番外編2――とある戦士の心――
本編にはあまり関係ないので読み飛ばしてもオーケーです。
惑星トルバ。数々の星を侵略して自分たちの住むこの星をもっと豊かにするためにさらに勢力を拡大し続けている星である。
ここでは力こそ全て、生まれた時から魔力や体を鍛え続けて他の星を侵略するための力をつける。そして十分な力を付けられたなら仕事として他の星を侵略するために船で出発する。この地には戦士とそれに指示する司令塔、そして一部の食糧や日用品を売るものしか存在しなくそのほとんどが戦士である。
そして俺はその戦士たちの頂点、序列一位のエクエス。
「……今回もハズレだったな」
俺は生まれてこのかた負けたことがない。生まれた瞬間から俺はもうこのトルバという星で一番強かった。誰もが俺には恐怖の感情を向け、いつも俺の周りには誰もいなかった。俺は戦う喜びを知りたい、そのために戦士をやっている。誰かが戦うのは面白いと言っていたのを覚えているが、俺の戦いは戦いではない、ただの駆除作業なのだ。
もしも俺より強い生物がいたとする。たとえ敵わなくても最後まで全力で戦い抜いて、それで死んでも俺には後悔はない。
つい先ほど、ハズレと口にしたが今回の侵略先で出会った戦士の中で一人骨のある者がいた。
スピルド……その男は速度だけなら俺の足元程度には及んでいたのだ。何年か修行をすれば今の俺を超えてしまうかもしれない、もっともその時は俺も実力を上げているだろうが。
「やあ、今回も早かったねエクエス。だが休暇を与える前にもう一仕事やってもらいたい」
黒い髪をポニーテールにしている男。この男は俺直属の司令塔だ。行く星を指示し命令するだけという関係も薄いやつである。
最後に休暇を貰ったのは約二か月前だったか、そろそろ休みも欲しいがもう一仕事だけだというならいいか。
「実は序列二位のレイとそれに着いていった他二名が少してこずっているようだ。連絡も取れないしもう上は死亡扱いにしようとしている。だが君に続いての最高戦力だ、上も苦渋の決断だろうが。そこで君にレイ達が向かった地球という星に向かってほしい」
「分かったすぐに向かう」
「頼んだよ」
序列二位という俺の一つ下のやつでも俺は顔も名前も知らない……いや名前は今知ったな。それに後でそのレイとかいうやつの顔写真も送られてくるらしい。
地球か、少し期待していいのか?
数日後、俺は地球に到着した。到着し外に出た俺を待っていたのは広大な自然と四人の子供、そのうち三人はどうやらトルバの戦士のようだった。しかし話してみればこの三人はどうやら星を裏切った裏切り者。これは戦って処分することになりそうだ。
その後傍にいる地球人もこの俺を倒すと言っていることを知り、とりあえずこの四人は始末することにした。
この星を移動して決着を着けるつもりらしい。まあそれはいい、この星は自然豊かな環境が多いようだからなるべく無傷で手に入れたい。そして俺とレイ、地球人の三人は他の星に移り戦いを始めたのだが――
「確かにお前は他の者とはレベルが違う」
そう、戦ってみて分かったが確かに二位というだけあって強い。だが俺よりも遥かに格下だ、何か特殊な魔技でも持っているかと思ったがどうやら速さしか取り柄がないらしい。この前戦ったスピルドと同程度の実力だ。
「だが俺とお前では次元が違う」
光の速さにも慣れてきたので一撃を奴に入れてみたがあっさりと倒れ込んだ。
弱い、弱すぎる。こんなものなのか? 俺の一つ下なんだろう? 序列二位なんだろう? なのにこの程度なのか?
そして止めを刺そうと蹴りを放つがその時、俺とレイの間に割り込み俺の蹴りを防いでいる少女が目に入る。
フフ、戦っていて分かったが戦闘は素人同然だ。でも気付けば俺の方が劣勢の状況だった、身体能力では完全に俺の方が下であるが、得意技の風は奴に届かない。しかしその風を攻撃ではなく自身の補助に使えばその状況は一転し今度は俺の方が優勢になり始めた……しかしその後また俺は劣勢、いや追い詰められていた。
「デッパー!」
「!?」
「ロック!」
「!?」
今まで俺はこんなふざけた魔法を見たことがない。勝負の中で使うものではないだろうそれは、頭が混乱して固まりその隙に殴られる。さっきまでの楽しかった勝負もこれで台無しだ。だが俺もいつまでも殴られるわけにはいかないので反撃に出た。その頃にはもうお互いの体力はかなり消耗してもう長くは戦えない状態になっていた。
そこで俺は次の一撃に全ての魔力を込めた。この技は戦闘で使うのはこれが初めてだ。
今まで鍛錬も怠らず取り組み、もしもの時の為に格上すら倒せるであろう技の開発に取り組んで完成させた技。しかし奴を見れば同じようなことをしている。
フッ、奴も次に全てを込めるか! どちらの技が上か勝負!
「暴風集纏拳!」
「超魔激烈拳!」
俺はそこまでしか覚えていなかった。気付けば星は異常事態が起きており最早俺のエネルギーは風前の灯火だ、もう立つことすらできない。だが俺の体は何故か立ち上がった――何故? なにをしているんだこいつは?
神谷神奈は自分もボロボロなのに俺を助けに来た。
「何故、助ける?」
「――後悔したくないから」
想像以上に甘いな、俺は侵略者でお前は侵略されそうになった被害者なのに……自分もボロボロでこの星だって長くは持たない筈なのに……敵の俺を助けるのか。
だがその優しさは全くの無駄になる。何故なら俺はもうすぐ死ぬ、おそらく地球に戻る前に命は尽きる。だが後悔はない、こうして探し求めていた俺に敗北を教えてくれる存在に会えて戦いの末に果てるんだ。これで悔いなど残るはずがない……心の底から嬉しいんだ。お前に会えたことが……。
* * * * * * * * *
エクエスを送り出してから半年。惑星トルバの指令室。そこでは前代未聞の事態が起こっていた、それは序列一位にして最強の男エクエスが侵略にこれほど時間を掛けたことがないからだ。地球という星に向かわせたが何故か帰ってこない、まさか死んだのか? と誰もが思い頭を抱えた。そして上層部は苦渋の決断をした。
「エクエスは死亡とし、地球は危険な惑星として登録。もう二度と地球には戦士を送り込まないと記録しろ」
「了解しました」
こうして地球はトルバという星の侵略行為から完全に解放されたのだった。




