225.2 吸血――高校でのコミュニケーション――
授業の合間にある休憩時間。
神奈のもとに亜麻色の長髪の少女、大空天海がやって来た。
「ねえ、神谷さん」
甘く優しい声で名前を呼ばれて神奈は天海を見る。
「隼君と神谷さんは友達だよね。私クラスのみんなと連絡先交換したいんだけど、隼君は交換してくれないんだ。どうすれば連絡先交換出来るかな」
「さあなあ、分からない。それにしてもクラスのみんなとって凄い目標だな」
一年生は二十人。自分を除いて十九人。
クラス全員と連絡先を交換するのはかなり難しい。よく知らない人間に話しかけるのと、連絡先を聞き出すまでの自然な会話運びをするには、高度なコミュニケーション能力が必要不可欠だ。神奈には絶対に無理と言える。
「今まで誰と連絡先交換したの?」
「もう神谷さんと隼君以外は交換したよ」
「へええ凄いってなんで私も交換してないんだよ! 連絡先くらい言ってくれれば交換するのに! もう何度も話してるんだから言えばいいじゃん!」
「ごめんね。いつでも聞けそうだなあと思ってたら後回しになっちゃって」
「今すぐ連絡先交換するぞ! 今すぐな!」
神奈はスマホで天海と連絡先を交換する。
因みに伊世高校でゲット出来た連絡先は洋一、恵に続いて三人目である。
「それにしても、凄いな。これで隼以外とは連絡先交換したんだろ?」
「うん。あとは隼君だけ」
「話しかけづらい奴等も居るのに……感心するよ」
速人以外ということは、傲慢不遜な王堂晴天や口数の少ない藤堂綺羅々からも連絡先をゲットしたということ。既に二人と知り合い状態な神奈でも連絡先を訊けない。天海のコミュニケーション能力は尊敬出来る。
「話しかけづらい人って?」
「一番は……あいつだな」
神奈が視線を送るのは窓際の後ろから二番目の席。
そこにはクラスで一番目立つ見た目の男が座っていた。顔を白と黒で塗り、微かに笑みを浮かべながらギターを弄っている。メタル系のバンドでもやっていそうな見た目だ。
「デービー君だね。良い人だったよ?」
「あいつはなんであんなメイクしてんだ。怖いんだよ」
「コープス・ペイントって言うんだって」
コープス・ペイントとは顔を白と黒に塗る化粧のこと。
主にブラックメタルのバンドがやっている。ミュージシャンによっては、コープス・ペイントがトレードマークにしている。化粧の目的はミュージシャンを非人間に見せることだ。あくまでライブなどでする化粧である。
「家族も似たメイクしてるらしいよ」
「一家揃って!? 尚更怖いわ!」
家族でバンドをやっていると考えても理解出来ない。
「なあ、連絡先っていきなり訊いても教えてくれるもんかな?」
「教えてくれる人は少ないけど居るよ。デービー君も教えてくれたしね。どうして急にそんなこと訊いてきたの? 誰か連絡先ゲットしたい人でも居る?」
「まあ、高校での交友関係を広げたくてさ」
入学してから四日目とはいえ、伊世高校で初めて出会った生徒の友達は恵のみ。それも洋一と知り合いだったから友達になれただけ。神奈は高校でまだ、自分から話して交友関係を築いていないのだ。今日は後ろの席のスラリンと話せたが、他のクラスメイトとも話しておきたい。
「良いと思う! でも、いきなり訊いても教えてくれない人は多いかな」
「聞き出すコツとかあるの?」
「まずは会話だね。無難な話題は趣味とか、出身とか、面白かった動画やテレビ番組、相手の持ち物についてかな。心理テストをやってもらうのも話のきっかけとしては良いね」
「……難しいなあ」
「過去神谷さんが誰かと友達になれたきっかけを考えてみて。……友達、居るよね?」
「私結構友達多いよ」
神奈は友達が増えたきっかけを、うろ覚えだが思い返す。
