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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
?章 神谷神奈と番外編 
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花見――何の予約にしろ予約したか確認しよう――


 登場人物紹介


 神谷神奈(かみやかんな)……説明不要の転生者であり主人公。


 夢咲(ゆめさき)夜知留(やちる)……貧乏根性が染みついた女子高生。現在は霧雨と半ば同棲中であるが、家事は全てロボットがやってくれるので家の仕事を何もしていない。


 霧雨(きりさめ)和樹(かずき)……機械大好きな発明者。高校にはあまり通っておらず、ほぼ毎日発明品の案を考えている。たまに恋人の夢咲とデートに行く。


 (はやぶさ)速人(はやと)……裏社会最強の殺し屋にして現役高校生。日々鍛錬を積んでいる。


 斎藤(さいとう)凪斗(なぎと)……魔法が使えるけどそれ以外は普通の男子高校生。実は神音のことが異性として微かに気になっている。


 神野(かみの)神音(かのん)……かつて大賢者と呼ばれた転生者。現在は泉沙羅という名前であり、時の支配人がかつて住んでいた屋敷に住んでいる。最近の趣味はガーデニング。


 秋野(あきの)笑里(えみり)……食欲と身体能力が凄い女子高生。空手の高校生全国大会では優勝を果たした。最近は仲良くなりたい相手を挨拶で殴る癖をなくし、コミュ力にさらなる磨きがかかっている。


 藤原(ふじわら)才華(さいか)……世界経済を支配しかけている藤原家の跡取り。既に十の会社を経営し、テレビ番組にも出演した。ネットでは将来世界を支配する女性と噂されている。


 グラヴィー……惑星トルバから移住した宇宙人。現在は喫茶店の店員として真面目に働いている。好物はコーヒー。


 王堂(おうどう)晴天(せいてん)……自分がこの世の王だと本気で信じている傲慢な男子高校生。実家はヤクザであるが良いヤクザ。違法薬物を取引するヤクザを見れば組ごと潰し、警察に引き渡している。


 王堂(おうどう)晴嵐(せいらん)……晴天の妹にして神奈を慕う女子中学生。受験は終わり、宝生高校への進学が決定。伊勢高校へと入学したかったが学校の経営方針やその他変更で忙しく、伊勢高校側から入学を拒否された。









 宝生町に聳える五色の塔。

 ひょんなことから現れたそれは、一応観光名所となっている。そんな五色の塔のうち、紫色の塔の真下に神奈達はいた。


「……君達さ、今日は何をすると言ったっけ?」


 珍しく戸惑いを見せる神野神音が問う。

 気まずい雰囲気を出す夢咲、霧雨、斎藤、速人の代わりに神奈が答える。


「何って忘れたのか? お花見だよお花見」


「そうか良かった、私の聞き間違いじゃなかったわけだ。……訳が分からない。私の目に桜は映っていないんだが? 桜どころか花すらないんだが?」


 大きな木がないのは当然だ。紫の塔周辺は現在荒れ地と化している。


「上見んな、下見ろ」


 荒れ地だが花は一輪だけ咲いていた。

 雑草も多少生えているし、完全に死んだ土地ではない。


「……まさか、見る花はこれとか言わないよね」


「そのまさかだ。一輪しか咲いていなくても花は花、お花見に間違いないだろ。可憐で美しい花じゃないか。こんな場所に咲く勇気と根性を素晴らしいと思わないか?」


「思ってもいないことをペラペラと」


 確かに神奈は本音を一言も喋っていない。

 一輪しかない花を見て花見と思えないし、花を美しいとも思っていないし、花に勇気や根性があろうとどうでもいい。神奈はこの場を解散させないよう言葉を尽くしているだけだ。


