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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十二章 神谷神奈と七不思議
424/608

216 伊世高校――集められし強者――

2025/08/16 加筆修正








 世界中から強者を集めた伊世高校。

 その狙いを調査するため、神奈は入学式前に校舎内を歩いていた。体育館への集合時間ギリギリでも走れば間に合うので問題ない。腕輪に心配されるが、初日から問題を起こすのは良くないので入学式には参加するつもりだ。


 白い校舎は真新しく傷痕一つない。五年前に作られたとはいえ、まるで作られた初日のような新しさである。校舎から少し離れた場所にある体育館も同様で、新しすぎるという違和感を抱かせる。


「しっかし、来てはみたものの、別に悪事を企んでると決まっていないんだよなあ」


 黒いセーラー服とスカート、胸元の赤いリボンを僅かに揺らしながら神奈は調査を続けるが、新しすぎるという点以外で異常を確認出来ない。もう諦めて体育館に行こうと廊下を引き返していると、足音が聞こえてきたので立ち止まる。


 タン、タン、と足音が近づいて来る。

 神奈が身構えた時、曲がり角から女子生徒が現れた。


 黒と赤が交じった特徴的な髪。凛々しい顔つき。ルールは厳守する性格が見た目に表れている。そして……強い。戦闘力で選別された学校の生徒だけあって雰囲気から強さが伝わる。


「あれ? そこのあなた新入生ですか? もうすぐ入学式が始まるので体育館に行ってください」


「あ、すいません。すぐ行きます……あなたは?」


「失礼。私はこの伊世高校二年にして生徒会長の進藤(しんどう)明日香(あすか)と申します。さ、早く行ってください。開始まであと五分もないですよ」


「神谷神奈です。親切にどうも」


 神奈は小走りで行こうと走り出すと背後から声を掛けられる。


「廊下を走ってはいけません! せめて早歩きで行ってください!」


「は、はーい……」


 それくらいいいだろと思いつつ、頭を下げてから早歩きで体育館に向かう。

 その速度はまるで疾風。並の人間には視認出来ない。


「は、速いですね……ってあれじゃあ走るなと言った意味ないじゃないですか」


 しかし進藤明日香ははっきり見えており、呆れ顔で文句を呟いた。



 *



 体育館に辿り着いた神奈は【新入生】と書かれた看板前の列に並んでおく。事前に何も知らされていなくても、目印となる看板があれば新入生も安心して列を作れる。

 明日香は三分程遅れて到着し、二年生の列に並んでいた。


 伊世高校の一年生から三年生まで、神奈含めて六十二人。一クラス二十人程度の計算になる。

 この体育館内に居る生徒は強さを認められて集められたと思っていいだろう。先程会った明日香もそうだが、神奈に及ばずとも強いと言える人間が集まっている。戦闘力が気になるところだが一人ずつ調べるのは面倒臭い。


「あ」


 自分が最強とか思っていた神奈は知り合いを発見した。

 この世界では珍しい黒髪の男女三人組。

 神原(かんばら)(かい)神々(みわ)天子(てんこ)米神(よねかみ)明八(あきや)。全員転生者である。


 かつて戦ったこともあるので三人の強さは良く知っている。廻と天子は自分でドーピングして神奈よりも強くなれるので、神奈が最強という自信は粉々に砕け散った。


「うわ」


 転生者の三人以外にも知り合いを発見出来た。

 オールバックの赤髪で強面の男、王堂(おうどう)晴天(せいてん)

 傍若無人で傲慢な性格。面倒臭さの塊みたいな男である。


「ええ……」


 黒い猫耳と尻尾がついている少女、深山(みやま)和猫(かずこ)

 彼女は神奈と一応知り合いに分類される。初めて会った時は宝生中学校の文化祭であり、温泉旅館ミヤマという和猫の実家に宿泊したこともあるのだ。直近だとファミレスの店員をやっていた。


「よく来てくれたね。強さを持つ若人」


 マイクで拡声された声の持ち主が壇上にて挨拶を始める。

 伊世高校校長のアムダス・カーレッジ本人だ。校庭に彼の銅像があったので神奈はすぐに気付いた。毛先を遊ばせている金髪で、人形のように整った顔立ちの優しそうな青年。若人と言った張本人が二十代後半の外見をしているのは誰もつっこまない。


「あんな怪しい推薦状でよく来てくれた。それが勇気ゆえか、強さの証明か、何かを企んでいるだろうと正義感を暴走させてのことか、どんな理由でも構わない。この学校に来てくれたことにこそ意味がいあるのだから。二年生、三年生は分かっているとは思うし、新入生も多少は察しがついているだろうけれど、この学校は一般的な学校とは少し違う。入学の合格基準は強いこと以外にない。知力体力は置いておき、武力だけを審査して推薦状を出しているんだ」


(知力置いちゃダメじゃないの!? ここ学校だろ!?)


