調査――好感度って知りたくない?――
登場人物紹介
神谷神奈……説明不要の転生者であり主人公。
夢咲夜知留……貧乏根性が染みついた女子高生。現在は霧雨と半ば同棲中であるが、家事は全てロボットがやってくれるので家の仕事を何もしていない。
霧雨和樹……機械大好きな発明者。高校にはあまり通っておらず、ほぼ毎日発明品の案を考えている。たまに恋人の夢咲とデートに行く。因みに荻原ララにも告白されたが断った。
隼速人……裏社会最強の殺し屋にして現役高校生。日々鍛錬を積んでいる。ついでに不本意ながら神奈の婚約者。
秋野笑里……食欲と身体能力が凄い女子高生。空手の高校生全国大会では優勝を果たした。最近は仲良くなりたい相手を挨拶で殴る癖をなくし、コミュ力にさらなる磨きがかかっている。実はとんでもなく強い相手と最近戦って左腕を負傷中。
藤原才華……世界経済を支配しかけている藤原家の跡取り。既に十の会社を経営し、テレビ番組にも出演した。ネットでは将来世界を支配する女性と噂されている。高校にはあまり行っていないが、登校した日は授業中にパソコンを出して仕事している。
影野統真……宝生高校の男子生徒。神奈を信仰しており、神谷教という宗教団体の活動に取り組んでいる。宗教と聞くと不安になるかもしれないが、実際にやっていることはただの仲良しサークル。
王堂晴嵐……神奈を慕う宝生高校一年の女子生徒。実家はヤクザであるが、そちらは兄が頭を継ぐため好きに生きていいと言われている。将来のことは考え中。
とある日の昼、神谷神奈は自宅を訪ねてきた友達の発明家、霧雨和樹からある物を受け取った。信じられないことに、それは前世の大人気漫画ドラゴンボ○ルに出て来るスカウターに酷似している。しかも数値を測る機能まで一緒だ。素晴らしい道具に感動した神奈は早速装着する。
「で、このスカウターで何を測れるわけ? やっぱ戦闘力?」
「いや、測定出来るのは好感度だ。名付けて好感度測定器」
「いつも通りそのままだな」
「実験として夜知留、パンダレイ、秋野、そして俺の四人で試した。好感度に関わるだろう五つの要素を測定してくれる。信頼値、友情値、恋情値、性欲値、敵意値の五つだ。測定結果はこの紙に纏めてある」
霧雨から一枚の紙を受け取ったので神奈はじっくり眺める。
霧雨→夢咲
信頼値 76
友情値 77
恋情値 63
性欲値 11
敵意値 0
霧雨→パンダレイ
信頼値 50
友情値 100
恋情値 71
性欲値 55
敵意値 0
霧雨→笑里
信頼値 47
友情値 56
恋情値 0
性欲値 1
敵意値 0
「お前、自分の恋人よりロボットの方に性欲向けてるの?」
「……夜知留にも言われた。別れるとか言い出して困ってる」
「これ見たら妥当な判断だろ。さて次は」
夢咲→霧雨
信頼値 68
友情値 77
恋情値 74
性欲値 61
敵意値 3
夢咲→パンダレイ
信頼値 60
友情値 60
恋情値 0
性欲値 0
敵意値 91
夢咲→笑里
信頼値 83
友情値 71
恋情値 0
性欲値 0
敵意値 0
「夢咲さんがパンダレイに敵意抱きまくってるぞ。お前の後に測定しただろ」
「ああ。数値はあくまで目安程度だと言ったんだが、俺からパンダレイへの数値のせいでもう目も合わせてくれない。珍しく喧嘩してしまって……もうどうすればいいんだ俺は」
「早めに仲直りしろよ」
笑里→霧雨
信頼値 100
友情値 999
恋情値 0
性欲値 0
敵意値 0
笑里→夢咲
信頼値 100
友情値 999
恋情値 0
性欲値 0
敵意値 0
笑里→パンダレイ
信頼値 100
友情値 999
恋情値 0
性欲値 0
敵意値 0
「上限って100じゃないのかよ! ていうか笑里の数値異常すぎだろ!」
