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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十五章 神谷神奈と破壊の帝王
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311 相似――そして誤解を生む――


 帝王の城を追い出された神奈はひたすら森を歩いていた。

 この時代に来る前に通ったような森がどこまでか分からないが続いている。現代と同じとするなら島がほぼ緑で村など存在していないだろうが。


「……今、なんの手掛かりもないんだよなあ」


「ホウケン村ですか。先程のパンサーさんに聞いておけばよかったですね」


「いやぁ教えてくれる雰囲気じゃなかったけどな」


 パンダレイがもたらした情報の一つ――ホウケン村。

 どこにあるのかも分からないその村の人間を助けてほしいという願い。それを叶えたくても場所が不明なのでは無理な話だ。


「どこを行っても木、木、木! 木しかない! 自然溢れてるのはいいけどもうちょっと人間が住みやすい環境にしてもいいと思うんだ」


「伐採もこの時代ではあまり行われていないのかもしれませんね。現代なら人間達は容赦なく自身のテリトリーを広げていますけど」


「何事も適度なのが一番だな。はぁ、早く帰ってパンダレイが無事なのかどうか確かめたいっていうのに。攻略サイトを見ないで激ムズのゲームでもやるかのように難易度高いよ」


 知らないのなら自分の足で歩いて探すしかない。どれだけ時間がかかるのか考えたくもないが、運が悪ければ相当な日数がかかるだろう。徒歩で島中を回るなど面倒なことこの上ない。


「いっそ、空を飛べばいいんじゃないですか? 真上からなら一発かもしれないですよ?」


「それだ! いやほんとなんで思いつかなかったんだ私は!」


 飛行魔法〈フライ〉さえ発動すれば自由自在に空中を移動することが出来る。こうして今のように森を歩いて探索するより遥かに効率的だ。村というからには一定の広さと居住区がいるはずなので、空から見下ろせばすぐにホウケン村を発見できるだろう。


 すぐに実行しようと神奈は「フライ」と呟いて、太陽光をあまり届かせない木々の葉達を突き抜けて上空へと飛ぶ。

 結果、神奈の目に見えたのは一つの村――だけでなく海が見えないレベルで広い陸だった。その光景に神奈の目は驚きで丸くなる。


「どうなってんだ……ここは、孤島だったはずじゃ」


 神奈達がヘリコプターで来たときは当然ここまで広い陸など存在していなかった。小さな島であったし、周囲には青い海が広がっていたはずである。


「時代と年月が過ぎれば陸の変化は凄まじいものですよ。昔にあった大陸の一部が離れて日本列島になったという説まであるくらいですしね」


「これを歩いて探そうとしてたのか……いったい何か月かかっていたやら、持ち物なしのサバイバル生活とか想像したくもないな」


 当たり前だが神奈にサバイバル経験などない。もし村が見つからないまま探索が長引けばどこぞで野垂れ死にしていてもおかしくない。


「とりあえず村っぽい場所近くに降りてみるか」


 周囲を見渡した神奈の視界に入った場所は主に三つ。


 一つ目は先程までいた帝王の城。正体不明の石材で作られている巨大な城だ。現代では一階部分しか残っていなかったので分からなかったが、壊れていなければ高層ビルのような高さの建築物である。


 二つ目はこれまた大きなローマのコロッセオのような建築物。距離も多少離れていたために神奈からは見えづらいが多くの人間がいるように見える。


 そして三つ目が――村。円錐状という変わった形の家だろう建物が多くあり、ここも人間が多くいるように見える。目的のホウケン村かどうかは不明とはいえ、手掛かりがない以上行って確かめるしかない。村っぽいものが他に見当たらないので目的地でなかったら尋常ではない苦労が待ち受けているだろうが。


 神奈はその村付近、森の中に降りる。

 この時代で魔法がどういう扱いを受けているのか分からないため、とりあえず出来るだけ隠す方向性で動くことにしたのだ。

 そして森を出て木の柵で周囲が覆われている村へと歩いていく。


「おっ、第一村人発見」


 一部柵がない場所――入口だろう場所から一人の女性が歩いて来る。別に神奈を発見したからというわけではなく、接近に気付いて目を丸くしたことから元々用事があって出かけるところだったのだろう。

