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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
終章 神谷神奈と自由人
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379 エピソードオブ神代由治5


 冒険者登録をしてから早いもので――十三年の年月が流れた。


 古代兵器の在処を探して、世界各地を転々として情報を集める日々。

 情報が揃えば遺跡などに行くのだが偽情報は多いため、全く関係のない遺跡に到達してしまうことも多々ある。それでもめげずついでとばかりに、遺跡にあった情報をギルドへと持ち帰り今後の活動資金を稼ぐ。それが日常のようなものだった。


 遺跡には罠が多くあり、様々な罠が由治達の命を奪おうとしてきた。しかし自由の加護という絶対的な力を持つ由治と、絶対的な力を持つ管理者の一人であるテンにとっては大半問題ない。時には複雑で厄介なものもあり、ごく偶に危険を感じたこともあったがその都度互いに助け合ってきた。


 ありえないスピードで遺跡調査を完了させる新人。そんな二人がいつまでも無名でいるはずなく、今では【白光】などという異名で呼ばれている。それについては呼ばれるのが恥ずかしいと二人は思っている。


 異名まで付いた二人の男女人気は美形なこともあって凄まじく、特に恋しているという異性がよくアタックしてくる。そんなアプローチしてくる彼ら彼女らに二人は決まって「心に決めた人がいるから」と断るのだ。


 そんなこんなで今日も古代兵器の情報を集めては帰ってきた二人。

 帰宅したのはこの十三年の内に購入した一軒家だ。豪邸を買えるほどの資産はあるが敢えて少人数しか住めない一軒家を買った。由治としてはテンと二人で住めればそれで良かったからである。


「はあぁ、今日掴まされたのも偽情報でしたねえ。情報にあったのは前に私達が調査した遺跡でしたし」


「そうだね。まあでもこうして情報を整理していけば確実に辿り着けるよ……僕と、テンなら。……ねえテン、朝言ったことまだ覚えてる?」


「覚えてるに決まってるじゃないですか。朝言われたことを忘れるような記憶力だと思っていたんですか? 確か今後について大事な話があるんですよね?」


「うん……僕達にとって、大事な……話が」


 神代由治も今年で二十五歳。以前、十三年前に抱いた感情に答えを出していた。

 育ての親でもあり恩人でもあるテンに対する気持ちをこの十三年間ではっきりと自覚してしまった。それに気付いたのは友人として付き合っている夫婦冒険者の一言。一緒に仕事をしていた時「二人は恋人じゃなかったの?」と驚かれ、由治は照れて否定しつつも、自身がずっと秘めていたであろう恋愛感情を自覚した。


 自覚したらしたで思い悩んだが、由治はついに今日告白しようと考えている。

 早朝、テン手作りの朝食を食べている時に「夜、僕達の今後について大事な話がある」と告げた。かなり緊張して噛みそうになっていたが、なんとか噛まずに言いきれた。その勢いでテンと恋人になれることを神に祈っている。


「ふーん、なるほど。というかそういえば由治さん、今日ギルドで好きですって告白されてましたよね。今月だけで数えても八回目でしたっけ……どうして断っちゃうんですか?」


 なんとなく、話題を逸らされた気がした。


「僕、心に決めた人がいるから。……あの、その人っていうのが」


「なるほどー! じゃあ彼女でしょ、アズリーさん! お淑やかで料理上手で性格と発育も良い町一番人気のアズリーさん!」


「ち、違うんだ。僕の好きな人っていうのは……」


「なるほど、つまりエロインダさんですね! 彼女は大人しそうな顔をしているのに、常時ビキニアーマーでエロい妄想をしている。たまに妄想が口から出ている卑猥な女性でしたよね。なんかいつか悪い男に騙されそうなので由治さんどうにかしてあげてください」


「違うんだってば! 僕の好きな人がテン! ……君……なんだ」


 勢いで叫んでしまった由治は一気に顔が真っ赤になる。

 純粋ゆえに初心(うぶ)な由治にとって、性的に好きな人物に対して愛の告白をすることは相当な勇気を必要とする。むしろ勢いがなければ言えなかったかもしれないが、羞恥で悶えそうになる。


(言っちゃったああああ……!)


 真っ赤な顔を俯かせて由治は震える。

 反応が気になって僅かに顔を上げ、上目遣いのような形で見てはサッと下ろす。初心すぎる由治は告白した相手の顔を見ることも恥ずかしくて一苦労だ。


 テンが「あの」と声を出したので由治はバッと一気に顔を上げる。


「いや、答えは今すぐじゃなくてもいいんだよ!? そりゃあなるべく早く貰いたい気持ちはあるんだけど、むしろ今貰いたいけど! じっくり考えてから答えてほしいっていうか。今後の二人の関係が変わるわけだし……」


「そうですね、でも考えるまでもありませんよ。私が返すべき答えは一つ。既に決まっていたんですよ。これで今の関係がなくなるとしても仕方ないことです」


 答えが今すぐ貰えると分かり由治は期待を胸に見つめる。

 十三年前から、もしくはもう少し前から由治はテンが好きだった。テンがいない生活など考えられず、他の男と仲良くしているところを見ると胸が針で刺されたように痛む。恋人になれば嫉妬も少しはなくなるだろうか。とりあえず幸福なことは間違いない。



