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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
二章 神谷神奈と侵略者
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31 無風――最後まで――


 神谷神奈は白い部屋で目覚めた。

 転生の間ほど白くはない、なんだか既視感のある部屋。

 意識がはっきりしてくると、レイと戦った後に入院していた病院だとはっきり分かった。

 宇宙人が侵略にやって来て、宇宙人と友達になって、最強の男と戦って生き延びた。あまりに現実離れした出来事で、今までのことが全て幻想だったのではないかと思ってしまう。信じられないが信じたい、そんな気持ちで神奈はボソッと呟く。


「……勝ったんだよな」


 爽やかな風が開いている窓から入ってくる。癖毛である黒髪が揺れ、独り言も流される――かと神奈は思っていた。


「ええ、勝ちましたよ」


 まさか誰かいるなど思っておらず「うわっ!?」と声を上げて飛び起きる。答えが返ってきた方向を見れば、窓付近に白黒の腕輪が置かれていた。


「え、居たのお前」


「ふふ、目覚めて良かったです。何はともあれ神奈さんは地球の英雄ですよ! いえ宇宙の英雄と言っても過言ではありません!」


「……英雄って大げさだろ」


「何が大げさなんですか! 神奈さんは地球を宇宙人から守ったんですよ!? これが英雄と言わずなんなんですか?」


「……私は別に英雄願望ないんだけどなぁ」


 そう二人が話していると、音を立てて病室の扉が開く。

 入ってくるのはあの宇宙人三人組。起きている神奈を見て目を見開いた。特にレイは驚きよりも喜びが多く、目から涙を一筋流して笑いかける。


「神奈、目覚めて……」


「フン、ようやくお目覚めか」


「おいおい、その反応だと私けっこう眠ってたっぽいんだけど。どれくらい寝てたんだ?」


 忘れかけていたが神奈は小学生であり、現在は夏季休暇の真っ最中だ。貴重な夏休みがただ寝ているだけで終わっていくということに、神奈は耐えられる気がしない。宿題も終わっていない状態で一日も消費するのは痛手である。


「今日でもう四日目だよ。その間全く起きなかったから心配していたんだ」


「フン、ピクリともせんから死んだかと思ったぞ」


「グラヴィーよせ、殴られるぞ……」


 グラヴィーとディストの二人には悲しみや喜びが出ていない。それどころかディストは恐怖しかしていない。強気な発言をするグラヴィーに弱く囁いている。


「四日……マジかよ、そんなに寝てたのか。……こうしちゃいられないな」


 真っ白なベッドから下り、薄緑の患者衣姿のまま立ち上がる。


「おい、どこに行くつもりだ?」


「エクエスのところだよ。まだちゃんと話してないからな」


「……エクエス」


 エクエスの名前を出した瞬間三人は黙り込んだ。

 お通夜のような雰囲気。不自然な沈黙。神奈は違和感を抱く。


「おい? なんだよその間は」


「分かった……会いに行こう、エクエスに」


「場所は知ってるんだよな? まだ帰ってない……よな? え、帰った? これ帰った流れなの?」


 会いに行くというのなら退院しなければならない。

 神奈達は廊下に出て、そのまま病院の入口へと向かう。当然その間に人に見つからないわけがない。担当医であった男が平然と歩く神奈を目にして唖然とする。


「えっ!? か、神谷君! 君は重症だったんだ、部屋に戻りなさい!」


「あ、はい」

「頷いてどうするんだお前」


 四日間寝たきりだった患者がいきなり退院しようとしているなら誰でも止める。医者としては絶対に見過ごせない状況である。


「あの、神奈はもう元気ですよ。心配は」


「私は医者だぞ! もしこのまま退院して何かあったら私の責任になるじゃないか!」


「……こいつすごいこと言い出したな」


 想像と違ったことを心配しているので神奈達は引いた。

 しかしエクエスに会うなら病院からは出なければならない。それならどうすればいいのか。思い切って元気なところをアピールしてみるという発想に至った神奈は、とあることを担当医の目の前でやってみせた。