 女性の特徴としてまず目を引くのが褐色肌。現代日本でそういないことから神奈は珍しいと思いジロジロ見てしまう。そして服装もまた目を引くもので、上は動物の皮で作られているであろうサラシ一枚、下はミニスカート並に短い腰巻き一枚。かなり異性からの目線を集めるような攻撃的ファッションである。腰に細剣を下げていることから別の意味で攻撃的だ。


「……え」


 距離が近くなって神奈は驚愕により目を見開く。

 件の女性が何かしたわけではない。その女性はただ――酷似していた。


「……笑里(えみり)?」


 神奈の友人である秋野笑里という少女に瓜二つであった。年齢もおそらく同じ程度で、褐色肌が日本人に多い肌色にさえなればもう笑里そのもの。最初こそ気付かなかったが一度気付けばもう笑里にしか見えない。


「そこの人、今私を呼びましたか?」


 ジロジロと見られながら呟かれれば誰でも何かあると思うだろう。笑里擬きの女性が神奈のことを訝し気に見ながら話しかけた。


「え、やっぱり笑里なの……?」


「笑里? いえ、私はエミリー。この先の村に住む者の一人です」


「エミリー……?」


 名前まで酷似していたことに神奈は驚きを隠せない。それはそれとして訊かなければいけないことが神奈にはある。


「あー、エミリーさん? ホウケン村ってとこがどこにあるか知らないかな。私はそこに用があるんだけど」


 何気ない質問。よくある道案内。しかし神奈の口から「ホウケン村」の名が出された瞬間、エミリーは目を細めて視線を尖らせる。


「その村がどうかしたのですか。何か用事でも?」


「用事……いやまあ、自分でも何をすればいいのか分かってないんだけど」


「はぁ、よく分かりませんがホウケン村はこの先ですよ。何もない村なのでわざわざ行くことはないと思いますけど」


「何もない? 目立つものがないって意味ですか?」


「そうですね。それに帝王の侵略によって人口の半分以上が奴隷にされて働かされています。この村はもうかつての活気など失い、このままいけば朽ちるのみ」


 神奈は内心しまったと呟く。

 呑気に帝王の城でアイギスと話している間に全てが終わってしまったのだと、神奈は何かの事件に介入出来なかった最悪の未来を想像する。


「くそっ、行くしかないか……! ありがとなエミリー! 私の名前は神谷神奈、ちょっと村へ入らせてもらうよ!」


「ほう、カミヤですか」


 神奈が走り出してからの動きは速かった。エミリーが細剣を構えて神奈へと突き出し、それを仰天しながらも身を捻って神奈が躱した。

 予想外の攻撃に思わず神奈は距離をとって「何すんだ!」と叫ぶ。


「黙りなさい。帝王と関わりのある者にその村の敷居は跨がせません」


 先程も視線は鋭かったが今はそれに加えて殺気まで出されている。決定的に変わったのは名乗ってからだが、エミリーの疑念に神奈は生憎と心当たりがない。


「ああ!? 帝王とか知らないよ! 言いがかりつけんな!」


「……白々しい。カミヤという名を名乗っておいて無関係だと信じられるとでも? いまやこの世界でその名前を名乗るなど自殺行為。帝王に伝われば即死刑。だとすればあなたは帝王と深い関係にあると考えるのが自然。ホウケン村に来たのも歯向かった罰として粛清するためでしょう」


 言いがかり以外のなんだというのか。この時代においてカミヤという名がどういった意味を持つのかも知らない神奈は混乱する。


(なんだ、どういうことだ。カミヤって名乗るのが自殺行為? 帝王に伝われば死刑? くそっ、情報が不足しすぎてるせいで何も分からない。帝王ってのが悪いやつなのか?)


 アイギスと関わっている以上、その夫だという帝王に神奈は悪印象を抱きたくなかった。帝王が悪人だとすれば、妻であるアイギスが悪行について何も知らないはずがない。パンサーも加担しているのだろう。こうなると善性が強い人間と思っていたアイギスがよく分からなくなる。


「待て、落ち着け! 私はその帝王ってやつと――」


「問答無用です! 死になさい!」


「話聞けよおおおおおおおおお!」


 遠慮せずに細剣で連続突きを放ってくるエミリーの説得は困難。話を聞けと叫びつつも、神奈の頭には取れる行動は逃亡一択しか存在していなかった。もしもう少し冷静だったのなら、実力行使で戦闘不能まで追い込んで無理やり話を聞かせる選択肢もあったのだが。

 ホウケン村と正反対に走る神奈は追っ手を撒くために全速力で逃げた。


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