「……ごめんなさい。由治さんとは……恋人になれません」



 返事はすぐに来た。望んだものではない返事がすぐに来た。

 断られた現実を受け入れようとしても頭が拒否して「……え?」と声が漏れる。やっとのことで現実を呑み込み始めた由治だが、頭の中に描いていた幸せな未来は音を立てて崩れ去った。


「あ、その……理由……聞いても……?」


 愛の告白をして振られたショックは大きい。だがそこには明確な理由が存在しているはずだ。決して由治とテンの仲は悪くないし、これまでで自惚れていなければ好意を持たれていると由治は思っている。


「申し訳ありません。由治さんの気持ちには少し前から気付いていたんです……それに、私だって由治さんのことを好ましく思っています。恋愛感情かはまだ判断つかないですけどね」


「なら、なんで……?」


「……私の外見、由治さんが出会った頃から何か変わっていますか?」


 今まで気にしていなかったがテンの外見は由治がこの世界で育てられてから、いや転生の間で会った時から何一つ変化がない。十年以上経てば少しは外見が変化するものだがテンにはそれがない。この異常性に気付かなかったのは由治が他人の外見を気にしない質だったからだ。


「何も変わってない。綺麗なままだよ」


「でしょうね、管理者は不老不死ですから。いいですか由治さん、由治さんには管理者について特別に教えます。もし仮に他の管理者に会ったとしても私が話したことは内密にしてください」


 人差し指で内緒だとジェスチャーしたテンは語り出す。


「管理者は元人間であり、様々な時代、世界から神の手によって厳選された者達です。神の代行として仕事をこなす者達を管理者と呼び、選ばれた瞬間に種族が人間ではなくなる。さらに寿命と死の概念が消え去り強制的な不老不死にされてしまう。それでも私含めた全員が正常でいられる。言わば元から異常性の高い存在が選ばれているのです」


「……だから、何なの?」


「私は永遠を生きる者。人間の一生涯なんてすぐに終わる。もっと深い仲になったところで後に待つのは悲しみのみ。私の言いたいことが分かりますか? 要するに、ただの人間では私達管理者と恋人同士にはなれないのです。いえ、私がなりたくないだけかもしれませんね」


 不老不死だから、管理者だから。そんな理由に由治は頭を悩ませる。

 種族的な観点からすればどうしようもない理由だ。人間は永遠を生きられない。どんなに長生きしても百二十歳前後、この世界ミラードバルズに存在する寿命を延ばす道具でも倍が精々といったところだ。

 しかし忘れていたのが自由の加護の存在。何でも思い通りにする力を持つ加護ならば、自身を不老不死にすることも可能なのではと由治は推測する。


「大丈夫だよ! 自由の加護で僕が不老不死になればいい!」


「簡単に言いますね。まあ確かに由治さんの加護なら可能でしょう。……でも、あなたは不老不死というものを軽く考えすぎている。永遠に生きるということは、永遠に死ねないということ。出会って関わった者達全てが死ぬのを見送る羽目になります。それに本来ありえない不老不死になってしまえば、周囲から遠ざけられることもある。数百年も生きて怪物認定されれば、国からも冒険者界からも追放されるでしょう。もう他人と関われなくなる可能性が十分にあるんです」


「……それは。……で、でも! テンは平気そうじゃないか!」


 二十年以上一緒にいてテンが苦しんでいるところなど由治は見たことがない。案外不老不死とやらも慣れれば大したことないのではと、誰かがそうして生きているなら自分も出来るのではないかと思ってしまう。


「言ったでしょう? 管理者に選ばれた私達が異常なんです。前例として、不老不死の夢を叶えた青年がいました。しかし青年は永久に終えることのない人生にいつしか精神が狂っていき、廃人と成り果てました。由治さんが不老不死になっても同じ結果に終わるだけです」


「そんなの……分からない……」


 実際、なったことがないので由治には想像もつかない。

 経験したのと、知識だけしかないのでは理解度が違う。苦し紛れな反論をしたくても言葉が思いつかない。

 なんとか言葉を振り絞ろうとしていると、テンが「分かりますよ」と告げて由治の側頭部を両手で持ち、自身の豊満な胸へと持ってきて優しく抱きかかえる。


 慈愛に満ちた眼差しを向けながらテンは囁くように話す。


「由治さん、二十四年近く一緒にいた私だから分かるんです。あなたは私と違う。精神が正常な優しい人。だから、不老不死になっていずれ廃人と化すあなたを見たくない。どうか愚かな考えを起こさないでください。……私だって、由治さんとまだ一緒にいたいんですよ?」


 テンが由治の頭を胸から離して目を合わせる。


「でも、もう時期が来たのかもしれませんね。今のあなたならどんな不運にも負けず自由に生きられる。私のサポートなんてとっくに必要なくなっていたんです。本当ならお別れしなければいけないのに、我が儘でこの世界に残ってしまった」


「えっ……ねえ、待ってよ。まさか……」


「――だからお別れです由治さん。あなたはもう……大丈夫……」


 離別を察して「テン!」と名を叫ぶが意味は生まれなかった。

 テンの体が宙にふわりと浮き、次第に眩い白光を放つ粒を周囲に纏っていき、全身を覆った直後により一層強い光を放つ。


 慌てて由治が手を伸ばした瞬間に光が拡大して家の中に広がる。あまりの眩しさに目を開けていられず、光が収まって再び目を開けるとテンの姿はどこにもなくなっていた。








テン「ここで別れることが最善だとこの時は思っていましたよ。……いえ、今でも……ですかね。次回、エピソードオブ神代由治6」


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