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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十五章 神谷神奈と破壊の帝王
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308 役目――マテリアル・パンダレイ――


 十字路を左に曲がった神奈とパンダレイは再び分かれ道に来てしまった。

 才華達が進んだ場所と同様の構造になっている左右の分かれ道で、神奈達は右に進もうと決めて歩く。決定までの時間は約十秒程でロスは少ない。

 パンダレイは何も言わずに神奈に付いていく。


「もしこっちの道が行き止まりだったりしたら、引き返して逆の道に行けばいいもんな」


 神奈の意見に賛同することもなくパンダレイは黙ったままだ。


「……なあパンダレイ、お前黙りすぎだろ。私ずっと一人で会話してるの悲しくなるんだけど」


 道中神奈が話しかけた回数は六回。その全てが無視されている。

 お腹空いてきたよな……無視。喉渇いたな……無視。今日はいい天気だな……無視。この遺跡って実際のところなんなんだろうな……無視。

 さすがに無視されすぎて神奈も心が傷付く。


「申し訳ありません、聞いていませんでした」


「えぇ……」


「この遺跡が妙に懐かしい感じがして、ずっと考えていたのです。いったいこの懐かしさはなんなのかを」


「……答えは出たのか?」


「明確な答えは出ませんでした。しかし……もしかすれば、ワタチはここに来たことがあるのかもしれません。マスターの家に辿り着くまでのワタチに関係しているのかもしれないのです」


 パンダレイは霧雨家の地下に厳重に保管されていた機械人。誰に、なんの目的で、どうやって作られたのか。全て不明の謎多き者。

 霧雨がパンダレイと出会ったときに受け取った過去からのメッセージで戦闘用人造人間であることは本人も知っている。重要な鍵になるので、厳重に保管するようにというメッセージで何か隠された秘密があるのも分かっていた。しかしパンダレイ自身も記憶が曖昧であり、全てを思い出すのには時間がかかると告げている。


「確か、お前は何かの鍵になるんだよな」


「メッセージにはそうありましたが、少なくとも記憶を完全に思い出さなければ何一つ分からないのでしょう。だからこそこの遺跡、この場所が関係しているというのなら全力で調べたいと思っています」


 歩いていくといくつか分かれ道が存在したが二人は全て直進する。

 進んでいるとかなり多くの数の扉が存在していた。一つ一つ見ていくが同じ部屋の広さで、中には朽ちた家具しか存在していなかった。パンダレイの記憶の手掛かりになるようなものも、才華に報告できそうなものもないと思った二人は進み続ける。その結果、二人の前には今までにない広い立方体の空間が現れた。


「広い場所に出たな。あれ、壁に何か書いてある……文字? てか血文字?」


 立方体の部屋には最奥に扉がある。その扉のすぐ横に神奈には理解不能な赤文字が少量書かれていた。

 詳しく観察するために二人は近寄って、ジッと見つめる。


「現代で金石文と呼ばれるものでしょう。この文字……なぜでしょうか、ワタチはこの文字が普通に読めます」


「マジか、もしかしたらお前の記憶に関係しているんじゃないか? 古代に作られたお前が読めるってことは……これって古代文字?」


「おそらくは。しかしあまり記憶の手掛かりにはならなそうですね」


 せっかく見つけた古代に関するものだというのに消極的なパンダレイ。理由が気になって神奈は「それはどうして?」と問う。


「ここに書いてある文章はたった四文字です。内容もワタチに関わっているとは思えません」


「四文字いぃ? まあ確かにそんな感じだけど、なんて書いてあるんだ?」


 鉛色の瞳が見つけた文字をパンダレイはそのまま読み上げる。


「ただ一言……たすけて、と」


「……たすけて。何かに襲われでもしたのか。その割には部屋が綺麗すぎるんだよなあ」


「とりあえず扉の先に進んでみましょう。何か分かるかもしれません」


 たった一文。救助を求める四文字。

 古代に作られたパンダレイが読めるということは古代文字の可能性が高い。果たして古代に何があったのか、この血文字と思われる赤い文字を残した者は何から助けてほしかったのか、その全ての謎が扉の先にあることを信じて二人は扉を開ける。


