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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十五章 神谷神奈と破壊の帝王
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350 復活――災難続きのホウケン――


 お粥を食した神奈は、作ってくれたエミリーに礼を言っておいた。

 あまり濃い味付けではなかったり旨味は少ないイメージであるが、ホウケンで食べたエミリー特製お粥は驚愕するレベルで美味しいものであった。一か月毎日お粥でも飽きないと神奈が断言出来るくらいだ。


「あー、ほんっとここの料理は美味しいんだよなあ。くっそ、テイクアウト出来れば持って帰るのになあ」


 もし未来に持ち帰ったならば世界中の人間が美味い美味いと泣き叫ぶだろう。

 最初は才華に食べさせ、研究機関に調べ上げさせて味を再現してもらえば、兵器級の味を神奈達の時代でいつでも食べられる。もっとも肝心のテイクアウトが出来る確証がないし、それで何か不具合が発生しても困るので持って帰ろうとはしない。


「そういえばエミリー、私の右腕って折れてたはずなんだけどなんで治ったんだ? 村の秘薬とかでも使ってくれたとか?」


「いえ、それが……確かに薬は怪我のところに塗りましたが骨折には効果ないはずですよ。それに神奈の右腕が治ったところを誰も見ていないのです。不思議なこともあるものですよね」


「えっ何それこわっ。腕輪は何か知ってる?」


「……確証がないのでしばらくは話せません。ですがもし私の考えている通りなら神奈さんはとんでもない存在になっているでしょう」


「前から結構とんでもない身体能力とか魔力だけどなあ」


 腕輪が話したがらないのなら無理に訊き出す理由が神奈にはない。怪我が悪化するのではなく治っていたのだから悪いことではないのだ。今すぐにどうにかしなければいけない問題というわけでもないだろう。


 改めて右腕だけでなく怪我したところに目をやると、擦り傷や火傷などの傷痕がほとんど存在していなかった。骨折を治した謎現象なのか、それともホウケンにあった薬が凄まじい効力なのか。おそらく後者だろうと思った神奈は素直に感想を口にする。


「しかしすごいよなホウケンの薬。結構酷かった傷がもうほとんどないし」


「この村にあるのは時代遅れの薬品だったんですけどね。ああそれとあまり無理はしないようにしてください、見た目は完治に近くても内部にダメージは残っていますから」


「まあ確かに動かすと重く感じるとこもあるけど全然問題ないレベルだって。一日でこれなら大したもんだよほんと」


「……未来にはこれより優れた薬があるのではないのですか?」


 右腕を回して調子を確かめながら神奈は「ないない」と答える。

 深い傷や火傷を約一日で治してしまうような薬があるなら医者いらずだろう。そんな便利なも薬が存在しているなら使用してほしいものだと神奈は思う。


「……やっぱり、これっておかしいですよね」


 右腕の次に左腕を回して調子を確かめている神奈は「何があ」と返す。


「だって未来なんですよ? ホウケンは都会から離れていて文明も遅れてるのに、神奈の故郷がどのような場所であれ未来なら優れているはずでしょう。食事や薬品に対する神奈の感想を聞いてみると、これでは技術が退化しているかのようではないですか」


「言われてみれば、そうかも。単純な未来ならもっと文明発達してていいはずだけど……。腕輪は何か分かるか?」


 困ったときの腕輪なのだが今回ばかりは何も分からないのか無言である。腕輪とて何でも知っているわけではないのだから危機でもない限り神奈は何か言うつもりはない。


「まあいいや、氷河期みたいなので一度文明が滅びたってところだろ」


「……ですかね。それほど重要な話というわけでもないので深堀りはしないですけど」


 納得いっていなさそうな釈然としない表情でエミリーは呟く。

 そう、特に重要だといえるような話ではない。二人にとっては気にしてよく考えるべき内容でもないのだ。それよりも重要な話題を思い出したエミリーは「あ」と一文字だけを声に出す。


