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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十三章 神谷神奈と導きの聖剣
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269 伝言――魔界からの使者――


 時間は経ち、ついに翌日夏休みになる伊世高校の生徒達。

 一学期の最後を飾る終業式当日。神奈は隼家にて珍しく料理をしていた。

 なにも愛する婚約者へ手料理などと血迷ったわけではない。彼女とて結婚という運命が定まってしまった女性の一人。将来のために家事の練習くらいしようかと思い腰を上げたにすぎない。


 見る者全てを魅了する華麗な包丁捌き。きびきびとした手際のいい動き。なんてことはない、それらは全て一緒にいる冬美のものである。

 神奈はといえば、見る者全てが落胆する包丁捌き。ぎこちなく手際の悪い動き。見事なのは電子レンジの使用くらいなものである。彼女はこれまで料理をほとんどしてこなかった。そのつけがまさに今、払わなければいけないときなのだ。


 ピーラーを使ってリンゴの薄皮を剥いてみれば、あっという間にゴツゴツした物体に早変わり。まさか神奈もここまで自分の腕が酷いとは思っていなかった。

 初めて神奈の料理を目にした冬美も苦笑いをし、簡単な仕事だけを任せている。


「神奈ちゃん、料理下手だったのね」


「す、すみません。まさかこんな難しいなんて……」


「いいのよ、これからゆっくり上達すればいいんだもの。時間があるんだから、若者は若者らしく挑戦し続けなさい。私だって初めから上手だったわけじゃないんだから」


「……ですね、頑張ります。せめて肉じゃがくらい作れるように」


 朝食の準備も終わり、食卓に食事を運んでいく。

 隼家の朝は早い。冬美は朝食作り、それ以外は早朝の鍛錬で早く起きなければいけない。神奈なら家では学校始業三十分前まで寝ていることも多い。腕輪が目覚まし代わりに声を掛けてくれているおかげで遅刻したことはない。


 速人、蘭兎、兎化、冬美、神奈、ソラシドの六人それぞれがやることを終え、食卓の席に着く。

 食卓に並ぶのは一般的な朝食だ。白米、味噌汁など、定番のものである。全員が「いただきます」と挨拶してから箸を持って食べ始める。

 肉じゃがを一口、じゃがいもをぱくりと食べた兎化は口元を緩ませた。


「おいしー! やっぱおいしーよ肉じゃが! 確か今日神奈お姉ちゃん料理してたよね。上手だね、蘭兎もそう思うでしょ?」


「うん本当に、まるでいつもウチで出る肉じゃがですよ。レシピとか見て作ったんですか?」


 二人の純粋な瞳に射抜かれて神奈は箸を止める。


「ごめんなさい、それは私が作ったからいつもの肉じゃがなの」


 冬美が真実を伝え、兎化は途端に申し訳なさそうになる。


「……あ、その、ごめんなさい」


「謝るなよ。なんか惨めだから」


「あ、じゃ、じゃあこのリンゴ! ゴテゴテしてる岩を再現するなんてすごいよね! これは神奈お姉ちゃんでしょ?」


 空気が少し悪くなったと感じのでなんとか持ち直そうと、兎化はリンゴを手に取って一口齧る。


「そうだな。岩の再現じゃなくて、ただ下手だからそうなっただけなんだけどな」


「……ご、ごめんなさい」


「いいよ、別に……」


 純粋さが神奈には棘のように刺さる。


「あ、私でよければ料理の練習付き合いますよ! 私も将来の旦那さんのために上達したいですから!」


「兎化はどれくらい料理ができるんだ?」


「カップラーメンとか冷凍食品なら料理できます!」


「……もうちょっとお互い頑張ろうな」


 兎化持ち前の明るさが空回りしている現状。神奈を気遣ってか、兎化を気遣ってか、そこからほぼ誰かが話すことはなかった。

 一人を除き食事を終えて、冬美は皿を片付けて洗い物に向かう。まだ食卓に残っているのはソラシドの分だけである。子供は食べるのが遅いものなので仕方ない。


「ほら、ゆっくり噛め」

「はい、父上」


 胡坐を掻いている速人の膝を席としているソラシドは、行儀よく食べ続けている。

 ソラシドの食事を見て兎化は「はあぁ~」と甘い声を出す。


「こういう子供が食べてる姿は可愛いなあ。ねえソラシド君、リンゴ食べやすいようにカットしてあげるね」


「ありがとうございます姉さま」


「姉さま! なんていい響き!」


 リンゴを手に持った兎化は背中にある短刀を鞘から抜くと、空中にリンゴを放り投げて、素早く短刀を振ることで四等分する。斬られたリンゴ四欠片はしっかり元々の皿に落下していく。

