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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十五章 神谷神奈と破壊の帝王
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347 一親不和――仲間――


「……弱い。私は、弱い? 何も、守れない?」


 カミヤに勝てないと告げられると神奈はボソボソと呟き始める。

 今回の戦いで神奈自身もなんとなく考えてしまったのだ。カミヤは強く、今の神奈で勝てるかどうか分からない。腕輪の必ず勝てるという宣言も気休め程度にしかならない。……負けるかもしれない。そんなことを考えてしまっていた。


「神奈さん落ち着いてください! 帝王に勝てる可能性なら十分にあるんです!」


 腕輪の声にカミヤは「む、なんだこの声は?」と戸惑いを見せる。


「分かってる、私だって確実に負けるわけじゃないって思ってる。でもさ……自信ないよ。右腕折れたし、体中痛いし、超痛いしさぁ……悔しいけどあいつ本当に強いんだよ」


「そんなことは分かっています。しかし自信を持ってください。今までだってなんとかなってきたじゃないですか」


「そう、か、そうだな。あいつは私が倒さないと……」


 誰かに頼まれるまでもなく神奈はカミヤを倒すつもりでいる。パンダレイの言っていた当初不明だった敵は、ほぼ間違いなく世界征服しようと動いている帝王だろうと思っている。たとえ自分と血が繋がっていようと最悪の敵であるのだと。


 倒さなくてはならない。そんな強迫観念があるかのように神奈だってやる気でいるのだ。それにパンダレイが自分を選んだのも、加護が転移を防がなかったのも、母親と会ったのも、友達そっくりの人間達が住む村があったのも全てが運命のように思える。


「カンナ、一つ忠告しよう。気合だの根性だのではどうしようもない場面というのがこの現実には存在しているものだぞ」


 聞く耳持たずに神奈は魔力弾を生成する。

 右手が骨折している以上使えないので、神奈が現状使える手足が一本減ってしまったことになる。利き腕だというのも別の意味で痛い。だからこそ接近戦は避けるべきだと考え、魔力弾による遠距離戦で勝負をつけようとしていた。


 ――生成した魔力弾が目前で消えなければ、このまま遠距離戦でいく方針を維持していただろう。


「……は?」


「どうした、自分で作った魔力弾が消えたのがそんなに不思議か」


 カミヤの告げた通り不思議なことに消えたのだ。魔力弾は跡形もなく、そもそも存在すらしていなかったのではと思うくらいに一瞬で、神奈の意思関係なしに爆発したわけでもなくパッと消失した。

 魔力感知でも感じ取れない以上そこにないのだとはっきりと理解出来る。


「……いったい、どこに」


「どうやら魔力弾の存在と現実との繋がりを極限まで弱めたようです。感知すら出来ない程になっていますがちゃんとそこにありますよ」


 存在している、と言われても神奈は疑ってしまう。

 なにせ視認も出来ず、さらには魔力感知すら働かないのだから当然だ。しかし腕輪が言うのならそうなのだろうと信じる。


「やたらと助言や解説をすると思えばなるほどその腕輪か。かなり優秀な知能搭載魔道具インテリジェンスアイテムだ、貴様を倒したら余が貰っておこう」


「やるわけないだろクズ。こいつは今や私のたった一人の家族なんだ、死んでもお前には渡してやらない」


 腕輪は感銘を受けたかのように「……神奈さん」と名を呟く。


「魔力弾がダメなら肉弾戦で勝負するまでだ。お前みたいなやつには利き腕使わないくらいが丁度いい」


 決して自分の強さに驕ったわけではない。神奈は弱気になっていた自分に喝を入れるためだけに言ったのであって、本気でそんな調子に乗った思考はしていない。


 気合を込めたところで勢いよく駆け出して、つい先程消失した魔力弾の位置を通り過ぎた直後――ふいに出現した神奈の魔力弾が爆発した。しかも通常より遥かに威力を増した大爆発だ。

