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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
終章 神谷神奈と自由人
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365 赤光白光――意外な救世主2――


「知っている霊力を感じて来てみれば……あなた、誰?」


 綺羅々は光天使を無視して笑里に問いかける。


「秋野笑里。あなたは?」


「藤堂綺羅々。で、どうしてあなたがその霊力を持っているの? その霊力は紛れもなく藤堂零のもの。本当はあなた、零おじさんが憑依してるんじゃないの?」


 笑里の霊力は確かに藤堂零が残したものだ。詳細を知らなければ憑依されていると思っても不思議ではない。ましてや綺羅々は零が消滅している事実を一度話されたのに信じていないのだから。

 対して笑里の方は告げられた名前に覚えがあったが、憑依云々に詳しいわけではないので話の流れをあまり分かっていない。


「藤堂さん……? それって――」


 話そうとした笑里はバッと振り返って、光線を放とうと光球を生成している光天使を見た。

 このまま落ち着いて話を出来る状況ではないのをようやく二人は理解した。放たれた光線を笑里は左、綺羅々は右へと避ける。


「邪魔。三十重……撃」


 霊力符は一枚の紙に様々な効果を封じ込めて作られる道具。

 先程光線を防いだ結界のようなものや、今も綺羅々が浮遊しているのも全て霊力符の力だ。


 衝撃を圧縮して封じ込めている霊力符三十枚を投げると、光天使に向かい三十枚が間を開けて一直線に並ぶ。そして綺羅々が自分に最も近い霊力符を殴りつけると衝撃がドミノのように先へ伝わっていく。

 あと僅かで三十枚分の衝撃が届くところで、光天使が光速で綺羅々の右方へと瞬時に移動する。増幅された衝撃は虚しく無人の空へと放たれて轟音を響かせた。


「それは読んでいた。滅」


 滅という文字が中心に書かれている霊力符を叩きつけ、光天使へと強烈な電撃が襲いかかる。実力があっても感電死するレベルの放電で光天使の動きは停止した。


 その激しい電流に笑里は「すっごーい」と素直な感想を漏らす。しかし少しして、光天使の体が光りの粒となって分解され始めた。光の粒は綺羅々の頭上へと集まっていき、やがて全身が粒化してはそこで集合した。


「危ないよ!」


 電流で光天使が見えていない綺羅々を助けるべく、脱出を目撃していた笑里が緑の羽を羽ばたかせて光天使の脳天へと蹴りを入れる。

 蹴り飛ばされた光天使が視界に入ったことで綺羅々は援護されたのだと理解した。目を僅かに見開いた綺羅々は笑里の横に並んで口を開く。


「援護は感謝する。詳しい話はあれを倒してから聞かせてもらう」


「うん、いいよ。えっと……綺羅々ちゃん! 頑張ろ!」


 笑顔で言い放った笑里は拳を構え、綺羅々はコクリと頷いて霊力符を制服の胸ポケットから取り出す。

 強さを持つ二人の少女は強敵である光天使へと立ち向かった。



 * * *



 二人の少女が敵と戦っている間、藤原才華は暗い表情で空を見上げていた。

 陰鬱な影がある才華はただひたすらに悔しいと思う。こうして誰かが戦っている間、自分はいつも応援することしか出来ないことが凄く悔しい。


(いつもそう。私はこういうとき足手纏いにしかならない。私にもっと力があれば神奈さんや笑里さんの助けになるはずなのに……)


 応援しているといってもそれが力にならなければ何もしていないと同じ。

 荒事に関しては才華だって多少心得がある。魔力だの霊力だのと何の力も持たない一般人相手なら、多くの格闘技を幼少から習ってきたので圧倒出来る。だが、成人男性も軽く捻ることが出来ても上空で行われている激闘に参加出来ない。


 ありえない強さを持つ者達に才華は対処出来ないのだ。そうやって困る度に友人達へ頼るしか選択肢がなかった。


(力が欲しい。紛い物じゃなくて本物の力が……)


 血が出そうなほどに強く拳を握りしめる。

 多少筋肉はあれど華奢な肉体が今は恨めしい。だからといってボディービルダーのような肉体を手にしたいわけではないが。そこそこの実力を兼ね備えた肉体が欲しいと心中何度も願う。


 拳を握って動かない才華は光を視界に捉える。


「……あっ、光の……天使」


 道路に落下しているビル上部の屋上に光天使が佇んでいた。

 才華は知る由もないが先程笑里が殴り飛ばした個体だ。倒せてなどいなかったその者は何の力も持たない才華へ視線を向けている。


 戦闘前の『才華ちゃんは逃げてて!』という言葉が頭に響いた。

 表情に強い恐怖を表して才華は全力で逃走する。だが、アスリート顔負けの走力でも光天使からすれば止まっているも同じだ。


 全身全霊で疾走する才華の正面に光天使は一瞬で移動し、驚愕した才華の足は止まる。光線を放つための光球を生成している間も足が竦んで動けない。


(あ、ダメだ……私、ここで死ぬんだ……)


 走馬灯だろう過去の映像が才華の頭に流れる。

 誘拐され、吸血鬼に殺されかけたあの日。

 様々な事件に首を突っ込んでは辛うじて解決した日々。

 企業決闘開始前、自分の意思で友人を頼ったあの日。

 遺跡調査で神奈が死んだと慌てふためいた日。


 そして今日、何も出来ずに光線に焼かれて消滅する日。


(……嫌だ。このまま何も出来ず、誰かに守られ続けた挙句に死ぬなんて嫌だ! もうどんな力だっていい。私にあの光ってる天使を倒すだけの力、目覚めて! みんなの力になるために!)


