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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十五章 神谷神奈と破壊の帝王
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336 不満――待っていられない――


 急ブレーキをかけたかのように速度を急速に落とし、神奈達はみるみるとスピードをゼロに限りなく近く落としていく。

 パンサーの目線は神奈に向いており、二人の視線は交わる。

 エミリーとハヤテは目前の男が四神将の一人と気付きはしないが、その感じられる覇気は凄まじいので強敵認定して武器を構える。


「本来なら貴様のような者は全身を斬り裂くと、あのとき言ったはずだがな。……それでも来たということはそうなる覚悟を持ったということでいいのか?」


「いや、私はっ――」


 パンサーは抜刀した武器を振り上げて、神奈目掛けて振り下ろす。

 刀が何もかもを置き去りにして神奈を斬り裂こうとしたとき、それを阻止するためにエミリーの細剣とハヤテの刀が交差して食い止める。


「ぐっ、何をしている神奈! ボサッとするな、戦え!」


「今私達が止めなければあなた死んでましたよ! さあ一緒にこの只者ではない男を倒しましょう!」


「仲間に救われたか。どうやら随分と強い仲間を連れて戻ってきたらしい。だが貴様、貴様からは死に抵抗する意思すら感じ取れない。いったいその目で何を視て、その耳で何を聴き、その心で何を思う?」


 本来なら必死に抵抗している仲間がいるなかで自分だけ戦わないなど恥もいいところだ。しかし今、今だけは神奈の中から闘争心が消え失せていた。

 本人も詳細は全く把握していないが、神奈はアイギスのことを思うと戦いたいと思えなくなる。


 もちろん死を寸前とした危機に陥れば防御反応が出て戦うかもしれない。パンサーが二人を殺したら怒りで確実に殴りかかるだろう。だがパンサーから殺気が来ないこともあり神奈は動けないでいる。


「……今は誰とも戦いたくない。こんなの私の勝手な我が儘なのは分かってるけどさ、戦いたくないんだ。少なくともあの人の近くでは。……だからパンサー、あの人に危害は加えないから……退いてくれ」


 細剣の中心で刀を止めているエミリーは正気か疑う目で神奈を見やる。


「神奈!? いったいどうしてしまったんですか、なんで戦わないんですか! こんなやつ、帝王の手下に成り下がったクズに話なんか通じない。必要ない。ただ殺してしまえばいい!」


「落ち着けエミリー! もし敵意がないなら無意味な戦いだ。おい貴様、パンサーだったか、どうなんだ。今すぐ刀を納めるなら殺さないでおいてやるが」


 帝王に、その配下に、強い怒りを向けるエミリーでは話にならない。ハヤテは冷静に状況を見極め、今もなお刀に力を込め続けているパンサーに敵意の有無の確認を行う。


「……神奈、貴様は一度アイギス様と関わっている。アイギス様はたまに貴様の話をするようになったし、会いたがってもいた。……もし危害を加えないというのなら通してもいい」


「パンサー……ありがとう」


 二人の妨害がなければ神奈へ振り下ろされている刀から力が抜けて、一度圧倒的速度で二人の武器を弾くとパンサーは納刀する。

 しっかり手に持っていたことで武器は飛ばされなかったものの、恐るべき早業に二人は目を見張った。目で追うのも難しい程の剣速は純粋に身体能力や技量が二人より上なことに他ならない。


