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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一.三章 神谷神奈と転生者交流
412/609

214.28 魔法学院交流試合


 気温が夏より下がってきた秋。十月。

 神谷神奈、神野神音、隼速人の三名はメイジ学院の学院長に呼び出されていた。


 学院長前任のマージ・クロウリーから立場を引き継いだのは白旗(しろはた)(のぼり)。マージのような野望もなければ、実力もAクラス卒業生だから一般的な目線で優秀程度。容姿は特にこれといった特徴がない男だ。神奈は友人の神音、天寺静香、南野葵と不審な経歴や怪しい素振りがないか調べたが、今のところ特に怪しい点はないので調査は止めている。


「隼、お前が呼び出しに応じるなんて珍しいな」


「面白そうだから来ただけだ。学院長、さっさと要件を話せ」


「そうしましょう。今回君達三人を呼び出したのは、今月行われるイベントに参加してほしいからです。毎年メイジ学院はウィザーディア学園と交流試合をやっているのはご存じですか? 君達三人には学院代表としてその交流試合に出てほしいのです」


 日本に存在する魔法学校は毎年秋、決められた学校と交流試合を行う。

 競わせることで生徒の実力向上を狙い、親睦も深めるのが目的だ。学校経営者にとって最も重要なのは勝利校への支援金を政府が増額することだろう。政府で魔法を専門とする組織は去年何者かに潰されたが、交流試合のイベントは続くらしい。


 普通なら楽しみにしたり緊張したりするのだろうが、神奈からすればつまらないイベントである。出場生徒は自分含めて地球全体で見ても強い。相手校が三人掛かりで襲ってきても一人で返り討ちに出来る。明らかに過剰戦力。特に今の神奈にとっては五木兄弟レベルでも楽に勝てるのだから、他校の優秀な生徒だろうが期待は出来ない。一方的な蹂躙で終わるだけだ。何も楽しくない。


「それ、私達じゃなきゃダメなんですか? 学院代表なら三年生に任せればいいじゃないですか。私達二年生ですし、私と隼はDクラスですよ。せめてAクラス三人にした方がいいと思います」


 メイジ学院はAからDまでのアルファベット順で生徒がクラス分けされる。成績順になっていて神奈と速人は一番下のDクラス。普通なら学院代表を任されるなんてありえない。……普通ではないと神奈自身分かるので、かつてのDクラスの悪評を利用した。去年の魔導祭以降見下す生徒は減少したものの、未だに悪態をつく生徒は存在している。


「去年のDクラスの活躍は生徒から聞きましたよ。魔導祭で二位だったそうですね。僕はAだろうがDだろうが気にしません。学院のクラス分けも不平等な部分があるし変えていくつもりです」


「魔導祭優勝はAクラスだったでしょ」


「そのAクラスの生徒が君達の名前を挙げたんですよ。学院でトップクラスの実力者だとね。自分より君達が相応しいと言っていましたよ。もし嫌なら強制はしませんが」


「まあ、試合に出たくは――」


「臆したのか?」


 速人の挑発を受けた神奈は「は?」と速人を睨む。


「お前が臆したなら仕方ない。俺が敵を全員始末してやろう」


「いや、誰が怖いって言ったのかな。面倒なだけで怖いとか言ってないし。お前こそお家に帰って刀でも磨いとけよ。敵は私が始末するから。お前の出番ないから」


「……あの、相手の生徒は殺さないでもらえますか?」


 挑発のせいで物騒な言葉が出てしまったが当然神奈は誰も殺さない。

 睨み合って話を聞いていない生徒二人を見て学院長は不安が顔に出る。


「とりあえず全員出るということで。詳細はこの紙を見てください」


 ずっと睨み合う二人に代わって神音が紙を受け取る。

 書かれているのは試合場所と行う日時。そして相手校の代表選手名。

 必要最低限の内容で面白みはないはずだが神音は笑みを浮かべる。


「神谷、相手の名前を見てみなよ。面白いよ」


「そんなに面白い名前だったの? だからって笑っちゃ悪いだろ」


 神奈は速人から顔を逸らして神音から紙を受け取った。

 キラキラネームだろうがシワシワネームだろうが、誰かの名前を笑ってはいけない。その人が名前を気に入っていても嫌っていても傷付けることになる。……とはいえ、神音が『面白い』と言うのは珍しい。興味が出た神奈は相手選手の名前を探す。


 ウィザーディア学園の代表生徒三名。

 神原(かんばら)(かい)

 神々(みわ)天子(てんこ)

 米神(よねかみ)明八(あきや)


「……なるほど。こりゃ確かに面白いわ」


 名前に神が入っている神の系譜は転生者の証。

 相手の代表選手は全員が転生者であり、強さは神奈達に匹敵するかもしれない。




 * * *




 魔法学院交流試合の開催場所は青森県。

 ウィザーディア学園が所有する闘技場にて、観客すら居ない中で行われる。その闘技場はスマホのマップ機能で調べることが出来ず、ウィザーディア学園から支給される地図だけを見て辿り着かなければならない。