 扉を開けた先で待ち受けていたものに二人は息を呑む。

 完全に予想外のものが存在していたことに目を丸くして驚愕し、寸刻、声を発することすら忘れていた。


 血文字のあった部屋と同程度の広さ。ベッドなどの家具はあったがこれまでに見た部屋と同様に朽ちている。問題はその部屋の中央に一人の少女が立っていたことだ。

 両目の目元から顎まで伸びた黒い線。黄土色の髪を歯車型の髪留めでポニーテールにしており、百七十五センチメートルくらいの高身長――パンダレイと瓜二つの少女が無表情で立っていた。


「……どうなってるんだよおい。あれってどう見てもお前だぞ、髪とか目の色が違うだけでお前そのものじゃんか……」


「何を言うのですか、高性能なのはワタチの方ですよ」


「見た目の話だよ」


 鉛色の瞳と黄土色の瞳が交わる。


「……実を言うと神谷様、彼女を見た瞬間にワタチの記憶がほとんど戻りました」


「このタイミングで!?」


「彼女のことも、ワタチの役目も、真のマスターも思い出したのです。まだ記憶にモヤがかかっている部分もありますが、ワタチはマテリアル・パンダレイ。古代の大発明家キリサメ様に作られた戦闘用兼――時空超越機械生命体」


(霧雨? 時空超越? なんだ、どういうことだパンダレイ。お前は何を言っているんだ……?)


 多くの新情報に情報を整理する暇もなく神奈は混乱してしまう。

 時空超越とはそのままの意味で捉えれば時間や空間を超えるということだろう。過去や未来を好きに行き来できるような意味を持つ言葉だ。

 どうにか理解しようとしていると沈黙していた少女が声を発する。


「鍵、マテリアル・パンダレイの接近を感知。システム再起動。戦闘用兼時空超越機械生命体――アーティフィシャル・パンダレイ、起動」


(おいおい、今度はなんだよ。アーティ……なんだって?)


 パンダレイ二人は同じ声だった。見た目もほぼ同じ、言っていることも同じ、まるでクローンでも見ているかのような不思議な状況に神奈は増々困惑を深める。


「目覚めの気分はどうですか、アーティフィシャル」


「気分爽快。若干データに損傷が存在していますが問題ありません。マテリアル、ここに来たということはワタチ達の役目を全うする時が来たということですね」


「その認識で構いません。古代の救世主となる者も連れて来ていますので」


「では早速始めるとしましょう。ワタチ達二人の使命を果たさなければ」


(やっべえ、めちゃくちゃ置いてけぼりくらってるよ……)


 話を何一つ理解することが出来ていない神奈をよそに、パンダレイ二人は互いに相手と距離一メートル程にまで歩み寄る。


「神谷様、ワタチ達の間に入ってください」


「……へ? あ、はい」


 とりあえず言われるままに間に入る神奈は、パンダレイ二人が両手を繋いだことで閉じ込められた。


(……なぁにこれぇ)


 思考放棄しつつある神奈は両腕による檻で閉じ込められた。これ以上置いてけぼりにするとダメだと感じたマテリアル・パンダレイは説明を始める。


「神谷様、これよりあなたには古代に向かってもらいます。そこで待つ強大な敵を打倒してほしいのです」


「この状態で説明!? ……ってか拒否権ないの!?」


「こちらの都合で申し訳ないのですが神谷様が適任だと思いましたので。誰かのために動けるあなたならばきっとマスター達を救えるはずです」


「……まあ、お前の頼みだっていうんなら助けに行ってもいいけどさ。誰を何から助ければいいんだよ」


 困っている人がいるなら神奈はとりあえず助ける。もちろんそれに終わりがないことは承知の上で救助活動を積極的に行う。

 世界には助けを求めている者などいくらでもいる。全員を助けることなど一人では出来ない。だからこそ目についた誰かくらいは助けたいというのが神奈の本音だ。そして、たとえ視界に映らなくても友人からの頼みなら助けに行くのに躊躇はしない。