悪霊に襲われた。吸血鬼に襲われた。家に転移して同棲。会話。共通の敵打倒を目指し協力。部活。戦闘。戦闘。会話。戦闘。会話。戦闘。戦闘。戦闘。共闘。会話。共闘。ラーメン。恋の応援。
「なるほど。友達になるきっかけ、事件と戦いだな」
「どんな人生歩んできたの!?」
事件に巻き込まれたり、飛び込んだり、そんな人生だ。
「よし、ちょっと挑戦してみるか」
強者を集めた特殊な学校でも、神奈は友達に囲まれた華やかな生活を送りたい。今は友達までいかずとも、気まずさなく話せる同級生を増やしておきたい。
考えてみれば今までに神奈が友達になった者達は、相手の方から関わってきたか、事件解決や何かの目的のために話した者がほとんど。自分から友達になろうと関わったことはあまりない。それでも不自由しなかった。楽しかった。神奈は周りに恵まれていたのだ。自覚すると今まで周りに甘えていたのではと思ってしまう。
この教室に慣れ親しんだ同級生は速人一人。他の友達は関わりの少ない浅い関係。神奈はそれをチャンスと捉える。友達を作りたいと一つの純粋な願いを抱え、一人の力で叶えようとしている。
神奈はとある女子生徒の席へと向かった。
自己紹介では吸血鬼と告げた低身長な銀髪少女、メリオマニア慶姫のもとへ。
「あー、なあ、今話せるか?」
「む? お主は神谷神奈じゃったな。何用じゃ」
「クラスメイトと仲良くなりたくてさ。次の授業まで話さないか?」
「うむ、構わぬぞ」
神奈は天海の話を思い出しつつ話題を選ぶ。
「日本語上手いよな。出身どこなの?」
「魔界じゃぞ」
「あ、そういや吸血鬼とか言ってたっけ」
「むぅ、お主の近くに居ると何かが気になるのう。これは匂いかのう?」
「え、私臭い?」
風呂には毎日入っているし体も洗っている。腕輪を付けている右手首も、腕輪に少し退いてもらって丁寧に洗っている。臭いなんてことはありえない……はずだ。自分の体臭が臭くても気付きにくいもの。気付いていなかっただけで、実は臭かったなんて考えたくないが。
「臭う。やはり臭い! 吸血鬼の死臭がする! さてはお主、過去に吸血鬼を殺したことがあるな! 我は真祖の吸血鬼の子孫。特別な我には分かる! 隠しても無駄じゃぞ!」
考えていた臭いの種類が違った。
吸血鬼には神奈も会ったことがあるし、殺したこともある。慶姫は同族だからそれに怒りを抱いたのだろう。目を鋭くして神奈を睨みつけている。
「確かに吸血鬼を殺したことはあるけど、悪い奴だったんだよ」
「ならば許す!」
「わりとあっさり!」
てっきり襲われると思っていた神奈は驚く。
「吸血鬼一族を滅ぼすつもりがないのならいいんじゃ。恨みや憎しみは個人へ向くもの。一族の存続にはあまり関係ないからのう。お主はエクソシストでもなさそうだし無暗に敵対せん」
「エクソシストって……お前の後ろの席の奴も」
「そう、エクソシスト上尾響! 初対面なのに敵意満々なのじゃ!」
慶姫と響の仲はとても悪い。顔を合わせれば睨み合い、たまに悪口を言っている。
「奴のことを考えるとイライラするのう。腹も空く。のう、少しばかり血を吸わせてくれぬか?」
「え、血を吸うってどうやって?」
「そんなん当然がぶっと噛むのじゃ」
「がぶっと!? だ、大丈夫かなあ。痛いだろそれ」
「噛まれた時は痛くとも、吸血中は無痛じゃし気持ちいいぞ」
「じゃあ……試してみてくれ」
吸血されるのは怖いが、クラスメイトが困っているのならと神奈は覚悟を決める。
慶姫の小さな口が神奈の左手首へと近付いて来て――。
「聖なるパンチ!」
「ぶばふっ!?」
ずっと教室入口から様子を窺っていた上尾に殴り飛ばされた。
「やっと本性を出したな吸血鬼め。俺はそなたが悪行をしないか監視していたのだ。罪なき人間を襲おうとするそなたはこの場で滅させてもらおう」
