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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一.三章 神谷神奈と転生者交流
414/608

214.30 神谷神奈VS神々天子


 神奈達は笑みを浮かべていた。なぜか廻も笑っていた。


「なんでお前も笑ってんだよ。敵だろお前は」


 辛勝とはいえ速人が明八に勝利してまずは一勝。

 ウィザーディア学園側はあと一敗でもすれば交流試合敗北となる。呑気に笑っている場合ではない。あと、天子も布団で寝ている場合ではない。仲間が戦闘中の時も起きる気配すらなかった。緊張感がなさすぎる。


「感心しているんだ。加護も持たないのに明八を倒すとは素晴らしい。転生者以外での強者なんて一人しか知らなかったが、この世界には意外と居るものだな。しかし調子に乗らない方がいい。明八は俺達三人の中で最弱。昼休憩時間に焼きそばパンを買いに行かせる舎弟さ」


「古いな。時代はメロンパンだろ」


「じゃあやっぱりホットドッグだ」


「じゃあって何だよ。焼きそばパンって言っただろ」


「――私は、チョココロネ」


 どうでもいい会話に入ってきたのは天子だ。

 目は閉じているが目覚めたらしく、布団からゆっくり起き上がる。


「廻、パンを早くピカピカに買ってきてもらおう」


「ダメだ。明八は気絶している」


「……なんで?」


「おいこいつ状況理解してないだろ」


 天子は神奈の方を振り返ると首を傾げる。


「誰?」


「今更かよ! 本当に何も知らないだろこいつ!」


 第二試合は神奈との戦いだというのに呑気なものだ。いっそ寝たままなら不戦勝で神奈達は嬉しかったのだが、残念なことに廻が状況を説明し始める。一応交流試合の話は聞いていたらしく天子はすぐ理解した。


「次はお前の番だ天子。本気で力を使っていいぞ」


 天子は神奈を見つめて鼻で笑う。


「楽勝」

「よし、絶対ぶっ飛ばすわ」


 闘技場の観客席から地面に降りた二人は距離を取って向かい合う。

 およそ五十メートル離れれば十分だ。二人の戦闘準備は既に終わっている。


「もう始めていいよな。殴るぞ?」


「いつでもどうぞ」


 神奈が遠慮無く駆け出そうとした瞬間、竜巻が発生する。

 非常に強い暴風だ。家屋などが巻き込まれていれば粉々だろう。


「うわっ、天気悪すぎだろ」


「おかしい」


「だよな。急すぎだって」


「おかしいのは、あなた」


 いきなり竜巻が起きたにしては弱いリアクションだからかと神奈は納得する。

 年間千を超える量の竜巻が発生するアメリカには及ばないが、日本でも意外と竜巻が発生しやすい。二十個の竜巻が発生する年もあった程だ。二十個も発生するなら、タイミング悪く神奈達が戦う闘技場で発生することもあり得る。


「ん?」


 竜巻に混ざって雨が降ってきた。

 雨粒は大きく、勢いも強い。

 人間が立っていられないレベルのゲリラ豪雨。

 交流試合をやっている場合ではないと思った神奈は天子に駆け寄る。


「急に風と雨が強くなりやがった。ヤバいな青森の天気。試合は中止でいいか? あれ、よく見たらお前、風で髪が揺れてないし雨で濡れてもいないな。私もだけど」


「……これ、私の力。青森は良い場所」


「…………あ。そ、そう。ごめん」


 上空に雷雲がいくつも生まれ、神奈に連続で雷が降り注ぐ。

 天子が『私の力』と言っていたので攻撃のつもりだろう。

 神奈が注意を雷に向けている間に、天子は横へと跳躍して距離を取る。


「どうやら、彼女は自然の加護を与えられたようですね」


 全ての雨が神奈目掛けて降り注ぐなか、神奈の腕輪が喋り出す。


「自然の加護?」


「自然を操る力ですよ。とても強い力なのですが……」


 一言で自然と言っても意味は幅広い。

 人の手が加わらないありのままの状態や現象を自然と呼ぶ。

 今操っている天候だけではない。山や海、人工物の少ない環境。自然物及び生物全般。天地、宇宙の万物。不思議のないこと。それら全てを意のままに操れるのなら恐ろしい力だ。


