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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
二.三章 神谷神奈と山菜ツアー
55/608

31.21 この世界の世界観的な話


腕輪「いやいや何ですかこのギャグみたいな話数!? ついに小数点の後ろ、数字が二個になっちゃいましたけど!?」


??「彼方がやりたかっただけにゃん。ちなみにこれから割り込み投稿する時は数字がない話も出すから、そういう理由だって納得してね。だって全部の話数修正するのって面倒でしょ? 十話くらいならまだしも一応四百話超えてるからね」


腕輪「ああ成程それは面倒……え? あなた誰ですか?」

??「え? ああ、私ってばまだ登場してないから……」








 小学校休日である土曜日。

 家のソファーに座って寛いでいた神奈はインターホンの音を耳にする。

 来客の知らせだ。それが鳴ったことで神奈は面倒そうに顔を歪め、座ったまま一分が経過する。


「神奈さん、出なくていいんですか?」


「いいや。普通にめんどい。笑里とかなら事前に連絡してくるし違うだろ」


 音がしなくなって来訪者は諦めたかと思いきや再びインターホンの音がする。

 二度目になると神奈の顔がさらに面倒そうに歪む。


「しつこいセールスだなあ」


「いやまだセールスと決まったわけじゃないですよ。夢咲さんの可能性もあるんじゃないですか? ほら、彼女携帯電話を持ってないですし」


 夢咲(ゆめさき)夜知留(やちる)という少女は貧乏すぎて苦しい生活を送っている。携帯電話を契約して手に入れる以前に、日々の生活でさえやっとの状態なのだ。考えてしまうと少し神奈も同情してしまう。


『神谷神奈さん。お話があるのですが』


 瞬間、面倒そうに歪んでいた顔が引き締まる。

 聞き覚えのない声だ。そこはまあいい、訪問販売などで来る者達などほとんどが初対面だからだ。問題なのは相手が名前を知っていたことである。


『いるのは分かっています。出てきてくれませんか』


 自然と警戒度が増していく。どうにも厄介事の臭いしかしない。

 名前を知っていることに加えて居留守もバレているのだから、何らかの方法で神奈の居場所が相手に伝わっていると思うのも自然だ。


『お友達がどうなってもいいのですか?』


 冷静に努めようとする神奈は険しい表情になり、立ち上がっては歩いて玄関まで向かう。そして閉まっていた鍵を開ける。

 相手が訪問販売の人間でないことは確かだ。このまま無防備に出て行けば射殺しようとしてくるなんてこともありえる。一応魔力を込めていないただの銃などの武器は通用しないが警戒しておくに越したことはない。

 扉を僅かに開いた神奈は首から上までを外へ出す。


「あんた、何者だ。目的は何だ」


 険しい顔で神奈は目前の男に問いかける。

 男は眼鏡を掛けていて、きちっとしたスーツ姿でサラリーマンのような風貌をしている。七三分けで揃えられている髪型も印象を悪くはしない。まあ事前の発言で悪印象を抱かせているが。


「ようやく出てくれましたね神谷神奈さん。(わたくし)、こういう者です」


 丁寧な口調で喋った男が懐に手を入れて何かを取り出す。

 拳銃か何かかと警戒して凝視する神奈に差し出されたのは拳銃――ではなく名刺。

 石橋(いしばし)玄星(げんせい)という名前。そして記載されているのは日本政府直属魔法対策会の文字。仕事の名前なのだろうと神奈は推測する。


「日本政府直属魔法対策会? 何だこれ、聞いたことないけど」


「その名の通り、日本政府に属する集まりですよ。立ち話も何ですし中に上がらせてもらっても?」


「まあ……いいですけど」


 悪い人間なのか判断がつかないが敵意はない。見極めるためにも神奈は家の中に入れることにして、扉を全開にする。

 一応案内をして食卓の席に着いた神奈と石橋は会話を続ける。


「それで? 石橋さん、わざわざあんな悪趣味な呼び出し方をした目的は?」


「それについては本当に申し訳ない。君の友達を想う心を利用したことは謝罪します。だがああでもしないと君が出てこなかった。居留守なのは分かっていたから、少し強引になってしまいました」