 いきなりの背後で起きた爆発に神奈は悲鳴を上げて、為す術なく前方に吹き飛ばされる。


「悪いが、余はもう貴様と肉弾戦する気はない。身体能力の強さは認めているからこそな」


 大胆にも露出していたからか背中が焼け焦げるような痛みを訴えている。

 しかし前方に飛んだのは好都合であり、痛みに歯を食いしばりながらこのまま魔力加速でさらなる加速をしようと思ったときだった。――何もなかった左方に唐突にムラのある黒の魔力弾が出現し、爆発した。


「ぐああああああ!?」


「戦闘中に魔力弾をいくつも配置させてもらった。余の思念でいつでも存在を明らかにし、威力を底上げした爆発を起こす」


「まさか自分の魔力弾を同様に消して罠を!? 神奈さん障壁です、魔力で障壁を作って!」


 爆発の連鎖が起きる。

 一つ魔力弾が現れて爆発しては、神奈が吹き飛んだ先にまた一つの魔力弾。それが連続して起きることでカミヤの頭脳の明敏さが垣間見える。


 神奈は二回目の爆発後に腕輪からの助言もあり魔力障壁を張っていた。もし腕輪からの言葉がなければ三回目をもろに喰らっていただろう。とはいえ、通常より遥かに高威力の爆発にいつまでも耐えきれるわけがない。


 反撃どころか爆発の連鎖から抜け出す余裕すら与えられない神奈は、障壁が割れたせいで四十回目の爆発をもろに真正面から受けてしまう。そして割れた障壁を張り直すまでに三度の爆発、張り直してから三十以上の爆発。合計七十七回の爆発が連続して神奈を襲った。


 爆風により舞い上がっていた神奈が床に受け身も取れず落下し、全身が痛んでいるのにのたうち回りたくても動けない。左頬、背中、脇腹、両腕両脚の七か所に爆発による火傷と裂傷があり、加えて全身に蓄積されている疲労とダメージがあるとなればもう立ち上がれない。


「神奈さん……」


「終わりだ。まったく、娘の不出来さを見るのがこんなに早くなるとは思っていなかったぞ。せめて貴様があと少し強ければ余を追い詰めることも出来たのだろうがな」


 倒れ伏す神奈にカミヤが歩み寄って来る。

 このままでは殺されてしまうと分かっている腕輪は、酷なことだが再び起き上がるように語りかける。


「神奈さん立ち上がってください……! このままではパンダレイさん、そしてホウケン村の人達の想いが無駄になってしまうんですよ。大丈夫、勝てますよ、ここで諦めなければ必ず勝利を掴めるはずなんです! 帝王の固有魔法が神奈さんに効かない以上、神奈さんは帝王の天敵と言っていい存在なんです! あんな悪人に負けるなんて神奈さんらしくないじゃないですか! いつもみたいにぶっ飛ばしましょうよ!」


 歯を食いしばりながら力を入れてみるも神奈の全身に激痛が奔る。

 天敵と言われてもカミヤの固有魔法の強さは本物で、いくら自分に効かないといってもカミヤ自身に加えられた効果を無効化出来るわけではない。魔力弾も通用せず、右腕は折れ、火傷と裂傷と蓄積したダメージのせいで全身が痛む現状、立ち上がれもしない状態で戦ったところで勝負結果は見えている。


「ねぇ、ぶっ飛ばしましょうよ……いつも、みたいに」


 倒れ伏したままの神奈に発破をかける腕輪も、その声量は下がり泣き声のようになっていく。

 腕輪とてもう立ち上がれない状態だと理解しているのだ。それでも発破をかけ続けなければ殺される未来しか待っていない以上、辛い心境であっても再起させなければいけない。


「無駄だ、もうカンナは立てん。その肉体はダメージを受けすぎているからな。死にはしないだろうが回復には相当な時間がかかるだろう。余の後継者になるつもりがないなら治療する理由もない」


