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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一.四章 隼速人と青海宝石
422/608

214.38 もっと強く


「なるほど、お前が隼速人か」


 黒いバンダナを巻いた大柄な男、ハートが速人を見据える。


「最強の殺し屋とか呼ばれてるらしいな。強いのは本当らしい。だが、ここに来るべきじゃなかったかもな。今この倉庫には俺の組織、ドミネーターの構成員二百人以上が集結している。お前に倒された構成員を除けば全戦力。いくら最強の殺し屋でもこの数には勝てないだろう」


「ドミネーター、知らんな。目的はなんだ」


「世界征服さ」


「世界征服? では、組織の構成員は強いのか?」


「強い! 紹介しよう。ドミネーターの幹部を。前へ出ろ幹部達」


 ハートの指示で二人の男が堂々と三歩前に出た。

 片方はだらしなく腹が出ている肥満体の男。

 片方は小さな槍を二本持つ、眼鏡を掛けた男。


「大きな体から繰り出すパンチは鉄をも凹ます。怪力の持ち主、ファング。突進力は組織一、ホーン。以上二名がお前にまだやられていない幹部だ!」


「……少なっ」


「数より質だ! 行け幹部達よ!」


「さっきは数を自慢してた気がするんだが」


 呆れた目になる速人だが、ホーンとファングが迫って来たので真剣な表情に戻る。速人からすればあまりに襲いので全く危機感が湧かず、ホーンは殴打、ファングは踵落としの一撃で気絶させた。ついでに高速で動きハート以外の敵にも一撃入れておいた。

 ハートは味方が一斉に倒れ伏す状況に驚く。


「……な、に?」


「やはり弱い。世界征服を目的としているくせに弱すぎる。俺一人倒すことも出来ず世界を手に入れられると思っているのか? 世の中には俺以上に強い奴も居るぞ」


 話を聞いていたハートは意外にも笑い出す。

 絶望して笑うしかないというよりは、まだ余裕のある笑い方。


「ふっ、ふふふっ、お前の強さは理解した。だが! お前のような強者を消すために俺は力を手に入れる! 長い年月をかけて集めたこれを見ろ!」


 ハートがどこからか取り出したのは三つの宝石。

 拳大に大きく綺麗なそれらは速人と純の目を奪う。青海宝石を直に見た二人だからこそ、三つの宝石が青海宝石と同種だと分かる。太陽宝石(サンシャインジュエル)は怪盗が所持しているので、ハートが持っているのは消去法で残った三つ。


 純風宝石(ウィンドジュエル)大地宝石(ストーンジュエル)暗闇宝石(ダークジュエル)


「なっ、まさか三つも既に持っているなんて」


「件のドーピング宝石か。それを使えば勝てるとでも?」


「勝てる! 勝てるぞお! 今から俺は最強に――」


 意気揚々なハートの台詞は途中で中断された。

 突然のこと、黒スーツの男が背後からハートを手刀で貫いたのだ。

 純はいきなりの裏切りに、速人はまだ動ける人間が居たことに驚く。


「がはっ……な、何を……して」


「その宝石を使われちゃ困る。そいつは俺が使うからな」


 心臓部を貫かれたハートは冷たい床に倒れ、彼の手から離れた宝石を部下の男が拾う。


「な、仲間割れ?」


「いや、最初から仲間じゃなかったんだろ」


「その通り。俺は宝石目当てでドミネーターに所属したんだよ。復讐のためには力が必要でね。宝石の力で今度は必ず殺してみせよう。隼速人、お前の友人である、斎藤(さいとう)凪斗(なぎと)をな!」


「……斎藤だと? なぜ斎藤?」


 速人の知り合いに斎藤凪斗という同級生は確かに居る。しかし出自も経歴も普通そのもの。誰かから恨みを買うような男ではない……とは思うのだが、黒スーツの男の殺意は本物。速人が知らないだけで何かやらかしたのかもしれない。