「……いや、あんなこと言わなくたって出て……出て……面倒な時は出ないわごめんなさい。それで話があるんですよね?」


 石橋は「ええ」と頷く。


「まずは(わたくし)の仕事を簡単に説明させてください」


 石橋は語る。

 日本政府直属魔法対策会。通称――日魔対(にちまたい)


 仕事は多岐にわたり、重要視されるのは魔法関係の情報規制と、危険な魔法使いの監視。ほとんど休日がないブラックな集まりだが、政府から払われている給金は多い。


 魔法使いの監視については監視専用の魔法を使用して、対象にバレないよう実行している。もしも監視対象が魔法について多くの人間に話したり、証拠を動画サイトなどにアップした場合、監視対象に特殊な処置をすることで対処しなければならない。


 ――と、そこまで聞かされた神奈は疑問を持つ。


「どうですか? 大まかに理解してもらえたと思うのですが」


「うーん、まあ、なんとか」


「あまり納得がいかない部分があったようですね」


 徹底、とまではいかないが魔法を規制している政府。簡単な説明を受けた神奈は前世ありきのとある違和感を抱く。


「……政府は魔法を認識してるんだなって思いまして。私の周りじゃ魔法を知っている人間なんてほとんどいない。どうして魔法があることを発表しないんですか?」


 違和感があったのはそこだった。

 この世界は魔法がある。そう神奈が転生の間で会った老人は言っていたので、神奈はてっきり魔法文明が普及したファンタジー世界なのだと疑っていなかった。しかし現実は前世の世界とあまり変わらず、魔法についてはほとんどの人間が知らない。だというのに政府は認知しているとなれば、どうして魔法を周知させないのかという疑問が出てくる。


「もし魔法が普及した場合、どのような事態になると思われますか?」


 両目を瞑った神奈は頭を働かせ、解答を導き出す。


「……なるほど、なんとなく分かりました。つまり、魔法少女の価値が下がるということですね!」


 予想外な答えだったようで石橋は目を丸くする。


「魔法が使えるなら幻想であるはずの魔法少女の価値が下がってしまう。なぜなら自分達が魔法少女になれるのだから! そう、このままいけば魔法少女ゴリキュアのアニメ打ち切りの可能性まで出てくる! 政府はそれを危惧している!」


 幻想が常識に変化すると様々なモノが変化していくだろう。アニメや漫画などの創作物も多大な影響を受ける一つだ。


 例えばロボット系の話。あれらが感じさせるロマンは巨大ロボットに乗れないという常識によるものが大きい。もしも巨大ロボットに普通に乗れる世界になってしまえば、そういったものに感じるロマンは減少していく。普通に乗れるならフィクションではなく日常ものになってしまう。もちろんそれがつまらないわけではないが人気は下がるだろう。


 魔法少女系も同じだ。もし日常的に魔法少女がいる世界になったら、今まで憧れていた気持ちやら何やらが失われる。大好きなアニメの打ち切りに繋がるというのなら神奈だって反対する。


「あー、うん。そうですね、そういった可能性もありますね。しかし私が言おうとしていたのは全く別でして」


 しかし熱を持って語った神奈とは正反対で石橋は冷静に語る。


「――犯罪者の増加プラス戦力増強」


 納得のいく理由が話されたことで神奈は顎に手を当て「なるほど……」と呟く。


「誰でも魔法が扱えるというわけではないですが、存在を公にしたら魔法使いの人数は日本だけでも百万を越えるでしょう。その中にいったい悪人がどれほどいるか。上層部は恐れているのですよ、悪が力を得た社会を」


