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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十五章 神谷神奈と破壊の帝王
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329 新作戦――死で晴らす――


 ――神奈がホウケン村に来てから四日目。


 作戦会議用の家屋で「くそがっ!」とハヤテは壁を殴る。

 その様子を悲痛な面持ちで何も言えずに眺めているのは神奈、エミリー、サイハ、キリサメ、村長、ルド、エドの――骨残し事件捜査開始時のミュートを欠いた七人。


 現在は午前六時。直前までルド、エドの二人は見回りで起きていたために大丈夫だが、他の面子は眠気に襲われていた。――この場所に来るまではだが。

 ハヤテが何度も「くそがっ!」と叫び壁を殴打しているのも、この作戦会議用家屋にルド、エドの二人が運んで来た三つの人骨が原因だ。


 二人の話によれば交代するためのランプが前任者からいつまでも届かず、仕方なく前任者を待たずに見回りをしていたところ、地面に放置されていた雪のように白い人骨が三つを発見した。

 おそらくは前任者の夫婦のものだろうということは誰にでも想像出来る。現在までにハヤテが村中捜しても見つからなかったので想像通りなのだろう。


 しかし問題は人骨がもう一つあるということ。

 急いでハヤテは村全体を見回っていなくなった人間を捜した。

 その結果、村にいないため骨になった可能性が高い人物は一人。


「なんでっ、なんであいつなんだ! グレンに続いて、なんでミュートまでいなくなるんだ!」


 ――事件捜査開始時から協力していたミュート。ハヤテの親友だった。

 信じたくないとはいえ、骨になったのが真実なら親友を二人も失ったことになるハヤテの心は傷付いている。同時に犯人に対する憎悪と怒りが爆発的に膨れ上がっている。


 血走った目で壁を殴り続ける姿を目の当たりにして、神奈達は掛ける言葉が思い浮かばなかった。

 話しかけられない以上、話し合いはハヤテを抜いた七人でするしかない。


「しかし、一度に三人か……。このまま後手に回り続ければいずれホウケン村は」


「弱気にならないでください村長。次の事件までに犯人を捕まえればいいのですから」


「それが出来ると思うの? 今はまだ情報がまるでないのよ?」


「ならこのまま指をくわえて滅びを迎えろとでもいうんですか! サイハ、あなたはホウケン村が滅んでもいいと!?」


「そうは言ってないでしょ! だけど現状もう……打つ手が、ないじゃない」


 サイハの言う通り、今から神奈達が出来ることなど何も浮かばない。

 今も含めて村人一丸となって見回ることにより不審者を炙り出そうとしている。それ以外の手立てを誰も思いつくことがない。


「キリサメ! 村一番の頭脳を持つあなたなら何か、何か……!」


「……今のところ、俺達に出来ることはなさそうだ」


「そんなっ、もっと、もっと考えてくださいよ……もっと……」


 エミリーは俯き、気を抜けば倒れるくらいに力が抜けていく。


「やめなさい、みっともなく誰かに縋ってばかり。あなたも自分に出来ることがないって分かっているんでしょう? みんな、同じなのよ」


 サイハの厳しい現実を受け入れた言葉にエミリーはしばらく無言でいると、今度は神奈の方へと顔を向けて今にも泣きそうな目で見つめる。


「神奈、何か、何かないですか……? こんなこと早く終わらせる何かを思いついたりしませんか? 私の故郷、この村はいいところなんです。みんな良い人達なんです。それがこのまま死んじゃうなんて……私、嫌だ、嫌だよおぉ!」


 次第に目と鼻は赤くなり、潤んだ瞳から涙が溢れ、濡れた頬には艶のあるオレンジの細糸が数本張り付く。

 何も出来ないためか泣きじゃくって膝から崩れ落ちたエミリーの姿に、普段丁寧で大人っぽいと評される彼女の幼い子供を幻視させる姿に、交友があるサイハやキリサメも何も言うことが出来なかった。