「お、おい待ってくれ上尾。私は襲われたわけじゃなくて」
「おのれ許さんぞ上尾響! お主の血を吸い尽くしてやる!」
殴られた怒りで慶姫は顔を歪ませる。
本気の敵意だ。戦えば相手を殺すかもしれない程の。
「戦う気か。ならば聖水を使う」
上尾は液体の入った霧吹きを取り出した。
聖水といえばゲームでもよく出て来るアイテム。特別な容器に入っているイメージだが、現実はまさかの霧吹き。特別感ゼロだ。使いやすさに関してはトップクラスの容器だがイメージは大事にしてほしい。
「聖水じゃと? そんなもの効かぬわ阿呆め!」
「喰らうがいい。聖水ミスト!」
上尾が霧吹きを使い、中身の聖水が慶姫に飛ぶ。
本当に効かないと思っている慶姫は得意気な顔で仁王立ちしている。
「ぬわあああ! 目が、目がああああ! あと鼻がああ!」
普通に効いた。慶姫は涙を流しながら床を転がる。
聖水と上尾は言っていたがそれにしては悪臭が酷い。かけられていない神奈でも鼻を押さえる程だ。聖水は無臭のイメージだったが、神奈のイメージは粉々に打ち砕かれた。
「うっ、何この強烈な臭い!? 何その聖水!?」
「これはニンニクを粉末状になるまで潰し、水で溶かしたものだ」
「ニンニク水!? 微塵も聖なる水じゃねえ!」
ニンニク入りの水が聖水なんて神奈は絶対に認めない。
本当に聖水かどうかは置いておき、威力はかなりのもの。慶姫がのたうち回っていたのがその証拠だ。彼女は鬼の形相で殺気を放出しながら立ち上がり、拳を握る。
「……我がニンニク嫌いと知ってこの仕打ち。後悔させてやる」
「させてみるがいい。出来るのならな」
「言ったな!」
慶姫と響は互いに一瞬で距離を詰めて殴り合う。
二人の身体能力は神奈には遠く及ばないが、伊世高校に招待されただけありかなりのもの。拳を打ち合う度に衝撃波が飛び交う。その戦いに周りの生徒もびっくりしていた。戦いはどんどん激しくなり、遂には天井を破壊して上に行き、神奈からは見えなくなってしまった。
「……あーあ、天井壊しちゃったよあの二人。罰を受けても知らないぞ」
案の定、二人は教師から怒られて、教室の掃除をやるよう言われた。
*
慶姫と響が天井を破壊した翌日。
普段より早めに登校出来た神奈は教室で妙な物を見つける。
灰だ。サラサラとした灰が、教室後方のロッカー前に落ちている。
「おはよーお? 何だこれ。灰?」
なぜ教室に灰が……と、そんなことを神奈が考えていた時。
灰の一部が動き出し、幼さ残る少女の顔が浮き出てきた。
驚いた神奈が注視してみると少女の顔は慶姫のものだった。
「……おお、神谷神奈か」
「め、メリオマニア!? 何それ!?」
「昨日の放課後のことなのじゃが……」
慶姫は昨日あったことを語る。
慶姫と響は昨日の放課後、校舎破壊の罰として一学年全教室の掃除を任された。最初こそ真面目に掃除していた二人だが、仲が険悪な二人の共同作業なんて長く続かない。窓の拭き方が雑だとか、床に埃が落ちているとか、手や足がぶつかったとか、些細なことから言い争いに発展。その後は『言い』が取れてただの争いに変化した。
互角に思えた二人だが、争いは響の聖水攻撃から一気に彼の優勢となる。さらに十字架で殴ってきたり、プロレス技をかけられたり、色々あって慶姫は灰と化す。死にかけている証だ。吸血鬼の並外れた再生能力にも限界はある。体力が尽きれば再生が遅れるのだ。
「そうか。短い、付き合いだったな」
神奈は合掌して冥福を祈る。
「まだ生きておるわ! 今なら助かる。血じゃ、血を吸わせてくれ。血が不足しているせいで力が出ず、体力も回復せぬ。吸血鬼にとって血は命の源とも言えるのじゃ」
「えっ、血かあ……まあ、分かった。吸えよ」
