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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一章 神谷神奈と強さの果て
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198 本戦――覚えづらいなら名前を改名しろ――

2024/05/19 文章一部修正









 クリスマス限定パフェを手に入れるためのイベントは予選が終了した。

 激闘が始まるような雰囲気が漂うなか本戦に移っていく。

 司会である店長がマイクを手に持って声を出す。


「それでは準備が整いましたので本戦の説明を始めます。まず本戦の勝負方法ですが、これから皆様には商店街内でこの場所の真反対に置いてある、一枚しかない鉄製のパフェ交換券を取り合ってもらいます。誰が一番早く手に入れてこの場所に戻って来るか、それが勝負の内容になります!」


 笑里と獅子神、夢咲と霧雨、神奈と速人、その他カップル達は黙って聴いている。


「その交換券を取り合うにあたって一つだけルールがあります。皆様には、カップル同士で足をこのゴム紐で結んでいただきます。そう、つまり二人三脚で参加してもらいます!」


 言いながら店長が白いゴム紐を見せていると、店員達がやって来てゴム紐でカップル同士の足を結んでいく。

 神奈と速人は結ばれている足を見てうげっという顔をした。

 息が合わなければ歩くことすら出来ない二人三脚は不利と言わざるを得ない。他人と息を合わせるのは難題だ。かつて運動会で二人三脚の練習をやったことはあるがもう二年前の話。さすがに二年も前ではコツも何もかも忘れてしまっている。


「しかしそれだけではありません! その交換券を狙う者が皆様以外に一人いるのです、その名も……ブラックサンタ!」


 店壁にあるスクリーンに一人の男が映し出される。

 通常赤いサンタ服の黒バージョンを着ており、付け髭で顔はよく見えない。きちんと顎髭も黒くなっていてただの不審者にしか見えない。


「ブラックサンタは一人なのでゴム紐で足を結んでおりません。スタート地点は別の場所になります。えーちなみに私が雇わせてもらったブラックサンタですが、本名は桜木晴也。爽やかな名前なのに彼女いない年イコール年齢の悲しい三十代男性です! カップルへの恨みを晴らすため、この戦いに参加を決めてくれました!」


「ろくでもないんですけど! 大丈夫かその人!?」


「ちなみに彼女募集中だそうです」


「知らねえよ! いいからさっさと始めようよ!」


 彼女募集中なのはいいが、カップルを理不尽に恨みイベントに参加するような人間には縁がない。もっとも、そういう人間は縁があれば一気に恨みを消せる。自分を変えようと努力すればきっといつかたぶんおそらく報われるだろう。


「えーでは本戦、デラックスハイパー……スー……? パフェ交換券! 奪取戦開始です!」


「もう本当に名前変えようか!?」


 開始を待ちわびる観客もいるので店長は開始合図である笛を吹く。

 笛の音が鳴り響いた瞬間、それぞれのカップルが走り出す。

 恋人同士だからか息の合った動きで遅いスピードでも走ることが出来ていた。

 しかしそんな中、神奈と速人、そして笑里と獅子神は苦戦。スタート地点からほぼ動けていない。そもそもスタートしようとして一歩目で派手に転んでいた。


「うぐわっ!? おい隼、なんで左足を出したんだよ。こういう時は右足から出さないか!?」


「縛られている足から出した方がいいと思ったんだ、しっかりと合わせろ」


「お前が合わせろやあ!」


 地面に顔を強打した神奈と、それに引っぱられて膝をつく速人。二人を置き去りにして他のカップルはどんどん先へ進んでいく。

 一方、笑里と獅子神の二人もかなり苦戦している。二人は元々大して面識もなく、ただ同じ学校に通っているというだけの関係だ。息が合うわけもなく、神奈達と同じように地面に転がってしまう。


「くそがああ! 何で前に進まねえ!」


「倒れているからだよ獅子神君! まず起き上がらないと!」


 ジタバタと足を動かす獅子神だが倒れたままでは前へと進む筈がない。

 笑里の助言の通り起き上がると、一歩進もうとしてまた転んでしまう。


「くっそおお!?」


「獅子神君。やる前に謝っておくけど、ごめんね。私はどうしてもパフェが食べたいの……!」


「ああ!? 何の話だ!?」


 笑里は獅子神より先に起き上がると、縛られている方の足を強引に進ませる。


「お、おい笑里まさか……!」


「ごめんね神奈ちゃん! 私は先へ行くよ!」


 強引に進ませて走り出す。獅子神は当然地面に引きずられていて、進むごとに地面を体が跳ねる。

 二人で走れないならと、笑里は一人で無理やり走ることにしたのだ。獅子神への配慮は一切せず、ただタイヤを引きずる特訓のように走る。言うなればパートナーはただの(おもり)同然。


「ぐわああああ!? いてっ! と、止まれえええ!」


「止まらない、止まれない、止められないよ! 私は前へと突き進むの!」


 あっという間に神奈の視界から消え去る笑里達は逆転するために速度を上げていく。その度に獅子神の顔に石などが当たったりしていた。さすが強者の体と言うべきか、一般人なら出血どころか体がぐちゃぐちゃになるの傷付く程度で済んでいる。