「使いこなせてはいませんね。防護の加護を持つ神奈さんなら楽勝です」


「自分の害になる環境や特殊能力を防ぐのが私の力。確かに、負ける気がしない」


 大地が溶け出し、雨が一瞬で蒸発する程の熱風が噴き上がる。

 酸素を燃やす熱が風に乗り、火炎竜巻となって神奈を閉じ込める。


「うわっ、地球の中心から熱を持ってきましたよ。温度はおよそ六千度」


「殺す気か? はあ、熱に風に雨に雷、何でもありだな」


「ついでに今重力が一万倍程まで上げられています」


「あの居眠り女、私を生かすつもりないだろ」


 まさに天変地異。今度は強まった重力のせいで、隕石が一万倍のスピードで落下してきた。光速には及ばないが地面に衝突すれば闘技場諸共、日本全土が消し飛ぶ可能性がある。非常にマズいので神奈は隕石を魔力光線で粉々に砕いておく。仮に地面に衝突しても、神音が魔力障壁を重ねて張る闘技場は壊れないと思うが念の為だ。


「……なんだろ。少し、苦しくなってきたような」


「熱で酸素が燃えて減少しています。このままでは呼吸出来なくなりますよ」


「マジか。なら、さっさと戦いを終わらせるぞ」


 神奈は走るだけで火炎竜巻を突破。天子に急接近して殴り飛ばす。

 身体能力の強さは不明なので手加減して殴ったからかあまり効いていない。


「……強いね。とっておきを使うしかないか」


「本気じゃなかったとでも? お前に勝ち目があるとは思えないけどな」


 火炎竜巻や雷雲が霧散する。効果が無いと分かったから消したのだろう。神奈には感じ取れないが重力も元に戻っている。自然の力は通用せず、身体能力も負けるなら天子に勝ち目はない。腕輪の言った通りこの戦いは神奈の圧勝で終わる。


「いや神奈さんマズいですね。彼女、自然エネルギーを吸収していますよ」


「ドーピングか。よくある話だ」


「凄まじい勢いで強くなっています。もう神奈さんより強いです」


「……マジ?」


 今まで閉じていた天子の緑色の瞳が開き、視線が神奈を射貫く。

 天子が瞬時に神奈の目の前に接近して、先程のお返しとばかりに殴り飛ばす。ただし神奈のダメージは天子のダメージとは比べ物にならない。直感で避けようと体を動かして衝撃を微妙に逃がしたが、闘技場の壁に深くめり込んでしまった。肋骨が数本折れただけなのは奇跡と言える。


 一時的とはいえ自然エネルギーを吸収した天子の戦闘能力は凄まじい。

 総合戦闘能力値。およそ1700000(百七十万)

 戦闘慣れしていないのは動き方から分かるが、圧倒的実力差のせいで回避は確実に間に合わない。防御すれば骨折は免れない。こんな化け物相手に神奈はどうやって戦うのか。


「神奈さん、この戦い、すぐ終わりそうですね」


「ああ。すぐ終わらせる方法があるからな」


 壁から出た神奈は、ゆっくり歩いて来る天子を見据える。


「――降参しまああああああああああす!」


 そして手を真っ直ぐ挙げて大声で敗北を宣言した。


「降参?」

「うん降参」

「……そう。じゃあ私の勝ちだね」


 観客席では廻が拍子抜けしたような顔をしており、速人は信じられないと言いたげに驚いている。唯一神音だけは仕方ないことだと納得してくれている。そう、この降参は仕方ないことなのだ。どう足掻いても勝てないと悟った以上、戦う気も失せるというもの。


 今回の戦いはただの交流試合。命懸けで戦う必要がない。

 神奈が今まで強敵相手に命懸けで戦ったのは、相手に勝たないと日常が壊れるからだ。世界征服だの侵略だの破壊だの、そういった物騒な目的を持つ相手でないなら死闘なんて御免である。


 そうそう仕方ない仕方ないと思いながら観客席に戻ってみれば、待っていたのは明らかに不機嫌な様子の速人。降参したのが気に入らないのだろう。彼は神奈をライバルと思っているので尚更のこと。気持ちを察した神奈は謝罪の言葉を口にする。


「いやー、すまんすまん。負けたわ」


「降参するしかない程に強かったのか?」


「強い。私よりも遥かに」


 神奈より遥かに強いその女生徒は観客席に戻るなり眠りに就いていた。


「……気に入らん」


 過去の経験から自分よりも、ライバルよりも強い存在が居ることを速人は理解している。規格外な強者を知らない頃なら激しい罵倒を浴びせたが、今は不機嫌になる程度。神奈が勝手に『大人になったなー』と思っているのを知れば更に不機嫌になるだろう。


 ウィザーディア学園との交流試合はこれで一勝一敗。

 正真正銘次の戦いがラスト。廻と神音の二人が視線を交わす。











神奈「参った。おめえの強さはよーく分かった。オラもう止めとく」


腕輪「神奈さんは神音さんに全てを託して降参したんですね」


神奈「そうだ。神音は底知れない力を持っている」


神音「……私は怒りで強くなったりしないよ」



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