「上限は今のところ999のようだ。俺も秋野の数値を見たら驚いたよ」
信頼値も友情値も60以上あれば文句なく友達と言える。
それなら友情値999は何と言う関係なのか。
きっと親友なんて軽く超えた何かだろう。
「とりあえずまあまあ面白いなこれ。どうやって測んの?」
「測定ボタンを押せば相手から自分への数値が測定出来る。やってみるか?」
早速試してみた神奈は好感度測定器に表示された数値を見る。
霧雨→神奈
信頼値 86
友情値 74
恋情値 0
性欲値 1
敵意値 0
「信頼値86、友情値74。これは普通の友達って感じか」
「親友とも呼べる数値だぞ。次は俺に測らせてくれ」
恋情値が0、性欲値が1なのを見るに霧雨は十分夢咲を特別視している。
パンダレイはアンドロイドのようなものであり、霧雨は機械愛が凄いので数値が高くなるのは当然。夢咲はパンダレイに及ばないとはいえ、人間なのに恋情値が高めなのが特別視の証拠だ。仲直りしようと行動すれば早く仲直り出来るだろう。
「よし、結果が出たぞ」
神奈→霧雨
信頼値 93
友情値 89
恋情値 3
性欲値 7
敵意値 0
「私って霧雨に性欲あるの? 性欲値7ってどんな感じ?」
「性欲値が一桁だと、ギリギリ性的に見ることが出来るってところだな」
「なるほどね。……となるとお前、恋人に対して11って低すぎだろ」
「数値はあくまで目安だぞ。そう、目安なんだよ」
「まあ面白いし色んな人の好感度を調査してみるか」
神奈は霧雨と共に家から外へ出て行く。
道路を歩いて最初に遭遇したのは黒髪の男、隼速人だ。
丁度一人で外出中の彼を見て神奈は「げっ」と声を出す。
「初回隼かあ。妥協するしかないってのか」
「いきなり失礼な奴だ。何の話をしている」
速人→神奈
信頼値 120
友情値 74
恋情値 42
性欲値 36
敵意値 849
「敵意たっか! どんだけ私に敵意持ってんだお前!」
「は? 今更驚くか?」
確かに速人が神奈をライバル視しているのは今更だが、数値として目に見えると驚愕するだろう。好感度測定器は基本的にどの数値も100を最大の想定で作られている。それなのに849なんて数値が出るのが異常なのだ。
「意外に信頼値と友情値もかなり高いぞ。恋情値と性欲値は神谷が恋愛対象になりえる程の数値だ」
「霧雨、悪いんだけどそこには触れないでくれるかな」
「おい何の話をしているんださっきから」
「よし次の人間を探すか」
「……何なんだ」
説明もせずに神奈達は速人から去って行く。
追いかけて話を聞くほどの興味はなかったのか速人はどこかへ歩いて行った。
「あー、誰か好感度測れる奴居ないかなあ」
「お望みなら神谷さん!」
「オレ達を測ってくださいっす!」
目の前に現れたのは男女二人。
ボサボサな深緑髪の男、影野統真。
赤髪ツインテールの女、王堂晴嵐。
神奈のことを好きというか信仰している二人はたまに神奈を尾行している。今日も霧雨と出掛けた先程から離れて付いて来ていた。本人達曰く危険がないかチェックするためであり、一応バレていないつもりらしい。止めさせようと思えばすぐ止めさせられるが神奈に害はないので放置している。
「野生のストーカーが現れたか。まあ測ってやろう」
影野→神奈
信頼値 199
友情値 166
恋情値 26
性欲値 33
敵意値 0
晴嵐→神奈
信頼値 121
友情値 149
恋情値 85
性欲値 80
敵意値 0
速人の敵意値を見た後だとインパクトは弱いが信頼と友情がかなり高い。
二人の神奈に対する異常な執着を考えれば当然だ。低い方がおかしい。
気になるのは晴嵐の恋情値や性欲値も高いことくらいだ。
「そ、そんな、姐さんへの信頼や友情が影野先輩より低いなんて」