「己を高めるためという目的で君達は集まってもらった。是非強者同士で学び強くなってほしい。これで話は終わりにするよ。次は生徒会長の話だ。二年生、三年生は教室に戻って構わない」


 アムダスは壇上を下りると、交代するように一人の女子生徒が壇上に上がっていく。先程神奈と出会った明日香だ。彼女がマイクの前に立った頃には、二年生と三年生は体育館から出ていた。


「伊世高校生徒会長の進藤明日香です。新入生の皆さんにはこの学校のルールを知っていただきます。質問は終わった後で受け付けますので、まずは清聴してください。まず一つ、基本的には他の学校と同じ規則を守る。二つ、学校を破壊しない。三つ、生徒殺しは厳禁。以上です」


「最後すごい物騒!」


「この学校は強さに自信がある者が多くいます。喧嘩は通常の学校よりも多いですし、その規模も周囲一帯が吹き飛ぶのは当たり前です。学校は校長先生が直されますが無意味に壊されるのは迷惑ということで、基本的に喧嘩するのであれば校外にて(おこな)ってください」


 ある者は唖然とし、ある者は面白そうだと笑みを浮かべ、ある者は争いを嫌うことで顔を歪める。神奈は戦い自体問題ないと思っているが、あまりにも闘争に関して自由すぎる学校規則に眉を顰める。


「それでは質問をどうぞ、なければこのまま一年生クラスに直行してください」


「……では僕から一つだけいいですか」


 手を挙げたのは車椅子に座る茶髪の少年。

 神奈は彼に見覚えがあったので目を見開き様子を見守る。


「生徒殺しは厳禁。わざわざ定めているということは、そうなってしまうような可能性が考慮されているんですよね。いったいこの学校は……いえ、校長先生はどうして僕達を集めたのか。それと強さで選別したということでしたが、どうやってそれを測ったのか。答えられますか?」


 その質問は全員の気持ちの代弁でもあった。

 突然送られて来た推薦状。強さを認めたと書いてあるが、アムダスに会ったことなど一度もない。どこか不気味に思える推薦状につられて来たとはいえ、謎が解明されなければ心にモヤが残ってしまう。


「残念ですが答えられるのは規則についてのみです。校長先生の思惑、強さを測った方法までは答えられません。ですが最初の質問、生徒殺しについてはお答えしましょう。この学校が建てられて一年目、強さに自信がありすぎる者が一人の女生徒を殺してしまったのです。それ以降、そういった行為を封じるために規則としています」


「そう、ですか……質問は以上です」


「はい。では皆さんこの伊世高校にようこそ。どうぞ自分の、一年生クラスに向かってください。担任教師が既にお待ちだと思いますので」


 明日香は壇上から下りて綺麗な歩き方で体育館から出ていく。それに続いて新入生も自分の教室へと向かっていく。教室の場所は体育館外にある校内地図を確認すれば三階だと分かる。一階から三年生、二階に二年生という順番だ。


 神奈達は一年生の教室に集まって適当に着席する。

 席の数は十程度余っており、教室に至っては空き教室が三階だけで三部屋もある。アムダスとしてはもっと多くの生徒を迎え入れたかったのだろう。悲しいことに教室に一年生は十九人しか居ない。


「はぁい、私がこの一年生担任教師の若空(わかぞら)(ほむら)でえす。皆さんよろしくお願いしまあす」


 担任教師は小柄な女性で、物騒な学校の教師とは思えなかった。

 薄い赤髪が背中辺りまで伸びた彼女は言葉を続ける。


「それでは皆さん自己紹介をしてもらいましょうかあ。まずは右端廊下側の人から……あ、先生から見て右側じゃないですよお?」


 少しややこしい説明は聞き流し、廊下側一列目先頭の女子生徒が立ち上がる。


「私は海梨(うみなし)游奈(ゆうな)です。種族は人魚ですが、陸に上がったことでもう海に戻れません。よろしくお願いします」


 そして全員がフリーズした。

 自らを人魚と称する游奈にはきちんと両足、肌色の人間の足が付いている。どう見ても人魚には見えない。誰もが渾身のギャグだったのかなと思い、後ろの生徒に自己紹介の番がまわる。