 神業のような技術にソラシドは感心したような声を出して拍手する。


「ああもうソラシド君は可愛いなー! ちょっと元気出たし、私はこれからまた走ってくる!」


「え、兎化……さっきご飯食べる前に二百キロは走ったよね、まだ走るの?」


「当ったり前でしょ! 蘭兎も走るよ、あと百キロは余裕でしょ!」


 笑顔の兎化は蘭兎の腕を掴んで強引に玄関へと引き摺っていく。


「ご飯食べたばっかりで走るのはきついよ……」


 力ずくでも妹に敵わない。蘭兎はなすすべなく、死んだ瞳になって無抵抗で引き摺られていった。

 家を出ていった二人を見送ってから神奈はソラシドに目を移す。

 食事をようやく食べ終わったソラシドは満足そうな顔で手を合わせている。その姿に神奈は違和感を覚えていた。


「……ソラシド、また成長したか?」


 昨日よりも今日の方が一回り大きくなったように見えていた。実際に不自然な成長で少し大きくなっている。


「まあこんなものだろう。寝る子は育つとはよく言ったものだ」


「明らかにそんなレベルじゃないだろ。何かの病気とかじゃないだろうな……」


 今のソラシドの外見は平均的な三歳児といったところだ。

 出会ってからもう少しで一か月。最初は生後数か月くらいの体だったにもかかわらず、一か月経たずに三歳児くらいの体になっている。明らかに成長速度が異常だ、病気と疑いたくなるのも仕方がない。


 悩みはしても答えは出ない。無駄に気にするよりも、何かこれからのことを考えた方が堅実だ。

 神奈達は学校に……速人はソラシドと留守番すると言って聞かないので一人で学校へと向かう。余裕を持って隼家を出たので、伊世高校始業時間まで一時間もある。


 通学路を歩いているとき、神奈は妙な人影を見つけた。

 大きな石像を背負った子供が道端をうろついている。あまりに不審な光景に神奈は立ち止まってしまう。


「な、なんだあいつ……」


 通学路をうろうろしている子供が振り返り、神奈と視線がぶつかる。

 目が合った瞬間に子供の目が見開かれ、重そうな石像を背負っているにもかかわらずあっという間に神奈の元へと接近した。


「神谷さん、ようやく見つけただ!」


 近付いてきた子供をよく見ると神奈の目が丸くなる。

 大きな石像を背負っていたせいで見えづらかった赤い肌。黄赤色の髪を掻き分けて、短くても頭から生えている二本の角。口からは八重歯が出ている背の低い少年。間違いなく魔界に住む鬼族の特徴であり、顔見知りである少年であった。


「お前まさか、ゲルゾウか! なんでここにいるんだ、観光か?」


 魔界と呼ばれる世界に神奈は二度行ったことがある。

 一度目は神神楽神人を止めるため。二度目は中学三年生のときだ。そのどちらもゲルゾウとはあっていて、二人の仲は良好である。


「お久しぶりだあ、オラずっと神谷さんを捜し回ってたんだべ! 青い水溜まりを泳いだり、たっかい山登ったりしたけどもお、全然見つからなくて疲れただよ」


「お前どこに行ってたんだよ。捜すって、私に何か用だったのか? 学校始まるまでまだ時間あるし話は聞くぞ」


「本当だか! 実はオラ、魔王様からの伝言を頼まれてるだよ」


 ゲルゾウは懐から折り畳まれている黒い紙を取り出す。

 魔王からの伝言をなぜ子供に任せるのかは謎で、本人なら何か知っているかもと神奈は問いかける。


「へぇ、でもそんな重大な役目をどうしてお前が?」


「実は鬼族と魔王様の友好を示すために、今は魔王国の隅に移り住んだ鬼族の誰かに行ってもらいたいって話が来たんだべ。だから久し振りに神谷さんにも会いたかったからオラが志願したんだ。……じゃあ今から神谷さんに聞かせるだ」