「食べ終わりましたけど体調は問題ないですか?」


「ノープロブレムノープロブレム。全く問題ない」


「それなら村のみんなに元気な姿を見せてあげましょう。英雄が倒れたままでみんな心配していたんですよ」


 神奈は「英雄」という単語に対して反応し、恥ずかしそうに頬を掻く。


「英雄って……私はそんな柄じゃないんだけど」


「謙遜する必要ありません、あなたは本当に英雄ですよ。この時代の危機を救ってくれた未来からの救世主。そう、英雄神奈」


「お前わざとだろ。恥ずかしがるの分かってわざと言ってるだろ」


 持ち上げられるのは人間誰しもいい気分になってしまうものだ。それが過度でなければ持ち上げてほしい者は多いだろう。神奈も多少は気持ちよく思ってしまうがこれ以上はさすがに羞恥で悶える。


「ふふっ、じゃあ行きましょうか。実は祝勝会は神奈が目覚めてからと決めているのでみんなお待ちかねですよ」


「そりゃ悪かったな。今すぐ開始してもらって構わないぞ」


 せっかくのお祝いを後回しにさせている事実を知った神奈は申し訳なく思う。

 嬉しい気持ちを開放して全員早く勝利に酔いしれて開放的に騒ぎたいだろうに、はっちゃけるのを抑制させている原因が自分なのだから当然だろう。


 ただ、エミリーと一緒に家の外に出てみれば状況は一変する。

 村人達はいた。サイハもハヤテも外に出ていて、外の村人全員が茫然自失といった感じで同じ場所を見上げているのだ。

 不思議に思った二人も同じ方向を向いてみると思いっきり目を見開いて一驚する。


 ――その方角には一体の巨人がいた。


 推定二百メートルを超えるだろうその巨体は薄茶色のレンガで作られており、細長の手足で動くこともなく突っ立っている。圧倒的な存在感であるそれに神奈達は見覚えがある気がしたが思い出せない。


「おいおい、なんだよあれ……」


 思わず呟いた神奈の声にサイハとハヤテが反応する。


「神奈! 目が覚めたの……最悪な事態のときに起きてしまったわね。あなたの復活を喜ぶ余裕が今の私にはないわ」


「まったく今頃は祝勝会でも開いていたはずなんだがな。……どうやら本当にこの村は呪いでもかけられているらしい」


 ハヤテがそう思いたくなる気持ちも神奈には分かる。

 帝王や四神将に続き、あんな訳の分からない巨人までやって来たというのだから災難続きだ。誰かに呪われていると思いたくもなる。


「あんなの昨日、いや一昨日までなかったはずだろ。マジで意味分かんないぞ」


「いいや、あれはずっと前から存在していた。――帝王城だ」


「はぁ!? 帝王城!? い、いやだって城じゃないじゃん巨人じゃん!」


 帝王城と告げられてエミリーは納得する。巨人に見覚えがある気がしたのもつい最近乗り込み、以前から帝王の住処というだけで睨んでいたのだから当たり前の話である。


「……ってお前、その足」


「今はどうでもいい話だ。そんなことよりも俺は見ていた。帝王城が真上へと移動して、両手両足が現れるのがここからでも見えた。そう、俺達が乗り込んだのはあの城の一部にすぎなかったのだ」


 左足が切断されてなくなっているハヤテは足の話題を許さず、静かに佇む帝王城の変形した巨人について説明する。


「――カンナ、そしてホウケンの民達」


 説明を受けてようやく現実を呑み込めてきた神奈に、さらに受け入れるのを拒みたくなる現実が襲ってくる。

 明らかに聞き覚えのある声が巨人の方から放たれたのだ。その声は忘れたくても忘れられないくらいに脳に残っている音声――帝王カミヤのものであった。


「……か、カミヤ……帝王……!」


「言ったはずだぞ。束の間の平和を楽しんでおけと、最後に笑うのはこの余であると!」


 帝王の声であると知った村人達は騒めき出し、どういうことかだと混乱している。しかしそれは確かにカミヤを殺した神奈も同様だ。


「どういうことだ! なんでお前がまだ生きてんだよ!」


「ふっ、本当に愚かな者達だ。ふっ、はははははっ」


「ああ! この距離だとこっちの声届かないのかよ!?」


 実際に聞こえているのかもしれないがカミヤならちゃんと会話をしてくれるだろう。少なくとも問いかけに対して答えをくれることぐらい神奈も分かっている。


「どうせ余がなぜ生きているのかを疑問に思っているのだろう? 確かに肉体は死を迎えたが魂は消えていない。固有魔法とは魂に宿りし力ゆえにそんな状態でも使えるのだ」


「なるほど、カミヤ自身の魂とあの城の繋がりを極限まで強めたというわけですか。元々あの城には大きな魔力が溜められているとは思いましたが、まさか死後に乗り移る目的があったとは……」