「俺を殺した男に復讐する。当然だろう?」


「俺を、殺した?」


 言葉の意味が分からず速人は戸惑う。

 黒スーツの男は生者だ。幽霊ではない。


「俺の名は狩屋(かりや)(あつし)。思い出したか?」


「いや、全然」


 残念ながら記憶の片隅にも引っ掛からなかった。


「思い出せよ! 究極の魔導書をかけて戦っただろ!」


「……ああ、そんなこともあったな」


 究極の魔導書と言われてようやく速人はうっすら思い出す。

 斎藤が所持していた魔導書を守るために戦った敵だ。しかし、狩屋は確実に死亡している。黒炎で全身を焦がし、巨人に踏み潰されて息絶えたはずだ。生きているはずがない。


「貴様は死んだはず。容姿も昔と全く違う。なぜだ」


「俺の固有魔法〈融合〉さ。死んでから、魂だけになっても固有魔法は使えると知ったよ。〈融合〉の真価も理解出来た。俺の魂と他人の魂を融合させれば生き返ることが出来る。分かるか? 俺は不滅だ! 殺されても他人の体を乗っ取って生き返る! そしてこの宝石や、石倉純の持つ青海宝石で無敵の力を手に入れる!」


 緑、茶、黒。三色の宝石が輝き、狩屋にエネルギーを与える。

 凄まじいエネルギーを速人は感じた。ドーピングされる前は雑魚同然だった相手なのに、今では本気で戦わなければ死ぬと直感が告げていた。速人は刀を抜き、いつでも動けるよう構える。


「石倉、離れていろ」

「……うん」


 純は頷き、倉庫入口まで離れた。


「さあ! 手始めにお前を殺すぞ、隼速人!」


「やってみろ。俺の命は容易く取れんぞ」


 狩屋が突っ込んで来たのを速人は躱す。

 予想通り恐ろしい身体能力だ。速人も本気で回避に専念しなければ躱せなかった。本気というのも〈超・神速閃〉、正確に言うなら魔技(マジックアーツ)〈流星脚〉を使用した状態だ。これを使えば普段の三倍は速く移動出来るが、連続使用や状態の維持は足に大きな負担が掛かる。一度の維持限界は四秒が限度だ。


「短期決戦が理想か」


 次は速人から攻勢に出る。

 流星の如き速度で狩屋に接近して連続で斬りかかる。最初の一撃は腕に掠ったものの、二撃目以降は余裕で躱された。想定出来たことだ。速人の〈超・神速閃〉で速くなるのは足の速さのみ。斬撃速度は普段と変わらない。速人は走った勢いを乗せた攻撃じゃなければ狩屋には通じないと確信した。


「遅い遅い! 足以外は遅いなあ!」


 狩屋が殴打を放ってきたので速人は一旦離れた。


「普通の連撃は無駄。最高速の一撃を出し続けろ」


 速人は最高速で走り回り、すれ違い様に一閃するのを繰り返す。

 当たれば出血するので狩屋は回避に専念している。彼の回避技術はかなり高く、当たっても刀が掠る程度に留めている。致命的なダメージを与えられないまま時間だけが過ぎていく。


 隙さえあれば、と速人は胸中で呟いた。

 二人の速度の戦闘ではコンマ一秒の迷いでも敗北に繋がる。この戦闘は先に思考や行動が遅れた方が敗北する。今のままだと技の反動で足に疲労やダメージが蓄積して速人が敗北してしまう。足が限界を迎える前に狩屋の隙を見つけなければならない。


「――隼君! 私がそいつの隙を作る!」


 倉庫入口付近で純が叫んだ。


「引っ込んでいろ! お前が何かして怯む相手じゃない!」


「いいや。怯むかは分からないけど、そいつは絶対に隙を見せる。一度しか出来ないから絶対勝ってよね。おい! えっと、下っ端! こっち見ろおおおおお!」


 叫んだ純はブレザーの右ポケットから青い宝石を取り出す。


「なんだあ? まさかあの女も戦うつもりかあ?」


「止めろ! バカなことをするな、死ぬぞ!」


 純の身体能力は一般的なもので戦闘技術もない。戦いの素人が割り込んだところで死ぬだけだ。例え青海宝石でドーピングしたとしても狩屋には通じないだろう。守りながら戦う余裕は全くないので速人は純に大人しくしてほしい。


「そりゃ!」


 ――純が青い宝石を床に投げ、宝石は五つに割れた。

 想定外な行動に速人も狩屋も唖然として動きを止める。


「……はっ? な、何をして」


 青海宝石が純にとって大切な物だと知っていた速人も、欲していた狩屋も僅かな時間まともな思考が出来なくなる。先に戦闘へ意識を戻せたのは速人だった。純が言った『隙を作る』とはこのことだと理解したからだ。欲しがっていた物を目の前で破壊されたら誰だってそちらに意識を向ける。


