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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一章 神谷神奈と強さの果て
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206 禿頭――ハゲじゃなくてスキンヘッドかと思いきややっぱりハゲ――

2024/06/09 文章一部修正









 人間であるにもかかわらず、強豪の魔族集う魔界一武道会で活躍する神奈を見て、観客席は大いに盛り上がっている。観客から「もっとやれ」や「いいぞ」などの声が上がる中、観客の一部は妙な声援を誰かに送っていた。


「禿げてない! 禿げてない! 俺達全員禿げてない!」

「ハゲじゃない! ハゲじゃない! 俺達全員ハゲじゃない!」


 意味の分からない集団に観客は冷めた視線を送っていたが、誰かが恐怖に引きつった顔をして声を出す。


「あ、あいつら……禿禿団だ! そういえばさっきボスの名前が呼ばれてた!」


「ま、マジかよ。禿禿団っていったら、他人の毛髪を毛根から抜いちまうっていう恐ろしい団体だろ!?」


「ああ、抜かれたらもうダメだ。奴等が通った後には髪の毛一本残らないって噂だぜ」


 観客の何人かが噂しているのを耳にした神音は禿禿団に目を向ける。

 全員の頭が丸く光っていた。人型ではあるが肌は全身黒でツルツルと光を反射している。髪の毛どころか体毛が一本も生えない種族だと一目で理解する。


「おらあああ! お前をハゲにしてやる!」

「うわあああ! や、やめてくれえええ!?」


 舞台上では禿禿団のボスであるハゲットが戦っていた。

 負けを認めた相手に対して容赦なく髪の毛を掴んで引き抜いていく。

 あまりの悪行に周囲から非難の声が飛ぶが、ハゲットは気にせずに髪の毛を毟り取る。

 髪の毛を全て抜かれてしまった男は恐る恐る自身の頭部を触る。


「あ、ああ、俺の頭が……!」


「ほらよ、これでお前は禿禿団の仲間入りだ。ああといっても俺はハゲじゃねえ、スキンヘッドだ」


 禿げた男は絶望して蹲り、それを見ていた観客達が罵声を上げる。


「酷いことしてんじゃねえよハゲ!」

「そうだそうだこのハゲが!」

「何が禿禿団だよ! いい加減にしやがれハゲ!」

「そうだ! 息子をハゲにした責任はどう取るつもりだハゲ!」


 罵声の数々にハゲットは肩をプルプルと震わせて、目を充血させていく。


「俺はスキンヘッドだ! ハゲじゃねえんだよおおお!」


 ついに耐えきれなくなってハゲットは叫ぶと、同時に舞台に両手を叩きつけた。

 舞台に蜘蛛の巣状に亀裂が入ったのを見た観客は静まり返る。


「いやお前ハゲだろ」


「ああ!? 誰だ今ハゲって言ったのは!?」


 ハゲットが声の方向に振り向くと立っていたのは一人の男。

 赤い肌で白い角が一本生えている鬼族、モウゾウ。


「現実逃避してんじゃねえよオッサン。それとそいつはもう戦えねえだろ、解放しろよ」


「なんだと生意気な餓鬼が! 俺をハゲと呼ぶ奴は、誰であろうと許さねえ! お前もハゲにしてやる!」


 ハゲットはハゲた男を舞台外に放り投げて、モウゾウに向かって拳を振るう。

 拳は抵抗しないモウゾウの顔面に叩き込まれた。

 観客は鬼族にしては呆気ないと思ったり、ハゲットに対して怒る者もいたが、モウゾウのガッカリしたようなため息が出たことで全員が驚く。


「そんな程度か? 魔界一武道会に出るくらいだから強いんだと思ってたんだけどなあ」


「ぐっ、お前……! そんなものはどうでもいいんだ、端から優勝なんざ狙ってねえ。俺はただここに集まった奴等をハゲにしたいだけなんだからなあ!」


 ハゲットは両拳を組ませて叩き潰そうと思いっきり振り下ろすが、モウゾウに片手で受け止められた。簡単に止められたのを見ると大した威力ではないように思えるがそんなことはない。高威力の証拠として、モウゾウの立っている場所の周囲には亀裂が大きく入っている。