 腕輪がカミヤのしたことを驚きの混じった声で呟く。

 しかしカミヤは距離が遠すぎて神奈達の声が聞こえないので同じ説明をし始める。


「ふっ、まあ貴様等の頭脳では分からんだろうな。余は自身とこの城にある魔力炉の繋がりを強めて一体化したのだ。魔力炉などというものを作っておいたのは万が一のため、死した後に城という寿命のない存在に乗り移るためのものだったのだ」


「それは今聞いたよ! おいこのつっこみとかも聞こえてないのか!?」


 いくら神奈が叫ぼうと距離の問題はどうにもならない。魔力で喉の強さと声の大きさを強化すれば聞こえるかもしれないが、そんなことをすれば無駄に消費するし何よりバカらしいのでやらない。


「魔力炉……バーズが守っていた場所ね。にしても参ったわね、あの城自体がとんでもない防御力を持っているから私の魔法が効くかどうか……」


「俺の剣も通じるか分からん。だが一人、確実にあの城へダメージを与えられる者がいる」


 ハヤテは神奈の方を向きながら告げた。

 実際のところハヤテの剣技やサイハの〈生と死の共鳴弾(オリジンブレッド)〉なら通じはするだろう。しかし剣で斬ろうにも巨体すぎるし、全属性複合魔法は消費魔力が大きいうえ範囲が狭いために相性が悪い。


 しかし神奈なら単純な打撃で城の一部を破壊することが出来るだろう。村人達の中で最短コースで魔力炉を破壊出来るのは紛れもなく神谷神奈なのだ。サイハもそれに気付いてはいるがあまり賛成する様子ではない。


「いいのかしら、もう神奈さんには帝王を一度倒す役目を押し付けているでしょう。さすがに今回も頼ってしまうのはあまりに……」


「そうですよね。神奈、今回は私達だけでやってみます。あなたに迷惑をかけることはしません」


 エミリーも頼らない選択に賛成して敵であるカミヤを見据える。

 二人がそう言うならとハヤテも腰に下げていた刀を抜刀して構え出す。村人達も真剣な眼差しでカミヤを睨みつける。


「待てよ。頼ることの何がいけないんだ」


 そんな三人の、いやホウケン村の人間全員の固まった意思を神奈は揺らがせる。

 立ち向かう勇気に水を差すと分かっていても、今回は妥協せず自分が正しいと思ったことを貫き通すのがいいと神奈は判断した。


「ダメなわけじゃないけど、私達は頼りすぎているのよ。もう全てをあなたに託すなんて無責任なことはしたくない。これまで十分すぎる程に頼らせてもらったから、今回こそは」


「そうか? 人間誰かに頼るべき時ってのが絶対に来る。一時期多かったからって自分を責める必要ないだろ。元々私が()り損ねた敵だし、ここで戦うのもまだ私の役目の一つだろうさ」


 全てを託されて戦ったのも、それで倒すべき敵を逃してしまったのも神奈だ。

 それならばやり残したとして戦うのは自分の役目だと神奈は考えている。エミリー達だけで戦って勝てる可能性がないとは思わないが、限りなく低い以上自分がやった方がマシだとも思う。無理に戦って死にゆく必要など誰にもないのだから。


「とは言っても、今回はみんなの力も借りたい。全員の力を一つにして戦うんだ」


「……はぁ、あなたの意思を曲げている時間はなさそうだわ。いいわよ、何か作戦があるなら何でもやるから言ってちょうだい」


 一緒に戦うことを認めたサイハの言葉にエミリーも頷く。


「みんなの魔力を全て私に預けてほしい。文字通り力を一つにする」


 そして神奈は遠慮なく勝利へと繋げるための策を伝えた。


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