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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
終章 神谷神奈と自由人
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372 『  』――君のいない世界3――


 朝から喫茶店に行った後、四時間ほど遅刻して神奈と神人は伊世高校へ到着した。

 一時間以上かけてしまったのは喫茶店がスタート地点だったからだろう。普通に自宅からなら三十分程度で辿り着く。超人的な力も技術も何もないただの女子高生である神奈にとってはそれが限界である。


 始業から四時間以上経てば生徒達は昼休憩中だ。授業の邪魔をすることなく入れるのは幸いなので二人はドアをガラガラと開ける。


 スライド式のドアを開けると教室窓際で弁当を食べている女子生徒二人が目に入る。その二人は神奈の親友でもある笑里と才華だ。


「あ、神奈ちゃん今来た」


「あらほんと、随時と大遅刻ね」


「いやーこいつが全部悪いんだよ。喫茶店なんか行くから」


 そう言いながら神奈達は二人の元へ歩いて近付いていく。


「おい元々はテメエが寝坊したのが遅刻の原因だろ。人のせいにしてんじゃねえよ」


「いや、遅刻確定してるからって喫茶店連れてくのもどうかと思うけど。なあ二人とも」


「どっちもどっちじゃないかしら……」


「そうだよね、遅刻はいけないことだもん。まあでも一つだけ言っておきたいことがあるんだけど」


 笑里はそこで言葉を切り、机上にある水筒を一口飲んでから再び口を開く。


「なんで私も連れてってくれなかったの、今日はメロンソーダの気分だったのに! おかげで今日の水筒の中身はメロンソーダだよ!」


「何その限定的な気分、メロンソーダって喫茶店である必要ないじゃない。というかその中身メロンソーダなの?」


 笑里は学校に来ていたので、一緒に行くとなれば抜け出す必要がある。もし実行していたらそれはそれで遅刻と同罪だ。それを置いておき水筒にメロンソーダを入れている発言に対し、神奈達はそこまで飲みたかったのかと若干驚く。


 それから神奈と神人は自分の椅子だけを笑里達の近くに持って来て腰を下ろす。そうして座る途中、なんとなく教室に違和感を覚えた神奈は見渡してみるが答えは見つからない。


 教室は今までに仲良くなった者達が多くいる。夢咲や霧雨など元文芸部メンバー、元メイジ学院Dクラス、藤堂綺羅々や白部洋一、その他友達のみで構成されているようなクラス。もはやオールスターのような場所だ。


「……あ、神人。あそこ、隼がいるぞ」


「ん? おお、マジかよ」


 当然というべきか隼速人の姿もあった。教室の入口近くで黙々と弁当を食べている。


「なんで二人ともそんな意外みたいな反応してるのよ。隼君はあんまり遅刻しないじゃない」


「いや実はさ、喫茶店で隼と会ったんだよ。そしたら今頃別の俺が授業を受けている頃だとかなんとか言っててさ」


「何それ怖い……」


「でもしそうだよね。一応忍者だし」


「いや笑里さん忍者をなんだと思ってるのよ。さすがに無理でしょ」


 喫茶店と伊世高校はかなりの距離がある。アスリートには劣るが足の速い神奈でも時折走ったりして一時間以上かかったくらいだ。つまり神奈達が喫茶店を出た時点で、まだ残っていた速人が追い抜いて教室に辿り着くのは不可能である。


 おまけにいくら忍者だからといって二人に増えるのも不可能だろう……と神奈は思っていた。いやこればかりは信じられないのだが現実で教室に速人がいる以上認めなければならない。忍者は分身出来るのだ。


「……それにしても、もう昼休憩なんて早すぎだよなあ。私達まだ来たばっかなのに」


「そりゃ遅刻してるからね」


 神奈は鞄からシンプルなデザインの弁当箱を取り出して才華の机に置く。

 喫茶店でパフェを頼んだ神人はいいとして、オレンジジュースしか頼んでいないため神奈は空腹状態だ。昼休憩も残り少なくなってきたので急いで食べ始める。作ってもらっておいて残すのもあれなので完食したいと思い、急いで完食したのは昼休憩終了間近である。