「いや十分高いよ。あと恋情値と性欲値も高すぎるよ」
「おいおい、性欲値80って相対するだけでも襲いたくなる数値だぞ」
知りたくなかった情報に神奈は「……マジかよ」と呟く。
晴嵐の態度に同性愛者っぽいものはなかったが自覚していない可能性もある。仮に襲ってきても簡単に返り討ちに出来るとはいえ、念の為もっと距離を置こうかなと神奈は考える。まさか影野よりも晴嵐が危ないと思う時が来るとは人生分からないものだ。
「……納得出来ません。オレの姐さんへの気持ちは誰にも負けないはずなんです! 姐さん、気合いを入れるんでもう一度オレを測ってみてください! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「まさか、気合いで数値上がるのか?」
晴嵐→神奈
信頼値 121
友情値 149
恋情値 85
性欲値 80
敵意値 0
「上がってないじゃん」
「そりゃ気合い関係ないからな」
「……こんなはずじゃ、なかったのに」
項垂れる晴嵐と勝ち誇る影野から神奈達は離れた。
好感度測定は面白いのでまだ続けるつもりだ。晴嵐のように意外な事実が明らかになって気まずくなるかもしれないが、その時はその時。寧ろ相手の気持ちを知ることが出来たのはプラスと思いたい。
「ん?」
歩道を歩いていた神奈達の前から黒い車が走ってきて真横に止まる。
助手席の窓が開かれて、中から藤原才華が顔を出す。
スーツ姿なのを見るに出勤途中らしい。既に中学生の時点で会社経営をやっていた才華は今や多くの会社を経営する凄腕だ。まだ高校生だろと言いたくなるが、彼女に関しては凄すぎてもうつっこむ気にもなれない。
「こんにちは二人共、どこかお出掛け……って何その機械」
「実は――」
かくかくしかじかと纏めた説明を聞いた才華は「へえー」と感心した様子だ。
「なるほど面白そうね。試しに私の好感度も測定してくれない?」
「いいぞ。まあ才華なら異常な数値は出ないだろ」
才華→神奈
信頼値 91
友情値 96
恋情値 57
性欲値 58
敵意値 39
「全体的に高くね? ってかまた恋情値と性欲値高くね?」
「恋情値57は恋人になりたいと思う程度。性欲値58は性的な行為がしたいと思う程度だな」
「「ええ!?」」
驚きの声が重なったが才華の声の方が大きい。
「ちょっ、違うから! 神奈さんの恋人になりたいなんて――」
「社長、会議に間に合わなくなります。お話は今度にしてください」
秘書らしい運転席の男が車を発進させる。
「待って待って誤解だからあああああああああああ!」
焦っていた才華の顔はすぐに遠くなり、見えなくなった。
神奈の周りには既に恋人となった男女が複数居る。霧雨と夢咲もその中に入る。日常生活の中でも多くの恋人達を見てきた。しかし神奈は恋なんて自分には縁無きものとして捉えていた。
前世が男で今世は女、しかも二つの魂は混ざり合っている状態。
そんな状態だからか自分の恋愛対象の性別もよく分かっていない。
仮に才華が愛の告白をしてきたとして、神奈はどういう返事をしただろうか。
現在速人と婚約中なせいで断るしかないが考えても上手い言葉が出て来ない。
「あ、神奈ちゃんに和樹君! 何して遊んでるの?」
前方からオレンジ髪の女、秋野笑里が凄まじいスピードで駆け寄って来た。
「好感度測定だよ。お前もやったんだろ?」
「ああやったやった。夜知留ちゃんが不機嫌になっちゃったやつだね」
笑里→神奈
信頼値 999
友情値 999
恋情値 50
性欲値 50
敵意値 13
「信頼と友情が怖くなるって滅多にないと思うんだが、今めっちゃ怖い」