 そこまで考えて才華は頭に浮かんだ死のイメージを払拭する。

 笑里に任せたまま、何も出来ないままに死んでしまうなど自分が許せないのだ。それに残された笑里の悲しむ顔も見たくない。

 どんな代償を払ってでも生き抜くと才華は凄まじい覚悟を持った。


「うっ、あああああああああ!」


 才華は右手を頭上へと上げてから勢いよく振るう。

 驚くべきことに振るわれた右手から――奇妙なテニスボール程度の球体が放たれた。


 白く光り輝いていると思えば黒く濁っていく。火の粉が舞ったかと思えば水滴が垂れる。電気が奔ったと思えばそれが岩になって固まる。風が吹いたと思えば球体が消えかけた蝋燭の火のように点滅する。そんな奇妙な現象が起き続けているそれはゆっくりと光天使へと向かい、放たれた光線と正面衝突する。


 奇妙な球体は衝突の瞬間に肥大化し、純白の光線を呑み込んでから消滅した。


 その球体を放ったと認識している才華は驚愕する。無我夢中で振るった右手からあんな意味不明なものが出てくるなど驚かずにはいられない。


 才華は知る由もないがついさっき放たれた球体は魔法だ。それも属性魔法同士を掛け合わせて作り出す複合魔法。そして放たれたのは紛れもなく、古代でサイハが使用していた全属性複合魔法――生と死の共鳴弾(オリジンブレッド)


 なぜ使えたのかなど才華には分からない。ここに視て調べられる洋一や、究極魔法を使いこなせる神音がいれば答えは示されたかもしれない。現状を理解出来ない才華はただただ驚愕するしかない。


「な、何今の……今のって、どうやって……?」


 しかし敵は待ってくれないのだから驚いている暇はあまりない。

 もう二発目の光線を放とうと光天使は光球を生成している。マズいと思った才華は意識せず咄嗟に、首からネックレスのようにして掛けている縦笛を掴む。


 吹けば護衛が飛んでくるとはいえ、才華が縦笛を吹くよりも光線が放たれる方が速い。それに光速の攻撃を躱せるはずもない。才華一人ではどうやっても対処出来ない。

 純白の光線が無防備な才華へと向かい――突如前に躍り出た男に手刀で切り裂かれた。


「笛は吹かなくていい。護衛対象の危険を一早く察知するのも仕事だ」


 助かったのだと理解した才華は目前の男の背中を見つめる。

 男は先程笑里がストーカーだと言っていた赤パーカー男だった。深く被っていたフードを上げると艶のある紅蓮の赤髪が現れて、才華は一目で赤パーカー男が誰なのか気付いた。


「――スピルド! 来てくれたのね!」


「護衛の仕事を引き受けているのだから当然だろう」


 藤原家の新たな護衛というのはスピルドのことだったのだ。

 事の始まりは今年の九月頃。地球に戻ってきていた宇宙傭兵スピルドと才華が再会したことが全てのきっかけだ。しばらく依頼がないと話した彼を才華が雇い入れて今に至る。


「それにしても先程のは感心しないな。やぶれかぶれの賭けのような一撃など失敗すれば死があるのみ。貴様が生きているのはただ運が良かっただけだぞ」


「……ごめんなさい。何かあったら最初からあなたを呼べばよかったのに」


「そうは言っていない。最初から物事に対処出来る能力があるなら手助けする必要がないからな。まあそこら辺の話は後回しにして今は――奴らを一人残らず始末するのが先だ」


 スピルドの体を赤いオーラが包み込む。

 トンッと軽く跳び、スピルドは赤い閃光となって瞬時に光天使を殴り爆発四散させた。さらにその直後、上空で戦闘している笑里達を見据えると、二体目の光天使の元にも一直線に向かって同じ末路を辿らせる。


「……さっきのやつ、魔力弾っていうのかしら。きっと、私も強くなれるよね」


 あっという間に敵を倒したスピルドを、才華は晴れやかな気分と表情で見上げる。

 さすがにあそこまで強くなりたいとも思わないが、いつかは足手纏いにならないくらいの強さを手に入れたいと密かに思った。







腕輪「光天使が現れたのは笑里さん達のところだけじゃありません。他の人達も光天使という人類の敵に襲撃されているのです。霧雨さん、夢咲さん、パンダレイさんの三人は光天使相手に追い詰められていく。ピンチに陥ったその時、パンダレイさんの覚悟が光る! 次回『意外な救世主3』!」


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