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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十二章 神谷神奈と七不思議
432/608

224 努力――超えた証明――

2025/09/20 文章一部修正









 冷たい夜風に吹かれる綺羅々はつまらなそうな顔になる。


「私、冗談は嫌い」


「いや冗談じゃなくて、これが本当の話でな」


 夜風だけでなく綺羅々からの視線も冷たくなっていく。

 ずっと倒すことを目標としてきた幽霊が既に除霊されているなど、ましてや霊力もない同年代の少女に除霊されたなど、信じられるはずがなかった。


「あなたが弱い私を励まそうとしてくれるのは迷惑じゃない。でも嘘を吐かれるのは嫌い」


「……これ信じられないやつか」


「そこまで信じてほしい? それならどこで出会って、どうやって除霊したのか言ってみて」


「えっと……公園で会って、私に憑依したら勝手に自滅しました」


「ふざけてるの?」


 神奈としては大真面目である。

 まだ小学生の時、とある心霊スポットの公園で藤堂零と出会った。零が友人の秋野(あきの)笑里(えみり)に憑依しているのを発見した神奈は戦い、憑依を解こうとしたのに逆に憑依された。しかし加護によって零が憑依出来ず、全身に広げられた霊力も害とみなされて消滅した。


 それから死者蘇生の魔法で蘇えったり、笑里に力を貸したりしたらしいが、それについては笑里から聞いただけなので詳しくない。つまり神奈が知る藤堂零の情報は、本当に今言ったことが全てなのだ。


「はぁ、もういい……分かったから。それよりもあの幽霊よ」


 これ以上聞きたくない綺羅々は話題を原点に戻す。


「水無月さんか」


「そう。私は除霊を諦めたわけじゃない。体力と霊力が回復し次第、あの幽霊は滅する」


「意思が固いな……じゃあこうしよう。あと一日だけ待ってくれ。その間に私達が除霊出来なかったらお前に譲る。どうせ今は霊力が殆どないから除霊出来ないんだろ? 待ってくれよ」


「……悔しいけれどそう。約束はする。だけど約束は絶対。もし明日までに除霊出来なければ私が滅する」


「それでいいさ。さて――」


 神奈は綺羅々を一度流し目で見てから、上をもう一度見る。

 その瞳は強く光る一番星でも、漆黒の夜空を見ていたわけでもない。


「――そろそろいいだろ、出てこいよ」


 空が歪み、黒い渦が生まれる。渦からは怨念の塊のようなどす黒いものを纏ったナニカが現れた。いつからか上空に存在していたナニカは目を赤く光らせて、二人の少女を射抜くように見ている。


「何、あれ……」


「さあな、でも幽霊っぽい。それはお前にも分かるだろ」


「でも桁外れのエネルギーを感じる。まるで……あの人だ……」


 宙に浮かぶナニカは人間ではなかった。曲がりくねった角がある鬼のようで、大きな漆黒の翼が二対生えている。その怪物が纏うエネルギー量は藤堂零と同等かそれ以上であると、綺羅々は判断して恐怖している。立てない自分では戦うことも出来ない。


「おお……勇者め、憎き勇者め……! 我が肉体を滅ぼした者……! 許さん、許さん、許さん! 勇者の仲間も、住む町も、作ったモノも全て破壊してやる!」


「はっ、どこかの魔王か? 勇者とやらはここにはいないぞ。お前がそれでもやるっていうんなら受けて立つけどな」


「無茶。あんな怪物に勝てるはずがない……! いくらあなたでも、殺される!」


 勝てるはずがないと綺羅々は思う。

 藤堂零と同等ということは、自分よりも上なのだ。

 あの日、才能がないと言われた自分よりも零が強いのは明白。だから綺羅々は努力し続けたが、それでも自信を持てないでいる。零が去ったあの日は綺羅々にとって一種のトラウマになっていた。


「藤堂、お前は過去に囚われている。名字を呼ばれるのが嫌? 藤堂零と同じだからか? 藤堂って名前だけで一括りにするな。お前と悪霊は違うだろうが」


 神奈は喋りながら、怯える綺羅々に近付いていく。


「それとな、お前はあの悪霊を過大評価しすぎ、というか自分を過小評価しすぎだ。お前は努力してきたんだろ? 才能がないとか言われても、見返したいから必死に今までやってきたんだろ。それなら胸を張れよ。そしてよく見とけ」


