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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十三章 神谷神奈と導きの聖剣
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263 露見――秘密はいつかバレるもの――


 喫茶店の店員――レイは警戒を怠らない。

 いくら子供のように見えていて、実際に子供なのだとしても、グラヴィーとディストを倒したのは事実だ。実力は高い二人を倒した時点でもうただの子供であるはずがない。同じ場所で働く仲間を傷つけられたことで怒りが出るが、勢いに任せて殴るのはダメだと抑え込む。


 一方ソラシドは百円玉を手に取り、一切の躊躇なくレイに投げつけた。


「わるいひとはきらいだ!」


「僕をその二人と一緒にしないでほしいね」


 投げられた百円玉を軽々と防ぐ。だが手で弾かれた百円玉はグラヴィーの方へと飛んで額に直撃する。


「いだっ!?」

「あ、ごめん。うーん、二人とも、何か悪いことしたのかい? ……って僕も言われたんだっけ」

「はぁ……悪い」

「ことか……」


 レイも同じだが、グラヴィーとディストも自分の記憶を頼りに悪事を探る。

 悪事といえば彼らが地球に来たときは侵略者だったので、それまでにしてきたことが世間一般的に悪いことではある。

 特に言われた時は思い出さなかった三人だが、少し考えて悪いことかもしれないことを思い出す。


(そういえば昨日……僕は小腹が空いて冷蔵庫にあったプリンを食べたが、誰の物か分からなかったな。僕が買っていないことは確かだ。……だが以前僕の杏仁豆腐が消えていたことから誰かが食べたことは明白。レイかディストのどちらが犯人でも構わんが、仕返しとしてプリンを食べてしまった。もしやこれがあの子供のいう悪いことなのか……?)


 世間一般的に見て悪いことである。


(悪いこと、悪いこと……まさか! この前勝手に冷蔵庫の中に置いてあったコーヒーゼリーを食べたことか! くっ、つい空腹で口に半分運んでしまったが、それでも半分だ、全部じゃない。レイが新しいデザートメニューを考えていたらしいからたぶんそれだろう。半分になったコーヒーゼリーをどうしたものかと悩んでいたとき、冷蔵庫の中に杏仁豆腐があるのが目についた。俺は杏仁豆腐を半分食べ、残りの半分をコーヒーゼリーの皿に乗せておいた。これでバレないかなとか思っていたがよくよく考えたら普通にバレる! これがガキのいう悪いことなのか……?)


 世間一般的に見て悪いことである。


(うーん、確か昨日僕のプリンがなくなっていたんだよなあ。加えて以前新作メニュー予定のコーヒーゼリーが、なぜか半分杏仁豆腐になっていたっけ。でもそれらは僕が悪いわけじゃないよね、何もしていないし。……ああでも美味しい組み合わせだったから新作メニューとして出したんだ。杏仁豆腐とコーヒーゼリーの両方が食べられる品だったけど、まさか評判が悪かったのか? 一度神奈に出したら『うまいうまい』としか言ってくれなかったから、それ以外の客には試作を出さなかった。まさかこの子……新作、アンニンゼリーの評判の話をしているのか……?)


 世間一般的に見て悪くないことである。

 何はともあれそれぞれが自分のした悪いことを想像し、両膝をついて土下座の態勢でソラシドに頭を下げる。


「すまなかった! プリンを食べたのは出来心だったんだ!」

「すまない! 杏仁豆腐を食べてしまったことは謝る!」

「ごめん! 次から試作は最低五十人に出すよ!」


 ――だがすでにソラシドは机の上にいなかった。

 マインドピース店内にもいなかった。ソラシドは三人が記憶を辿っている間に机から下り、一人で店を出ていってしまったのだ。


 店内に残ったままの三人はそれぞれの罪の告白を聞き、頭を上げてゆっくりと立ち上がる。

 グラヴィーとディストは軽い喧嘩をし始めて、レイは新しい商品案を練ろうと厨房へ戻っていく。

 マインドピースという店名に反して、彼らの心は平和になりはしなかった。


 喫茶店を出たソラシドは当てもなく歩く。

 鮮やかな夕日が町を、浮かぶ雲を、空一面を朱色に照らしている。


「あ、そごのひとー! ちょっくら待ってくれだー!」


 声を掛けられたのは自分だと判断すると、ソラシドは後ろを振り向く。

 後ろから歩いてきたのは赤い肌の少年だった。黄色い髪、額からは小さめの白い角、紛れもなく魔界に住む鬼族の証だ。

 背の低い少年は二メートル近くある人型の石像を背負っている。まだ小学生高学年程度の身長しかない少年がそんなものを背負えているのは、鬼族由来の怪力のおかげだ。鬼族ならば五歳という幼い年齢でも鋼鉄を力任せに歪ませられ、大人になれば木端微塵に砕くこともできる。


