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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十五章 神谷神奈と破壊の帝王
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330 事件4――化けの皮――


 エミリーの家に帰ってきた神奈達三人。

 家に入ったと思えば家主であるエミリーはすぐに白いベッドにダイブして寝息を立てる。その様子に神奈とサイハはゆっくり寝かせてあげようと思い、ちゃぶ台の傍に座り込む。


「すぐ寝ちゃったな」


「泣き疲れて眠るなんて子供、いえ赤ちゃんレベルね」


 神奈はサイハの言葉で先程のエミリーの状態を思い返す。

 まだ時間も経っていないので記憶に新しいそれは、まるで幼い子供かのように泣きじゃくる姿は鮮明に思い出せる。


 大人びた態度、丁寧な言葉遣い、それらは笑里と似ても似つかなかったのにあの時だけは見間違えている。神奈には普段の方が背伸びしていて自然な振る舞いをしていないのではないかと、本当のエミリーはもっと笑里に近いのではと思えた。

 気になった神奈は「なあ」とサイハに話しかける。


「さっきのエミリーが泣き崩れた時、最後らへんで丁寧な言葉遣いが消えてたけどたまにそういうことってあるのか?」


「……あれは珍しいわ。エミリーがあの化けの皮を剥がしちゃうなんて……よっぽど辛かったんでしょうね」


「化けの皮? あいつ、本性とか隠してるのか?」


 悪い意味で使われる言葉を聞いて神奈はどういうことかと困惑する。

 エミリーが悪人ではないことくらい共闘や共生を通して知っているつもりだ。別に全てを曝け出せるような関係になったと自惚れるつもりはないし、会って一月も経っていないが、出来るだけ隠し事はしてほしくないと神奈は思っている。もちろん自身が重大な事実を隠しているので誰かに言っても説得力皆無だが。


「別に本性だとかそんな話じゃないわよ。ただ、エミリーは無理して丁寧な言葉を使っている。いえ、今では使いすぎてそちらの方に慣れてしまったのかもしれないけど」


「無理してって、なんの意味があるんだよ」


「さあ、なんでしょう。……あんな丁寧言葉を使うようになったのは確か、父親を亡くしてからだったわね」


 話には出なかったとはいえ、エミリーの両親が健在でないことくらいここで過ごす神奈は分かっていた。現代と多少似た境遇なんだなと思ったくらいで気にもしてなかったが。


「良い人だったわ。村で一番家族愛溢れているとまで言われるくらいね。私とエミリーの話すキッカケを作ってくれたり、色々気を回せる人よ。それが突然、家族旅行で近場の湖に行ったとき、謎の鉄箱に潰されて息絶えたと聞いてるわ」


(鉄箱……トラックかな?)


 都会から離れて森の中で暮らしている民族なら知らないのも無理はない。神奈としては見慣れたものだが、森林で走っている姿など発見出来ないだろう。ならばなぜトラックらしき鉄箱が森に来たのか疑問だが、強制異世界転生トラックなどの理不尽を体現したような代物なら可能性はある。


「それまでエミリーの喋り方は年相応の子供そのものって感じだったけれど、父親を亡くして以降妙に大人びた言動をするようになったの。無理に背伸びして大人を演じているっていうのがしっくり来るかしら」


「理由に見当はついてんの?」


「正直なところは分からないけど……おそらく、自分が湖に行きたいって子供らしくおねだりしたことが原因だと思っているんじゃないかしら。もっと自分が大人だったら助かったと、そんな何の確証もない妄想をしてるのよ」


「そんなの、関係ないだろ」


「そうね、でもあの子は信じているんでしょ。だからずっと大人を演じている」


 もしかしたら笑里のイフの姿なのかもしれないと神奈は思う。

 父親の死因が違うといっても、結局はまだ生きていてほしかったと願う寂しがりな少女であることに変わりはない。もし笑里が幽霊を可視出来るようにならなければどんな結末になったのか、神奈には想像も出来ないがエミリーのようになっていたかもしれない。


 答えは無数に存在し、可能性は無限大。しかし現実は一つ。

 選択した人間なりの答えを失くすことなど出来ず、遡ることも出来ない以上もしもなど考えても意味がない。だから神奈はエミリーの選択を否定するつもりはない。


「まっ、私は好きだけどな。なんか新鮮だし」


「今は私もなんとも思わないわ。最初は違和感あったけど慣れたものよ」


 そのとき、寝ているエミリーが「お父さん……」と寝言を呟いた。

 神奈はそれを見て、やはり誰も失いたくないと心から思う。命に代えても守って帝王を討伐すると心の中心に刻み込んだ。



 * * *



 ――帝王城謁見の間。

 立派な玉座に一人の男が頬杖をついて座り込んでいる。

 多少の癖毛である黒髪。整った顔立ちだが、眼光だけで人を殺せるのではというほど鋭い目によって台無しになっている。衣服は様々な模様のある青を基調としたローブ一着。彼こそが世界征服完了を間近にしている帝王その人だ。