 神奈は綺羅々の袖に手を入れると、残り少ない霊力符を二枚取り出す。

 動けないので抵抗も出来ず、綺羅々は神奈がどうするつもりなのかと見守ることしか出来ない。


「これの使い方は霊力を込めるんだったな……だったら腕輪」


「はい、もちろん似ているエネルギーなので魔力でも使用可能です。しかし霊力の方が高密度のエネルギーなので、消費量は魔力の方が多いですよ」


「心配ない、まだまだ余裕があるんでな」


 手にしたのは雷光が発されて敵を消滅させる〈滅〉と、衝撃が放たれる〈撃〉の霊力符だ。たった二枚の霊力符を握りしめ、神奈は敵である悪霊を見据える。


「恨みはないけど、お前はなんか危なそうだから除霊するぞ」


「勇者め、勇者め……勇者アム……レッ……ジ……滅べ、滅べ、全てを滅ぼせ! ダークフレア!」


 黒き炎が悪霊の右腕で燃え盛り、夜空の色と同化した。

 暗闇でもよく見える神奈には景色と同化した炎もよく見える。熱による空間の揺らぎでも位置が一目で分かる。神奈はいつ攻撃してきても対処出来るように身構えた。


 どんどん膨れ上がっていく熱エネルギーは周辺の空間を焼き尽くす程であり、半径一メートルほぼ全ての原子が目に見えることなく燃えている。そんな炎が神奈に向けて解き放たれ、勢いよく向かう炎は突然吹き飛ぶ。


「これが霊力符か。わりと使いやすい」


 神奈は〈撃〉の霊力符による衝撃で、凄まじい熱量の炎を吹き飛ばしたのだ。


「あんな強い炎を……!」


「かあっ……! ダークフレ――」


「させるか、滅!」


 もう一度黒き炎を作り出そうとする悪霊だったが、その前に神奈が接近して〈滅〉の霊力符を押し当てる。溢れんばかりの魔力を流し込んだ霊力符から雷光が発され、悪霊を包み込む。


「がああああああ! バカなああああ!」


 ほんの僅かな時間で悪霊は雷光に滅された。

 あまりにも呆気ない終わりに綺羅々は放心して、怪我一つない神奈を見つめる。


「悪いな勝手に使っちゃって。でもこれで分かったろ」


「何、が……?」


「お前に才能があったかなかったのかは分からない。でも頑張った努力は報われた。お前の力はとっくに藤堂零なんて超えてんだよ。あの化け物を一撃で倒したことがその証拠だ」


 藤堂零と同等以上の悪霊だったのは綺羅々も分かっている。

 不気味な悪霊を一撃で倒したのも見ていれば分かる。


「でもそれは……あなたの力が強大だったからで、私一人だと勝てたかどうか」


「勝てたさ、お前と戦って、あの悪霊とも戦った私が保証してやる。お前の霊力符は誇っていいものだ。たとえ才能がなくても、努力で才能を超えた一つの力だよ。よくやったな。頑張ったじゃん。もし才能がなかったとしても、こんなに凄い力になったんだからさ」


「――あ」


 それは藤堂零が言ってくれなかった言葉だった。

 よくやった。頑張ったな。そんな言葉を綺羅々はずっと待っていた。


「だからお前の勝ちだ。藤堂綺羅々が、藤堂零を超えたっていう証明さ」


 誰から聞いても良かったわけではない。自分の努力を知る相手からでなければ、薄っぺらい聞こえのいいだけの言葉となり心は動かなかっただろう。そのはずなのに、神奈からの言葉が嬉しくて堪らない。


「くっ、う……うっ……」


「……あれ? ちょっ、なんで泣くの? え、言葉間違えた?」


 強い者から認められたこと。

 努力が報われたと言われたこと。

 それらが嬉しさとなり、綺羅々の鋭い瞳から涙が流れる。


「うっ……ありが、とう……」


「ま、まあ、ど、どういたしまして?」


 神奈としては本音を口にしただけで泣かせる気はなかった。

 困惑が大部分を占めており釈然としないのは置いておく。泣いているとはいえ、無邪気で嬉しそうな綺羅々を今は黙って見守ることにする。


 夜遅く、十二時を少し過ぎてしまった時間。

 まだ幼さを残す少女の静かな泣き声が校庭に広がっていく。その泣き声は三階から聞こえてくるピアノの音にかき消されて、傍に居る神奈以外には聞こえなかった。










神奈「藤堂って結局笑里に憑依したから、綺羅々は放置されたわけか……あれ? 笑里いまどこにいるの?」

腕輪「出てきませんねえ、どこでしょうね? 宝生高校で平和に過ごしてるんじゃないですか?」

神奈「平和か……羨ましいな」


 一方、宝生高校にて。

笑里「私は名探偵笑里! ついに起こった殺人事件、私が解決してみせる!」

才華「笑里さん、あれは演劇よ。やっぱり迷探偵ね」




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