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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十三章 神谷神奈と導きの聖剣
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259 発見――しつこいぞ――


「二か月ほど前、俺はこの家に地下室があることを発見した。俺が作ったわけではなく、本当に元からあったものだ」


「地下室? この家にそんなものが?」


 霧雨家の地下室という存在には、二か月前まで誰一人として気付いていなかった。それは家に遊びに来ていた神奈や斎藤、恋人である夢咲、家主である霧雨すら気付くことができなかった。


「地下室を見つけたのは偶然だった。ある日、チョコボールを食べていたら落としてしまい、転がっていくのを拾おうとしたら俺が転び、その拍子に何かのスイッチを押してしまったのだ。完全に擬装されていたから今まで気付けなかったが、地下室への隠し通路を出すものだった」


「……マジで偶然じゃん」


 本当に偶然という事故である。普通に生活していればまずないような偶然だ。


「そう、まさに偶然。俺は地下室の階段を下り中を一通り見て回った。広さはこの家と同程度、そして最奥には……パンダレイが立っていた」

「そのときワタチは裸でした」

「いらんことを言うな!」

「あー! なんで隠そうとしたの! やましいことあるの!?」

「言ったらこうなるからだよ! ああもう話を戻すぞ!」


 興奮した夢咲が叫んでいるのを神奈が口を押さえて止める。話が進まないのは困るからだ。ついでに霧雨の配慮も分からず話を脱線させたパンダレイを殴った。

 咳払いをしてから霧雨はまた語り始める。


「パンダレイはそのとき意識がない状態にあった。パソコンのシャットダウンされた状態のようなものだ。俺は電源を探したが見つからず、途方に暮れていたときだった。思い出したようにチョコボールを食べて、先ほどのように転び、偶然床に偽装されていたスイッチを押した」


「またチョコボール、というか偶然かよ!」


「スイッチを押すと床から台座が出てきて、それ自体が起動させるために必要な機械だった。起動、停止、その二つが選べる。俺が起動させるとパンダレイは動き、口からこの紙を印刷機のように吐き出した」


「きたなっ!」


 霧雨はその紙を懐から取り出し、全員に見えるように机に置く。

 白い紙にぎっしり文字がかかれたそれを神奈達は見つめる。目を通すだけでもいいが、霧雨は一応念を入れて説明し始める。


「その紙は過去からのメッセージだった。戦闘用人造人間マテリアル・パンダレイ。重要な鍵になるので、破壊しないように厳重に保管すること。これをいつの時代の誰が託したのかは分からない」


「ワタチもそれは覚えていません。長年放置されていた影響で記憶全てを思い出すのには時間がかかるようです」


「鍵ってのにも心当たりないのか?」


 重要そうな単語であるので神奈は二人に問いかけるも、心当たりがないので二人は首を振る。

 分かっていることはパンダレイという人造人間が、何か重要な役割を持っているということだけだ。そんな軽はずみに口を出せない内容に夢咲も押し黙っている。


「とにかく夜知留。パンダレイには役割がある。それが何かは分からないが、きっと重要なものに違いない。だからそういう理由で家に置いているだけだ。浮気とかいう勘違いは消えただろう?」


 ずっと黙っていた夢咲は暗い顔で呟く。


「……でも、和樹君は機械好きでしょ」

「……うん?」


「パンダレイさんは機械よね」

「まあ、そうだな」


「私は恋人だけど機械じゃないの。なんだか距離が開いたような気がして、ちょっと怖くなったよ。このまま和樹君はパンダレイさんと幸せになるんじゃないかって」


 霧雨が機械を愛しているというのは事実。パンダレイが機械だということも事実。二人の相性は抜群であり、夢咲は恋人であっても、そんな二人なら自分達以上に仲睦まじくなれるのではと思ってしまった。

 心臓が張り裂けそうなほど痛く、痛みすら超えた悲しみが夢咲の顔に表れる。


「……夜知留。安心しろ、俺は自分の意思でお前を選んだんだ。お前を捨てるようなことはない、今ここで約束しよう。俺は生涯お前と一緒にいるさ」


「……和樹君。人間よりも機械が好きなのに」


「大丈夫だ。もしものときはお前を人造人間にしてでも愛してやる」


「いやいきなり何言ってんだよお前は! まさか夢咲さんをターミネーター的なやつにする気か!?」


 神奈は霧雨の首を両手で掴み揺さぶる。


「じょ、冗談に決まっているだろう!」

「じゃあさっきのキメ顔はなんだよ! 明らかに本気だったろうが!」

「あ、愛せなくなればの話で、ものの例えで! な、生身でもちゃんと愛してるから! 放せええ!」


 あと一歩で霧雨が気絶しそうになったとき、抑えきれない押し殺した笑い声が部屋に漏れる。

 二人は動きを止めて微かに聞こえた声の方を見ると、夢咲が両手で口を押さえて震えていた。


「ぷっ、ふっ、ふふっ……! なんだか久しぶりな気がするね、こういうやり取り」


 口元が嬉しそうに歪み、片手で押さえる夢咲の心からは悲しみが消えていた。


「あー、ありがとうね神奈さん、私のために怒ってくれて。でも大丈夫、和樹君はそんなことしないよ。浮気だとか心配しちゃったけど、そういうのももう心配してない。だってそれだけの覚悟が伝わったから……」