「当然といえば当然か。使い道を間違えれば一気に危険な代物へと変わっちゃうからな……まともな魔法ならの話だけど」


 魔法といっても神奈が使えるものは大した影響力を生まないだろう。

 誰かを出っ歯にする? もはや宴会芸だ。他の魔法も大抵は使い道が狭い。


「だからこそ広めるのは慎重に、じっくりとやっていかなければなりません。本当に人々に知れ渡るのは甘く見積もっても十年以上先の話でしょう」


 いきなり世間に魔法が実在しますなどと宣言しても妄言として扱われるのがオチだ。まずは下地がなければ人々は信じない。

 そこで石橋は「まあ」と続ける。


「実際のところ、上層部は優位性を維持したいだけでしょうがね。自衛隊や警察には、一般の方には知られていない魔法専門のチームが存在していますし。そういった人材の育成のために学校まで用意していますから」


「へぇ、でも明らかに身体能力高い奴とかいますけどね。魔力も使ってる人なんてざらに居そうだなあ」


「確かに一般人の中には超人クラスの者もいますが一握りです。身体能力の面だけでいえば才能さえあれば相当伸ばせますしね」


 普段の神奈なら魔法専門学校などに心惹かれて興味を示していただろう。だが今の神奈は別のことに気を取られている。

 ここまで色々と話したが目前の男、石橋は日本政府に属するエリート中のエリートといっても過言ではない男。彼が一小学生である神奈に魔法や自分について説明しに来るとも思えない。つまり何かしらの目的があるということで、無自覚の内に何か重大なミスを犯してしまったのではと神奈は考えた。


「……あの、私って何かしましたか? 日本政府直属の組織がわざわざ接触してくるなんて、よく考えたらヤバいことですよね?」


「いえ、そんなことはありませんよ。制裁や記憶操作などのために接触しに来たわけじゃないですから。今日来たのはあなたにこれを渡すためです」


 さらっと恐ろしいことを口にした石橋が手渡してきたのは一枚の紙。若干見覚えがあるその紙を神奈は受け取る。


「これは小切手といいます。これを銀行に持っていけば記載されている金額が手に入りますよ」


 見覚えがあると思えたのは前世の影響だろう。漫画やドラマにだってこういったものが出てくることはある。

 先程神奈は石橋が制裁や記憶操作などと言ったことを恐ろしいと思ったが、もっと恐ろしいのはこの小切手の方だ。小切手に記載されている金額はゼロが八個も並んでいる。つまりさらっと手渡されたのは――


「い、一億円……?」


 小学三年生が手にするには多すぎる額である。宝くじでも一等が当たったレベルの大金。こんなものをポンと渡されて驚くなという方が無理だ。


「い、いや、いやいやいや! ちょっと待ってください!」


 叫んだ神奈に石橋は「何か?」と冷静に対応する。


「なんで急に私にこんな大金をくれるんですか!? それも政府に属しているような人が! はっきり言ってありえないでしょ!」


「そうですね、やはりいきなりすぎましたか。最初から説明しましょう」


 順序が違ったのだ。神奈にはこんな大金を突然渡されるような善行をした覚えはない、というか普通何をしても渡されない。そこのところの理由を最初から説明してほしかった。


「事の発端は六月頃、宇宙から飛行物体が地球へとやってきたことでした」


 宇宙という言葉に神奈は目を丸くする。

 そう、心当たりがある。宇宙関連というのならほぼ確定だろう。


「宇宙人が地球に降り立ったのです。もうここまで言えば分かるでしょうが、あなたが戦った宇宙人です」


 七月の中旬辺りのこと。

 神奈は惑星トルバという場所から送られて来た宇宙人と戦闘を繰り広げた。侵略という仕事をそこまで好んでいなかった彼ら三人とはギリギリ和解して、今では地球でのんびりと暮らしている。


「あいつらのこと、政府は知ってたんですか」


「ええ、実は意外と地球には宇宙人がいるんですよ。私達の仕事にはそういった他惑星から来た生命体の監視も含まれています。監視といっても問題なしと判断されるまでですがね」


 トルバ人が来た時から宇宙人も珍しくないかもと神奈も思い始めていたのだが、まさか本当にそうだとは思っていなかった。地球に宇宙人がそこそこいるなどといったい誰が信じられるだろうか。もし全員が侵略目的だったなら悪夢である。