試しに測ってみた結果が異常すぎる。冷静に考えるとストーカー化した影野や晴嵐よりも数値が高いのはとんでもない。そしてさらに恋情値も性欲値も才華より少し下程度。もしかすると笑里も神奈を恋人にしたいと思っているのかもしれない。
「お前にとって私は何なの?」
「何って友達でしょ」
即答した笑里は本気でそう思っている。
仮に恋愛感情があったとしても本人は無自覚だろう。神奈は少し安心した。
「そうだ、夜知留ちゃんも今一緒だから和樹君謝っちゃいなよ」
「え、今日会ってたのか」
「だって午前中に好感度測定するからって家に遊びに行ったんだもん」
「あれ午前中の話だったの!?」
何となく今日のあらすじが見えてきた。
霧雨は今日の昼、唐突に神奈の家にやって来た。それは夢咲と喧嘩したせいで家に居づらくなったからだ。好感度測定器の実験を表向きの理由として、霧雨は神奈の家に逃げてきたのである。きっとその頃に夢咲は笑里と出掛けたのだろう。
「神奈さんと……和樹君。何してるのってまたそれか」
噂をすれば夢咲夜知留が前方から歩いて来る。
夢咲→神奈
信頼値 88
友情値 100
恋情値 9
性欲値 38
敵意値 5
微妙に性欲値が高い以外は大親友と胸を張って言える数値である。
そろそろ好感度測定器に飽きてきた神奈は顔から外して霧雨に返す。
「ほら霧雨、仲直りしろよ」
「あ、ああ」
「夜知留ちゃんもね。喧嘩の後は仲直りだよ」
「う、うん」
霧雨と夢咲は一歩前に出て互いに向かい合う。
「……その、俺は確かに機械好きで、パンダレイのことも好きだ。でも俺が今、一番大切にしたいのは人間の夜知留なんだ。だから、お前がサイボーグになる必要なんて全くないんだよ。人間のお前が好きなんだから」
神奈は「サイボーグ?」と首を傾げる。
恋愛話の中にサイボーグという言葉が出ると異物すぎる。
「はぁ、最初から理由を言ってくれれば良かったのに。ごめんね、和樹君の気持ちも考えないでサイボーグ手術してなんて言って。私が機械にならなくても和樹君は好きでいてくれるのにね」
「ねえ待って、サイボーグ手術しろとか言ったの?」
「うん。機械愛の和樹君も私がサイボーグになれば本気で愛してくれると思って」
「聞いているだけで頭おかしくなりそう」
何はともあれ二人は仲直りしてハッピーエンド。
「ねえ和樹君和樹君。私のサイボーグ手術は?」
「安心しろ秋野、近いうちに実行に移す」
……なぜか神奈の知らないうちに笑里がサイボーグ化しようとしていた。
本当にハッピーエンドなのか疑問は残るが神奈はもう帰ることにした。
おまけ
神奈→速人
信頼値 81
友情値 77
恋情値 47
性欲値 36
敵意値 30
神奈→影野
信頼値 59
友情値 37
恋情値 0
性欲値 3
敵意値 23
神奈→晴嵐
信頼値 35
友情値 31
恋情値 0
性欲値 3
敵意値 18
神奈→才華
信頼値 100
友情値 100
恋情値 12
性欲値 8
敵意値 0
神奈→笑里
信頼値 73
友情値 85
恋情値 0
性欲値 7
敵意値 0
笑里→そこら辺を歩いていたおっさん
信頼値 50
友情値 55
恋情値 0
性欲値 0
敵意値 0
またしばらく番外編はないと思いますが、今回のように急に投稿することもあるかもしれません。番外編ではないですが『カクヨム』の方で神奈が中学二年生時の話を投稿しているので、一つの章が終わり次第『小説家になろう』にもまとめて割り込み投稿します。
※最新作『下級魔法しか使えない魔法使い』連載中(1章各話のタイトルが長めなので注意が必要。長文タイトルでも構わないという方向け。しかし2章からはストーリーの都合上各話のタイトルが短い)
※番外編次回投稿は未定。
※5月か6月あたりで『神谷神奈と星滅樹』を割り込み投稿予定。