「ちょっと尋ねたいんだけどもお、神谷神奈さんって人の家を知らないだか?」


 見るからに自分より幼いソラシドに訊くのはおかしいが、少年がそういった判断をできていないので仕方がない。二年以上前まで少年の周囲の環境は閉鎖的な集落だけが全てであり、他者との交流が少なすぎたのだ。

 十秒ほど経過したが質問の答えは返ってこない。

 質問をされたソラシドは困っていた。神谷神奈というのは自身が「ははうえ」と呼ぶ女性の名前である。しかし家がどこなのか、現在当てもなく歩くソラシドには分からず、少し考え込むと前方に人差し指を向ける。


「あっち」

「そうだか! ありがとうだあ!」


 知らないのに知ったかぶり間違った道を教えることは、世間一般的に見て悪いことである。

 少年は疑いもせずに走り出し、あっという間にソラシドからは見えなくなった。少年が向かう先は神奈の家とは真逆であり、全力で遠ざかっていく。


 ソラシドは再び歩き始める。先ほど起きたことなど気にせずに足を進める。

 やがて足を進め続けていると、突如両足が地面から離れた。自分の意思ではなく体が空中へ持ち上げられる。

 両脇に手がいつの間にか入っていて、人に持ち上げられているということを理解した。


「ねえねえ洋一、将来こんな子供が欲しいよね」


「それは分かったけど、他人の子供なんだから下ろしてあげなよ。それにしては近くに親がいない……迷子かな?」


 ソラシドを持ち上げているのは鷲本恵。その隣で車椅子に座る少年は白部洋一。二人とも神奈の友人である。

 近くに大人がいないことから迷子かと思い、二人はどうしようか頭を悩ませる。

 持ち上げられているソラシドにとって、邪気が感じられない相手だったので心地良い時間にはなっていた。


「いたぞ! すいませーん!」


 洋一達の後方から全員の聞き慣れた声が響く。

 気になって体を振り向かせると友人の姿が目に入る。


「その子うちの子で……し、て……」

「うん? 神谷さん?」

「うちの子?」


 両手でソラシドを持ち上げている恵は視線を神奈とソラシドへ交互に送る。やがて言葉の意味を理解すると大声で叫ぶことになった。


「えええええええええええ!」


「か、神谷さん……誰との子なのさ?」


「えええええええええええ!」


「いや違う! 違わないけど違うんだ! ああくそ秘密にしてたのにいいい! あといつまで恵叫んでんだよいい加減うるさいよ!」


「ご、ごめん。でも驚いちゃって……説明はしてくれるんでしょ?」


 今まで隠されていたということで悲し気な表情になる恵。そんな彼女に神奈も今までと同じように黙っているのは嫌だと思った。

 友人だからこそ隠していたかったが、友人だからこそ話せることもある。

 神奈は最近秘密にしていたことをほぼ全て白状した。空から降ってきた赤子のことを一片の嘘なく伝えた。


「何言ってるの? 頭おかしくなったんじゃない?」

「あれ酷くない!?」


 そして話した先で出された言葉は、伝わらなかったということが分かってしまう言葉だった。


「……それが本当だとしたら、また何かが起ころうとしている。もしくはもう起こっているんじゃないかな。この世界は本当に、不思議なことだらけだ……」


 暗くなり始めている空を見上げながら、洋一は密かに呟いた。



赤い鬼族「あれ、ここどこだあ? もうすぐシリアス展開が増える時期、そんなときにオラは今日……ビッグマックを食べるだ」


腕輪「そうですね、雨にも負けず、風にも負けず、何にも負けずビッグマックを食べましょう」


恵「そうね、私も混乱を抑えるためにビッグマックを食べるわ」


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