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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一章 神谷神奈と強さの果て
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207 目的――詠唱が長すぎると敵は待ってくれない――

2024/06/09 文章一部修正+加筆









 じりじりと神奈に近寄るジルコンダは笑うような目をして口を開く。


「ふぉっふぉっふぉ、儂は魔界一の魔法使い。この儂にかかればどんな敵だろうとイチコロよ」


「上手くいきゃいいけどな。ガッカリさせんなよ?」


「ふぉっふぉ、〈大地の塔(クェイクピラー)〉!」


 いきなりの魔法攻撃により、神奈の足元の大地が勢いよく上昇していく。


「おいおい、こんなので倒せるとか思ってるんじゃないだろうな?」


 一瞬にして舞台が豆のように見える高さに到達した。

 ダメージがない神奈は油断していると、腕輪に焦った声で忠告された。


「神奈さん! 狙いは攻撃ではありません!」


「……そういうことか。舞台外に出すつもりなわけね」


 ぐんぐんと伸びていく〈大地の塔〉は徐々に傾いていき、神奈を舞台から遥か遠くに運ぼうとしていた。退場になるのは困るので神奈は〈フライ〉を使って空を飛び、舞台の先程の場所へと舞い戻る。


「ふぉふぉ、呆気ない幕きれじゃったな」


「そうでもないぞ? 臆病者」


「ほほう、戻ってきおったか」


 背後に猛スピードで下りてきた神奈に対してジルコンダは冷静に対応する。


「それにしても臆病者とは、酷いの。痛めつけずに場外負けにしてやろうという年寄りの優しさなのじゃがなあ?」


「痛めつける? だからやれるもんならやってみろっての、一応少しは期待してんだぞ?」


「そうか、すまんが手加減は苦手でな。死んでくれるなよ? 爆!」


 ジルコンダが人差し指を向けた先は遥か彼方まで伸びている〈大地の塔〉。

 未だに伸び続けている〈大地の塔〉に魔力を通すと、瞬時に亀裂が入りバラバラに砕けた。


「〈岩石操作(ロックコントロール)〉」


 何百という岩石に分かれた〈大地の塔〉の全てが重力に従わず、ジルコンダの意のままに操られる。

 人を軽々と圧し潰せる岩石は全て神奈の方に向かっていき、流星群のように降り注ぐ。抵抗もせずに棒立ちな神奈の姿は、あっという間に降り続ける岩石で見えなくなる。


 岩石は神奈に衝突した衝撃で粉々になっていた。

 秒速三十万キロメートルもの猛スピードで落下した衝撃には、魔力で強化された岩石もさすがに耐えられない。舞台が少し傷付く程度で済んでいるのはそれ以上に強化されているからだ。


 粉微塵になった岩石が宙に舞うせいで神奈の姿は誰にも見えない。

 死んでしまったかと考えていたジルコンダだったが、険しい表情になり岩石落としを止めない。


「ウザい」


 降り続ける岩石に向けて神奈が魔力弾を放つと、それが全てを呑み込んで岩石は消え去る。

 黒髪が乱れただけで、服すら無傷の神奈がジルコンダの目に映った。

 強力な攻撃を耐えきる魔力の大きさに驚く彼は次の手に打って出る。


「ふぉふぉふぉ、お主やるのお。総合の力量は儂より上か。儂の魔法でお主に通用するものとなれば一つしかあるまい。まさかとっておきオリジナル魔法を使うことになるとはの」


