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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十五章 神谷神奈と破壊の帝王
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354 離別――さよならホウケン村――


 ホウケン村で行われていた祝勝会も終わった夜遅く。

 神奈はエミリーに話があると連れられて、キリサメ家の地下室へと招待された。


「キリサメ、連れて来ましたよ」


 階段を降り切ったエミリーがそう告げると、キリサメは「そうか」とだけ返す。

 続くように発明品だらけの部屋へと入る神奈に気まずそうな目が向けられる。視線に込められた感情に気付いていなくともジッと見られた神奈は口を開く。


「なんだよ」


「……なんでも」


 目を逸らしたキリサメが切り出すべき話題をエミリーが伝えた。


「驚きますよ神奈。なんとあなたは今日未来へと帰れるんです」


 あっさりと伝えられた驚愕の情報に「……は?」と神奈は間抜けな声を漏らす。


(なんだ、エミリーは今なんて言った? キョウミライヘカエレルって……え、私が未来へ帰れるって意味なのか?)


 思考が追いつかない状態になっている神奈は徐々に発言を受け入れていく。そして完全に理解した神奈の口からは大きな叫び声が放たれた。


「はああああああああああ!?」


「あはは、驚くのも無理ないですよね」


「いやだって、だってキリサメ! お前時空超越機械生命体の完成はいつになるか分からないって言ってたろ!?」


 時空超越コアの方はもう出来ているとはいえ、肝心のエネルギー源である機械生命体に関しては開発の目処が立たないと告げていた。そんなことを言われていた神奈は未来へ帰れるのが数年、もしくは数十年単位で遅れるのも視野に入れていたのだ。考えたくはないがこのまま帰れないなんてことも何度か頭を過ぎったものである。


 もちろん早く帰れるのならそれに越したことはないが、今日いきなり帰れると言われてもそれはそれで困惑する。


「偶々エネルギーの確保が出来たんだ。もう後戻りは出来ん」


「いや、そんな偶然って……」


「まあまあ神奈、帰れるならなんでもいいじゃないですか。それとも一生村に残ってくれるんですか?」


「いやそうは言ってないけどさあ」


 全て急展開なのがいけないのだ。目を背け続けているキリサメには神奈も思うところはあるのだが、エネルギーの出所について考えようとしてもエミリーが思考を妨げる。

 二人は神奈に真実へと辿り着かせないようにしている。


 エイルとパンサーの二人の命を代価として帰還する真実を知ってしまえば、神奈にいらぬ迷いが生まれてしまうからだ。もう終わったことなゆえ神奈に選択肢などないだろうが、気持ちよく帰らせるために出来れば知らせたくなかった。


「そこにある時空超越コア二つに挟まるよう立て。起動させればお前は元いた時代へと帰れる」


 キリサメの指した先、部屋の中心辺りに二つの台が存在している。

 腰辺りまでの高さの台には妙な球体が置かれている。複雑な形の突起がある殻のようなものの中に、青白い弱光を放つ綺麗な球体が入っている。それこそがキーアイテム時空超越コア。


 燭台の灯火に照らされる地下室はそれらのおかげで、まるで何かの儀式でも行われるかのような幻想的な場所へと昇華していた。

 とりあえず神奈は二つの台の間に緊張しつつも入る。


「なんか、急な別れになっちゃうな」


「……そうですね。見送るのも二人だけ、寂しくないですか?」


「まさか。二人が見送ってくれるだけで満足満足」


「それは良かったです。どうやらこのエネルギーは長く持たないようなので、今から村の人間を集める時間はないんです。本当なら総員でお見送りしたかったんですけどね」


 本来なら機械生命体からエネルギーが供給され続けるシステムだが今回は別。無限ではなく有限、二人の男から充填された生命エネルギーは時間が経てば霧散してしまう。

 しかし他の誰かを呼ぶ暇はなくても話す暇はある。キリサメが片方の時空超越コアの突起を押し込んで起動させ、あとはもう片方を起動させるだけにしてからエミリーは再び口を開く。


「本当に急な別れになってしまいました。これで最後の会話になると思うと胸も痛みます」


 左手を胸に当て、悲し気な表情でエミリーは告げる。


「……ああ、もう会えないんだよな。私達」


「そう悲観しないでください。確かに私達はもう会えないかもしれませんが、私の魂はいずれあなたと再会します。たとえ何があろうと未来でまた会いましょう……。そして心はいつもあなたの傍らに」