「なっ……! お、お前……!」


 軽々受け止められると思わなかったハゲットは両目を限界まで見開く。


「そ、そうか、鬼族だもんなあ……! そりゃ強いよなあ!? この反逆者共が!」


「そうさ、鬼族は強い……いつまでも風評このままってわけにはいかねえんだよ」


 モウゾウは魔王であるリータに目を向けながらそう呟く。


「だからまあ、お前みたいなクズ野郎に構ってる暇はないんだわ!」


 叫ぶモウゾウはハゲットの腕を掴んで振り回し、舞台外へと投げ飛ばす。

 ハゲットは部下である禿禿団の男達の方へと投げ飛ばされて、集団はドミノのように地面に倒れ込む。


「……ハゲット様」

「負けてしまったのか……!」

「く、くそっ、鬼、鬼、鬼! 許さねえ……! 絶対にハゲに……!」


 自身を投げ飛ばしたモウゾウに怒りを募らせるハゲットに続き、他の禿禿団員達も呪いのような恨みが込められた言葉を呟き始める。

 そこに一人の黒髪の少女が足を運ぶ。


「誰だ……!」


「私は神音。君達がいては邪魔なんだ。だからまあ、消えてくれないかな」


「ふざけるな! 決めたぞ、お前もハゲに……!」


 怒るハゲットは神音に手を伸ばすが、その時既に背後に回り込まれていた。

 認識すら出来ない速度を出されてハゲットは「なっ」と驚愕する。


「ただで去れと言っても納得しないのは分かっていたよ。だからプレゼントを上げよう。少し前はクリスマスだったし丁度いい」


「何を……し……た?」


 神音が頭部に触れたのは分かるが、何をしたのかハゲットには予想もつかなかった。

 ただ、目前にありえない物が見えた。

 黒い糸のような物が大量に、頭部からだらりとぶら下がっている。


「まさか、これは」


「もう迷惑行為はしないでくれよ? 純粋に楽しんでいるんだから」


 本来ハゲット達は体毛が一切生えない種族。それゆえに他の種族にある部分だけ憧れを抱いていた。お洒落も出来るその部分、髪の毛という自分達にはないそれに憧れていた。

 種族の違いなのだからしょうがない。そう思っていたが消えない憧れはやがて嫉妬となる。どうして自分達にはない物を持っているのかと、嫉妬に狂ったハゲット達は禿禿団を設立して、毛を生やす種族全ての髪の毛を奪うという目標を立てる。


 髪の毛を奪うこと一年間。

 植毛しようにも髪が生えない遺伝子なので、結局生えることはない。

 しかし今、頭から垂れ下がっている物は渇望していた物だと理解する。

 何をしようと無駄だと悟り、周りを自分達と同じにすれば平等だと考えていた。

 禿禿団の歪んだ思考はたった今、きれいさっぱり消え去った。


「髪だ……髪が生えたぞおお!」

「俺もですよ! 信じられない!」

「あ、あの人こそまさに髪神! 髪の神だ!」


 禿禿団、彼らの宿願は今果たされた。

 願いを叶えてくれた人間、いや神に全員が祈りを捧げて大人しくしている。

 祈りを捧げられている張本人は無視して舞台に視線を戻す。

 百人近くいた舞台には、もう既に二十人程度しかいなくなっていた。


「ぐげっ、つ、強すぎる……! 俺の逃げ足が通用しないなんて……!」

「ほっほっほ、逃げ回るしか能のない小童が。儂に勝てると思ったのかの?」


 紫色の顎鬚が特徴的な黒いローブを着ている老人、ジルコンダ。


「な、なんだよこいつ……」

「……弱いな」


 白髪で仮面を被っている男、ユージー。


「ぐっ、ぐえっ……」

「ははっ、お前ら弱いなあ! 魔界一になる気あんのかよ?」


 赤い肌が特徴の鬼族。元気な男、モウゾウ。


「さ、さすが魔王……」

「うむ、俺は魔王だからな」


 紫髪で小太りの男、魔王リータ。


「に、人間の、くせに……」

「人間甘くみんなよ、お前より強いやつなんて何人も知ってるぞ」


 四方八方に跳ねた黒髪の少女、神谷神奈。

 サバイバルゲームのような大会である以上、必然的に強者だけが生き残る。

 時間が経つにつれ隠れていた強者も、堂々としていた強者も勝ち残っていた。


「さて、そろそろ場違いな人間には退場してもらうかの?」


「へえ……やれると思うか?」


 神奈の方にジルコンダが近寄って魔力を昂らせる。

 面白そうな表情の神奈は期待を胸に、堂々と迎え撃つことにする。


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