味持てよ! いきなり同級生が殺されかけてんだぞ!?」


「あなたたち二人のこと、学校の生徒ほとんどが知っているから、今さら驚きはしないんじゃない?」


「ちょっ、それ初耳なんだけど! なんでそんな有名に……ってなるよねこんなこと毎日やってれば!」


「うん、もう去年から噂になって知れ渡ってるからね。三年生に、クラスメイトに勝負を挑み続けている忍者がいるって」


「……あいつの方が噂になるのか」


「それじゃあ自己紹介も終わったことだし、部活終了時間の四時半まで自由時間とします」


 部活終了の時間は決まっており午後の四時半となっている。夢咲が部活復活の手続きで遅く来たため、初日の活動時間は三十分。さらに自己紹介で削られたせいでもう二十分程度しかない。


 あと二十分という短い時間だが誰も無駄にしようとしない。文芸部ということで、霧雨と速人以外は本を鞄から取り出して読み始める。霧雨は何やら大きな紙を真剣な目で見つめて、速人は気絶しているので動かない。


 神奈は昨日学校帰りに買ってみた、有名著者のミステリー小説を読む。評判も良いし、本屋のお勧めコーナーにあったので即決だった。


「あ、それ最近出たやつだね」


「夢咲さんはもう読んだの?」


「私はミステリーとかあまり読まないかな。私が好きなのは恋愛小説だから」


 夢咲が手に持つ本はブックカバーのせいでタイトルが分からない。


「へえ、女子だなあ」


「神奈さんも女子でしょ」


「それもそうだ。さて、読むかな」


「あ、それってあの最近出たミステ、リー?」


「ああそうだけど。えっと、泉さんは読んだの?」


 泉とは同じ髪色なのもあって神奈は親近感が湧いていた。この機に仲良くなっておきたいと思い、会話を弾ませる努力をする。自分から仲良くなろうと思ったのは泉が初めてだ。


「うん、私も読んだ、よ。犯人の料理長が氷が溶けるのを利用したトリックはありきたりだけど面白かった、な。最後主人公が相棒に殺されちゃうのもビックリな展開だった、よ」


「うん、たった今読む気が失せたこともビックリだ」


 楽しみにしてたのに神奈は壮大なネタバレを喰らった。

 泉と仲良くしたい気持ちが気の迷いのように一瞬で消え失せた。

 初日の活動はネタバレを喰らって終了する。文芸部に普通さを求めていた神奈だが類は友を呼ぶ。この文芸部に集まった者も普通の者とは言えない。











夢咲「もう閉めたいんだけど隼君がずっと気絶してる……」

神奈「部室の外に放り出しとけば大丈夫」

隼「……」

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