「未来でまた会う……。そうか」


 果たしてエミリーと笑里が瓜二つだったのは偶然だったのだろうか。

 彼女は外側に大人らしさという仮面を被っているが、内側には子供らしさが残っている。その内側がまるで笑里のようだったと神奈は思う。


 未来で会うとは死んでから転生するということ。もしかすれば笑里はエミリーの生まれ変わりなのかもしれないと、若干ありえそうな妄想を膨らませて神奈は「ふふっ」と笑い声を零す。


「なっ、なんです、なぜ笑うのですか!」


「いやごめんごめん。ああそうだよな、未来でまた会おう。不思議な日常溢れる未来で」


「まったく、なんだというのですか。……まあいいです。とにかく私達は、サイハやハヤテ、キリサメ、ホウケンの民はいつでもあなたと共にある。私達の熱き魂と太き絆は永久に不滅です」


 古代で紡いだ関係は時を越えて現代へ。

 長き時が経とうとも弱まることはなく必ず再会は訪れる。

 一度出会えば絆の力は発揮され自然と仲は深まっていく。


「もう飛ばすぞ」


 二人の会話が途切れたときを見計らい、キリサメはまだ起動していない片方の時空超越コアの突起を押し込む。そうすることで遅れて起動したコアは共鳴現象を起こし、眩いと思うくらいの電気を放ち始める。

 二つのコアから放たれ続ける電気は神奈を囲み、檻のように形状を変化させる。


「エミリー! せっかく勝ち取った平和だ、最後まで守り抜け!」


「当然です! 神奈の方こそ、未来を守り続けてくださいよ! 私達が再び会う時に戦争の最中だなんてのは認めませんからね!」


 互いに叫び、時空超越のときが近付く。


「キリサメ、遅くなったけどありがとう!」


 檻を形成する電流が一際激しくなり、僅かな隙間もない球体へと変化する。

 閃光の塊のような電流の眩しさにキリサメとエミリーの二人は目を瞑る。そして電流による眩しさが消えたと感じたあと、再び目を開けたときには神奈の姿はどこにも存在していなかった。


 重い沈黙が流れる。二人は五分もの間一言も喋らなかった。

 体全体が硬直したように動かなかったのだがキリサメは口だけを動かす。


「行ってしまったな……。最後、何も返せなかった。俺にはありがとうなんて言われる資格がない」


「二人の命を犠牲にしたのを思い詰める必要はありません。彼らは彼ら自身が望み、その命を差し出したのですから。それよりも気になっていたんですが、こうして過去を変えたあと未来は変わるものなのでしょうか」


「変わるかもしれないし、この世界が一種の平行世界として別の未来を歩むのかもしれない。しかしそうか、もし変わるのなら神奈が過去に来る理由がなくなってしまうのか。その場合はいったいどうなるのやら」


 元々はホウケン村がピンチだからと過去へ遡ってきた神奈。そんな彼女の戦う理由が消えた今、時空超越機械生命体の完成品を用いることもなくなる。その場合神奈が過去に来ないことになり、もし来なければ帝王軍に敗北するという現代との矛盾が生まれてしまう。


 今は機械生命体も未完成。帝王城も巨人となったうえ破壊されて停止している。神奈が過去に来たときの状況と違いすぎて未来が大きく変わってしまう。


「これでは神奈が過去に飛ぶ未来がなくなってしまう。無意味なことかもしれませんがキリサメ、時空超越機械生命体を完成させてください。それに帝王城も元に戻してください」


「前者はともかく後者は……。はぁ、ああやってやる、やればいいんだろう。神奈は時空超越機械生命体と友達だと話していたしな。友達がいなくなるのは辛いだろう」


 キリサメはもう一度ため息を吐きつつ、エミリーと一緒に地下室を出ていく。

 ホウケン村から神奈は消失した。その理由は一刻も早く故郷へ帰るためだと、全ての真実を明かさずに二人はハヤテへと説明しに行った。


 翌朝になれば集会が開かれて全員に知らされた。ショックを受ける者も多くいた。そして消失した事実の次に言い放たれた言葉を全員がハッとする。


 たとえ離れ離れになろうと、神奈は永遠にホウケン村の英雄であり続ける。


 決して記憶が薄れないよう人々は胸に、いやその魂に言葉を刻み込んだ。

 ホウケンの英雄譚は彼ら彼女らの末代まで語り継がれるだろう。


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