「本当にバカなことをしてくれたな、石倉」


 速人は刀を振るい、余所見する狩屋の体を斬った。

 無防備だったので傷は心臓にまで達している。狩屋は大量に出血しながら「く、そ」と呟き、床に倒れ伏した。絶命までは数秒掛かるが戦闘不能だろう。


 刀を振って血を落とす速人は純のもとへ歩いて行く。


「何をしたのか分かっているのか。その宝石はお前の大切な物だろうに」


「大切だよ。大切だけど、この宝石のせいで隼君が死ぬのは見たくないから」


「…………まあ、礼は言っておく」


「……うん」


 純のおかげで勝利出来たのは認める。しかし、速人は基本的に助力を求めない。自分ではどうしようもない敵との戦いでのみ協力を求めることはあるが、やはり手助けされるのは苛つく。


「色々言いたいことはあるが、問題を片付けてからにしよう」


「問題? あいつはもう、死んだんでしょ?」


「奴の話が真実なら戦いは終わっていない」


 ゆらり、と黒スーツの女が立ち上がる。

 先程気絶させたはずの人間だが雰囲気は別物だ。


「狩屋敦だな?」


「ああ、そうさ! 言っただろ俺は不滅なんだよ!」


「嘘!? 本当に他人の体に乗り移ったの!?」


「……厄介な能力を使いやがって」


 自分と他人の魂を融合させて他人の体で生き返る。

 狩屋の能力は非常に厄介で速人は対処法を思い付けない。とりあえず狩屋らしい女の額を刀で貫いてみたが、次は男の体を乗っ取り生き返った。何度殺しても無意味なのだ。宝石によるドーピングは消えているので殺すだけなら簡単だが、戦いは終わってくれない。


「ちっ、気は進まないが、あいつを頼るか」


 速人はスマホを取り出し、とある人物に電話を掛けた。


『もしもし。なんだよ隼、電話してくるなんて珍しい』


「緊急事態だ。現在敵と戦闘中なんだが、何度殺しても他人の肉体で蘇ってきやがる。俺一人では対処出来ん。お前の力を貸してくれ。どうすればいいのか教えてくれるだけでもいい」


『待ってろ。すぐそっちに行く』


 電話が切れて数秒後、倉庫入口に一人の少女が降って来た。

 四方八方に跳ねた黒髪の少女は速人を見つけると、困惑する純の横を小走りで通り抜ける。彼女は速人がライバルでありたいと思う者、神谷(かみや)神奈(かんな)。事件や厄介事によく巻き込まれているが、今回は速人が巻き込む側になってしまった。


「よっ、来てやったぞ」


「やはり速いな。で、解決策は?」


「あいつが蘇る原理が分からないと対策出来ないって」


「魂を融合させるとか訳分からんことを言っていたが」


「ふーん。つまり、一度自分の体から魂が抜けて他人の体まで移動するのか。それなら対策はシンプルだ。まずは敵を気絶させてくれ。殺す必要はない。気絶したら戦えないし、戦える体に乗り移ろうとするはずだから」


「分かった。早速実行するぞ」


 速人が狩屋の背後に回り込み手刀を落とす。

 気絶して床に倒れ伏す狩屋の体からは白いモヤが飛び出し、それを神奈がしっかり握って捕まえた。白いモヤは狩屋の魂だ。抜け出そうと暴れているが神奈の手からは全く抜けられない。


「魂を捕まえたし、もう他人の体で蘇れないよ。お疲れ」


「その魂をどうするつもりだ?」


「死者には死者の行くべき場所がある。そこへ連れて行くさ」


 神奈は魂を持ったまま飛び立ち、どこかへ消えた。

 彼女が駆けつけてから決着まで三十秒も掛かっていない。もし速人にも彼女と同じことが出来たら、もっと彼女の強さに近付ければ、狩屋如きに手こずることもなかっただろう。彼女と比べて弱い自分に怒りが湧く。