「オリジナル魔法? ふぅん。じゃあ使ってみろよその魔法とやらを」


「後悔するぞ。火の精霊よ、熱き炎となりて我に力を貸したまえ。その業火で仇なす者を残らず焼き尽くすために――」


 オリジナル魔法という響きに胸を打たれて、神奈は魔法が発動するまで待つことにした。

 詠唱は発動に必要ないが無意味ではない。

 イメージしやすくしたり、魔法によっては威力を上げられる。


「来るか?」


「氷の精霊よ、凍える吹雪となりて我に力を貸したまえ。その凍てつく力で仇なす者を凍結させるために」


「今度こそ来る――」


「雷の精霊よ、轟く雷鳴となりて我に力を貸したまえ。その痺れる閃光で仇なす者を滅ぼすために」


「よしもう――」


「風の精霊よ、荒れ狂う暴風となりて我に力を貸したまえ。その切り裂く神風で仇なす者を吹き飛ばすために」


 詠唱は一分程続いたのにまだ終わる気配がない。

 神奈の瞳は期待が込められたものから、徐々に死んだような半目になっていく。


「光の精霊よ、眩い閃光となりて我に力を貸したまえ。その光で闇を払うために。闇の精霊よ、漆黒の闇となりて我に力を貸したまえ。その――」


「長いよおおおお!」


「暗闇で希望をおぶらっ!?」


 オリジナル魔法に興味があったので神奈は待っているつもりだった。しかしさすがに興味あるといっても詠唱が長すぎる。漫画やアニメの敵ですら待ってくれないかもしれない。

 神奈は耐えきれず、ジルコンダの顔面を殴って舞台外まで殴り飛ばす。

 ジルコンダはあっさりと気絶して舞台外に落ちたので場外負けとなってしまう。


「おっと優勝候補のジルコンダ! ここで人間の少女にやられてしまったああ!」


 反則行為の監視役である赤い肌の審判、マンジャンが興奮して敗北を告げる。


「長すぎだろ! あんな詠唱長かったら実戦で絶対使えないじゃん!」


「しかし込められていた魔力は相当なものでしたよ。解き放たれていれば神奈さんでもダメージを負ったでしょうね」


「にしたってあれはないだろ! どんだけ詠唱続けるつもりだったんだよ!」


「――だよなあ、あれはまどろっこしいよな」


 文句を言い続ける神奈に同意する声が突如掛けられる。

 振り返ると一人の男が立っていた。赤い肌、額のすぐ上から一本の白い角が生えている男、モウゾウだ。


「お前、確か鬼族の。私に何か用かって聞くまでもないか」


「魔王とはサシで()りてえんだ。邪魔はされたくない。だからまずは魔王以外の奴を倒そうと思ってな」


「魔王と、か。鬼族と何か関係あったりする?」


「人間、ましてや部外者のお前には関係ねえさ……行くぜ!」


 モウゾウが地を蹴ると瞬時に神奈の傍にまで移動し拳を振るう。

 フェイントもない真っ直ぐな殴打は、同じように神奈が振るう拳で止められる。二人の殴打の威力は凄まじく、数キロメートル先まで空気を振動させて、周囲にいた者を風圧で吹き飛ばす程だ。


 何度も拳を打ち合っていくと、攻撃の隙を見つけた神奈が圧倒的速度の拳を繰り出す。モウゾウの頬を掠らせるように向きを調整した殴打は、認識速度を上回る拳に彼は何一つ反応出来なかった。


「……っ!」

「どうだ。降参するか?」


 目を見開いて驚愕するモウゾウの額からは汗が一筋流れていく。


「ははっ、まさかだろ……!」


 全く見えなかったにもかかわらずモウゾウは降参することなく闘志を燃やす。

 笑みを浮かべたモウゾウの姿が――消えた。

 自分の動体視力で追えなかった事実に今度は神奈が驚愕する。


「消えっぐっ!?」


 驚いている神奈の後頭部を背後からモウゾウが蹴った。

 蹴りの強さは彼の全力だが神奈を気絶させるには至らない。


「後ろかっ!」

「後ろだな!」


 振り向いたのに後ろから声が聞こえたので神奈は目を丸くする。同時に背中に強烈な一撃が入って肺の中の空気が口から漏れる。


「かはっ!? また後ろ……!」

「そうだな!」


 神奈がまた後ろに振り向くと、またもその後ろから声が聞こえた。


「だよな!」

「なっにい!?」


 振り向く速度そのままで一回転してモウゾウの頬に拳を叩き込む。

 確実に見えないはずだった。そもそも移動が線ではなく点と点なのだから見えるはずがない。モウゾウからすれば予想外だろうが、神奈は一度同じ力を持つ人間と戦っている。


「瞬間移動だろ。もう同じ力持ってる奴に会ってるからすぐ分かったぞ」


「ぐっ、そうか、そうだったのかよ。だがな、少し違うぜ。俺の力は瞬間移動でも死角移動さ。どこにでも移動が出来る便利な力なら背後以外の場所に移動してるっての」


 相手の死角にしか移動出来ない瞬間移動。正に天寺静香の劣化版能力。

 どこにでも移動出来る天寺と違って、死角オンリーのモウゾウは対処がしやすい。


「ふーん。で、どうする。まだやるのか。勝てないって分かってるんだろ?」


「ぐっ、ああ分かっちまうな。おそらく奥の手を使っても負ける。……それでも! 俺はやらなきゃいけない!」


「お前、まさか……そんなにディナーを食べたいのか」


「違う! 優勝するのが目的だってのは同じだけど、断じてそんなもののために戦ってるわけじゃない! 俺はただ、魔王と戦いたいだけなんだ。戦えば、拳を合わせれば、考えが伝わるから」


