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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十四章 神谷神奈と海底の人魚
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288 和平――トップ同士からでもいい――


 魔王国――魔王城にて。


 温泉だと主張されるマグマでのぼせたヒートを助け出し、神奈達は一度魔王国に戻ってきていた。

 五千度を超えた場所にいてのぼせた程度で済むのは炎熱耐性を持つヒートならではだろうが、もう限界まで湯に浸からず、少しでも苦だと感じたら早々に上がることを約束した。

 放っておいてはこの男、いつか熱さを求めて死にそうである。そのため約束をしたわけだが守られるかは怪しい。


 それから静かに話せる場所を求め、魔王城の客間へと神奈達は向かったわけである。


 城というだけあって客間も広い。三十平方メートルはある。

 赤い絨毯の上に横長のテーブルが置かれ、壁にはランプが引っ掛かっている。天井にはシャンデリアがついていて「さすが」という言葉しか神奈は出てこない。


「色々あったが……どうだった天使長、この魔王国は」


 席に座っている神奈達が会話を始める……というよりドーレとリータが主に話す必要があるのだが。


「正直見くびっておったわ。もっと荒れ果てた土地を想像していたんじゃがなあ……魔界の空気が悪いとはいえ、温泉もあるし、娯楽も多い。はっきり言って天界よりも楽しそうな場所であったぞ」


「ふっ、俺も今度天界に行ってみるか」


「いいじゃろう。もちろん復興が完了してからじゃがお主を招待しようではないか」


 こうして魔王が天界へ来訪することが確定した。

 ドーレとリータの仲も初対面よりはだいぶ良くなっている。

 会ってすらいない相手を嫌うなど愚かにも程があることだ。やはり実際に会ってみなければ分からないことというのは多い。


「……そういや、天使と魔族ってなんでそんなに仲悪かったんだ? 何かしら理由があるんだよな?」


 ふと、神奈が抱いた疑問を口にする。

 最初から仲が悪いなんてことはありえない。大抵仲が悪くなる原因というのは相手に何かしらの不快感を覚えたとき。もちろんそれは生まれが普通であって言えることで、もしも最初から忌み嫌うよう創られていれば関係のない話だ。


「ふむ、そういえばなぜだったか……確か父上から聞いたような気がするんだが」


「なんじゃ覚えとらんのか? 魔族が天界から絶世の美女を奪い去ったからじゃろ」


「ああ思い出した。しかしそれは逆だろう、天使が魔界一の美男を奪ったからと記憶しているんだが?」


 意味的にも真逆なことを宣う二人。

 全く関係ない神奈でも分かる。これは色恋沙汰だ。酷くろくでもない原因だと直感する。

 どうでもよくなった原因は置いておき、神奈は次の話題へ移す。


「もう別にいいわ、なんとなく分かったから。そういやあっちも気になるな、少し時間経ったけどあの初代像の謎」


 ここで話をするべき内容だと神奈が思うのは三つ。

 一つ目は天使長から魔界への評価。

 二つ目は不仲の理由。

 三つ目は初代魔王と初代天使長の同一人物疑惑。

 正直なところ神奈からすれば全てどうでもいいのだが、一番興味があるのはどれかと聞かれれば三つ目と答える。魔族と天使の長が同じだったとするならそこにはかなりの謎があるからだ。


「分からん。いや、色々考えて見たんだがな……」


「儂もじゃな。こればっかりはよう分からんわ」


「……ただ一つ推測するとすれば、可能性の話だが初代というのは神のような存在だったのだと思う。もしかすれば俺達だけでなく、この世界を創造した存在という線もあるな」


「ほう興味深いな、儂らを生み出した存在か。よほど優れた者なんじゃろうなあ、なんせ儂のようなイケてる天使を創ったんじゃから」


「さて、老人の戯言は置いておいてこの件を英雄はどう思う?」


 戯言扱いされてドーレは「なんじゃと!」と怒鳴る。

 横の怒鳴り声は無視して神奈は一応考えてみた……当然分からない。


「知らんわ。腕輪、お前は知らないの?」


 仮にも万能腕輪と呼ばれる存在だ。古代の神秘やら、神の存在やら、この世の明かされていない情報を何かしら知っている可能性は十分にある。


「知りません」


「おい万能さん?」


 所詮腕輪は腕輪だった、それだけだ。


「……とりあえず話すべきことは全て話したか。天使長、英雄……俺達は争うべきじゃない。そうは思わないか?」


 リータがそう切り出す。


「まあ争わなくていいに越したことはない。というか一度も争ってないけど」


「儂も賛成じゃな。といっても戦争なんてことにはこの先もならんじゃろうが」


 人間は一度も魔界と争ったことなどない。もちろんこの世界に十六年しか生きていない神奈の知識なので知らないだけかもしれないが、腕輪に確認したところ魔界へ攻め込んだ人間は存在しないとのこと。争いが起きていたのはあくまでも天界のみ……それも小競り合い程度だ。

 忌み嫌い合っているとはいえ天界と魔界が戦争なんてことになれば、地上含めて大混乱になることだろう。それが分かっているからこそお互いに手を出さない。暗黙の了解である。


「そうだ、戦争なんてことにはならないだろう。だが魔界でも天界でも過激な連中はいる。俺達トップが積極的に働きかけるだけでもそういった連中の足枷くらいにはなれるはずだ」


(その俺達トップの中に私も入ってないよな? 私ただの高校生なんですけど?)


「……確かに過激派がおることは事実じゃな。遥か昔、そういった連中が色事を理由として魔族を殺したことがあったと聞く……天使を一人巻き添えにしてな。争いが起きれば犠牲者が出る。仲間であろうと、敵であろうと、命を粗末にするのは愚の骨頂と言わざるを得ない」


「だからここで正式に和平を結ぼうではないか。互いを傷つけあわないよう民に働きかけるのだ」


「いいじゃろう。それくらいなら容易いしの」


「それではここに魔界、天界、地上の三世界の和平を結ぶ。帰り次第早急に民達へ伝えてくれるよう頼むぞ」


 ここまでの和平云々の話を聞いて神奈が思ったことは一つだ。

 素晴らしい考え? 絶対無理? 三世界なんて大規模?

 違う、思考していたのはそんなことではない。もっとこの話し合いにおいて一番重要なことだ。


「――各国の首脳呼んでくれる?」


 神谷神奈は決して世界のトップなどではない。

 この和平、地上側で結ぶ相手を明らかに間違えていた。








 魔界温泉編完……次回から章タイトルの人魚編に突入。


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