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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
終章 神谷神奈と自由人
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357 暗雲――日常崩壊はすぐそこに――

 この話には英語が出てきますが、翻訳アプリで翻訳しただけですので合っているかが分かりません。もし英語を読める方がいて、間違っていると分かるなら是非お教えください。

 なお、英語が読めない方は雰囲気で読んでください。







 大きなライブハウス。大勢の人間が椅子に座って待機しているなか、セットされている舞台へと一人の少女が歩いて行く。

 穏やかそうな外見の少女――十六夜マヤが出した第一声は、その見た目とは裏腹に活発さが窺える元気あるものだった。


「Hello everyone! Myname is Maya Izayoi. Thank you for coming to listen to my music today!」


 英語で話しているのはなぜか。答えはこの場所が――アメリカだからである。

 現在マヤはワールドツアー企画真最中であり、最後から二番目のライブ場所であるアメリカへとやって来ているのだ。当然かもしれないが最後はもちろん日本で歌って終了となる。


「I promise, that this day will be the best today!」


 その歌う前のスピーチを、観客席にいる斎藤(さいとう)凪人(なぎと)は興奮した様子でしっかりと聞いている。大好きな歌手のワールドツアー終盤だからか感動に打ち震えて拳を握っているのを、隣に座る神野(かみの)神音(かのん)は見やる。


「くうぅ、ついに……ついにアメリカに……! これ程の感動は今後一切来ないだろうなあ……!」


「それ程喜ぶとは十六夜マヤも誇らしいだろうね。まったく、どうせ日本に戻って来るんだから日本で聴けばいいのに」


「英語版の生歌を日本じゃ聴けないじゃないか!」


 呟きに対し斎藤がくわっと目を見開き、神音の方へ顔を向けて叫ぶ。

 しかし叫んだがために前の席の男が振り向いて「Shut up」と鬼のような形相で睨まれる。委縮した斎藤は謝ろうにも言葉が詰まってしまったが、なんとか頭をぺこりと下げることだけは成功した。


「英語なんて分からないくせに。あ、ちなみに今のはうるさいってさ」


「……それくらい僕も分かるよ」


 特に嬉しそうな雰囲気をこの場で一度も見せていない神音。

 はっきりいってしまえば神音はマヤのライブなど来る気はなく、本来なら今頃自宅の花屋の手伝いでもしていたことだろう。しかしマヤの歌の素晴らしさを教えようとしてくる斎藤が強引に家から引っ張りっ出したのである。


 ちなみに被害者というべき人間は斎藤の右にもう四人。

 髪の色とおそろいの青い眼鏡をかけている、現状に不服そうな表情を浮かべている少女――南野(みなみの)(あおい)


「どうして私がこんな場所に……。政治家になるための勉強で忙しいのに」


「まあそう言うなって。たまには息抜きも必要だろ? お前らは根え詰めすぎなんだからこれくらいの休養あってもいいんだって」


 葵の呟きに反応したのは金髪で強面の少年――日野(ひの)(あきら)


「あっはっは、これじゃ休まる気がしないけどね」


 そう返すのは個性のない平凡な外見をしている少年――坂下(さかした)勇気(ゆうき)

 二人は葵の夢のため政治家の勉強に励んでおり、専門学校での勉学に加えて自宅でも数時間勉強している。だがさすがに集中力も衰えると思った日野は少し勉強時間を減らし、あまり興味はないがマヤのライブへ行く誘いにわざわざ乗ったのだ。……アメリカまで行くとは知らなかったが。


「まあな。でもよ、机に齧りついて勉強すんのは結構だけどよ、たまには外出て美味い食いもんでも食べて、友達付き合いに精を出すってのもいいと思うぜ。ずうっと勉強じゃ頭も心も疲れちまうだろ」


「……一理ある。はぁ、今日はその余計な気遣いにちょっとくらい付き合ってあげるわ。でも言っておくけど、一番勉強しなきゃいけないのは頭スッカスカのあなたなんだからね」


「悪かったなテストの点数低くて。一応勉強してんだぞこんちくしょう」


 当然だが政治関係の勉強となれば難易度は他の学校と比べて上がる。

 小学校は真面目に勉強せず不良生活をし、中学二年の頃から真面目にやり出した日野には厳しい話だ。それでも葵と坂下のサポートをするため必死に喰らいついている。


「それにしても、僕としては影野君が同行してるのが意外だったな。神谷さんがいないからてっきり来ないと思っていたのに」


 坂下は隣にいる暗緑色の髪の少年に視線を向ける。

 その少年――影野(かげの)統真(とうま)の視線はマヤから動かない。


「十六夜マヤ、彼女の歌はわりと好きなんだよ。神谷さんの傍から一時も離れたくない気持ちは変わらないけれど、ストーカーじゃあるまいし四六時中は見守っていないさ」


「その発言がもうストーカーのように聞こえるけど……」


 影野といえば神奈の信者のようなものだ。まるで神を相手にするかのように信仰し祈りを捧げている。通称神谷教なんて宗教団体も一時期作り上げたくらいにその熱は冷めない。


 はっきりさせるまでもなくストーカーでしかないのだが、一歩引いているから実害は少ないということと神奈の温情により裁かれてはいない。だがそれを葵はいつまでも認める気はない。