 モウゾウはバカにするなと言うように真剣な瞳で話す。


「魔王とどうして戦いたいんだよ。やっぱり強さを証明するためか?」


 その問いに彼は首を横に振って答える。


「それもあるけどちげえんだよ。ああもう、話さなきゃダメか? 魔王国に住む魔族なら大体は知ってるんだからいいけどよ。俺達鬼族は元は魔王国に住んでいたんだ。酔っ払いが問題を起こすこともあったが普通に暮らしていた。もう三百年は前の話だがな」


「三百!? いやそうか、魔族って寿命が長いのか」


 人間の常識で考えていたが、よく考えれば悪魔や鬼なんて長生きする定番種族。

 人間でもない生命体が人間と同じ寿命とは限らない。

 魔界の生命体が全て人間より長寿な可能性だってある。

 ゲルゾウは何歳だったんだろうと思考を巡らせる神奈に、モウゾウは話を続けた。


「だがある日、先代の族長がマズい事件を起こした。魔王城への襲撃。酔っていたとはいえ許されない事件。当然俺達鬼族は辺境の地へと追いやられた。殺されなかっただけ奇跡だろうな」


「……酒癖わるっ」


「あれから三百年。鬼族と魔王国は関わってはいけないなんて言われるくらいどちらの印象も悪い。でも実際に来てみれば良い場所だ。住居を構えることを禁じられているんだがよ、俺はそれを取り消させたいんだ。バカな族長はもういない、俺達はもう大丈夫だって魔王に直接訴えたいんだよ。生憎、事件当時の魔王は先代だから話が通じるか微妙だがな」


 語りながらモウゾウはリータを一瞥してから神奈へと視線を戻す。


「つう訳だ……俺はどうしても魔王とサシで戦いたい、そのために――」


「なら戦って来いよ」


「いやだからサシで戦いたいんだ。今戦っても邪魔が入るだろ?」


「心配すんな」


 神奈はモウゾウへと歩いて行く。

 戦いを再開する気かと彼は構えるが、神奈は彼の横を通り過ぎて肩に手を置く。


「鬼族の里には行った、悪い奴等じゃなかったよ。だから協力してやる。お前と魔王が戦っている間、私は他の連中を食い止めてやるよ。誰にも邪魔はさせない」


「なっ……! いいのか……? 俺達は反逆者って罵られてるんだぞ?」


「人間の私には関係ない、だろ? 行けよ」


 モウゾウは何と言おうか迷っていたが、神奈が行く前に一言だけは絞り出せた。


「恩に着る……!」


 頭を下げたモウゾウは魔王リータの元に力強く歩いて向かう。

 途中、邪魔をする者もいたが全て神奈が一撃で舞台外に殴り飛ばす。

 神奈のおかげで舞台に残っているのは極少数。

 神奈、モウゾウ、リータ、ユージーの四人だ。


「よっ、悪いけどあの二人の邪魔はしないで大人しくしてくれないか。待ってれば体を休められるし、メリットなら相手が減るっていうのがあるぞ? 戦いたいってんなら私が相手になるけどさ」


 白髪、白い仮面、白いコート姿のユージーという男と神奈は向き合う。


「どう動くも奴等の自由」


「……えっと、どういう意味か分からんけど待ってくれるの?」


「我が自由は奪えない。他者の自由を奪うこともしない、我は自由を与えるだけだ」


 不気味なユージーに神奈は眉を(ひそ)める。


「何言ってんだお前。バカなの? もう少し分かりやすく言えよ」


「罵倒するのも汝の自由」


「罵倒していいのかよ……」


 強者の気配を感じなくても得体の知れない男と戦うのは不安すぎる。

 どういう人物なのか分からないが、神奈はユージーと共に魔王と鬼の戦闘を見守ることに決めた。


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