 初めて訪れた青森の地。神奈達は到着してすぐ……迷った。


「……終わった。目的地に辿り着けず不戦敗なんて」


「おおい斑しっかりしてくれよ」


 生徒のみで遠出するのは許可出来ず、付き添いとしてDクラス担任教師である(まだら)(よう)が学院長に選ばれた。地図を持つ斑を先頭に青森県を歩いていた神奈達は、いつの間にか田地に来てしまっている。見渡す限り田んぼと細道で建物は一切無い。こんな場所に闘技場なんてあるわけない。


 斑は落ち込み、神奈は困り、速人は田んぼを眺め、神音はラーメンを食べている。一人だけおかしな行動をしているので神奈は思わず大声でつっこむ。


「そんでお前はさっきから何食べてんだよ!」


「青森味噌カレー牛乳ラーメン」


「見た目美味そうなのに名前が不味そう!」


「味は良いから後で食べてみればいいさ」


 丁度完食した神音は食器を異空間へと放り込む。


「あああああああ! 学院長から任された保護者役なのに失敗なんて、しかも大事な他校との交流試合だぞ! 終わった、僕の評価が下がる、減給されるううう!」


 頭を抱えて大声を出す斑に、偶然来た通行人が「わっ、どってんすたな」と言って目を丸くする。何を言っているのか分からないが、驚かせたのは分かるので神奈達は申し訳なく思う。


「最後の手段だ。現地人に訊く!」


「普通の手段だろ」


「すみませんお爺さん。実は道に迷ってしまって」


「大変だびょん。どさ?」


 何かを聞かれたが言葉の意味が分からず斑は困惑する。


「どさ?」

「どさ」

「どさ?」

「どさ」


「……何を言っているのか分からない。同じ日本人なのに」


 青森県独自の言語は日本国内でかなり難しい言語である。

 津軽弁、南部弁、下北弁の三つがあり、特に津軽弁が難しいことで有名だ。共通語を話す若者が増えているとはいえ、津軽弁を話す人間も多く居る。勉強しなければ言葉の理解すら出来ない。


 落ち込む斑を見かねて神音が老人の前に出た。

 神音なら加護の力で全ての言語を理解出来るので話が出来る。


「どこへ行くのってさ。すみません、この場所へ行きたいんですけど」


「めやぐ、わがねえ」


「そうですか。話を聞いてくれてありがとうございました」


 老人は「けっぱれー」と言いながら歩いて去って行く。


「仕方ない。最後の手段を使おう。究極魔法で位置を調べる」


「マップ機能みたいに使われる究極魔法可哀想だな」


 禁断の魔導書に記される究極魔法〈生物探索(クリーチャーサーチ)〉。

 名前さえ分かっていれば生物非生物問わず、例え異世界であっても位置を特定出来る。今回は相手校の代表選手名を知っているからこの魔法が役立つ。神音は『神原廻』で検索して瞬く間に彼の位置を特定してみせた。神原が闘技場に居るなら辿り着けるし、まだ到着していないなら一緒に行けばいい。


「場所が分かった。周囲に人は居ないし飛んで行こう」


「よし行くか。飛べない隼は帰ってなよ」


「は? 飛べなくても跳べばいいだろ」


 神奈は斑を担いで飛び、速人も魔法で空気を固めて跳ぶ。

 最強ナビゲーター神音の案内により一同は遂に闘技場へと辿り着けた。


 イタリアのコロッセオのような円状闘技場。去年メイジ学院で行われた魔導祭のように結界が張られているため、外部には音も衝撃も漏れない仕組みになっている。青森の人々はまさかこんな場所に闘技場があるなんて思わないだろう。


 闘技場前には黒髪の少年二人が立っていた。

 制服姿なのでウィザーディア学園の生徒、つまり神奈達の戦う相手だと分かる。今回は観客も居ない中行われる試合ゆえ部外者は居ない。この場所には神奈達と対戦相手しか存在しないのだ。


「おお、来た来た。お前等がメイジ学院の代表選手だな?」


「待たせたみたいだな。悪い悪い、慣れない土地だから迷っちゃってさ」


「気にするな。さて、自己紹介といこうか。俺はウィザーディア学園二年生の神原(かんばら)(かい)。隣のこいつも同学年、米神(よねかみ)明八(あきや)。そして……」


 廻と明八が互いの距離を離すように一歩横へ退くと、一人の少女の姿が見える。二人同様の黒髪の少女はなぜか布団の上で寝ていた。どういう神経なのか彼女は熟睡している。本来コンクリートの上に布団があるわけないので私物だろう。


「この女は神々(みわ)天子(てんこ)。俺の恋人だ」


「恋人なんて情報より、なぜ布団を敷いて寝てんのか知りたいんだけど」


「眠いから寝ている。自然だろう?」


「不自然だよ」


 部外者が入って来ない結界内とはいえ、布団を持参してまで寝るのは異常すぎる。それを自然とか言う廻も異常だ。唯一明八だけは苦笑いしていたので、彼はまともな感性なのかもしれない。