「俺は大塚(おおつか)だ。大塚誠二(せいじ)。種族は人間だな」


「趣味とかじゃなくて種族で紹介する流れ!?」


「僕は白部洋一です。ご覧の通り両足が不自由ですが義足なので、少しなら走ることも可能です。ああそれと種族は人間ですよ」


「やっぱり種族つけるのかよ!」


 洋一の後ろの席、次に自己紹介するのは神奈だ。

 全員の視線が集まる中、神奈はどうすればいいのか考える。自己紹介は第一印象を決める重要なもの。三連続で種族紹介されているので神奈もするべきだろう。ここで種族紹介しなければ、あいつはノリが悪い奴だと全員から認識されてしまう。


 神奈は渋々と立ち上がり、少し震えながら口を開く。


「神谷神奈……ごく普通の人間です」


 種族紹介に抵抗がある神奈は言い終わった後に顔を上げた。


「それとつっこみ役だよ! さっきから何だよこの自己紹介!」


 教室中の者達が神奈をつっこみ役として認知した。

 恥ずかしくなった神奈が席に座った後も自己紹介は続く。


 次は神奈の後ろの席。青い球状の被り物をした少女が立つ。

 教室の全員が少女の被り物に困惑する。全員入学式の時に見てはいるはずなのだが、改めて見ると反応に困る。何と言えばいいか分からないのでとりあえず誰も触れない。


「私の名前はスラリン。種族はスライムです」


「種族百パーセント嘘だろ! たぶん名前も偽名だし!」


 可愛らしい美声で驚きの情報が出された。

 スラリンの肩から上は青い球状の被り物で見えないが、腕や脚はどう見ても普通の人間だ。肌の色だって人間だ。実は人間を吸収して人型になれますパターンだと思うと怖い。スライムと言うならゲル状になったり、丸くなったりして出直してほしい。


「ていうか、その被り物してて前見えてるの?」


「見えないよ。でも、嗅覚と聴覚、それと空気の流れで周囲に何があるか分かるよ」


「見た目に反して凄い特技!」


 右一列目最後尾のスラリンが座り、二列目の少女が立つ。

 神奈から見ても美形で可愛らしい容姿だ。


「次は私だね。私は大空(おおぞら)天海(あまみ)。天使です」


「嘘……とは言えないか? でも天使なら羽があるんじゃ」


「えっ、えっと、羽はねー、取れちゃった」


「取れちゃった!? 羽が!?」


 自称人魚の游奈もそうだが天海も容姿は人間だ。天使とは思えない。


「お前、やっぱりただの人間だろ」


「いいや彼女は天使だ!」


 急に天海を援護したのは彼女の後ろに座る米神明八。


「お前に何が分かるんだよ」


「見た目と性格良ければ天使じゃん!」


「可愛いって意味!? ていうか性格は知らないだろ!」


「とりあえずよろしくねっ、みんな!」


 神奈はこれ以上追求するのを止めておいた。

 まだ真偽は判断出来ない。種族紹介の流れに無理して乗ったのなら優しいし、彼女を天使と言ってもいいだろう。結局偽物扱いだが。


「ふう、じゃあ次は俺――」

「くだらない」


 低い声を発したのは右二列目最後尾に座る王堂晴天だ。

 彼は立ち上がり、教室全体を見渡して生徒を睨みつける。


「おいおい俺の番だぞ今。自己紹介やりたがりか?」

「ひれ伏せ」


 ――教室で神奈と晴天以外が勢いよく机に突っ伏した。


 晴天は固有魔法で他者を命令に従わせることが出来る。加護のおかげで神奈には効かないが、他の者は防ぐ手段がない恐ろしい力だ。晴天よりも強ければ効果は薄まるものの完全無効化は出来ない。


「自己紹介など不要だ。俺様は王であり、貴様等は臣下。それだけ頭に叩き込め」


 晴天が教壇へ向かって歩き出す。

 クラスの王として教壇から話すつもりだろう。彼の性格を神奈は理解していたとはいえ、想像以上の横暴さに驚く。まさか初日の自己紹介で派手にやらかすとは思いもしなかった。こうなったら誰かが止めなければいけない。


