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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
終章 神谷神奈と自由人
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366 正義――意外な救世主3――


 光線が建物を薙ぎ払う。

 ビルは倒壊し、地面は爆発し、生物は消滅していく。

 突如現れた光天使により町は騒乱に陥れることになった。


「……こんなの、私の予知夢にはなかった」


 人々が逃げて閑散とした場所で夢咲(ゆめさき)夜知留(やちる)は呆然と呟く。

 自分が巻き込まれるレベルの厄災が起きようとしているとき、夢咲はほとんどの場合予知夢として事前に知ることが出来た。だというのに世界規模の今回の事件について一切予知夢を見ていない。まるで世界があるべき運命から捻じ曲げられたように唐突に発生したのだ。


「和樹様、あれを倒す手段が一つあります。敵抹殺モードの許可を」


「それは自爆機能だ。使うことは許さない」


 隣にいる霧雨とパンダレイは深刻な表情で対策を話し合う。


「ではなぜ搭載されているのでしょう。人智を越えた外敵を、命に代えても滅ぼすことが役目だからではないのですか」


「違う、ただのロマンだ。そんなことよりもう一つ手段がある」


 さらっと自爆機能があることを知った夢咲だがそれは置いておく。

 霧雨の告げたもう一つの手段。はっきりいって夢咲には神奈を呼ぶくらいしか思いつかない。とはいえ天才である彼なら解決策を思いついていても不思議ではない。


 霧雨は白衣のポケットからバズーカ砲を取り出す。明らかに白衣のポケットに入る大きさではないが、それは四次元空間に干渉出来る発明品のおかげだと夢咲は知っている。


「――消滅砲。パンダレイの知識である古代の科学を用いて作り上げた、外敵殲滅用機械。あまりに危険なのでまだ調整したかったがこの事態では仕方あるまい。原理としては――」


「いや原理とかどうでもいいよ今は。とりあえずそれが当たれば、あの天使っぽい何かを倒せるってことなのよね?」


「ありとあらゆるもの全てを消滅させる光を放つバズーカ砲だからな。当たれば塵一つ残らないさ……当たればな。さすがにあの速度に当てる自信は俺にない」


 もう霧雨のトンデモ発明品に夢咲は驚かないい。さすがに慣れた。

 今問題となるのは霧雨自身の戦闘能力面。いくら強力な武器を所持していようが当たらなければ意味がない。一般人より優秀程度の動体視力では光天使の光速移動を捉えることなど出来はしない。


「つまりあれの動きを止めればいいのね。パンダレイさん、行こう」


「了解。戦闘モードに移行します」


 消滅砲を肩に担いだ霧雨に撃たせる隙を作るため動けるのは現状二人。たとえ力不足だとしても、一か八かの賭けだったとしても、夢咲は戦う決意なら既に持っている。


「危険な役目を押し付けて……すまない」


 もう駆けていった二人に対し霧雨は本当に申し訳なく思う。

 発明家ゆえ強くなろうとはしなかったが、こうして家族同然の人間に危険な囮役を任せるというのは罪悪感に苛まれる。特に今回の敵は圧倒的に強い。死亡、もしくは重傷を負う可能性が高い。それでも任せなければいけないのだ。


「マテリアルキャノン!」


 パンダレイは右手で左手首を外して持ち、空洞のある左手首を光天使へと向ける。そしてそこから白光の球体をマシンガンのように放出する。

 一発一発が高層ビルをも塵にする威力。光天使を相手取るのに十分だろうエネルギーの塊が向かっていくが、光速で軽々とマテリアルキャノンは躱された。


 パンダレイが相も変わらず無表情で左手首を戻すと両手を掲げる。

 両指から紫電が発生して頭上へと集まる。さらに合計十本の紐状の紫電が膜のようなものを作り出す。頭上に出現したそれはまるで魔力で戦う者が使用する魔力障壁だ。


「マテリアルシールド」


 なぜそれを作るかというと光天使が光線を放つ準備をしていたからだろう。

 胴体前にテニスボール程の光球を生成し、丸太のように太い光線が放たれる。

 光線とマテリアルシールドが衝突した余波でパンダレイの周囲が消し飛ぶ。道路は大きく抉れ、衝撃が伝導して浮かび上がった瓦礫が塵と化す。


 走行速度が原因で離されていた夢咲は吹き飛ばされないよう踏ん張る。

 今日は戦う予定がなかったのでパワードスーツを着用していない。つまり現在の夢咲にはアスリートクラスの身体能力しかないため怪我もしやすい。足腰の力が足りなくて吹き飛ばされるかもしれない。そんなことを考えている夢咲はバッと光天使の方へ顔を向けた。


 ――光天使が夢咲へと光線を放とうとしていた。


 光速で迫る光線に対処する方法など、魔力障壁すら張れない夢咲は持っていない。仮に魔力障壁を張ったとしても強度不足であっさりと貫通して肉体が蒸発するだろう。

 当然の如く、光線は夢咲の肉体を消滅させて地面を爆発させる――という映像が夢咲の脳に直接流れ込んでくる。


(来る……! でも大丈夫、二秒前に攻撃を予知する私なら光の速度も躱せる!)


