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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十二章 神谷神奈と七不思議
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233 婚約指輪――七不思議その六――

腕輪「ついに七不思議も最後ですか……え? これが一番話長いんですか?」



 伊世高校教室内、一年生クラスではとある女子生徒が目を輝かせて話をしていた。

 相手は車椅子に乗った男子生徒であり、話の内容には困ったような表情を浮かべている。


「恵に白部君、なに話してんのさ」


 そこにもう一人の声が交ざる。

 やって来た少女である神奈は、話をしている恵と洋一に話しかける。


「ああいや、実は――」


「神谷さんも気にならない!? 七不思議その六、奇跡の婚約指輪!」


「……そういうことか」


 婚約指輪という単語から、いつもの恋愛における暴走だと悟った神奈は目を逸らす。


「ていうかそれよりも校舎だろ。深夜はあんな状態だったのにもう直ってるんだぞ?」


 数時間前には伊世高校の校舎は半壊していた。

 神奈達と校長であるアムダス・カーレッジが、強大な力を持つ一匹の犬と戦ったことによるものだ。

 戦闘が終わったあとでアムダスはスキルにより修復しておくと言葉にしていたが、それがたった数時間で終わると神奈達は思っていなかった。

 数日程度は休校かなどと思っていたが、予想に反して無事に登校できている。


「それは凄いと思ったよ、スキルって言ってたけどどういった仕組みなのか気になるね」


「そういえば白部君も車椅子と義足が直ってるじゃん。新しいやつ?」


「うん、家に予備があったのが幸いだったよ」


 義足や車椅子が壊れてしまえば、移動が困難になってしまう。

 そんな時のために洋一は家の中に予備を用意しているのだ。

 今回予備を使っていることによって、また新しい予備を用意している最中である。


「みんなあんなことがあったなんて思いもしないんだろうな……」


「そんなことより指輪よ指輪! 最後の七不思議の――」


「どんだけ話したいんだよ! それってこの話よりも大事!? 後で聞くからちょっと待ってくれよ」


「いや、とりあえず夜のことは置いておいて、次の七不思議の話でもしようよ」


 洋一が口にした言葉に神奈は「うん?」と首を傾げる。


「まだ七不思議の調査ってやるのか? もう必要はないよな?」


 元々神奈達が七不思議を調査していたのは学校の謎を調べるためだった。

 どうして強さで推薦状が送られるのか、校長の目的はなんなのか、それを調べるために身近なものから調べようということで始まったものだ。

 しかしそれも校長本人からの話で大まかな事情は知れたので、目的はもう達成している。


「確かにそうなんだけどね。なんだかここまで来たら最後まで調べたいなって思ってさ」


「うーん、まあ気にはなるかなあ。残ってる七不思議って?」


「その質問を待ってたわ! 残っている七不思議はただ一つ、奇跡の婚約指輪よ!」


 話していた二人の間に恵が勢いよく割り込んで叫び出す。


「色が違う二個の指輪を男女が指にはめると将来結婚する運命になるんですって! 私ってば七不思議調査するって決まってからずっとこれのこと考えてたんだから! 今すぐ行きましょう!」


「落ち着けよ! 今から授業始まるんだぞ!?」


 教室を興奮して息を荒くしながら出ていこうとする恵の腕を、神奈は掴んで離さないようにする。

 掴まれて教室の外へと進めない恵だが、お構いなしに進もうとしている。もちろん神奈の力には敵わないので少しも前に進むことはできない。


「まあそれについては今日から調査を始めようよ。でも実はそれ以外に気になることが一つあってね、どうやら七不思議その七ができてしまったらしいんだ」


「七不思議その七? それって確か存在してなかったんじゃなかったっけ」


 七不思議その七は他の学校には七個あるのに、この学校には七個目がないということだった。

 ないものはないので、神奈達は調べるものが一つ減って楽になったと思っていたのだが、新たにできあがったというのなら話は別だ。

 奇跡の婚約指輪も調べると言った以上、新しく加わった七個目の不思議も調査しなければいけない。


「今日追加されたんだよ、その七の内容は奇妙でね。深夜、学校から人間がゆっくり飛んでいくのが見えたってものなんだ。それに飛ぶといってもなんていうのかな……何かにぶら下がるような、拘束されているような感じで飛んでいたらしいんだ。それも歩行者並の速度でね」