「感謝するぞ」
クラスメイトを見殺しにはしたくないので神奈は左手を慶姫へと伸ばす。
昨日は吸血される前に邪魔が入ったが今日は邪魔者が居ない。慶姫の口が弱々しく神奈の左手首を噛み、尖った歯が皮膚と血管を突き破る。注射器で刺されたような痛みが神奈を襲う。
「いてっ」
「まっず!」
慶姫は思いっきり吸った血を吐き出した。
「な、なんじゃこの血は! こんな不味い血は初めてじゃぞ!」
「えっ、私の血そんな不味いの?」
「全身が腐りそうな味じゃ……」
自分の血を貶されて神奈は地味にショックを受けた。
「私がダメなら他の奴に……そうだよ他の奴! 普通に教室に居るじゃん!」
教室には既に登校した生徒が席に着いていた。
今教室に居るのは神奈と慶姫以外に筋桐初重、王堂晴天、米神明八、神原廻、神々天子、深山和猫の六人。この内の誰かが血を与えればいいだけの話である。
「おいお前等! 灰と化したクラスメイトを放置するなよ人でなし共!」
「人でなしとは酷いですね。誤解ですよ」
否定したのは丸眼鏡を掛けた男子、筋桐だ。
「僕だって助けるつもりでした。しかし、彼女に拒否されたんです」
「拒否いい? どういうことだよメリオマニア」
神奈は困惑の瞳を慶姫に向ける。
「……だって、だってあいつら、ニンニク入りラーメン食べてるのじゃぞ」
「それだけ?」
「それだけとはなんじゃ! 我はニンニクを食べた相手から吸血出来ぬ。吸血しても拒絶反応で吐き出してしまう。既に試したから間違いないのじゃ」
くだらない理由だが、それが原因で命の危機だと笑えない。
「お前等全員か? 全員ニンニク入りラーメン食べたの?」
「食べましたよ昨夜。ニンニクマシマシで」
「俺も」
「私も」
「俺もだぜ」
「俺様もな」
「流行ってんのかよニンニクマシマシ!」
なぜ、よりにもよって昨夜ニンニクを食べてしまったのだろうか。
神の悪戯か。慶姫はここで死ぬ運命だとでも言うのか。
神奈は最後の希望となった和猫に視線を向ける。
「お前はどうだ! お前もなのか!?」
「私の場合は違うみたいにゃん」
「……あの猫娘の血は酔ってしまうのじゃ。殆ど吸えぬ」
「それじゃ、どうしたらいいんだよ……」
絶望的な状況に神奈はテンションが沈んでいく。
他のクラスメイトが来るまで待つしかないが、もし次に来た生徒もニンニクを食べていたら終わりだ。慶姫の生命力が尽きてしまう。この状況ではもう、運に全てを任せるしかない。
「――ほう。まだ生きていたか、吸血鬼」
運は慶姫を見放した。教室へ来たのは上尾響だ。
攻撃した張本人が死にそうな相手を助けるわけがない。
「お前、上尾。お前がメリオマニアをこんな灰にしたんだよな?」
響は「だったら?」と問い返す。
「血を与えてやってくれ。このままじゃ死んじゃうよ。覚えてるだろこの学校のルール、生徒殺しは厳禁だ。てか、たとえ校則になっていなくてもクラスメイトを殺すのはダメだろ」
「血か、断る。俺は退学になっても構わんのだよ。時にはルールに縛られず、意志を貫き通さなければならない。悪鬼の類は必ず滅する」
想像以上に響の意志が固い。退学してでも殺す覚悟を持っている。殺さないよう説得するのは難しいだろう。吸血鬼という種族への殺意が強すぎる。
「お前、なんでそんなに吸血鬼を嫌うんだ? お前がエクソシストなのは分かってる。吸血鬼を嫌うのは、仕事の関係もあるだろうさ。でも、メリオマニアはクラスメイトなんだぞ。敵意は向けても殺意は向けるなよ」
「なぜ嫌う、か。あれは確か八年前のハロウィンでの出来事」
響は嫌うきっかけとなった日のことを語る。
響は捨て子だった。教会の牧師に拾われ、敬虔な信徒として育てられた。恩を返すために響も将来牧師を目指している。……だが、牧師には裏の顔があった。牧師は異形の存在を滅するエクソシストの仕事もやっていたのである。