「……なるほどなあ」


「おい、まさか……!」


 神奈が走り去った笑里を見て口角を上げたのを速人は見逃さない。


「や、止めろ! あれはさすがに!」


「いややらないよやるわけないだろ! ほらさっさと立てよ」


「そ、そうだな。立とう、そして少しずつでも進もう」


 二人は手を使ってなんとか立ち上がると、ゆっくりと縛られている足同士を前へ進ませる。

 少しずつ歩幅や速度を合わせていく作戦に切り替えて、二人は徐々に進んでいく。


「よし、そう、この調子だ……行くぞ」


「ああ、普段の速度よりは遥かに遅いが逆転してやる」


 二人は肩を組んで大きく腕を振りながら歩き速度を徐々に増していく。

 小学校時代の二人三脚経験をまだ体が覚えていたのか、次第に走れるようになった。意外と転ぶこともなく一分が経過した頃、先に走っていた集団へと追い付く。


「くそっ、もう一組追い付いてきたか!」

「嘘でしょ早すぎる!」


 もう一組という言葉から笑里達が追いついたのは確定する。

 集団の中には居ないことからすぐに追い越していったのだ。


「早かったな意外と……でも」


「ああ、秋野とあの男がいない。あの速度だ、もしかすればもう交換券を手に入れているのかもしれないな」


 追い付いてきた神奈達を見て集団は焦りを感じ、速度を上げようとして転ぶカップルが続出。その隙に順位を上げていく神奈達は前方に夢咲と霧雨の二人が走っている。二人は神奈達の実力を知っているので立ち止まる。


「諦めた……?」


「ふん、勝てないと分かれば諦めるか。俺が相手だから仕方ないことだがな」


 止まったからといって諦めたと思うのは早計だった。

 霧雨は四次元空間となっているポケットに手を突っ込むと、バズーカのような筒を二個取り出す。それを夢咲に一個渡して、自分も一個手に持ってから後ろを向いて発射する。

 筒から発射されたのは風だ。途轍もない強風が周囲の看板などを吹き飛ばし、二人は風力で一気に神奈達を追い上げた。


「そんなのアリ!?」


「機械を使ってはいけないというルールはない!」


「そりゃそうだけども!」


 圧倒的な風力は加速と同時に他のカップルの接近すら邪魔出来る。

 唯一影響がない神奈だが、逆に速人との連携を取りづらくなるので速度が落ちる。

 集団のトップに戻った夢咲と霧雨は風力で宙を飛びながらさらに加速した。



 *



 白熱の戦いを繰り広げている神奈達よりも遥か先。

 獅子神を引きずって走る笑里は交換券があるはずの台座に到着した。


「ぐっ、て、テメエ……絶対潰す」


「あれ? 交換券はどこだろう? この箱の中かな……?」


 台座の上に置いてあったのは赤いリボンで装飾された白い箱、プレゼントボックス。

 疑問に思いつつも笑里はリボンを取って箱を開けると、その中が露わになる。


「え……?」


 笑里が困惑の声を出す。

 中に入っていたのは【ハズレ】と書かれた紙きれ一枚。

 つまり既に交換券が何者かに取られているということだ。

 パフェを食べられないと思った笑里は「そんなぁ」と落ち込んで両膝をつく。


「あん? なんだこりゃ?」


 獅子神がすぐ傍にあった箱に気付く。

 台座の上に置いてあったのと同じプレゼントボックスであり、彼はとりあえずその箱を開けてみる。


「ふべっ!?」


 箱を開けた瞬間、白い円柱が彼の顔面にぶつけられた。

 開封後に自動で飛び出す仕掛けのようで、その白い円柱の正体は生クリームが隙間なく塗られたパイ。生クリームがべっとりと顔に付着した彼は視界が白一色になる。


「なんじゃこりゃああ!?」


 見えないことで手を意味なく動かす獅子神はふにっと柔らかい物を掴む。


「……んあ? なんだこれ」


 なんともいえない心地よさがあり、揉むと柔らかいので変形する。


「……獅子神君」


「あ?」


 底冷えするような声が笑里から漏れる。

 獅子神は掴んでいる物の正体についてまさかと思うが、その予想は的中している。

 動かした手が偶然掴んだものは笑里の胸だったのだ。

 突然揉まれた笑里は動揺し、顔を僅かに赤く染めてから拳を握った。


「このエッチ!」

「ぶげっ!?」


 笑里は拳を叩き込み、獅子神は強烈な一撃をこめかみに喰らって気絶する。

 それを見て笑い声を上げた者がいた。黒いサンタ服を着ている青年、ブラックサンタこと桜木晴也だ。


「くははははっ、いいぞいいぞ! この調子でクソウザいカップル共の仲を崩壊させてやる!」


 桜木は台座に置いてあった交換券を手にしているが、店長のもとに戻らず待機していた理由がある。その理由とはカップルに嫉妬するあまり、仲違いさせて別れさせてやろうという最低な理由である。

 ただ一つ桜木の思い違いがあったとすれば、笑里と獅子神は別にカップルでも何でもなかった。









獅子神「……分からねえ。胸触るのはいけねえことなのか?」

笑里「エッチなことだよ! 恋人でもない人のおっぱい触っちゃダメ! めっ!」

店員「……君達、少し話を聞かせてもらおうか」

笑里「……あ」


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