 昼休憩終了のチャイムが鳴ると生徒達が自身の席に戻っていく。神奈も大慌てで椅子と鞄を持って自身の机の元へと戻っていった。


 午後の授業を受けている間、いつもなら感じるはずの眠気を神奈は特に感じなかった。普段なら昼食後というのもあって眠くなるものだが、遅刻するくらいぐっすりと寝ていたからか瞼が重くなることすらない。眠気がないため午後の授業を今年一真面目に受けたといっても過言ではない。


 一日の授業が、といっても神奈が受けたのは午後以降のみであるが終了する。

 部活動がある者は残り、ない者は帰宅準備を始める。部活動強制でない伊世高校で神奈が何かに入部するはずもなく、当然帰宅部である神奈は「帰るか」と独り呟いて席を立つ。


「おぅ帰ろうぜ。ふぁああああ……ねみぃなぁ」


 神人も寄って来て、鞄を持ったそんなとき。


「あれ、神奈さんってばもう帰っちゃうんですにゃん?」


 神奈は「ダメイド……」と呟いて、話しかけてきた女生徒へと振り向く。

 女生徒の名は深山和猫。アクセサリーだろう黒い猫耳と尻尾がなぜか動いている彼女は、校内一の変人として学校内ではそこそこ有名な部類だ。ノリがウザいため神奈も面倒そうな顔をしている。


「そういえば神奈さん珍しいですねー。右手にいつも『  』を装着してるのに今日はないんですか? もしかして忘れちゃいましたかー?」


「は? なんだって?」


「何言ってんだテメエ。神谷は右手に何かをつけるようなオシャレさんじゃねえだろ」


「おい私だってオシャレするときはするからな」


 聞き取れない二文字が気にはなったが神奈は神人と下校する。

 何か重要な存在が頭からすっぽ抜けているような感覚も神人と一緒ならマシだ。とはいえ家の方向が違うため途中の分かれ道から一人になってしまった。


「こんな風に過ごしたかったな」


 またなと告げて離れていく背中を見つめて神奈はポツリと呟く。


「……って何言ってんだか。あいつの言う通り今日の私なんかおかしいな」


 無意識に出た言葉に神奈はため息を吐く。過ごしたかったというのもおかしな話だ。今まで多少の喧嘩はあったもののこうして過ごしてきたのだから。


「ん? あれって……」


 暫く一人で歩き、自宅の近くまで来た時。

 速人が家から両親を連れ出しているところを発見する。普段中々見ない組み合わせだが起こりえる可能性として神奈は答えに辿り着く。


「あー私明日誕生日だし、何か準備でもあるんだろうなあ。邪魔すんのは悪いし放っとくか。全く楽しみにさせてくれるね、サプライズパーティーでもやってくれんのかな」


 そう言いながら自宅の玄関まで歩いてドアノブに手をかける。

 つい今しがた両親が外出しているのを確認しているので無人なことは承知だが、神奈は癖のようなもので「ただいまー」と口に出す。


 その後、神奈は寛ぐためにリビングの扉を開けて中に入って――


「あれ、机の上に……」


 ――テーブルに黒髪の女性が立っているのが真っ先に目に入った。

 胸上から太ももまでの短めの白いワンピースを着ており、背中には蝶々のような形の長いリボン。膝上から下は薄紅の二―ソックスで、靴はワンピースと同色。衣服で隠していない部分は透き通るような白い肌。

 一種の芸術とも呼べるほど美しい女性は喫茶店で出会った――テンである。


「なんで人が立ってるわけ!? 何してんの!?」







テン「そう、私との出会いを再現すればきっと記憶も戻るはずです! 確かテーブルの上に乗っていたから……よし、立ちましょう。えっと、入口からパンツが見えないよう角度を調整して……これでよし! 次回『  』――君のいない世界4――」


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