「あぁ、それって……」


「え? なんだって? ごめん、ちょっと小声すぎて聞きとれなかったんだけれど」


 神奈には心当たりがありすぎた。

 戦闘が終わったので家に帰ろうとした時、腕輪が運ぶと言い出してフライの魔法で空を飛んだのだ。

 最高速度は歩行者並であり、神奈自身ではなく腕輪が飛ぶのでぶら下がるような形になる。

 情報と一致している部分が多すぎた。


「いや、そのだから……」


「えっと、もう少し声を大きくしてくれないかな? 本当に聞きとれないんだ」


「私だよ! その七の正体は私だよ! これで満足か!?」


「ええ!? あ、ああ、そ、そうなんだ……」


 いたたまれない雰囲気のなか、担任教師である若空焔が入ってきて授業が始まった。

 授業に入って話が途切れたのは、神奈にとって嬉しいことであった。

 恵は授業が始まってしまうならと出ていくことを渋々諦めて席に座る。


 伊世高校であっても学校である以上最低限の学業は存在している。

 基本的な現代文、数学、科学や現代社会などはもちろん、体育や家庭科などの授業もしっかりとプログラムに入っている。

 しかし武力が自慢で入ってきた者ばかりなので、勉学には苦労する者は少なくない。

 普通の学生のような一日分の授業を終えて、神奈と洋一、それに恵の三人は再び集まっていた。


「それでその婚約指輪ってどこにあるんだ?」


「それなら事前に訊いておいたんだ。場所なら分かってるよ」


「え、指輪の場所分かってるの!? それなら早く行こうよ! すぐに二人で指輪をつけに行こう!」


「僕達、調査に行くだけなんだけど……」


 明らかに自分と指輪をはめる気満々の恵に、洋一は呆れたような目線を送る。


「それで場所は?」


「――生徒会室さ」


 伊世高校生徒会室。一階にある職員室の隣にある場所だ。

 生徒の悩みの相談や喧嘩の仲裁などが主な仕事であり、事務的な仕事はほとんどない。

 よりよい学校生活を実現するために頑張る。そんな志を持っているのが生徒会である。


「ここが生徒会室……」


「ここに指輪が……!」


「進藤会長、白部洋一です。入りますよ」


 きちんとノックをしてから声を掛けるマナーを守る。


「入っていいですよ」


 洋一は扉を横にスライドさせていく。

 生徒会室の中は殺風景なものだった。

 壁は一面白で統一されていて、床もよくあるフローリングである。

 中にある物も大きな机が一台、窓際に一人用の机が一台、ホワイトボードが壁際に一台あるだけだ。


 生徒会長である黒と赤が交じった髪の女性生徒――進藤明日香。

 入学式のときに挨拶していたから生徒会長だけは見覚えがある。その他の生徒会メンバーには見覚えがない……はずだった。


「……お、お前達……なぜここに」


 驚いたのは神奈達と、生徒会メンバーである男子生徒だ。

 黒髪を肩より少し上程度で斬っていて、鋭い目に整った顔、そして腰にある刀が特徴的な男子である。

 部屋には明日香とその男子生徒しかいなかった。生徒会は現在二人なのだ。


「は、隼? お前なにしてんだ?」


 ――生徒会の腕章を右腕に付けている隼速人であった。


「ぷっ、うっそでしょ、アンタが生徒会!? 似合わないってあっはっはっは!」


「ぐっ……! よりによって一番見られたくない奴らに……!」


 恵は堪えきれないように吹き出し、速人は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 神奈と洋一も信じられない気持ちだったが、いくら頬を抓っても痛いだけなので夢でなく現実だと理解する。


「隼君は生徒会だったのかい?」


「……今日からな」


 洋一から目を逸らす速人を見て、生徒会長である明日香が声を出す。


「なるほど、一クラスしかないから知り合いでしたか。その通りですよ白部君、速人は今日から生徒会へと加入させました」


 その言葉を聞いて神奈は速人へと近寄って、小声で話しかける。


「おい、お前何したんだよ。生徒会へ強制なんてよっぽどのことだろ」


「……遅刻してきただけだ、大したことじゃない」


 しかしその声は明日香にしっかりと聞こえていた。


「大したことじゃないですか? 入学一日目から今日まで毎日遅刻ですが、それでも大したことがないと? 私にはそうは思えないのですが」


 痛いところを突かれたと速人は舌打ちする。


「生徒会長と隼って今日会ったばっかりか? にしてはずいぶんと親し気だけど。会長は名前呼びだし」


「正真正銘今日に会ったばかりです。毎日遅刻していたことは知っていたので、それを今日で叩き直してさしあげようと思っていました。しかし今日も遅刻してきたことで考えを改めて、生徒会に入れることで日々の態度などを監視しようと思ったのです。名前呼びに関しては、私個人として速人と呼んだ方がしっくりくるからですよ。どうしてそう思うのかは分かりませんがね」


 明日香の言葉に洋一はどうしてか一瞬だけ暗い顔をみせるが、すぐに普段通りに戻って本題の話をしようと口を開く。


「すいません進藤会長。今日の要件は頼み事でして」


「頼み事? 白部君からですか?」


「はい、以前相談したこの学校の七不思議についてです。奇跡の婚約指輪がここにあるって言ってましたよね? それを拝見したいんですけど」


 七不思議にあるとはいえ実在する学校の資産の一つ。

 そんなものをおいそれと簡単に見せていいものか、明日香は深く悩みだす。


「校長先生には好きにしていいと言われていますが、そう簡単には……あ! そうです、こんなのはどうでしょう」


 名案を思いついたというように明日香は人差し指を立てる。


「ちょっと生徒会の仕事を手伝ってください」


 その提案に明日香以外の目は丸くなるという結果になった。



腕輪「ところで婚約指輪なんて神奈さんは付けませんよね? だってそれ浮気ですもんね?」

神奈「とりあえずお前の思考がおかしいのは分かった。お前は腕輪で、婚約指輪は指輪だし。そもそも浮気扱いにならないし」


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