「まあ問題は宇宙人が来たことではなく、どんな存在かです。彼ら三人にはもう監視などついていません。……ですから、問題となったのは五……いえ、四人目でした」


 四人目で思い出すのはトルバ人最強であるエクエスとの一件。

 まさしく死闘としか表現出来ない戦闘を繰り広げた。生命が滅んだ一つの惑星が木端微塵に砕け散ってしまったほどだ。もし地球で戦っていたら間違いなく星に甚大なダメージがあっただろう。


「彼については目が飛び出るかと思いましたよ。あなたとの戦闘は監視魔法でもほとんど見れませんでしたけど、脅威だけは伝わってきましたからね。彼をあなたが止めてくれなければ今頃この星はおしまいでした。つまりその小切手は地球を救ってくれた報酬なのです」


「……納得しました。エクエスとの戦闘報酬だっていうんなら納得するしかないです。だって普通に死にかけたし」


 金のために頑張ったわけではないが貰えるなら神奈は貰う。

 一億円という大金を貰わない方が損だ。それ以上を要求しても何ら問題ないくらいに神奈は命を張り、地球に住む何十億という人々を守ったのだから。


「しかし監視魔法でしたっけ。そんなものがあるならもっと早くに来れそうですけど……もうあれから一か月以上経ちますよ?」


「なぜかあなたには魔法が効かなかったもので。監視していたのはその宇宙人の方だったので、あなたを捜し出すのには随分と苦労しました。まあそんな苦労は置いておき話はもう二つあります」


 監視魔法が効果をなさなかったのは神奈に宿る加護のせいだ。

 害となる特殊能力や環境から防護する役割を持っている神からの贈り物。居場所特定に苦労させたのは素直に神奈も悪いなと思う。


「一つは(わたくし)の予測となります。神谷神奈さん、あなたは転生というものを経験していますね? それも別の世界から、俗に言う異世界転生というものを」


 神奈は目を見開いて愕然とする。

 いきなり自身の秘密を暴かれて呆気に取られ、口を半開きにして「え、どうして」などと無意識に声を漏らす。


「調査して率直に思ったことです。あなたは並の小学生とはかけ離れた勇気、思考能力、身体能力、魔力、全てを持ち合わせている。藤原家のご令嬢も中々ですがあなたと比べれば誤差のようなものだ。これらの力は転生した際に手に入れたのでは?」


「そ、そうです。私の身体能力とかは全部転生した際に与えられたもので……。でもどうしてそんなことが分かるんですか……?」


「政府は、というより我々が転生者の存在を知っていたからです。実はあなたの他にも転生者なる者は存在しているんですよ。そういった前例も踏まえて思考した結果ですね」


 転生者が神奈一人だなどと思っていたことはない。

 強い未練を持つこと、もしくは強制異世界転生トラックに轢かれること。転生者になる条件はこの二つなので少数なのは間違いないが神奈以外にも当然いる。そう以前から思っていた。

 ただ見抜かれたことだけは驚き、懸念すべきことを確認する。


「その転生者には何か特別な処置を……?」


「ええ、魔法を大勢の前で、認識阻害もなしに披露しようとしたので。簡単な記憶操作を行って処置しています。お会いになりたいのならば可能ですが?」


「……いえ、別に会いたいわけじゃないんでいいです」


 不安だったのは転生者への対処のみ。別の転生者も気になりはするが会いに行きたいというほどではない。


「ああそれと、あなたが以前いた世界がどんな世界だったかはどうでもいい。ただこちらの方針には従ってもらいたい。魔法は然るべき時に然るべき方法と場所で発表しなければいけませんからね。今では多少の超人技でも驚かないくらいに人間の価値観は変化しました。今後もオリンピックなどの場で超人的な記録を出し続けて、せめて世間には超人的な身体能力に対してだけでも受け入れさせなければ」