 ハヤテは敵意が消えているのを確認して刀を納める。エミリーも鞘に細剣を納めると思いきや、高速の刺突を繰り出そうとしたので神奈が腕を掴んで止めた。


 なぜと困惑するエミリーに神奈は、視線を向けず「頼むからやめてくれ」と苦しそうな声と表情で語りかける。

 エミリーが帝王及びその部下に攻撃的なのは理解しているため心苦しいのだ。神奈も出来ることなら自由にさせたいとはいえ、敵意の消えた相手に攻撃するのは見過ごせない。


「くっ、神奈、おかしいですよ……」


 不満そうな表情でエミリーは細剣を鞘に納めた。


「では入っていいぞ。ただし貴様だけだ、他の二人が入ればその瞬間に殺す」


 パンサーが扉の前から一歩横にずれる。


「ハヤテ、エミリー、別に先に行っていいんだからな。私のことなら心配しないでいいからさ」


「いや、俺はここで待つ。念のためな」


 エミリーは口を閉じたまま目を下へ逸らし、扉に背を向ける。歩き出す気配はないので神奈は「悪いな」と告げてから部屋へと入っていく。

 続いてパンサーも入っていき扉の前には二人だけが残された。


 部屋内部の音を拾おうと耳を澄ませてもハヤテには何も聞こえない。諦めてただ待つことにした彼だったが、エミリーの方は顔を上げて足を動かし始める。


「どこへ行く」


「すみませんハヤテ。私は敵の本拠地でジッとしていることなんて出来ません。すぐにでも帝王をこの手で討ち取って一刻も早く平和を取り戻したいんです」


「待て、一人では――」


「ここで静かに待っていられないんです。私は一人でも戦います」


 そう言って去っていくエミリーをハヤテは言葉で止められなかった。


「課題は山積みか……」


 周囲を纏められてもガワだけだ。一人一人が心から信じてハヤテに従ってくれるわけではない。

 エミリーを追いかけたいところだが、パンサーという男の名が正しいのなら四神将の一人だ。到底神奈だけを置いていける状況ではない。深い溜め息を吐きハヤテは顔を上へと向けた。



 * * *



 帝王城前ではホウケン村の人間プラス二人が兵士達と戦闘を繰り広げている。

 キリサメが開発した超威力の手榴弾を入口付近で爆発させたことで、一応本人が抱いていた希望である城の破壊は叶わなかったものの、敵の戦力を入口に集中させる目的は達成していた。


 兵士の実力はそれなりに高い。数値で表せば500前後といったところで一般人が勝てるような相手ではない。

 村人達の平均的な実力を数値で表せば350前後といったところだ。それでも頑張って、二対一の状況をキープし続けることでなんとか対抗している。


「はあああああっ!」


 エイルが槍で兵士の一人を突くと、剣で防御されたものの衝撃で吹き飛ばす。

 これはエイルの力が強いからではなく武器本来の性能によるものだ。グレンが製作した武器は全て魔力が込められた武器――魔導武器であった。


 魔導武器とは魔力がない者でも振るえば魔法が発動する武器。

 戦力差を埋めるには持ってこいの性能には誰一人文句などない。むしろ魔導武器という並の職人が一か月はかけて作るようなものを、一年経たない間で全員分、つまり百人分近く用意してくれたグレンに敬意を払っている。


「チッ、調子にのぎゃばっ!?」


 ――衝撃で吹き飛んだ兵士の背中を爆発が襲う。

 連携が上手くいったことでアリアは「やった……!」と小さくガッツポーズする。

 アリアが使用しているのはエイルと同じ形状の槍であるが、突く度に小規模の爆発を起こす危険物だ。物騒すぎる武器だが弱き者でも戦える工夫がされた武器なのでアリアにピッタリである。


「そい」


 どこか間抜けな声を発したキリサメが持つのは――バズーカ砲だ。

 引き金を引いた瞬間に小型の槍のような弾が発射され、前方へと着弾してすぐ大爆発を起こし兵士を一気に五十人程は戦闘不能へと追いやった。一応大規模な攻撃をするにあたって、味方に極力被害の出ないよう計算しているため元村長一人しか怪我をしていない。


「むおおい! 儂も吹き飛ばされたぞ!」


「まだまだ元気だな。よしもう一発」


「ぎゃああああああ!」


 バズーカ砲による爆発が村人達の優勢を作り出す。

 不憫な一人が、死なないものの爆風などで吹き飛ばされる犠牲を伴っていても、一気に兵士を蹴散らすキリサメのおかげで全体の士気は上がった。


 しかし士気が上がるとはいえホウケン勢が若干劣勢になってくる。

 実力の低い者達から傷付いていき、エイルやアリアも押され気味になる。


「耐えろよみんな……あいつらがきっと、戦いを終わらせてくれる」


 再度バズーカ砲を構えたキリサメが、四人の顔を思い浮かべながら弾を発射した。


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