 光線は放たれた。もちろんその前に、予知した瞬間に夢咲は駆け出していた。

 夢咲に視認すら出来ない丸太ほどの光線が降り注ぎ道路だけを爆砕する。

 二秒前からその攻撃を知っていたのだ。たとえ光速だろうと回避するくらい苦ではない。だが大爆発の爆風で体は浮き、飛来した大小ある瓦礫があちこちに直撃して吹き飛ばされる。


「えっ、きゃああああああああ!?」


 たとえ攻撃を予知していたとしても、その余波までは予知出来ない。回避に絶対の自信を持つ夢咲の知ろうとしなかった弱点の一つだ。

 硬いコンクリートの道路上を受け身も取れず何度か跳ねて、勢いが止まるまで転がった。停止したときには夢咲の体のあちこちに擦り傷が出来ており、赤い血が滲んで傷口から溢れてくる。


 その光景をただ眺めていた霧雨は険しい表情で「夜知留……!」と呟く。

 駆け寄りたい気持ちが強くなるも、今は夢咲の体に無数の傷を作る原因となった憎き敵を倒す方を優先しなければならない。なぜなら今、死ぬ危険まで冒している二人の戦う理由は霧雨のためなのだから。


(夜知留様……。大して強くない人間のあなたが、一方的にやられるしかないあなたが必死に戦うのは和樹様のため。あなたの強い心、ワタチは尊敬しましょう。そして必ず、この身がどうなろうとも光天使を抹殺してみせましょう)


 夢咲の奮闘にパンダレイは心を打たれる。

 どんな犠牲を払おうともパンダレイは光天使を撃破するつもりだ。


(自爆機能は却下。しかし和樹様の持つ消滅砲もただ撃ったところで回避される。つまりワタチの役目はあの光天使の拘束!)


 パンダレイは靴を脱ぎ捨て裸足になる。両足の裏の中心が変形して穴が開き、そこから青い炎を噴出して飛翔する。


「和樹様、消滅砲を構えておいてください! ワタチが合図したら撃つのです!」


「何か策があるのか、よし分かった!」


 肩に担いだ消滅砲を構えて霧雨は狙いを定める。

 一方飛翔したパンダレイは光線をギリギリで躱しつつ接近し、光線を放つ一定の隙を見定めて特攻する。両足の裏から出ている青い炎が強まって一気に速度を上げると光天使の背後へと回り込んだ。


 一時的に光速を上回ったパンダレイが背後から光天使を羽交い絞めにする。身動きをとれないよう固めた状態でがっちりと絞め続ける。


「今です!」


「今って……お前も巻き込んでしまうぞ! 離れろ!」


 霧雨にとってパンダレイは家族同然。いくらなんでも消滅砲で跡形もなく消し飛ばすなんて非道なことを行えない。

 焦ったように叫ぶ霧雨に対してパンダレイも焦って叫ぶ。


「これしか方法がないのです! 自爆機能は使えない。増援も来ない。でも消滅砲をただ撃ったところで当たらない。それならこうして拘束し、ワタチごと倒すしかないのです!」


 必死の叫びはパンダレイが二人のことを大切に思っているから出たもの。このまま戦えば夢咲も霧雨も高確率で死亡してしまう以上、犠牲を払っての勝利なら自分が犠牲になるべきと考えている。それを霧雨も察して押し黙る。


 ごくりと唾を飲み込み霧雨は消滅砲の照準を合わせる。そして引き金にかけている指を震わせながらも動かそうとし、今までの思い出が蘇る。

 霧雨は俯き、消滅砲を一向に発射しようとはしなかった。


(和樹様……。ワタチを想っての行動は感謝すべきなのでしょうが……その想いが元凶となって最悪な状況を作り出してしまう)


 決定的な好機を霧雨は自らの手で見逃したのだ。その先に三人が死亡する未来があったとしても、彼はパンダレイを撃つことが出来なかった。


(でもそうはさせません。主人である和樹様の命令を無視してでも、主人を護るのがワタチの役目! 今こそ使うのです、自爆機能を!)


