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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十二章 神谷神奈と七不思議
425/608

217 七不思議――謎の解明――

2025/08/16 加筆修正+誤字修正








 自己紹介でつっこみ役としてつっこみ続けた神奈は、ウンザリとした表情で窓際の手すりに肘を付け、外の綺麗な青空を眺めている。誰かと仲良くなるために交流する気分にはなれない。誰と話してもキャラが濃すぎて疲れそうだ。


 これからどうするにせよ、初日は自己紹介と学校説明で終了。既に帰路へついた者も居る。神奈は学校の調査があるが正直やる気は出ない。ただ、警戒はしておくべきだろう。集めた強者を洗脳して最強の軍隊でも作られたら厄介だ。


「神谷さん、久しぶりだね」


 気怠げな神奈に声を掛けたのは車椅子に乗る茶髪の少年。


「白部君か。あの時以来だな」


 白部洋一。三年前、とある強敵相手に神奈と共闘した少年。その共闘以降一度も会っていないとはいえ、お互いのことを忘れたことはなかった。

 神奈は振り返って洋一と目を合わせる。


「色々聞きたいことはあるけど、どうしてこの学校に?」


「知人に学校調査をお願いされちゃってさ。白部君は?」


「僕も似たようなものだよ。この学校はやっぱりどこかおかしいんだ。その不思議を解明するっていうのが一応の目的かな。誰かと戦うことにならなければいいんだけど」


「はぁ、お互い大変だな」


 両者苦笑いを浮かべていると、神奈は洋一の背後に少女が立っているのを見つけた。どす黒いオーラを撒き散らし、鋭い眼光を神奈に向けてくる。殺気全開な少女に驚いた神奈は彼女を指さす。


「何かいるううう!?」


「ねえ洋一……その子、誰?」


 ローズピンクの髪をツインテールにしている少女。目が赤く光り、黒いオーラで体が見えないような気さえするほど、神奈は彼女から怒りの感情をぶつけられていた。


「め、恵……紹介するよ神谷さん。この子は鷲本(わしもと)(めぐみ)。中学生の時に出会った友達でね。恵、こっちの人は神谷神奈。久し振りに会えた知り合いだよ」


「洋一の彼女、いえ妻の白部恵です。洋一に近付く女は全て排除するのがモットーです。よろしくね、そしてさようなら!」


 にこやかに笑った恵は笑顔を絶やさず、腰の刀を抜刀して神奈の首を狙う。

 動揺で動きが鈍った神奈だが恵の一撃は屈んで躱せた。窓ガラスギリギリで刃先が移動するのを見て神奈も洋一もひやひやする。あと少し回避が遅れれば体に当たっていただろう。


「こええよ! なんで当然のように刀持ってんだ!? あいつじゃあるまいし……」


「ふふ、人の旦那に色目使ってんじゃないわよ泥棒猫が。今すぐ微塵切りにしてあげるから覚悟しなさあっ!?」


 もう一度刀を振るう恵だったが、洋一が立ち上がって首元に手刀を落とすと気絶する。彼女はヤンデレなのが恐ろしいだけで実力は高くないようだ。メイジ学院ならBクラス程度の実力だ。

 申し訳なさそうな表情で洋一は車椅子に座り、もう一度説明する。


「ごめん。もう一度言うけど彼女は鷲本恵。三年前に出会った友達だよ。友達だからね?」


 友達という部分を強調する洋一に神奈はまた苦笑する。


「ああ、うん。随分と苦労してんだな」


「好意を持たれていると分かっても恋人になる気になれなくて。彼女には悪いけど」


「まあ、こんなヤンデレと付き合う奴がいたらビックリだよ」


 お互いが気を遣いしばらく沈黙が続いたが、それを洋一が破る。


「彼女の件は置いといて、実は僕この学校の不思議を解明していこうと思ってるんだ。校長先生の目的とか、この学校にまつわるもの……七不思議とかね」


 七不思議。特定の地域や建物についての七個の不思議や怪談話のことだ。宝生小学校や宝生中学校にも存在するが、伊世高校にまであると神奈は知らなかった。というか入学初日で把握している方がおかしい。