 今日は久し振りに小学生時代の文芸部メンバーで集まった日。中々全員集まる機会もないので、今日くらい賑やかに過ごそうと決めている。


「ごめんね神音。本当はね、ちゃんとしたお花見出来る場所で場所取りするはずだったの。私は忙しかったから隼君にお願いしたんだけど」


 夢咲は速人をジト目で見る。


「俺は緊急で仕事が入ったから斎藤に頼んだぞ」


 速人は斎藤を睨む。


「僕も用事があったから神谷さんにお願いしたよ」


「私はその日、世界が危機に陥ってたから救っていた。霧雨には伝えたぞ」


 斎藤が見てきたので神奈は霧雨に目を向ける。


「俺も発明で忙しいから、調整中のロボットに頼んだんだがな」


「君のせいか」


「待て待て、なぜ俺が責められる。悪いのは爆発したロボットだろ」


「いや悪いのお前だろ。なんでロボットに任せるんだよ」


 誰かに任せること自体はいい。

 個人の都合もあるので忙しくて断るのは仕方ない。問題なのは任せる相手。いくら人語を話せて高性能とはいえ、ロボットに任せる人間は数少ない。しかも爆発するようなポンコツに任せたとなれば、悪いのは明らかに霧雨である。


「まあそんなわけで、急遽選んだ場所がここってわけ」


「もっとマシな場所はなかったのか」


「どこも予約いっぱいなんだよ」


 現在は花見の季節なのでどこも予約が殺到している。

 予約出来ていないのに気付いたのは今日のこと。当日にどこへ電話を掛けても予約出来る場所がなかった。そこで紫の塔付近にいた神奈が花を見つけ、勢いに任せて全員を呼び寄せたのだ。……今考えると勢いに任せすぎたと思う。


「さ! 気分を変えてお弁当食べよ!」


「そうだな! じゃあ斎藤君、弁当出してくれ!」


 夢咲の提案に乗っかり神奈が斎藤に指示を出す。

 同意した斎藤がリュックサックの中を見て……顔が強張った。みるみる顔が青褪めて汗を大量に放出し始めた。異常な状態の彼を全員が心配する。


「どうした? 汗すごいぞ」


「……い、家に忘れちゃったみたい」


「普通のミス!」


 落ち込む斎藤の肩に霧雨が手を置いて笑う。


「落ち込むな、ミスは誰にでもあるさ」


「お前は少し落ち込め」


 弁当忘れのミスなんて会場予約ミスに比べれば可愛いものだ。一番反省するべき男は反省の欠片も見せていない。


「はあ、まあ、弁当は夢咲さんも担当だからいいや。な、夢咲さん。な、弁当あるよな? な?」


「……ある、には……あるよ?」


「何その不安になる言い方」


 夢咲は顔を背け、申し訳なさそうに口を開く。


「忙しかったからさ。お弁当、パンダレイに頼んじゃって」


「なるほど。その弁当は持ち帰ってくれ」


 弁当を開けなくても中身は予想出来た。

 余計なつっこみを避けるために夢咲は弁当をしまう。


「……帰るか」


 花は一輪、弁当はオイル塗れ。最悪のお花見だ。

 なんとか解散させないようにしていたが、最初に心が折れたのは神奈であった。せめて弁当があれば、雑談でもしながらピクニック気分でいられたかもしれない。しかしあるのがオイル塗れの弁当では食欲も湧かない。……いや、中身を確認していないので本当にオイル塗れかは分からないのだが。


 何もすることがないので神奈達は解散ムード。

 ブルーシートから最初に立ち上がった神奈は虚空を見つめている。


「――あれ? 神奈ちゃん!」


 声が聞こえた方向を向くと神奈は笑里を見つけた。

 笑里だけではない。後から才華とグラヴィーも歩いて来る。


 グラヴィーは大きなリュックサックを背負っているが、それよりも気になるのは三人の組み合わせ。三人でいるところを見るのは初めてであり、非常に珍しい場面だ。


「珍しい組み合わせだな。今日は何してんだ?」


 神奈の疑問には才華が答える。


「宝生町の塔を観光する人が多いから、五つの塔を巡るツアー計画を進めているの。中も見て回る予定だから周辺や内部の安全確認と……ちょっとした脚色を」


「あー、一応観光名所扱いだしなここ」


 宝生町に突如生えた五つの塔は、謎スポットとして有名になっている。有名な動画配信者が来て塔の説明を語ったからだ。そこからはさすがネット社会と言うべきか、話が広まるのは異様に早かった。