 間近にまで来たカミヤを見て腕輪は「帝王……」と思わず声に出す。


「それなら、あなたの仲間になると誓えば助けてもらえるのですか」


「説得するとでも? カンナは強情そうだがな」


「ええしますとも、必ず私が説得してみせますとも。だからあなたも神奈さんにもう手出ししないと約束してください」


 命あっての物種とはよく言うものだ。生あれば先はあるが、死あれば先はない。

 腕輪はどうしても、何があってもどんなことをしてでも神奈を殺させたくなかった。だからたとえ帝王という世界の敵の下につくことになっても助けたいと、そう思っていた。


「……や、めろ」

「神奈さん……!」


 ――神奈に止められなければ洗脳や催眠術を使用してでも実行していた。


「私は……そうまでして、生き残りたく、ない。だから……やめろ」


「でも、でもこのままじゃ本当に死んじゃいますよ! 今までの瀕死時と違って生き残れるチャンスがあるんです。だったら恥と分かっていても、エミリーさんのように一度裏切ったとしても……生きるべき……じゃないですか」


 過去にも死の一歩手前までいったことは何度かある。その時は相手も手を引くような相手ではなかったために、腕輪はこうして口を挿むことなどしなかった。ただ神奈を信じて応援しているだけだった。

 しかしカミヤの場合は軍門に下れば生かしてはもらえる。たった一言、仲間になると答えれば命だけは助かるのだ。


 神奈も確実に助かる方法が裏切りだとは理解しているため実行しない。

 エミリーが、サイハが、ハヤテが、ホウケン村の人間達を裏切るなど神奈には出来ない。たとえ村の人間ではなくなんの関わりもない誰かを裏切るとしても、神奈は誰かの想いを自分のせいで水の泡にすることを嫌う。


 絶対にカミヤの下には行かないと神奈は心で誓う。


「私は、お前の、仲間になんか……ならない」


「……結論は出たな。実のところじっくり調教でもすれば後継者の座に戻せると思っていたのだが、それは余の思慮不足であった。カンナの意思は恐ろしいほどに、余には崩せんほどに固い。死を与えた方がこの先煩わしくなさそうだ」


 ゆっくりと、伏している神奈に死が近付いて来る。

 カミヤの右手が伸びて神奈の頭に触れた瞬間――銀色の煌めく刃がカミヤの首に急接近した。


 刃は折れていて長さは不十分だが人の首を斬るには十分な長さ。迫る刀をカミヤは後方に跳んで躱し、刀を振るってきた少年を見やる。

 少年は左足が切断されており、時間が経ったためか止め切れていない少量の血液が流れている。左足がないためかバランスを崩して、右足と左手をついてどうにか転ばなかった少年。黒髪黒目、神奈と同じ服装をしている――ハヤテ。


「一人、煩わしい者が増えたか」


「いいえ二人よ」


 謁見の間入口付近に立っている少女が球体エネルギーを右手から作り出し、その赤紫の魔力弾をカミヤへと高速で放つ。

 ゆるふわパーマの黄髪。大きな胸を隠しきれていないサラシ、上半身と違い露出を控え目にしているロングスカート。不敵な笑みを浮かべている少女――サイハ。


「二人増えようが無駄だ」


 跳んでいるカミヤは迫る魔力弾の存在を限りなく弱めることで消す。

 魔力弾が消えて目を見開くサイハの反応を見て口角を上げるカミヤだが、右頬に拳が叩き込まれて殴り飛ばされる。


「――三人です」


 カミヤの予想外にもう一人。

 オレンジ髪。サラシと丈幅の短い腰巻きという露出の多い衣服。日頃から行う剣の鍛錬によって硬くなり、少々ごつさがある拳をしている少女――エミリー。


 殴り飛ばされたカミヤは床に勢いよく叩きつけられて転がる。そこから素早くなんてことないように立ち上がり、神奈の傍へと歩み寄る三人を見据える。


「なるほど……どうやら、カンナは仲間に恵まれたらしいな。とても素敵で仲間想いで、無力な者達に」


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