八年前のハロウィン。忘れもしないその日。
ハロウィンといえば仮装するのが日本で一般的だが、響は牧師から仮装を禁止されている。それでも、牧師から毎年多くのお菓子を貰えるので楽しみな一日だ。そんな日に教会へと、仮装した五人の子供がやって来た。一人は吸血鬼の仮装をしていた。
子供達は『トリックオアトリート』と言いながらお菓子を欲する。
大量のお菓子に囲まれていた響を見て、不公平に思ったのだろう。羨ましそうな顔をしながらお菓子を渡すよう告げた。しかし、親代わりの牧師から貰った大切なお菓子を他人にあげるつもりはない。断固拒否した響。拒む姿勢を崩さない響に子供達は痺れを切らし、お菓子を少量盗んで逃走してしまった。……響の一番好きなチョコレート菓子を。
「……それだけ?」
「そうだ」
「本当にそれだけ!?」
くだらなすぎる。あと、吸血鬼は全く関係ない。
そんな理由で殺意を向けられる吸血鬼は怒っていい。
「思い出したぞ。まだあった。あれは六年前のハロウィンでの出来事」
「理由ハロウィンしかねえのかよ!」
六年前のハロウィン。
響は大好きなチョコレート菓子を買うために町へ出ていた。仮装した人々が大勢歩く町で駄菓子屋や辿り着くと、幸か不幸かチョコレート菓子は一個しか残っていなかった。慌てて伸びる手は……二つ。響と吸血鬼の仮装をした子供の手である。そして、スピード勝負で響は敗北。チョコレート菓子は吸血鬼の仮装をした子供に奪われてしまった。
「やっぱり理由しょぼいな! 許してやれよそれくらい! そもそも菓子奪ったの仮装した人間だし吸血鬼関係なくない!? 逆恨みだろ!」
「だがな……」
「お前が恨むとしたら菓子を奪った奴だ。メリオマニアは違う。お前はまだメリオマニアのことよく知らないだろ。これからちゃんと話して、どんな吸血鬼か知ってみろよ。殺すか殺さないかはその後に決めろ」
「……一理あるな。確かに、この吸血鬼のことはあまり知らない」
「だろ? 良い奴かもしれないぞ」
慶姫が悪人なら神奈も敵に回るが、今の所悪人らしくない。善か悪か。仲を深めれば慶姫の本質も見えてくるだろう。何も知らない内に、過去の的外れな恨みで襲うのは慶姫が可哀想だ。
「……分かった。血を分け与えよう。メリオマニア慶姫、これから知っていこうじゃないか。俺が滅するべき存在か見極めさせてもらおう」
響はそう言いながら慶姫に腕を伸ばす。
「ふん、感謝はせぬぞ」
不機嫌そうな表情で慶姫が響の腕に噛みつき――。
「うまっ!」
すぐに機嫌が直って目を輝かせた。
想像以上の味だったようで慶姫は吸血速度を速める。
血は吸血鬼にとって命の源。多くの血を吸った彼女の再生力も復活して、あっという間に灰から肉体へと戻る。体が戻ったならもう吸血の必要はないはずだが、なぜか彼女は口を離さない。
「……おい、まだ吸うのか?」
「あと少しだけじゃ!」
そう言いつつ慶姫の吸血速度は全く変わらない。
「……もう、いいだろう?」
「あと少し!」
血を吸われ続ける響は貧血を起こし、目眩で立てず両膝を付く。
「ぷはあああっ、満足満足! 素晴らしい味じゃったな!」
やっと慶姫が口を離した頃、響は床に倒れ伏していた。
「……血が、足りない。血を、分けてくれえ」
自業自得……とも言い切れない展開。
とりあえず神奈は響を保健室へと運んだ。
もし、他の生徒に吸血を頼んだら。
洋一「もちろんいいよ」
恵「洋一のは吸っちゃダメ。私のはいいわよ」
速人「……まあ、いいが」
天海「それでメリーちゃんが助かるなら、吸って」
スラリン「いいですよ。貧血にならない程度なら」
デービー「イエエエイ! 嫌だぜ!」