「さあ、今度はそちらの名前を聞かせてもらおうか」


「私は神谷神奈。隣の男は隼速人。女は泉沙羅。そして……」


 神奈達が真ん中を空けるように退くと、廻達は倒れて動かない男を見る。


「これが付き添いの教師、斑洋」


「……し、死んでいるのか?」


「いや、高所恐怖症だったらしくて。空飛んだら気絶したんだよ」


 一応魔法使いのくせに、飛行出来ないレベルの高所恐怖症とは想定外。知らなかったとはいえ悪いことをしたと思ったが、気絶してくれたので気を遣わず飛行出来た。例え交流試合の終わりまで気絶していても、結果だけ報告すれば問題ない。重要なのは勝敗の結果だ。


「なら、もてなすのは三人でいいのか?」


「もてなす? 戦うってこと?」


「違う。おい明八、行け」


「へいへい。人使い荒いっすねえ」


 廻に命令された明八は一瞬で闘技場前から消え去る。

 瞬間移動ではなく高速移動。正確に言うなら光速移動。

 気を抜いていた神奈達には、明八の動いた方向を辛うじて目で追うことしか出来なかった。しかし神奈と神音なら魔力を目に集めれば光速でも追える。光速が最高速度なら二人の敵にはなりえない。


「速いなあいつ」

「ああ、でも私達の方が速い」


 ただ一人、速人だけは悔しそうに拳を握り、明八が去った方向を見つめる。神奈と神音が問題なくても速人には大問題だ。自分よりも速いと確実に言える相手がまた一人増えたのだから。


 三十秒程で明八は戻って来た。手には岡持(おかも)ちを持っている。


「お待たせっと」


「……何それ?」


「青森味噌カレー牛乳ラーメン三人前」


「本当にもてなしてくれるんだ!? あ、でもそのラーメンは」


 闘技場へ来る前に食べていた神音に神奈が視線を送る。


「……せっかく買って来てくれたんだ。食べるよ」


 神奈達三人は青森味噌カレー牛乳ラーメンを受け取る。

 名前のわりに見た目は普通だ。メンマとチャーシューとワカメが乗り、バターが溶け始めて良い匂いを出している。お腹が空いていたので神奈は早速食べ始めた。以前魔導祭で貰った飲み物に薬を混ぜられたことがあるが、体への害は加護が勝手に打ち消してくれる。


「あれをかけるか」


 速人は服のポケットから一味唐辛子の瓶を取り出してかける。その行動を初めて見た廻達は驚きで目を見開く。少しかける程度なら驚かないだろうが、速人は山盛りにかけてスープに混ぜる。


「おい何かけてるんだお前」


 突っかかったのはラーメンを持って来た明八だ。


「マイ一味唐辛子だが?」


「ラーメンに一味唐辛子とか頭おかしいのか? そこはレモンでしょうよ」


「貴様の方が頭おかしいだろ。唐辛子置いてるラーメン店は普通にあるぞ」


 一味唐辛子を置く店は少数存在するがさすがにレモンはない。


「レモン置いてる店だってあるぜ」


「ないだろ」


「あるって。俺の実家のラーメン屋に俺がレモン置いてるから」


「それはカウントしていいのか?」


 あっという間にラーメンを完食した神奈は満足気な顔になる。


「ふう。美味かったよありがとな。でも良いのか? 奢ってもらって」


 初対面の変人達だがもてなしてくれれば神奈も嬉しい。これから戦う相手だというのに、わざわざラーメンを奢ってくれるなんて素晴らしい善人だ。気遣い出来る人間の鏡と言える。


「良いんだよ。少しでも楽しい思い出を作ってもらいたいからな」


「お前マジで良い奴――」


「敗北の思い出だけじゃ悲しいだろ?」


「「は?」」


 神奈と速人は廻を睨み、神音はまだ食べていないラーメンを斑の傍に置く。


「おかしいなあ。私達が負けるって聞こえたんだけど」


「そう言ったんだ。お前等は俺達に勝てない。戦わなくても分かる」


 先程の満足気な顔から一転、頬が引き攣ってしまう。

 怒りを感じたのは速人もで強力な殺気を容赦なく放出する。


「へ、へええ。ちょ、調子乗りすぎじゃあないかなああああああ」


「調子に乗らせておきなよ。試合が終われば態度も変わるさ」


 冷静な神音の発言を聞いて神奈は少しずつ怒りを静めていく。


「もう試合を始めようか?」


「ああ。そんですぐ終わらせてやるよ。私達の勝ちでな」


 不敵に笑う廻と明八は天子を布団ごと闘技場内へと運び込む。

 熱を帯びた神奈達も中へと入り、気絶した斑とラーメンだけが残された。











腕輪「味噌カレー牛乳ラーメン、食べたことはありませんがオススメです!」


神奈「せめて食べたことあるラーメンをオススメしろ」


腕輪「じゃあ……醤油ラーメンで」


神奈「普通!」



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