表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十二章 神谷神奈と七不思議
430/608

222 不眠――神谷神奈VS藤堂綺羅々――

2025/09/15 文章一部修正









 綺羅々は心を落ち着けて、じわじわ近付く神奈に問いかける。


「なぜ邪魔を?」


「邪魔? もしかしてあれか? 水無月さんへの攻撃を止めたことか?」


「そう」


「なんでってそりゃ止めるだろ。あの人は悪い幽霊じゃないんだぞ? 確かにピアノを夜中に弾いて迷惑になるかもしれないけど、悪意なんて微塵もないんだ」


 悪霊ではないし悪意も感じない。つまり悪い幽霊ではないというのが神奈の考え。


「違う。幽霊は存在するだけでいつ悪霊になるか分からない。よってどんな幽霊であろうと除霊する」


 幽霊だから除霊しなければならないというのが綺羅々の考え。

 二人の考えは衝突するだけで分かり合えない。


「いや、それはさすがに言い過ぎだろ」


「ですね。悪霊になるなら、相当な負の感情を持つ必要があります。普段温厚な幽霊がいきなり悪霊化するのはありえませんよ」


「悪霊になって人々に危害を加えたら?」


「それは、ぶっ飛ばすな」


 現に今まで神奈は悪霊と会ったら殴ってきた。


「なら、そうなる可能性がある幽霊という存在は除霊すべき。人間が悪意を持ったまま強い未練を持っていれば悪霊になるけれど、私は人殺しはしない。だから幽霊だけでも除霊して、悪霊の出現を少しでも抑えなければいけない」


「強制除霊じゃなければ私だって止めないんだよ。実力行使に出るのは話をしてからでも遅くないだろ? 水無月さんは少なくとも、強制除霊するような幽霊じゃない。それにあの人は白部君達が未練をしっかり解消させて除霊するさ」


 神奈の答えに呆れた綺羅々はため息を吐き、普段滑らない舌を動かし続ける。神奈の間違った甘い考えを正すため。自分の正しさを理解してもらうため。


「甘い。悪霊にならない保障なんてどこにもない。本性を隠してる場合だってある。私は今まで何百もの幽霊を除霊してきた。その中には当然悪霊も多く、狡猾な思考の幽霊だって存在した。寿命がなく、ただの人間には見えないから、欲望に忠実になる。そんな幽霊がいつ邪な感情を持ったって、悪霊になったっておかしくない」


「なんでそこまで信じられないかね。悪霊……いや、幽霊を憎んでるのか?」


「憎しみ……というよりは悔しさ。あの時、幼かったからどうしようもなかったけど今は違う。あの時の悔しさを糧に、私は強さを手に入れた。忠告する……早く通して。あなたと戦うのは疲れそう」


 綺羅々は後悔を滲ませた顔から無愛想な真顔へと戻る。


「嫌だよ、むりやり除霊する気だろ」


「なら別にいい。ここからでも私は除霊可能だから」


 校庭から校舎三階の音楽室までの距離はかなり離れており、除霊対象となる幽霊も視認出来ない。それでもなんてことのないように除霊出来ると綺羅々は言ってのけた。戯言だと神奈は思いたいが、自信あり気な雰囲気からやはり真実だと思うことにする。


「霊力遠隔操作。私は自分の霊力を手足のように動かせる。当然それが込められたモノも……」


「それって……まさか、霊力符をここから動かしてるのか?」

「――」


 沈黙。無言状態は肯定のようなものだ。

 全く予想していない攻撃だったが、神奈は慌てることなく冷静なままだった。今日の神奈には仲間が居るから安心していられる。


「無駄だよ。水無月さんを守ってるのは私の……ライバルだぞ。紙札ごときじゃあいつは倒せないっての」


「……確かに。霊力符がどんどん朽ちていく」


 綺羅々は遠隔操作する霊力符の消失を感じ取る。

 消える原因は速人だ。彼は神奈から任せられたわけではないが、彼なりの信念のもと水無月を守護している。ここまで来て強制的に除霊させたら負けと思っている部分もあった。仕事のように一応護衛中な速人が飛んで来る霊力符を切り刻むため、遠隔操作していた全ての霊力符は無効化された。


「どうやらあいつが片付けたみたいだな」


 奥の手というわけではないが、簡単に無効化されるなら再び飛ばしても無意味だろうと綺羅々は諦める。……遠距離から除霊することを、だが。


「もう一度言う。通して」


「うん? 嫌だけど?」


 今度は淡々とした声ではなく苛立ちが交じっている。

 一蹴する神奈に対して綺羅々は持っている霊力符を取り出す。


「さっきあなたと戦うのは疲れそうと言った。けれど勝てないとは言っていない」


「……へぇ」


 綺羅々は取り出した十数枚の霊力符を両腕に貼りつけていく。

 今貼った霊力符に書かれている文字は〈強〉。


「強化」


 短いキーワードを口にして綺羅々は走り出す。

 彼女が立っていた場所を中心に蜘蛛の巣状の亀裂が入っていた。強化という言葉の通り、一枚ごとに身体強化を施すものが十数枚。身体機能は相応に上昇しており神奈は驚く。


 あくまで驚いただけであり、届くかどうかは別である。

 綺羅々は手に〈撃〉と書かれた霊力符を持ち、急接近してから神奈の胸に当てようとした。亜光速以上の速度だったが神奈はあっさり躱して反撃を喰らわせる。


「ぐっ!?」


 軽く殴った。そんな全力とは程遠いモーションで攻撃された綺羅々は地を転がるがすぐに立ち上がる。彼女が〈撃〉の霊力符を持ったまま突進するが、何度攻撃されようと神奈なら余裕で回避出来る。