「……報告は以上か?」


 彼は正面で、真っ赤なカーペットで跪いている女性に問いかける。

 小柄な体型。梟を模した仮面で顔を隠し、不気味な毒々しい紫のローブを着用している女性――バーズ。彼女は四神将の一員として少し前に起きた採掘場崩壊の件について報告していた。


「いえ、今回の件で追加して報告することがあるんですよねぇ。四神将の一員であるワイルドが死亡したんですよぉ」


「……確かなのか?」


「はい、激しい戦闘の跡が採掘場近くにありましてぇ、そこから直線状に数十キロ離れた場所に死体が転がっていました。一応確認しましたがもちろん脈はありません」


「まさかあのワイルドを殺せる者がいようとはな。ホウケンの連中もなかなかやりおる」


 その言葉にバーズはそれだけしかないのかと疑問に思う。

 バーズがワイルドの死体を見つけたとき、それはもう大きな衝撃を受けたものだ。彼女はワイルドが、四神将が負けるとは思っていなかった。事前に強者が現れたというのはワイルド本人から聞かされていたとはいえ、心の底では格下だろうと慢心していたのだ。


「やはり、ホウケン村の人間が動いたのですかあ?」


「スカルの情報だ。どうやらこの城に攻め込むつもりらしいな」


「なんと愚かな、帝王様へ早々にひれ伏せばいいものを……。それで、そのスカルはいったいどこへ行ったんですかあ?」


「ホウケンに潜入している。直にあの村は滅びを迎えるだろう」


 同僚に対して向けられる信頼にバーズは若干嫉妬の炎を燃やしつつ、同時にそれならホウケン村も終わりだろうと安心する。


 スカルという男についてバーズが知っていることは少ない。

 同じ四神将という立場でも互いに素顔すら知らないのだ。知っているといえば自分と同程度、もしくはそれ以上の実力を秘めているということのみ。ワイルドを負かした相手となれば多少の不安も出てくるが、身体能力しか取り柄のない脳筋と他の面子はレベルが違う。


 バーズは魔力操作。パンサーは剣術。スカルも何かしら帝王を上回るに値する特化した力を持っている。

 ホウケン村がいかに強者を揃えようと、数より質。単純な戦闘しかしない怪力バカのワイルドなら倒す術はあったのだろうが、バーズは自分なら負けないという自信を持っている。もちろんスカルが負けるとも思わない。


「それは安心ですねぇ」


 そう言いつつバーズは立ち上がった。


「これから食事を持って来ますよ。今日は海鮮料理のオンパレード、世界各地から最高品質の魚介を集めて調理していますぅ。きっとお口に合うかと」


「ああ持ってこい、腹が空いた。どうせなら歯向かう連中の命を摘み取った報告と共に食したかったが、奴め、どうやら遊んでいるらしいな」


 帝王は中々排除したという報告が来ないことに苛立ちを覚え、それを和らげるために旨味溢れる食事を食すことにした。



 * * *



 ――ホウケン村とある民家にて。

 家主であるキリサメと、招待されたハヤテが無数の映像をチェックしていた。犯人にバレないよう村中に取りつけられた監視カメラの映像だ。


 現在は真夜中。月光があるとはいえ暗い外でも映像については心配いらない。暗闇の中でもくっきり撮れる暗視機能が当たり前のように付いている。


 骨残し事件を解決に導くため作られた監視カメラ。その存在はエイルやアリア含めたこの家にいる四人しか知らず、間抜けなのは仕方ないが犯人はその姿を晒す。


「まさか……。確かあの被害者の夫婦には子供がいたらしいが……」


「そのまさかだったようだな。こいつが犯人だ」


「ちっ、急いで現場に向かうぞ!」


 空中に表示されている多くの映像の内一つ。

 そこにはつい先程まで人間であった骨と、舌なめずりした赤子の姿。

 赤子の化けの皮を被った悪魔が事件の犯人であると理解した二人は家から飛び出ていった。








腕輪「犯人はミュートさん、あなたです! ……え、違う? いやちょっ、話と違うじゃないですか。当初はミュートが寝返って裏切り者として戦闘する設定だって聞いたのに……」


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