 そのとき、光天使が消えた。

 いや消失したのではない。光の粒に体が変化し、パンダレイの羽交い絞めから脱出したのだ。そして光の粒はパンダレイの真横で収束して元の体を作り上げる。


 次の行動も早い。胴体の前に光球を生成して即座に光線を放てるようになる。


「ワタチの役目は……守ること!」


「――いや、それは僕に譲ってもらおうか」


 霧雨達も、光天使さえも視線をその男に向ける。

 白いスーツと赤いマントを身に纏い、額にゴーグルをつけている少年が道路に立っていた。まるでヒーローのコスプレ染みた恰好をしている少年は名乗る。


「僕の名前は法月(ほうづき)正義(まさよし)。この世界の正義(ジャスティス)だ! 人々を傷付ける光の天使はどう考えても悪。正義(せいぎ)のもとに断罪させてもらおう!」


 ――法月正義。かつて神奈を倒したこともある正義心の強い少年。

 悪でない者も悪と決めつけて断罪しようとしていた過去から彼も成長している。もっとも成長していようがしていまいが光天使は悪そのものなので、悩む必要なく断罪するだろうが。


「ジャスティスワープ」


 ――自信に溢れた様子のまま法月は光天使の左方へと瞬間移動する。

 マントが風ではためき、右拳を振りかぶる。彼の持つ正義の加護もやる気満々であり、相手も拳を躊躇させるような相手ではない。


「ジャスティスパンチ!」


 理解不能な一撃が光天使へと命中し――爆散させた。

 粒すら残らないので再生も出来ない。これを成したのが本人の実力ではなく加護なのだから恐ろしい。もちろん霧雨達からは物凄く強い人という風にしか見れない。


 怪我した夢咲は立ち上がり、消滅砲を肩から下ろした霧雨と、両足から青い炎を出し続けているパンダレイの三人は法月の強さに目を丸くしている。


「あなたはいったい……」


「正義の味方さ。君、大丈夫だったかい?」


 ふざけているとしか思えない服装でも強い者は強い。風でマントが靡く法月はやがて道路へと下りてきた。


「ぼさっとしてないで次へ行くわよ法月」


 霧雨の横に一人の少女が突然現れて法月へと話しかける。

 水色の髪をストレートに腰まで下げた長髪の少女。冷たい印象を相手に与える鋭い目つきの彼女は――天寺(あまでら)静香(しずか)。かつて法月とは敵対した一人である。


「おっとそうだったね。まだまだ正義の味方の助けを待っている人がいるのだから、急ごう! たった今窮地に陥っている人々のところへ!」


「操真の情報によるとここから北東五十キロメートル。だいたいの距離は掴んだわ、行くわよ」


 天寺は携帯を取り出して操作してはすぐに止めて懐へしまう。

 そんな彼女の肩に法月が触れ、あっという間に瞬間移動でこの場から消えた。


「天寺静香……あいつ、何を企んでいるんだ」


「案外何も企んでないかもよ、彼女」


 霧雨の傍へ夢咲がゆっくり歩いて来る。

 怪我だらけの彼女を見て霧雨は「夜知留」と呟いた後で言葉を返す。


「帰ったら怪我の治療だな。最近いい塗り薬を開発したから使ってみよう。……それで夜知留、お前は奴を信用するのか。奴の性格はお前も知っているだろう?」


「うん、会った数は少ないけど知ってる。人の絶望が大好きな碌でもない性格だってことは」


「だったら、なぜ何も企んでいないと言えるんだ。今回の件だって奴が関わっているのかもしれないんだぞ」


「それはないよ。だって彼女、神奈さんと中学時代少し仲が良かったみたいだし」


 神谷神奈という少女は悪人を好まない。少しとはいえ仲が良かったということは、もう天寺静香は霧雨の知る当時の性格ではなくなったのかもしれない。もしくは妥協して付き合える範囲にまで落ち着いたのか。


「……そうか、なら奴を信じてみよう。さっきもパンダレイを助けてくれたことだし……あ、助けたのはあの男か。あいつ何もしてなかったな」


「和樹様、とりあえず今は夜知留様の手当てを優先しなければ」


 パンダレイが二人に歩み寄って来てそう告げる。

 予想外の人間達の登場で失念していたが思い出した霧雨は「おっとそうだった」と言い、改めて夢咲の無数の擦り傷を見て痛々しい姿だと思う。


「夜知留様。ワタチがおんぶしますので帰りましょう」


「えっと、自分で歩くからいいわ」


 その後、霧雨達は光天使に襲われることなく家へと帰還した。

 しかしこの時点で数は減っているといっても光天使は現在四百八十体以上。まだまだ襲われる人間達が多くいるのを霧雨達は想像すら出来なかった。







 おまけ的な何か。


レイ「ぬおおー! これが僕達全員の力を合わせた究極奥義、重加速閃光流星けええええええん!」


法月「ジャスティスパンチ!」


レイ「……え、攻撃する前にあの天使が弾け飛んだ。なんだか僕達いっつもこんな役回りになっているような気がするんだけど。……二人共、帰ろっか」


腕輪「次回『意外な救世主4』。マヤさんのライブ中に現れたのは光天使。果たして斎藤さん達の運命はいかに……」


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