「もし大人になってもストーカーしてたら規制法で裁いてあげるからね」


「ふっ、南野さん、君が目指しているのは政治家だろう。裁判官じゃない」


「証拠が揃っているなら職業なんか関係ないわ。言っておくけど、あなたのストーカーしてる証拠なんていくらでも手に入るんだから」


「ま、まあまあ二人共落ち着いて。十六夜さんの挨拶とか聞こうよ。英語だから全部は聞き取れないけどさ」


 このままでは口論になりそうなので坂下が口を挿んだ。

 会話が途切れたので二人はマヤのスピーチに集中する。それを見て葵がリラックスしていると思っている日野だが、彼女は英語のリスニングになると思って聞き入っているだけであった。


「英語が分かれば……」


 あまり頭がいいわけでもなく成績も平凡な斎藤は簡単な英語しか分からない。それもゆっくり話してくれなければ理解が追いつかないので、現在進行形で話しているマヤのスピーチをほぼ理解出来ていない。そんな斎藤を見かねて神音は助け舟を出す。


「ワールドツアーも終盤。この大国アメリカで歌えることを私は誇りに思います」


「え、神音……まさか……」


 唐突な台詞、いやマヤの後に続くような台詞に斎藤は驚く。

 期待しすぎていなければ神音はきっと自分の為に翻訳してくれているのだと、確認はしなかったがそうだと思って感謝しつつ聞き入る。


「思えばこの一年半、長く楽しい日々でした。多くの方々に私の歌を聴いてもらえるというだけで心は踊り、本当に夢みたいだと今でも思っています。……これはどこへ行っても必ず言っていますが、今の私があるのは友人と、私のような一介の歌手を応援してくれるファンの方々のおかげです。だからこのツアーで歌う一曲一曲を、私は全身全霊で歌って関わった全ての人達に届いてほしいと願います」


 日本人だというのにマヤは滑らかに英語を喋り、神音は容易くそれを訳していく。


「ええーっと……長い前置きとなってしまいましたが……が……?」


 しかし神音の翻訳は唐突に終わりを迎える。

 別に英語が分からないというわけではないだろう。その表情はそんな生温い状況でなるものではなく、まるで命の危機にでも晒されたような恐怖を滲ませるもの。決して翻訳が出来なくて落ち込んでいるわけではないと斎藤にも分かる。


「神音、どうしたの?」


(なんだこれは……この妙なエネルギー反応、遠くとも朧気ながら感じ取れる。私の予想が正しければこの場所は……)


 途端に表情を険しくした神音は斎藤へと向き直る。


「すまないけれど、君の持つ攻撃の魔導書を貸してくれないか」


 これに対し斎藤は「いいよ」と返答した。すると神音の表情に驚きが加わる。

 鞄に入れていた分厚い魔導書を差し出す斎藤へ予想外とばかりに見開かれた目が向けられる。


「いいのかい。自分で言っておいてなんだけど、断られる、或いはもっと渋ると思っていた。以前この魔導書を奪った私になど渡しはしないと」


「確かにこの魔導書は父さんの形見としているし大切な本だし、君が一度奪ったのも事実。だけど君とはもう泉さんよりも長い付き合いになる。僕の関わった君が良い奴か悪い奴かくらい判別もつくさ」


 神音は手をゆっくりと魔導書へと伸ばし、途中一度止まることもあったが手に取る。その瞬間に異空間へと転送したことで斎藤の視界からはパッと消える。

 席を静かに立ち上がる神音は「ありがとう」と呟く。マヤのスピーチや周囲の音で、いや本人が囁くような声量だったからか誰にも聞こえない。しかし斎藤は口元が偶然目に入りなんとなく察した。


 何があったのか、どこへ向かうのか。斎藤は考えても思いつかない。

 何か重大なことが起ころうとしているのは確かで、神音は人知れずその件を解決しようとしている。そんなことくらいしか察せない斎藤は反射的に神音の腕を掴む。


「君は悪い奴じゃない。だから何があっても、無事でいてくれることを願うよ」


 それだけ言うと斎藤は神音の細い腕から手を放し、ライブハウスを出ていく後ろ姿を見送る。完全に姿が視界から消えると同時、ステージにいるマヤが曲名を告げる。


「Please listen.Everyday Collapse」


「あ、神音がいないから英語分からないや……」


 翻訳者がいないと困ることはあるが今から呼び戻そうとする気はない。

 信じているからだ。きっと神音は何かを成し遂げて帰って来ると斎藤は信じている。

 本当は自分も同行したいと思っていたが実力の足りない人間など足手纏いにしかならない。斎藤はライブへの集中力を高め、友人である少女の帰りを待つ。








腕輪「次回予告! 神奈さん今日も出て来ませんでしたね。ですがご安心を。次回はちゃんと私、ついでに神奈さんも登場しますよ! そして次回ついにあの人も登場します! 神代由治、その目的はいったい何なんでしょうね……」


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