「申し訳ありません、敵のデータが破損していて確認不可能。ただ守るべき方々……ホウケン村という場所を、そこに住む人々を守っていただきたいのです。ワタチ達は、絶望の過去から希望を託された者。どうかご理解を」


「ホウケン村……ね。分かった、情報足りなさすぎだけどやってみる」


 神奈の了承を得たことで、パンダレイ二人が見つめ合う。


「「――時空超越システム起動」」


 二重に聞こえるかのように同じタイミングで声が発される。その瞬間、二人の体が凄まじい電気を帯びて放出し始めた。鉛色と黄土色の瞳が光り出し、電気が檻のような形をしつつ球状になっていく。

 異変はすぐに訪れた。いやもう十分に異変は起きているのだが、パンダレイ二人の体から機械がショートしてしまったかのように煙が出始めているのだ。


「おい待て、お前らなんかヤバい状態だろ! 今すぐこれ止めろ!」


「……神谷様、これがワタチ達の役目だったのです。救世主となりえる強者を過去へと送る。この目的を果たさなければマスターへの裏切りに等しい」


 小さな爆発がパンダレイ二人の体内部で連続して起き始める。どこかに使われていただろうネジが吹き飛んできて額に直撃した神奈は「いたいっ!」と叫ぶが、それよりも大きな声で止まらせるために叫ぶ。


「知るかあ! お前ら壊れかけてんだぞ分かってんのか!」


「ワタチとは初対面ですが信じてください。これは――」


「いや初対面で信じるもなにもないよ! たとえ大切な人のためとはいえ自分から壊れるなんておかしいだろ、なあパンダレイ聞いてんのか!」


 パンダレイは「聞いています」と返した。アーティフィシャルの方だが。


「お前じゃねえよ、マテリアルの方だよ!」


 元より初対面のアーティフィシャルを説得出来るとは思っていない。神奈が止めさせるために説得するべきは、同じ学校に通い、交友関係があるマテリアルの方しかいないだろう。

 相当な覚悟を持って今の力を行使していることは神奈にも分かっている。ただこのままでは体が壊れてしまうだろうこともなんとなく分かる。そうなれば、もし霧雨でも直せない程に壊れてしまうなら、また神奈は一人身近な友人を失うことになるのだ。なんとしてもそれだけは阻止したかった。


「お前は満足か、霧雨と夜知留に何も言わないでこんなことしていいのかよ! ここで壊れたらもう二度と会えないかもしれないんだぞ!?」


「……お二人には、上手く伝えておいてください」


「この、この分からず屋ああああああ! もういい、強行突破すれば終わるんだろ。私をどうにかしようなんて百年早いんだよ!」


 そうしてパンダレイ二人の両腕から脱出しようと神奈は体を動かそうとして――動かないことに気付く。

 何かで押さえつけられているわけでもないのに、鎖で雁字搦めにでもされたかのように身動きがとれない。


(なんで、どうして動かないんだよ! 加護、加護はどうした!?)


「神奈さん、どうやら加護が害ではないと判断したようです。あなたの意思でも動かせない程に強固なので脱出は不可能でしょう」


「なんだよそれ……腕輪、どうにかできないのかよ……」


 消え入りそうな声で助けを求める神奈に腕輪は非情な答えを返す。


「言った通り脱出は不可能です。諦めてください」


「……そう、か」


 どんどん爆発が酷くなってパンダレイ二人の体は崩れそうになっていく。


「クソがああああああああああああああ!」


 そして、最後にこの世の理不尽に対する怒りが込められた叫びを上げて――神谷神奈は現代世界から消失した。


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