「七不思議? それってあの、理科室の動く人体模型みたいなやつ? 何で……ってかここ建てられて五年だろ。七不思議なんてあるの?」


「それがあるんだよね。色々と生徒会長から話を聞いたんだ。そんな噂になるようなものが五年で出来上がるなんて妙だと思わないかい?」


「確かに気にはなるけど」


 七不思議とアムダスの企みに関係性があるとは思えない。

 あまり調査しても意味がないと思う神奈に洋一は言葉を続ける。


「身近な謎を解いていけばきっと大きな謎へ繋がっていくはずだよ」


「そう、かも。何もしないよりは……マシかなあ」


「……でもそれは私達夫婦でやるから引っ込んでなさいよ」


 いきなり会話に交ざったのは気絶していたはずの恵だった。

 一度は手放していた刀を手に取ってゆっくりと立ち上がる。


「あのなあ、さっきから何だ夫婦って。お前法律って知ってる?」


「二人の愛の前ではそんなもの無力よ!」


「いやバリバリ法的な力あると思うんですけど!? 白部君からもなんか言ってやってよ」


 無茶苦茶で理解不能な言動をしている恵に困り果て、神奈は付き合いの長いだろう洋一に助けを求める。付き合いが長いなら対処法も心得ているだろうと思って。


 洋一は虚ろな瞳になり諦めたような笑みを浮かべる。この先の展開を分かっていながらも、誰かに頼られたら洋一は断れない。ぶれることのない善性が自らの首を絞める。


「そうだね、僕と恵は元から調査する気だったんだ。でも恵、人数が多い方が楽だし、意見も多い方が良いと思うんだ。だから――」


「え、浮気? 両手に花ってどういう気分なのかな? 相手は殺していい?」


 どんな正論を言ったところで恵には通用しない。

 それを以前から悟っていた洋一は神奈に浅く頭を下げる。

 洋一では無理だと悟った神奈は仕方ないので自分で対処する。


「いい加減にしろよお前。人のこと泥棒猫とか浮気相手とか好き勝手言いやがって。私は別に白部君のこと男として好きなわけじゃないっての。ただの友達だからな」


「証明出来るの? 今後一生好きにならないって約束出来るの? 洋一の視界に映らない? 洋一に触れない? 洋一を見ない? 一緒の空気も吸わないって約束してくれる?」


「それ私死んでるよね!? ああもうこっち来い! 白部君は待っててくれ!」


 刀を持つ恵の腕を神奈は掴み、廊下まで強引に連れていく。

 廊下には誰一人居ない。教室に殆ど人が残っていないとはいえ、秘密の話をするならば人気(ひとけ)のない場所の方が話しやすい。


「何なの? 乙女の柔い腕を引っ張って……代償に死んでくれる?」


「お前私に何回死んでほしいんだよ! そうじゃなくてだな……お前が白部君のこと好きなのはよく分かった」


「そう、ならさっきの約束をしてくれる? もう洋一の視界にも入らず、同じ空気も吸わないって約束してくれる? それとも今、ここで死ぬ?」


 そう言いながら恵は刀を持っている手をゆっくり動かし始める。

 途中で急激に速度を増した刀が襲い掛かるが、神奈にとって迫る刃物など見慣れた日常風景。さっきは唐突な攻撃に驚いて避けたが、今度は焦らずに刀を拳で砕き、まっすぐ恵を見据える。


「……え? ……うそ、でしょ?」


 砕けた刃が廊下に散らばるのと、殆ど刀身が残ってない刀を恵は呆然と見つめる。

 常識では測れない化け物が存在することを恵も知っているが、出会ったことはなかった。今、目の前にいる人間こそがそうだ。常識を超えた超人であると嫌でも理解する。


「お前に一つ言っておく。好きな奴を守りたいのは分かる。それでも恋のライバルを排除するってのはやりすぎだ。関わった女全員殺す? 舐めんなよ? 白部君がお前のこと好きなら誰が来ても目移りしない、お前だけを見てくれるだろ。白部君が浮気するような奴じゃないってお前の方が分かってるんじゃないのか?」


「……それは、分かってる。でも洋一は私のこと女として好きじゃない、それも分かってる。だから私は」


「分かってんなら話は早いな」


 神奈は俯いてしまった恵の頭に手を置く。


「私が協力してやるよ。お前の恋、応援してやるから……だからもう強引な手段で迫るのは止めておけ。誰かを排除しようとするのも止めてくれ。」


 下を向いていた恵の顔が上がっていく。


「ほん、とうに? 応援して、協力してくれるの……?」


「期待はするなよ? 恋愛相談なんて殆ど受けたことないし、結果は分からないからな。でも分からないからこそ可能性はあるってもんだ、そうだろ?」


 クスッと恵が笑った。その笑みは穏やかで嬉しそうなもので、怒っている時よりも女らしい雰囲気を出していた。先程とは打って変わって可愛らしい。


「私、焦ってた……時間のこと気にして焦ってた。でも、強引すぎたら嫌われるって当たり前だよね。まだ可能性はあるって言ったんだしあなた、神谷さん、手伝ってね」


「任せとけ。というわけで私の同行は許可してくれるな?」


「うん。洋一のことは譲れないけど、そこは譲歩してあげる」


 二人は笑い合って洋一のもとに戻り、三人での調査について伝える。

 恵が女性の同行を認めたことに洋一は目を丸くして驚き、信じられないと言わんばかりに何度も瞬きをしていた。きっと今まで誰かを排除させないために人知れず苦労してきたのだろう。


「その、ごめんね洋一。神谷さんも。私が間違っていたから、本当にごめん」


「う、うん。ねえ神谷さん、いったいどんな手を使ったのさ? まさか洗脳――」


「するわけないよねそんなこと!? 白部君には不可能な方法をとっただけだよ」


 自分に向く好意を自覚している洋一では気付けなかった。

 恵が焦っていたことも、洋一の気持ちに気付いているということも気付けなかった。恵が焦る理由は神奈も分からないが、恋の成就に一歩前進した気がする。……小さな一歩だが。


「ああ二人共ごめん、今日は家で用があるからさ。何かあったらレインで連絡して!」


 慌ただしく走り去る恵を見送り、神奈はボソッと呟く。


「……連絡先、知らないんですけど」


 翌日。恵はきちんと神奈に連絡先を教えてくれた。









 前回天井を破壊した件で掃除の罰を受けた神奈と晴天


神奈「……予想はしてたけど、あいつ帰りやがった」

晴嵐「すみませーん。兄貴の代わりに掃除しに来ましたって姐さん!?」

神奈「妹を代理として寄越すなよ!」


晴嵐「え、どういうことっすか? 兄貴と同じ学校? 何で教えてくれなかったんすか? まさか兄貴とラブラブしてるんすか? 嫌っすそんなの……あれ、でも、それなら正式に姉さんと呼ぶ日が?」

神奈「妄想が酷い!」

影野「そうだ全て妄想だ! 神谷さんは潔白だぞ!」

神奈「どこからやって来た!?」



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