「生徒は全員平等な扱いで頼むわ!」


 神奈は晴天が横に来た瞬間に立ち、強烈なアッパーを繰り出す。

 顎に拳がクリーンヒットした晴天は天井に突き刺さった。


「……生意気な」


 晴天は両手で天井を押さえ、自分の頭を引き抜く。

 重力に従って落ちた彼は敵意満々な瞳で神奈を睨む。


「俺様と戦うつもりか? 神谷神奈」


「今すぐ自分の席に戻ってくれれば戦わなくて済むんだけど」


「――君の意見に彼は百パーセント従わないだろう」


 神奈と晴天は目を見開き、窓際の男子生徒に視線を送る。

 丸眼鏡を掛けた真面目そうな男子生徒だ。眼鏡を人差し指でクイッと軽く持ち上げ、わざわざ回れ右の動作で神奈達の方に体を向ける。彼含めてクラスメイトはひれ伏すのを強制されているはずだが自由に動けるとは驚きだ。


「俺様の命令に従わない奴がまだ居たか。名を聞こう」


筋桐(すじきり)初重(ぞえ)です。種族は人間。好きなのは数字。嫌いなのはバカ、でしょうか。丁度あなたのような」


「ふん。立場を分からせてやる必要があるようだな」


「こちらの台詞ですよ。喧嘩ついでに文句を言わせてもらいましょう」


「――ちょいと待てい! その喧嘩に我も交ぜるのじゃ!」


 右三列目最前列に居る銀髪の小柄な少女が勢いよく立つ。

 見た目は幼女と言いたくなるが年齢で判断するなら少女だろう。たぶん。


「我が名はメリオマニア慶姫(けいき)。好物は血液。苦手なものはニンニク! 誰も我にニンニクを近付けるでないぞ! それよりそこの野蛮な男に文句があるのじゃ! この民達の支配者は我! 偉大なる吸血鬼一族、慶姫様じゃぞ!」


「ほう、そなたは吸血鬼だったのか」


 彼女の後ろに座る男子生徒が立ち上がる。

 なぜか彼は制服を着ていない。服装は黒い修道服。首には十字架のネックレス。見た目から教会や牧師に関係した人物だと分かる。


「俺の名は上尾(かみお)(きょう)。種族人間。好物ニンニク。苦手なのは辛い料理。職業はエクソシスト。そなたのような存在を滅するのが仕事だ。人類に害を与える悪鬼には退散してもらおう」


「エクソシストおお? 我をどうやって滅するつもり」


 響の拳が慶姫の顔面に容赦なく叩き込まれた。


「ぶへらっ!? なぜ殴る! しかも顔面を!」


「これがエクソシストの退魔方法だ」


「んなわけあるか! 全国のエクソシストに謝れ!」

「エクソシストの臣下か。悪くない」

「人と人の会話に割って入らないでほしいですね。常識でしょ」

「常識破りだ! 俺の名はデービーだぜ宜しくううう! 種族は悪魔!」

「僕はパカパカ。モルテラッド人」

「じゃあ俺はゴブリンで」

「私ホブゴブリン」

「いやお前等は人間だろ!?」


 教室が一気に騒がしくなってしまった。

 初日なのにクラス崩壊しかけている。神奈は色々な生徒につっこみたいが、ボケが多すぎてつっこみ処理が追いつかない。このクラスは魔境だ。強い人間は個性も強いのか口を開いた者が止まる気配がない。


「……収拾がつかないな」


 晴天の固有魔法に慣れてきた洋一が呟く。


「仕方ない。強制的に終わらせるか。〈強制睡眠(シュタルシュラフ)〉」


 洋一は夢幻の魔導書の契約者であり特殊な魔法を扱える。

 今、騒ぎを終わらせるために教室内の生物を全員眠らせた。

 目覚めた後に自己紹介は無事やり直され、ようやく話が先に進んだ。因みに先程の騒動で神奈と晴天は天井に穴を空けてしまったので、校則破りの罰として放課後に廊下掃除をするよう指示された。










 伊世高校一年生の席

 左 窓際  右 廊下側


 初重   慶姫  天海 游奈

 藤堂   響   明八 大塚

パンダレイ 和猫  恵  洋一

デービー  天子  廻  神奈

 ?   パカパカ 晴天 スラリン


廻「俺はゴブリンな」

神奈「お前は人間だろ!」

天子「じゃあ私ホブゴブリン」

神奈「じゃあって何!?」

和猫「私は猫にゃん!」

神奈「お前はダメイドだ」


スラリン「私、悪いスライムじゃありませんよ」

神奈「お前がスライムだったら私は怖い」



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