 軽く両足を浮かし、跳ぶ勢いを全て回転に注ぐ。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 空気を切り裂く鋭い音とともに回転した回数――十二回。

 とても重傷の患者ができる技ではない。というか人間ができる技ではない。元気だということを認めてもらうのには明らかにやりすぎである。


「ば、バカな……」


 担当医は口と目を限界まで開け、放心して座り込んでしまう。

 目の前で超人技を見せつけられれば説得もできない。


「退院してもいいですか?」


「あ、ああ、あああ……ど、どうぞ……」


 こうして無事に神奈は退院することができた。

 そして神奈達は宇宙船がある山の頂上に来ていた。

 特別な場所でもない山の頂上だ。


「ここにいるのか? それにしては見当たらないんだけど」


「もう少しで見えてくるよ。あ、あれだ」


「え、あれって……」


 目的の場所に辿り着いたのに、それらしい人影はない。ただしその場所には太い木の板が立てられていた。素人が作ったと一目で分かる雑な植え方、しかしそれが意味することは神奈でも理解できる。


「エクエスは……死んだ」


「……な、なんで……まさかお前たちが」


 元々敵なのだ。動けない敵がいるなら始末するのが当たり前だろう。もし回復されれば厄介なことくらい三人も分かっている。

 この三人が殺したという可能性を神奈はどうして考えなかったのか。どうして生きてるなんて思っていたのか。全ては希望的観測でしかないというのに、どうして――


「違う! エクエスに勝ったのは紛れもなく君なんだ。負けた僕や、戦っていないグラヴィー達にとやかく言う資格はない。……でも思った以上にダメージが大きかったんだ。特に内部のダメージがね。……何か捨て身の技でも使ったんじゃないかな」


 推測を聞いて神奈が思い浮かべるのは最後の大技同士の衝突。

 神奈と同じく体への負担がかかるだろう技――暴風集纏拳。超魔激烈拳と同じように一瞬で全てを出し切る大技。本人が戦闘を楽しみすぎており、想像以上のダメージが蓄積されていることに気付けていなかった。自滅するほどに死にかけていたなど、エクエスも神奈も全く分からなかったことだ。


「なんで病院に連れてかなかった」


「奴には国籍がない。たとえ連れて行ってもそれがバレれば終わりだ」


「……お前たちは」


 その理屈だとレイ達も病院にはいけないことになる。神奈は疑問に思ってレイに目を向けると、想定済みだったのかきちんと答えてくれる。


「僕達は国籍をちゃんと作ったさ。もうこの星に住むと決めたんだから……でもそれは急には作れない。だから作ろうとしても間に合わない。……それに処置をしなかった決定的なことは」


「なんだよ」


「エクエスは僕達が戻ってきた時には……既に……」


「……本当か?」


「すぐに神奈とエクエスの状態を確かめたけど、その時にはもう――心臓は止まっていた」


 元々エクエスを救おうとしたのは神奈の自己満足。

 救いたいと思ったのは悪い人間ではなかったから。

 仲良くとまではいかずとも、日常を一緒に送れるようになれたらいいと思っていた。神奈はただ、人の温もりを知ってほしかっただけだった。


「くそっ、バカかよ。死んだら何もかも終わりじゃないか……」


「……奴は笑っていた。満足だったのだろう、最期まで戦士として戦えたことが」


「そうだな、理解できないがトルバの戦士にとって戦いとは最高の時間らしい。元々そこで死んだとしても本望だろう」


「……星が違えばルールも違う」


「――?」


 唐突に神奈がルールの話をしたので誰もが不思議そうな顔をする。


「エクエスが言っていた言葉だ。だからこれ以上、あいつが死んだことについて何も言わない。あいつが楽しく人生を終わらせたっていうんなら、死んだにしても悪い死に方じゃなかったってことだろうし」