 出会う時期が悪かった。もし小学生の時に出会っていれば、互角の戦いを繰り広げていただろう。神奈が敗北する可能性もあった。今ではそんな可能性が微塵もない。


「確かに強いな。認めるよ。前までの私とならいい勝負したんじゃないのか」


「それ程の力、なぜ持て余す……!」


「日常で使うような力じゃないし。それにさ、除霊ってのは力尽くじゃなくたって出来る。幽霊の未練を叶えてあげればいいだけの話だろ。強制除霊は幽霊が可哀想だ」


「それでは時間が掛かる! 私は全ての霊を除霊する、この力で!」


 両腕を振った綺羅々の制服の袖から十枚の霊力符が出てきて、


「滅」


 それが眩しい雷光を発すると夜なのに朝よりも明るくなる。

 神奈には明暗など関係ない。加護によってどんな時でも、どんな明るさだろうと暗さだろうと全てはっきり見える。目眩ましの意図があったのだろうが神奈は気にせず、拳を振るえば前方の霊力符が吹き飛んで光が遠くなる。やがて効力を失い紙は朽ちていく。


 前方の霊力符が吹き飛びはしたが綺羅々は慌てない。まだ神奈の後方の霊力符が一枚残っているからだ。本命と言える霊力符が神奈の背中に触れた瞬間発動する。


(すい)

「なんっ、ねむっ……」


 神奈の加護は状態異常全てから守ってくれるわけではない。害だと強く認識すれば大抵のものは防げるが、それだけでは防げないものが確かに存在する。その内の一つが欲だ。中でも今、神奈をピンチに陥れているのは人間の三大欲求の一つ、睡眠欲。


 突如襲ってきた眠気によって視界がぼやけ、覚束ない足取りになってしまう。目も閉じかかり、気合で起きようとしても眠気は想定以上で抗えない。


 三大欲求はどうしても加護で防げない。防いでしまえば眠れなくなるし、食べる気力もなくなるし、神奈にはあまり縁がないが性欲も消えてしまう。それらが消えるのは人間にとって害だ。加護が防いでくれないのも当たり前の話。


「滅が効かなくても、日常で眠る以上はそれは効果があるはず。睡眠欲を増大させる力が込められている。これであなたは封じた。後は音楽室に居る連中だけ」


「神奈さんあれを、あの魔法を使うのです!」


「あの、魔法……〈不眠(フーミン)〉!」


 腕輪の叫びに反応して神奈はとある魔法を使用した。

 欲が弱点なことを自覚する神奈は以前腕輪に対策法を問いかけた。結果、弱点を克服する魔法を身につけたのだ。それこそ今使用した〈不眠(フーミン)〉。腕輪が作り上げたオリジナル魔法である。なお、魔法製作方法は全く教えてくれない。


「ふっふっふ! 神奈さんにもう睡眠系統の力は通じません! 私が〈不眠〉という魔法を授けたのですから!」


 さっきまでの眠気が嘘のように吹き飛び、神奈の閉じかけていた目がパチッとしっかり開く。気分は朝起きてすぐに洗顔した後のようだ。


「そういうこと。この魔法は一日だけ眠れなくなる魔法だ。最初に聞いた時は絶対使う機会なんて来ないと思ってたけど覚えとくもんだな」


 当然のことながら〈不眠〉も欠陥を抱えている。

 一日眠れないということは、魔法効力切れの瞬間に眠気が襲ってくるということ。単純に考えて二倍の眠気に襲われ、そこでもう一度使ってしまえば三倍の眠気に襲われる。使えば使うほど後で眠くなる魔法なのである。


「……ふざけた力」


「そうだな、ふざけてるだろって私でも思う。でもこんな力でも使いようってことさ。言っとくけど、お前の霊力符(それ)も大概だからな? なんだよそれ、電気発したり衝撃放ったり眠気誘ったり何でもありか?」


「一緒にしないでほしい」


 魔力と霊力は似たエネルギー。魔力弾も霊力弾もエネルギーの質以外違いがない。霊力の方が高密度なエネルギーだが魔力よりも汎用性はない。それでも出来ることは多種多様である。


「勝ったなんて思わないで。まだ私には策がある、私だけの戦い方が……ある!」


 綺羅々が袖から取り出したのは、三十枚を超える〈強化〉の霊力符だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