 魔王からの伝言というワードに嫌な予感はしたが、神奈もそれだけで拒否するのは可哀想だと思い聞くことにした。


「拝啓、無事に魔界からの使者に会えたようだな。現在平和な魔界では、ハンターが黒竜の巣から卵を狙って、ハンター達が盗んだせいで魔王国近隣の村がいくつか焼かれている……と、まあいつもと変わらない日常を過ごしているだ」


「おいどこが平和だよ、村焼かれてるだろうが」


「そんな中、平和を乱す話が出てきただ。伝承にある初代魔王が封印したとされる魔人、その封印されている石像に復活の兆候が見られた。だから魔界の英雄である神谷神奈にそれをなんとかしてほしい」


「おい雑すぎだろ」


 なんとかしろと言われても、何も分からない状態では何もできない。そもそもこれではまるで面倒なことを押しつけられたかのようである。

 とりあえず続きの言葉を神奈は待つが、ゲルゾウから一向に続きが話されない。


「……あれ、続きは?」


「さっきので終わりだべ!」


「おい最後雑すぎだろうが! なんだなんとかしてほしいって、それ完全に厄介事押しつけてるだけじゃん! だいたいそんなの私に言われてもどうしようもないよ!」


 いくら常人離れした実力を持っていても、魔界の英雄だと持ち上げられても、神奈は全知全能なわけではない。初代魔王が封印した魔人の石像などと物騒な物をどう扱っていいかなど分からない。


「そうなんだか? まあいざとなったら、オラがこれを近くで砕けばいいって言われてるだ」


 そういってゲルゾウが取り出したのは怪しく光る赤い石だった。

 見慣れない赤い石に神奈は「宝石か?」と首を傾げるが、腕輪が詳しい説明をする。


「これは爆魔石(ばくませき)ですね。魔界の灼熱地帯でしか生成されないので、かなり希少な鉱石です。しかしこの石は強い刺激を与えると、太平洋を消し飛ばすほどの爆発を起こすので注意が必要です」


「おい完全に捨て駒にされてんだろうが! なんつう危険物渡してんだよ魔王、鬼族との友好性の欠片もないよ! ……ゲルゾウ、お前それを絶対に砕こうとするなよ」


「分かっただ。それで神谷さん、この石像を貰ってくれるだか?」


「……ああ、貰ってやるよ。魔人だかなんだか知らないけどなんとかしてやるよ」


 このまま拒否すれば下手したらゲルゾウが死亡する。それだけは避けたいので、神奈は仕方なく引き受けることにした。

 目的を果たせたゲルゾウは嬉しそうに頬を綻ばせ、白い歯を出してにっこりと笑う。


「ありがとうだ! じゃあオラは少し観光して、みんなのお土産買って帰ることにするだよ」


「また会おうな、元気でやれよ」


 浮かれているのが傍から見て分かりやすいスキップをして、ゲルゾウは去って行く。問題は神奈が石像をどう処理するかである。

 このまま放置すれば魔人が復活する。かといって封印し直すというのも神奈には不可能だ。


「……よし」


 何かを思いついた神奈は置いていかれた石像に近付き――顔面に拳をぶつけて、首から上を粉々に砕いた。

 いいことをしたかのように一息吐くと、白いハンカチで額の汗を拭く。そして神奈は石像を通行の邪魔にならないよう隅に移動させる。


「ええ……それでいいんですか神奈さん」


「大丈夫だ問題ない。石化が解けた瞬間に魔人とやらはお陀仏、完璧な作戦じゃないか。仮にこのまま残ったとしても、なんかこう観光名所的なのになるんじゃないかな。ああいいことした、学校行こう」


 大きすぎる問題は、一人ですぐ解決などできはしない。だが問題はない、そう思うしかない。

 こうして魔人の石像を道端に放置して、神奈は伊世高校への歩みを再開した。



 話が進まないのは修正作業しているからなんです。

 そうだ、だからしょうがない。……このペースが続いていても、どうしようもない。修正なんて必要ないなんてそんなことはない。修正は必要、必要、なんだ……きっと、そうなんだ。

 でも……投稿ペース遅くてほんっとうに申し訳ありません!


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