「納得は……してないみたいだね」


「当たり前だ。そういえば葬式はやってないのか?」


「え、ああ、ただ埋葬しただけだよ。そもそも僕達の星は葬式なんてものはないし」


「じゃあどうしてるんだ?」


「ただ墓を立てて知り合いが冥福を祈るだけだよ」


 簡単に済ませすぎなのではと、神奈は星同士の違いに戦慄する。

 しかしよく考えてみればそれでもいいのかもしれないと思う。戦闘脳がうじゃうじゃいる場所ならそれでもマシなのだ。俺の屍を越えてゆけなんて言わない分いいのかもしれない。


「じゃあ全員で祈ろう。エクエスがあの世でも、いや生まれ変わっても満足に暮らせるように」


「神奈がそうしたいならそうしようか」


「僕はやらなくていいか? 面識なんてほとんどない相手だぞ」


「いややれよ、正論ぶちかますな。こういうのは雰囲気が大事なんだ」


「面倒な……」


 そして神奈達四人は両手を合わせ、それぞれが冥福を祈る。

 静かに目を瞑り、祈ること三分。途中でグラヴィーは薄く目を開けることを繰り返していたが、とにかく全員が祈っていた。


「そういえば、これでもうトルバの連中は来ないかな」


 もしまたトルバ人が侵略のために送られてくるなら、原住民である神奈達も、戦うしかないトルバの戦士も、悲劇が繰り返されて誰も幸せになどならない。戦いに積極的ならトルバ人の方は幸せになるとしても、神奈なら倒せるので死ぬしかない。戦って死ぬことが本当に幸せなのか、神奈にはまだ多くの疑問が残っている。


「そうだね、今回の件でトルバには序列一位が帰らないんだ。地球のことを危険度最大の星と設定して、もう侵略者は送ってこないと思うよ」


「ふーん、納得。……そんじゃ私は帰ろうかな」


「なら帰る前にこれを渡しておくよ」


 神奈がレイから受け取ったのは一枚の地図。

 地図にはこの周辺の道に赤い線が引かれ、それは一軒の家に続いている。


「これは?」


「僕達の家の場所だよ。いつでも遊びに来てくれて構わない」


「そうだな、いつか行くよ」


 こうして神奈の心はスッキリしないまま侵略者の問題は解決した。

 心にかかったモヤモヤは当分消えることはないだろう。星でも国でも違わないことがある。それは誰かが死んだら誰かが悲しむということ。そんな当たり前のことを考えながら神奈は帰路につく。


 自宅に帰ってから、神奈は机の上を見る。

 机上には夏休みの宿題が無造作に置いてあった。もちろんまだ一つも手をつけていない。前世のときから神奈は宿題をほとんどやったことがない。ある意味、宿題こそが日常で一番の試練かもしれない。


「よし、明日やろう」


「それはやらない人の――」


「今日はとても宿題をするなんて気分じゃないんだ。明日……そう、明日なら気分を変えて取り組めそうだからさ」


 ――しかし神奈は気付かなかった。

 この日が八月三十一日。つまり夏休み最終日である。







 以下ボツ案。


神奈「もう大丈夫、宇宙人の脅威は去ったよ」

夢咲「ほんとう? よかった、本当に……よかった。これでようやく……本当の侵略が始められる」


 夢咲さんが実は別の惑星の宇宙人という設定。もしくは憑依されているという設定。ボツにしたけどこっちでも面白そうだと思いました。

 とりあえず二章は終わった。エクエスはやりすぎたので強さのインフレも一旦ストップ。いや本当にエクエスはヤバい、加筆したらさらにヤバくなりました。「宇宙も戦場」はは、笑えてきます。「風で鎧作って、空気もあるから大丈夫」いや、頭おかしい。もう、宇宙ってなんだろう?


 そんなこんなで三章もよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 隼が周りに振り回されてかなり苦労人ですね…… まさか2章で宇宙で戦うことになるとは思いませんでしたわ [気になる点] この世界の夏休みは7月31日まで?
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