 心の曇りが晴れたような笑顔は次第に元に戻っていく。

 霧雨の首から両手を離した神奈はよく分かっておらず、どういうことかと首を傾げている。

 疑問符を頭に浮かべている神奈に、夢咲は優しい笑みを向けた。


「いつか、神奈さんにも分かるよ。愛してくれる人の気持ちが伝わるってこと。だってすぐ近くにいるじゃない」


 神奈はさらに疑問符を浮かべ、速人の方に視線を送る。相変わらず速人はソラシドに懐いてもらおうと試行錯誤していた。

 ぎこちない動きで送られた目線が彷徨い、神奈の顔は僅かに赤く染まる。


「ち、違うから! こんなやつ好きじゃないから!」


「む? ソラシド、どうやら神谷神奈はお前のことが好きではないらしい。どうだ、これで俺に」


「ソラシドのことじゃないよ! 私わりと好きだから!」


「隼君のことが?」


「隼のことじゃないよ! 私は……えっと……」


 揶揄う夢咲に対し、神奈は言葉を詰まらせる。

 どういうわけか、自分の気持ちがしっかりと把握できていない。速人のことを出会った当初は嫌いであったが、今となってはよく分からない状態にあった。

 モヤモヤとした気持ちに気持ち悪さを覚えた神奈はもう一度宣言する。


「とにかく、少なくとも隼のことが好きとかはない!」

「どうかなあ、知らず知らずのうちに……」

「ないったらない! 夢咲さんしつこいぞ!」


 顔を真っ赤に染めて怒る神奈を見て、さすがに揶揄いすぎたかなと夢咲は思い軽く笑う。


「そういうことにしておくよ。そうだ神奈さん、隼君も。今夜はご飯一緒に食べない?」

「え、うーん……私はいいけど」


 ちらりと速人に視線が送られる。


「悪いが俺は家に帰る。母さんがもう料理を作っているだろうし、今日でソラシドに懐いてもらわねばいけないしな」

「だってさ。私は食べていくよ、そういや夢咲さんの料理って初めてだよな」


「そういえばそうね。今日は気合を入れて作る……ちなみにパンダレイさん好き嫌いある?」


 機械であるパンダレイが食事をとるのかすら疑問だが、夢咲は念のために訊くことにした。

 その質疑応答が行われている間に、速人はソラシドを抱えて部屋から出ていく。


「……ワタチは野菜を好みません。血となり肉となるものが好きです」


「お前は機械だから血も肉もないだろ」


「分かったわ、じゃあこれから作るから待っててね!」


 くるりと後ろを向いて夢咲はキッチンへと向かっていく。

 それから神奈達は雑談をして待ち、一時間後には料理ができたということで運ばれてくる。

 だが運ばれてきた料理を見て、神奈は嫌な既視感を覚えた。


「いただきます」


 全員が食事前の挨拶をして、神奈以外が箸を動かし始める。

 一向に箸を持ったまま動かさない神奈に異変を感じ、夢咲は問いかける。


「どうしたの神奈さん? 箸が進んでないみたいだけど」

「う、うん、あのさあ……これ、なにかなあって」


 神奈が箸を向けたのは紫色の球体だ。なぜか紫色の湯気が出ており、あるはずの食欲が失せていく。

 以前にも鷲本恵の料理上達のため、下手な料理を食べ続けてきたからこそ、料理を前にして神奈には嫌な予感があったのだ。


「なにってハンバーグよ。自信作」

(おかしいな……私の知っているハンバーグは紫色じゃないんだけど)


 紫という色は毒のイメージがあるので警戒してしまう。


「ち、ちなみに霧雨が食べてるのは?」

「蒸した鶏肉を入れた野菜炒め。お味はどう和樹君」

「普通に美味しいが、味が薄めだな」

「ごめんね、薄味が健康にいいらしいから……」


 現在霧雨が口の中に入れているもの。鶏肉は綺麗な肌色をしているが、野菜は黒く変色している。

 非常に美味しくなさそうである見た目だが、霧雨は特に抵抗なく食べ進めていた。

 とりあえず神奈はそれ以外のものに視線を移すと、パンダレイが液体を飲んでいるのが視界に入る。


「……パンダレイが飲んでるスープは?」

「ワタチのはただのオイルです」

「料理食べてないのかよ!」

「失礼ですね。健康に気遣ってサラダ油を飲んでいるのに」

「それ健康か……?」


 唯一白米だけは何も異常ないが、おかずの見た目が神奈の食欲を削いでいく。

 およそ十分経ち、それぞれの高校生活も話しながら食べ終わることができた。


「ごちそうさま」

「あれ? 神奈さんお米だけしか食べてないけど」

「ごめん、私はお米中毒なんだ」

「なにそれ初めて聞いたんだけど!?」


 白米以外手をつけていない神奈は死んだ瞳でそう告げた。

 なおハンバーグが紫色なのはサツマイモを練り込んであるだけで、野菜炒めが黒いのはイカ墨が使われているだけである。見た目はともかく味はおかしくない。

 ――その事実を知るのはまだ先の話だ。



神奈「私は隼のこと恋愛面で好きというわけではないです。いやこれわりと本気で、何か紛らわしい発言してるけど違います」


腕輪「か、神奈さん? 誰に言っているんです?」


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