「私とグラヴィー君は塔の中と外を安全にする役割なの。地面を平らにしたり、瓦礫とか撤去したり」


「身体能力を買われて手伝いをしているんだ。喫茶店の仕事は有給休暇を取ったから問題ない」


 つまり才華は二人をブルドーザー代わりにするつもりらしい。


「神奈ちゃん達は何してるの?」


「……花見」


「花見って……まさか、その地面に咲いている花で?」


「言いたいことは分かるから言うな」


 ありえない、馬鹿でしょ、そんな感想が言われなくても伝わる。

 改めて考えてもそう思われて当然だ。

 まだピクニックと答えた方が憐れみの視線も来なかったかもしれない。


「――邪魔だ。整列して退け」


 聞こえた声に神奈は「げ、この声」と面倒そうな表情に顔が歪む。

 神奈達の方へとやって来るのはスーツを着た集団。彼等の中で声を発したのは赤髪オールバック、顔に大きな傷がある王堂晴天という男だ。彼の家族はヤクザであり、自分の強さに絶対の自信を持っているため態度が悪い。


 ヤクザ集団の中で厄介なのは晴天だけでなく、妹の晴嵐も面倒な性格をしている。なんせ赤髪ツインテールの彼女は異常なまでに神奈を慕っているのだ。影野統真の女バージョンと言われたらしっくりくる。


「……ダブル王堂」


「姐さんお久し振りですうううう!」


「先客がいたとはな。今すぐ場所を譲り、家に帰れ」


「帰る気が失せた。お前ら何しに来たんだよ」


 お花見会場ならともかくここは塔。

 ヤクザが集団で何を目的にやって来たのか神奈には分からない。


「何しに来ただと? 決まっているだろう。塔見だ」


「塔見!? 聞いたことないぞそんな言葉!」


「遅れているな。最近世間ではブームだぞ」


「……うっそお」


 神奈は晴天からスマホを見せられたので黙読する。

 宝生町に生えている五色の塔の写真があり、それらを観光名所と扱い見物すれば楽しいという内容だ。ブルーシートを広げて弁当を食べ、立派な塔の造りや神聖っぽい雰囲気を楽しむらしい。何か既視感があると思い考えると、神奈達の今の状況がまさにウェブサイトに載る説明と同じだった。


 流行なら仕方ない。決して花見は失敗していない。

 失敗は新たな始まり。塔見という新たな景色への入口。


「よし、流行に乗り遅れるわけにはいかない。今日は塔見だ!」


「ふっふっふ、実は花見会場を予約しなかったのは塔見のためだったのだ。計画通り」


「霧雨、お前は反省しろ。省みろ自分を」


 口では塔見を始めると宣言したが神奈は花見の方がやりたかった。


「塔見はいいけど何する? 弁当もないのに」


 斎藤の疑問はもっともだ。楽しむためにせめて弁当くらいは欲しい。


「私に考えがある」


 何を思い付いたのか夢咲が王堂達ヤクザグループに土下座する。


「王堂一家の方々、お弁当を分けてください」


「考えってそれ!?」


「断る。雑草でも食っていろ」


「その手があったか」


「納得すんなよ!」


 夢咲はともかく他のメンバーは雑草の食事など断固拒否。

 衛生面、栄養面、その他諸々考えても雑草を弁当代わりにするのは論外だ。


「お弁当ないなら分けてあげましょうか? 多めに持ってきたから分けられるわよ」


「いいのか!? ありがとう才華、恩に着る!」


 グラヴィーが背負うリュックサックから大量の弁当を取り出す。

 ほとんど笑里の分だったらしいが食事量を並に減らせば大量に余る。大食いである彼女には悪いが、彼女も少し残念そうにするだけで「仕方ないね」と言うので遠慮しない。神奈達は多くの弁当をブルーシート上に広げる。


「よっしゃ、じゃあ塔見を始めるぞおおおおお!」


 たった今、初めての塔見が開催された。


「……帰るか」


 そして今、神音は全てが面倒になり帰宅した。











 ※王堂兄妹のエピソードは『神谷神奈と平和?な日常』に入っている。

 ※作品の加筆修正がどこまで進んでいるかはカクヨム版でチェック出来る。

 ※作者の最新作『自称天才魔術師と時空旅行』もカクヨムで読める。



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