「あ、あの、隼君。終わったの?」


 急展開に付いていけない純が戸惑いながら問う。


「……ああ。もうここに用はない。全て終わったからな」


 犯罪者が居ると警察に通報してから速人と純は倉庫を出た。




 * * *




 多くの墓が並び立つ共同墓地。

 速人と純は【石倉虹子(こうこ)】と刻まれた墓石の前で祈る。


 墓石には五つに割れた青い宝石が置かれている。自然のエネルギーを吸収する力の有無はどうでもいい。速人は青海宝石が効力を失ったという偽情報をアステロに流してもらうつもりだ。ドーピング能力を失った青海宝石はただの青い宝石。狙う人間がゼロになるとは思わないが、激減はするだろう。


「隼君、私の護衛お疲れ様。もう、大丈夫だから」


「いいや、まだ依頼は達成されていない」


「どういう意味?」


「――あああああああ! 居たあああああ!」


 共同墓地に少女の叫びが響き渡った。

 速人と純のもとへ一人の少女が走って来る。学校指定のブレザーとスカート姿の彼女は息を切らしていて酷く疲れた様子。速人達のもとへ着いたら膝から崩れ落ちる。


「もうっ、私の護衛なのに、勝手に、離れて……えっ?」


「早かったな石倉」


「え? はっ? なんで、私が二人居るの!?」


 少女の容姿は石倉純と瓜二つ。

 速人と共に共同墓地へ来た方の純は何も言わない。


「なぜ石倉が二人居るのか答えは簡単だ。なあ? 怪盗サウス」

「ええっ!? 怪盗サウス!?」


 速人が声を掛けると純は笑みを浮かべる。

 純の……いや、純の姿を真似た偽者は小さな煙玉を落とす。煙玉からは白煙が噴出され、あっという間に偽者の周囲を包み込む。白煙はすぐに晴れたが、そこには微かに笑う少年が立っていた。青のシルクハットとマント、そして右胸に下向き矢印の刺繍がある青いスーツ。正にテレビで見るままの怪盗サウスである。


「う、うっそ本物!? 本物だ! 本物のサウス様! サイン……ああああ、サイン色紙とか持ってないよお。だからって服にサインしてもらうのはなあ。隼君サイン色紙を持ってない?」


「持ってない」


「だよねえ。よし! サウス様、隼君の服にサインを!」


「ふざけるなよ石倉。少し黙れ」


「……はい」


 バカらしいやり取りの間、サウスは左目の片眼鏡(モノクル)位置を調節していた。


「サウス。ショッピングモールの女性用トイレに居たお前は、石倉を気絶させた後、石倉に変装した。しかし、そこでイレギュラーな誘拐犯の突入。個室に本物の石倉を残してお前が攫われた。青海宝石を回収してからな」


「よく見破れたね、僕の変装を」


 サウスは純からスマホを盗っていなかった。速人がこの共同墓地付近にバスで来る途中、純から『どこに居るの』と連絡を受けたのだ。それだけなら同行者が偽者とは思わないが疑いはする。徹底的に同行者を観察した速人は一つ、本物との違いに気付き偽者と確信した。


 学校指定の制服は着ていても、その下に着ているはずの物を着ていない。防弾ゴムスーツだ。ゴムスーツは霧雨特製なので同じ物を急に用意することは不可能である。

 偽者と分かった速人は本物の純を共同墓地へ来させて今に至る。


「さあ、青海宝石を返してもらおうか。お前が壊したのは偽物だろう」


「なぜ偽物だと思うのかな?」


「宝を自分で破壊する怪盗は居ないだろ」


「……素晴らしい。君の名推理に感動したので、この青海宝石は持ち主に返しましょう。加えて、もう狙わないと約束しますよ」


 サウスは手に出現させた青海宝石を純に手渡す。


「ついでにお前の正体も教えてもらおうか」


「おっと、用事は終えたので僕は失礼させてもらいますよ!」


 再び煙玉が落とされ、大量の白煙がサウスの姿を覆い隠す。

 煙が晴れるとサウスは消えていた。本気で捕まえる気なら速人でも捕まえられたが、サウスを捕まえても得はないので止めておいた。実は正体も気にしていない……というか見当がついている。


「あああ、サウス様……サイン」

「諦めろ」


 その後、純は青海宝石を隠すように墓石へ置いた。

 慣れない護衛依頼を完了した速人はいつもの日常へと戻る。





 * * *





 珍しく、隼速人は頭を下げて頼み事をしていた。


「宇宙へ連れて行ってくれ」

「は?」


 喫茶店マインドピースの中で、店員のグラヴィーが困惑している。席に座った速人の最初の一言が宇宙へ連れて行けだったからだ。わざわざ頭を下げて頼んできたのもあり困惑二倍である。


