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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十五章 神谷神奈と破壊の帝王
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339 奇々怪々――帝王の力――

 とりあえず12月の初週までには帝王編を終わらせたい所存。








 ――帝王城謁見の間。


 一人の少女と青年の視線が交差する。

 褐色肌。オレンジの髪。サラシにミニスカートと露出度の高い服装。笑顔が似合うだろう少女の顔は険しく、玉座に座っている青年――帝王のことを睨みつけている。


 単独で動き回った少女エミリーは最初の分かれ道に戻って、入口と直線状の通路を進むことにした。そうすると事前にミュートから、いやスカルから得ていた情報の通り謁見の間と呼ばれる部屋に出た。そこには全ての悪の根源である帝王が頬杖をつき玉座に座っていたのだ。


 いきなりの最悪との邂逅にエミリーも最初は内心驚いていた。しかし次第に恨みなど負の感情に心が支配され、丸くなっていた目が尖り現在も睨みつけたままだ。


「余の配下の者ではないな。ホウケンの連中の一人か」


「よくご存知で。私はエミリー、あなたを殺す者です」


「そうか、目測だが確かに貴様はかなり強いようだ。評価に値する。……だが貴様の力では四神将を倒せまい。ワイルドやスカルを殺した者とは別人か」


「……私ではあなたが殺せないと?」


「ああ、不可能だ」


 実際、神奈の協力がなく一人だったならワイルドにも勝てなかった。スカルも同等の強さとした場合エミリーは確かに実力不足なのかもしれない。それを理解していても、はっきり勝てないと宣言されてしまうと怒りが込み上げてくる。


「余には誰も勝てん。絶対的な破壊者であり、実在するなら神すらも屠れる」


「戯言を。……諸悪の根源、あなたに一度訊いてみたいと思っていたんですよ。あなたはなぜこんな酷いことを、なんの意味もない支配と破壊を繰り返すのですか」


 エミリーには帝王のやっていることの意味が理解出来なかった。

 世界征服することもだが、場所によっては住んでいた者もろとも破壊したという話もある。征服するのなら壊したり殺す必要などない。場合によっては必要あるのかもしれないがこれまで壊滅した国は五十を超えている。


 世界征服という分かりやすい目的を宣っているわりに、帝王は好き勝手に暴れ回っているようにしかエミリーは思えなかった。


「……邪血というものを知っているか?」


 エミリーは知らない言葉に「邪血?」と帝王の言葉を復唱する。


「邪なる血液。古来よりその血を宿した者は世界に災いをもたらしたと文献に残っている」


「それがあなただと?」


「そうだ。正確なところ遺伝なのか突然変異なのか分からないが余も邪血を宿し、厄災となる運命(さだめ)を持っていた。過去形なのは、幼少の頃はなすすべなく己が血の破壊衝動に支配されていたからだ。今は違う。完全に血の意思を制御し、破壊衝動に苛まれることもない」


「だったらなぜ今のような事態になっているのです、矛盾しているではないですか。あなたは破壊と支配を繰り返している」


 邪血云々をエミリーは聞いたことないが、破壊衝動が関係しているというのならもう暴れる必要もないということ。制御したのなら今暴れていることに説明がつかない。


「確かに衝動は消えた。だが余は破壊を繰り返した幼少の頃に知ったのだ。この世界は不自由で、不条理で、どうしようもなく生きづらい場所なのだと。だから余は不必要なものを全て壊すことにした。この世界の帝王として君臨し、法などのしがらみを全て、真上から粉砕する。そして真の自由を手に入れる。余が選別した生命体と共にこの世界は生まれ変わる」


「……やはり聞くだけ無駄でしたね。全く共感できませんし、理解もしたくない。あなたはここで確実に殺します」


「凡庸な只人では理解出来んだろう。……それと貴様、共感や理解をしたとして余の殺害予告を撤回するつもりがあったのか? 余にはそう見えんのだが」


「ええ推察の通り、どんな理由であれ私はあなたを殺します。今、すぐにでも!」


 エミリーが帝王目掛けて一直線に駆ける。

 走りながら細剣を鞘から抜き刺突の構えをとる。しかし帝王はそれを見ても立ち上がろうとせず、頬杖をやめたり腕を動かすこともなかった。


(動かない? どこまで人を舐めくされば……いえもういいでしょう。その傲慢さに溺れ死ねばいい!)


 エミリーは細剣を帝王の眉間へと突き出し――皮膚に触れて動きが止まった。


(なっ、剣が……進まない!?)