 この世界の住人には異様に身体能力が高い者がいる。魔力で補っている者もいれば、素で強い者もいる。

 話に出たオリンピックでも魔力の有無はともかく異常な記録を更新し続けていた。百メートルを二秒で走ったり、ウェイトリフティングで軽々と五百キログラムを持ち上げたり、アーチェリーで一キロ離れた的の中心に当てたりなど、神奈の前世では考えられないような記録である。


「で、もう一つの話っていうのは」


 話は二つと言っていたので神奈が先を促し、石橋が話す。


「もう一つはシンプル。今後、あなたが政府の方針を無視しない限り、もう我々があなたの前に姿を現すことはないということ」


 今日を最後に会わないと聞いた神奈は「どうしてですか?」と問う。

 友達というわけでもないが会わないと言われると寂しさが心に溜まる。


「上層部はあなたのことを恐れている。あの脅威から救った救世主に対して失礼でしょうが人間の弱い部分かもしれません。もしあなたが政府に牙を剥けばこの国はお終いですからね」


「そんなっ、私はそんなことしないですよ!」


「もちろん(わたくし)は信じています。あなたは正義心の強い善人ですから」


 善人と言われて神奈の表情は曇る。

 暗くなった顔を思わず石橋から逸らし、はっきりしていない小声で呟く。


「別に、私はまだ善人ってわけじゃ。ただ、正しくあろうとしているだけで。私はまだ善人なんて言えるような人間じゃ……」


 気まずそうにした神奈に石橋の「いいえ」という言葉が届く。

 どういうことかと神奈は石橋の方を見やる。


「誰かのために命を燃やして戦う、助ける。手段はなんであれあなたは正しいことをしています。少なくとも(わたくし)にとってあなたは立派な善人ですよ。過去に何があったか知りませんが(わたくし)は今のあなたしか知らないので、断言出来ます。神谷神奈という人間は良い人です」


 石橋の長い肯定の言葉に神奈は僅かに口元を緩めた。

 それから神奈がわざわざ話に来てくれたことにお礼を言い、石橋は頭を下げてから帰っていった。もう会うことのない男だろうが神奈の記憶には残り続けるだろう。


 再び一人と腕輪一個になってから神奈は吐息を漏らす。

 精神的疲労から出たものである。さすがに日本政府に所属するような人間と会話し続けるのは緊張したものだ。


 少しして手元にある小切手へと視線を落とした神奈は「一億か」と呟く。


「しかし、神奈さんは見事に騙されましたね」


 石橋が帰ってからまた話し始めた腕輪に「は?」と神奈は返す。

 騙されたというのが分からない。自分的には何も騙された覚えがないのだから。


「いえ騙されたというよりは、侮られたという方がしっくりきますかねえ。だって神奈さんよーく考えてくださいよ。地球を救った報酬が一億ってしょぼすぎるでしょう。本来ならもっと貰えるようなことを神奈さんはやってのけたのに」


「え、マジ? 一億ってしょぼいの?」


「はい。石橋さんも良い人っぽいですが上層部には逆らえなかったのでしょう。あの人が金額を決める立場だったなら桁がかなり違ったと思いますよ」


 仮にも日本政府。金ならば山ほど所有しているはずだ。

 自分達を救ってくれた恩人に対して一億円。それでも神奈にとっては大金だが本来なら兆以上の額が払われてもおかしくない。一応小学生だからと政府側に甘く見られた可能性は十分ある。


「神奈さん、今からでも追いかけましょう! そして値段交渉をするのです!」


「……いや、いいや。一億だって私は十分だもんね」


 元々予想外に手に入った金だ。貰えるだけでもありがたい。

 石橋もなんだかんだ苦労人なのだろうと神奈は思う。自分が負担をかけて相手を苦しめるというのは神奈の求める正しさとは違う。

 神奈は「さーてと」と言って背と両腕を伸ばす。


「そろそろ報告しておかなきゃな」


 なんだかんだあって、神奈は今まで夢咲への報告を完全に忘れていた。


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