 神奈は「笑里……」と無意識に呟く。

 まるであの時の、神奈と出会って間もない落ち込んだままの笑里とその姿が被る。肌の色が違くても、多少普段が大人びていても、エミリーと笑里が重なって見える。


「……キリサメ、この村に監視カメラを大量に設置することって可能か?」


 その提案にエミリーは希望を抱いて顔を上げる。


「可能といえば可能だが今すぐは厳しいぞ、作成にせめて五日は欲しい。だが神奈、この天才発明家をなめるなよ? 必ず、一秒でも早く作り上げよう」


「それを村中に、犯人にはバレないように設置すれば正体が分かる可能性はある。証拠を残さない慎重な犯人だしバレて壊される可能性の方が高いけど、何もしないよりは遥かにマシだと思う」


「神奈、キリサメ……ありがっとう……ありがとっ、う……ござっ、ます……!」


 あくまでも応急処置のようなものだ。神奈はそれで正体を突き止められると思っていないが、絶望していたエミリーに一時的な希望を与えるには十分だろう。


「ふむ、それでは村の各家に完成次第設置するという方針でよいな。それまでは見回りの人数も警戒も強化するよう村の連中には言っておこう」


 村長が話をしめて作戦会議は終了した。

 参加していた全員が頷いて――キリサメとハヤテ以外が出ていく。


 むせび泣くエミリーの肩に手を回した神奈などを見送ったキリサメは、部屋の隅で壁に手をついて静止しているハヤテへと歩み寄る。


「聞いての通りだハヤテ、おそらく犯人の手がかりを得られるだろう」


 壁から手を離して振り向くと、ハヤテは感情の抜け落ちた顔と暗い瞳でキリサメを見つめる。


「話は聞いていた。だが監視カメラの作成には数日かかるんだろう? それまでに何人、何十人殺されるか分かったもんじゃないぞ。もしかしたら全滅するかもしれん」


「数日かかればな。実は監視カメラはもう出来ているし、設置済みなんだ」


 ハヤテは頭の整理が追いつかず「なんだと?」とだけ呟いた。


「だからもう作ったし設置済みなんだって。まったくさっきは焦ったぞ。秘密裏に進める作戦だってのに神奈が的確に提案してくるもんだから、内心ビビったな」


「……いや、待て。なぜ隠す必要がある」


 この場にいた人間は、いや村人全員が打倒帝王という志を共にした同士。だというのに作戦を隠して裏で行動するなど何か後ろめたいことがあるのかと邪推してしまう。


「お前だって警戒していたんだろう? 表に出さなくても心の内で、結局誰もに疑いを持って全てを警戒していた。俺も似たようなものだからなんとなく分かったんだ。特に、ミュートを怪しんでいてな」


 考えを見抜かれていたことにハヤテは素直に驚いて目を丸くすると感情が顔に戻り、不敵な笑みを浮かべて「そうか」と呟く。


 ハヤテは一切、誰だろうと心の中では信用しきれていなかった。

 余所者である神奈達はもちろんのこと、同じ村の人間も、親友であったミュートでさえもハヤテは警戒して過ごしていた。


 最初にミュートを怪しんだのは事件発覚初日。

 そもそも最後にグレンと一緒にいたのがミュートだという時点で疑いを持つのは当然だろう。ただ親友という関係性もあって本音では疑いなど持ちたくなかった。


 そして事件は複数回起き、結局疑っていたミュートは骨になっている。

 犯人によってもたらされた死という明確な証拠でハヤテやキリサメからの疑いを晴らしたのだ。


「だが死んだ。結局ミュートは犯人じゃなかったんだ。あいつはただ純粋に犯罪を許せなくて、正義心で動いていただけだっていうのに疑った自分が嫌になる」


「ああ、さっき壁を殴っていたのは友人が白骨化した悲しみと、犯人と自分に対する怒りというところか」


「……今はもう落ち着いたさ。それでキリサメ、監視カメラの件、詳細を聞かせてくれるんだろうな」


「もちろん、今から家に来るといい。今回の骨残し事件、今日で終わらせるぞ」


「当然、そのつもりだ」


 頷いたハヤテはキリサメの家へと向かう。

 村を守るため、骨残し事件全てに決着をつけると意気込んで。


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