「待て、なぜ宇宙へ行きたいんだ? 興味あったのか?」


「今よりも強くなりたい」


「……なぜそれで宇宙へ行く発想を?」


「地球での修行は限界を感じているからだ。このまま地球で修行してもレベルアップは見込めない。今よりも強くなるには環境を変えた方がいいと思った。俺はもっと、強くなりたい」


 確かに、とグラヴィーは思う。

 地球は修行に最適な惑星とは言えない。

 重力が重い惑星で修行した方が身体能力は強くなりやすいだろう。地球の重力は軽く生活しやすい。初めてグラヴィーが来た時は、母性より遥かに軽い重力で驚いたものだ。


 速人の気持ちは理解したがグラヴィーには仕事がある。

 今は喫茶店マインドピースでアルバイトを一生懸命やっている。他人の修行に付き合う時間はあっても少ない。地球内ならともかく、宇宙にまで行く暇はない。そんな時間があるなら美味しいコーヒーの注ぎ方を練習する。


「うーん、でも僕はバイトやってるしな。僕の知り合いは宇宙船故障した奴等ばかりだから紹介しても無駄だし。他に宇宙人の知り合い居ないのか?」


「居ない」


「じゃあ、諦めてもらうしかないな」


「――協力してあげなよ、グラヴィー」


 話を聞いていたらしい赤紫髪の少年が近付いて来る。


「レイ、どういうつもりだ?」


「僕はね、隼を尊敬しているんだよ。彼は戦士だ。僕も、グラヴィーも、ディストも、もう戦士とは言えない。僕達がなくした闘志を彼は持ち続けている。だから尊敬出来る」


「こいつが強くなりたいのは神谷を倒すためだろ。お前、神谷の敵に協力するのか?」


「問題ないさ。神奈は負けないから」


 かつての速人ならレイの言葉に怒っていただろう。しかし、今は怒りが湧いてこない。速人は心のどこかで神奈に勝てないと思っている。いつの間にか、相対しただけで敗北をイメージするようになっていた。それは精神的弱さが原因だ。速人はこれからの修行で精神的弱さも克服したいと思っている。


「僕はこの喫茶店のバイトがあるだろ。時間がない」


「最近バイト増えたし問題ないさ」


「いや、でも、僕と同等の働きは出来ないだろ」


「不足分はディストと僕でカバーするさ」


「……なんか、僕を追い出そうとしてないか?」


「そんなことないさ。本当にそんなことない。僕のおやつ勝手に食べたとか、一人だけ牛丼大盛りで頼んだとか、バイト中に注文ミスしたとかで怒ってるわけじゃないからさ」


「絶対怒ってるだろ! え、ごめん!」


 レイが肯定的なので速人はグラヴィーの腕を掴む。


「許可は出たようだな。行くぞ」


「ま、まだだ! まだ店長の許可が!」


 カウンターの向こうでコーヒー豆を挽く店長は親指をグッと立てた。

 無言だったがその仕草は『許可します』と幻聴が聞こえてくる。


「てんちょおおおおおおお!?」


「ほら、店長の許可も出たし行くぞ」


「ちくしょおおおおおおお!」


 こうして隼速人はグラヴィーと共に宇宙へ向かう。

 全身全霊で神谷神奈という目標を追い越すために。










 次回 一気に高校生編へ。


腕輪「え?」


 この隼の話が中学二年の十二月あたりなので、高校生になるまでの残り一年三ヶ月の話は機会があれば番外編で書くことにしました。中学二年と三年の話を割り込み投稿するとか言ったのに申し訳ありません。


腕輪「え?」


 ぶっちゃけちゃうと、中学三年生の終盤まで隼の修行パートで一気に時間経過させるつもりだったんですよね。神奈メインの話は三年生終盤しか考えていなかったんです。でもまあ、どう考えても隼メインはシリアスにしかならないし。修行編なんて面白く書く自信ないし。


腕輪「え?」


 というわけで次回から高校生編です。

 今後ともよろしくお願いします。


腕輪「……なるほど?」


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