 恐れて目を瞑ることもなく帝王は平然とエミリーを見据えている。

 皮膚で刺突武器を止めるなどエミリーは聞いたことがない。肉体にも魔力を纏わせている以上並の武器は通用しないが、自分も魔力を細剣に纏わせている以上関係はないはずであった。仮に出来るとすれば異常に帝王の魔力量が多いのか、それとも特殊な固有魔法によるものかの二択だろう。


 帝王の実力は自分をそれ程まで上回っているなどエミリーは信じたくない。

 元々エミリーは強い力を持っていなかった。今の強さまで来れたのはハヤテの特訓相手として幼い頃から付き合ってきたからであり、自分が一番強いなどと傲慢さに溺れることはない。しかしある程度強い自覚はあるゆえに、帝王へ通用しないのはそういう類の固有魔法であるのだと思い込む。


千惨刺殺(サウザンドレイ)!」


 千回の刺突を一瞬のうちにエミリーが繰り出す。

 その刺突千回を受けてなお帝王は何一つ反応を見せず、つまらなそうな視線を向けてくるだけである。


 様々な模様のある青を基調としたローブにも傷一つない。まるで刺突の威力がなくなってしまったかのようであった。

 しかし固有魔法でも穴はどこかにある。エミリーはそう信じて細剣を再度構える。


「無駄だというのがまだ分からないのか?」


「本当に無駄かどうか、その目で確かめてみるといいでしょう!」


 エミリーの細剣は真っ直ぐに――帝王の右目へと向かう。

 眼球とは人体の中で鍛えられない場所の一つ。そこを突かれてなんのリアクションも取らないなら特殊な固有魔法で決定だろう。


 概ねエミリーの攻撃方法は正解であった。

 帝王は右目へと迫り来る細剣を首を傾けることで躱したのだ。


 弱点とでもいうべき穴を発見してエミリーの口角が僅かに上がる。未だに固有魔法かどうかすら、そうであったとしてどういった効果があるのかは憶測すら出来ないが、攻略方法が見つかったならどうでもいい。ただその一点を突けばいいだけなのだから。


「いくらなんでも眼球はダメージを負うでしょう? 致命傷には遠いでしょうが串刺しにさせてもらいますよ。座ったままのことを後悔しなさい」


 魔力感知が使えるなら視界にこだわる必要もないが十分戦力は下がる。両目が見えないとなればそれだけで不利になるケースはかなり多い。

 エミリーは再び帝王の右目へと細剣を突き出し――玉座の背もたれに直撃する。


「なっ、消えた……?」


 玉座の背もたれにも通用しなかった事実は置いておき、エミリーは帝王が霧のようになって姿を消したことに注目した。


 姿を消す方法なら大きく分けて透明化、瞬間移動の二つ。しかし透明化の場合は帝王を貫通していることになるので除外される。つまり帝王はエミリーの死角へと瞬時に移動したのだ。通常の魔法の〈テレポート〉によるものではなく固有魔法によって。


「どこへぐうっ!?」


 右脇腹に突然の衝撃が来てエミリーは吹き飛び、何度か床を転がった後で回転の勢いを床に密着させた左手で徐々に殺していく。そして何が起きたのか確認するため顔を上げると、帝王は蹴りを放っただろう体勢から足を戻すところであった。


(蹴られた……? それにしてはダメージが……)


「今の蹴りは手加減した。一つだけ問いかけないといけないことがあるのでな」


「何も答えるつもりはありませんが」


「まあそう言うな。余に勝てないのは理解出来たかと思ってな。……四神将も空きができてしまったし、どうだ? 余の配下に加わらないか?」


「笑えない冗談ですね。あなたを倒す方法ならもう分かっているのですよ」


 エミリーは提案を一蹴して帝王へと一直線に向かう。

 不思議なことに先程の蹴りは痛みがまるでなく本当にただ吹き飛ばされただけであった。体へのダメージがないため全力疾走することが出来ている。


 疾走するエミリーは真っ直ぐに細剣を突き出す。

 今度は消えることなく、必要最低限の動きで避けた帝王が重い蹴りを右脇腹に繰り出してきた。


 あばら骨が二本折れたエミリーは「ぐあっ!?」と悲鳴を上げ、入口近くの壁に叩きつけられる。肺の空気が全て口から出てしまい苦しいので呼吸が速まった。

 立とうとするとあばらが痛むが関係ない。帝王を殺すために再び立ち上がろうと手足を動かすが、立つ前に頭を踏みつけられる。


「今のも手加減したわけだが、もう分かっただろう? 余には勝てん。降参して寝返るのが賢い選択だ。配下に加われば貴様の要望もなるべく聞いてやろう」


「私の、望みは……帝王軍の崩壊、及び、あなたが死ぬことです……! 聞いてもらえるというなら……今すぐ全人類に詫びながら、自決しなさい……!」


「ふむ、なるほど。余が平和を乱したことが気に入らんようだな。しかしなエミリー、破壊と支配の先に真なる平和が待っている。どれ、従いたくなるように……いや素直になってくれるように手助けしてやろう」


「……私は決して、あなたに与することはない!」


 たとえ死んだとしても、エミリーは帝王の味方になるくらいなら死んだ方がマシといつでも言える。

 エミリーは平和が好きであった。両親が生きていた時間が大好きで今でも時折夢に見る。今が嫌いというわけではないが将来に対して悲観的にはなっていた。


 だからこそかエミリーは平和を愛している。

 平和を乱す者は許さない。殺してでも食い止めたいと思っている。


 もう自分のように悲しい気持ちになる人々を一人でも減らすため、世界の敵は刺し違えてでも息の根を止めたいと思っていた。


 どういうわけか思考が乱れる。それでもエミリーはその初心を忘れない。

 真なる平和を作るためにエミリーはエミリーという人間でい続ける。たとえ何をされようと彼女は平和の敵を殺すのだ。命に代えてもという覚悟を持って、殺すのだ。


「気絶したか。まあいい、余は貴様の目覚めをのんびり待つとしよう」


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