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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一章 神谷神奈と強さの果て
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194 雪――寒い季節――

2024/05/03 文章一部修正








 十二月二十日。午前七時半。

 欠伸をして目を擦りながら起きた神奈がカーテンを開けると、外が白で覆い尽くされていた。

 冬には珍しくもない雪が降っていたのだ。今も尚しんしんと降り続けている。


 気温を感じない神奈にとって夏だろうが冬だろうが関係ない。暑くも寒くもないので景色以外何も変わらないのだ。当然加護の力はコントロール出来るので敢えてそうしている。

 天候を見てもう冬かと思っていると、いきなり窓ガラスを白い何かが突き破った。


「……は?」


 部屋に散乱したガラス片。小さな穴の空いた天井。

 呆気にとられる神奈はベランダに出て下にいる犯人に目をやる。


「かーんーなーちゃーん! あーそーぼー!」


「え、笑里……」


 襲撃の犯人が知り合いだったことに戸惑いつつ、天井に穴を開けた何かの正体を探る。まだ寝ぼけていたせいで神奈はそれが何なのか分からなかった。もしバッチリ目が覚めていたなら、卓越した動体視力でしっかり捉えていただろう。


「おい腕輪、さっき飛んで来たの何か分かるか?」


「速すぎて見えなかったです。私からは白い光線が飛んできたとしか」


 天井は完全に貫通していないので、その何かが残っていると思ったのだが穴には何も残っていない。窓を破壊する威力ならば勢いで天井も貫通するはずなのだが、何も残っていない不可解な状態に首を傾げる。


「かーんーなーちゃーん! あーそーぼー!」


「うるせえ! 小学生かお前は!」


 一年前まで小学生だったのだが、笑里は年齢なんて細かいことを気にしない。

 割れて空洞となった窓ガラスから神奈はベランダに出て笑里に文句を言うと、その瞬間またもや白い何かが飛んで来た。さすがに今度はしっかり右手でキャッチする。


 掴んだ白い何かは神奈の握力で砕ける。

 手から零れ落ちたそれはボトッと落ちて白い道路と同化する。

 投げられたのは雪だったのだ。理解した神奈は、柔らかい雪で作られた雪玉があの威力だということに呆れる。まさに身体能力の化け物と評するに相応しい。……自分も同じことが出来るのには目を瞑る。


「てか学校はどうした!」


「今日は休みだって! あと明日も明後日も休みだって!」


「それ冬休みに入ってるだろ……で、遊ぶって?」


 笑里は話がしやすいように二階のベランダまで跳ぶと、まだ掴んでいた雪玉を見せて笑顔で宣言する。


「かまくら!」


「雪合戦じゃないのかよ!」


 笑里に連れ出された神奈は雪で埋もれた道路を歩く。

 全く溶ける気配のない雪を踏みしめながら、神奈は笑里がどこへ行くのか疑問に思う。


「今どこに向かってんだ?」


「宝生中学校だよ。もうみんな集まってる頃かな」


「今って、朝八時だよな? 何なの? お前ら暇人なの?」


 みんなという言葉から才華などのいつものメンバーだろうと考える。

 雪道を歩いて二十分。宝生中学校に到着し、校庭に集まっている意外な面子を見て神奈は驚く。


 校庭に集まっていたのはコートやマフラーなど防寒具を付けている少年少女。

 才華と小学校時代の文芸部員、そしてメイジ学院Dクラスの生徒だった。

 速人がどこにもいないことを確認し神奈はホッと息を吐く。

 面識がない生徒同士もいるのに、なぜこんな面子が集まっているのか神奈は分からない。


「才華とかの宝生組がいるのは予想していたけど、まさかメイジ学院組がいるとは思わなかったな……てか何でいる?」


「雪遊びしようよって言ったら来てくれたよ? 知らない人は凪斗君と沙羅ちゃんが連れて来たの」


「凪斗……ああ斎藤君な」


 校庭も真っ白に染まっており、そこには宝生組とメイジ学院組それぞれが雪だるまを作っている。雪だるまの大きさを勝負しているようで、既にその大きさは下部分だけで五メートルを超えていた。


「あ、神谷さん! 見てください、この神谷さん型雪だるまを!」


 影野は一人別の雪だるまを作っていた。

 顔や体はもちろん、髪の毛一本一本まで神奈の全身が表現された雪像である。


「凄いけどキモいわ!」


「ああ!? 神谷さんの体が真っ二つに!?」


 神奈は胸の形や腰のラインまで酷似している気持ち悪い雪像を破壊した。

 項垂れる影野は放っておき、他の者達のまだ下部分しかない雪だるまを改めて見る。五メートルを超える雪玉を未だ転がしていた宝生組とメイジ学院組、いつになったら雪だるまの下部分が完成するのだろうか。大きくしすぎると上部分を乗せる時に大変な思いをすることに誰も気付いていない。


「はっ、烏合の衆かと思ってたが中々やるじゃねえか」


 日野がそう言うと、宝生組から夢咲が一歩前に出て口を開く。


「そっちこそやるね、私達と張り合える人達がいるとは思っていなかったよ」


「これ雪だるま作るだけだよね!?」


「神奈さん来てたの?」


「おお神谷か、お前の小学校時代の仲間結構やるじゃねえか」


 どこか認め合っている二人は置いておき、神奈はこの面子を集めた笑里と斎藤に目を向ける。


「それで? これから何するんだ?」


「かまくら!」

「雪合戦だよ」


「意見食い違ってんじゃねえか! ちゃんと統一させてこいよ!」


 それから少しの間話し合い、やることは雪合戦に決定した。

 宝生組とメイジ学院組に分かれて勝負をするようで、勝負に負けたチームがかまくらを作るという勝負だ。基本的なルールは雪玉を当てられた人間はエリア外に出るというシンプルなもの。

 全員が納得して雪合戦が今、開始され――。


「ちょっと待て、これ人数差が酷くないか?」


 ――開始されなかった。

 霧雨が自分達のチーム人数が少ないと文句を言う。


「まあそれは思ってたけど、それ含めて納得したんじゃないのかよ」


「納得出来るわけがないだろ。こっちは四人、そっちは七人だぞ? 明らかに不利だろ」


「じゃあ誰か引き抜くか?」


 人数差があるなら誰かを不参加にするか平等に分けるしかない。

 神奈は平等に分ける案を取り、霧雨もそれに納得する。


「それじゃあ神谷、お前が来い」


「ああ、それじゃあこれで五対六だし大丈夫だな」


 ようやく雪合戦が開始される――


「ちょっと待ってください」


 ――はずだった。

 次に異議を唱えたのは影野だ。


「神谷さんと戦うわけにはいきません! 俺もそちらにつきます!」


「はっ、別にいいぜ? そっちが六人になってもな」


「そうか、なら早く始めたいからこっち来い」


 これで宝生組に加えて神奈と影野VSメイジ学院組の雪合戦がようやく開始される。

 日野が人数で不利になってもいいと考えたのは魔力を持っているからである。魔力があるのとないのでは明らかに実力に差が出てしまう。日野はそれも考えて神奈と影野の引き抜きにも応じた。

 しかしその考えが甘かったのがすぐに思い知らされる。


「さて、ようやく開始か」


 開始を待ちわびた霧雨はポケットから小さい箱を取り出すと、ポイッと地面に投げる。

 雪で覆われている地面に落ちたそれは赤く光って勝手に側面が開き、巨大化していくと中身が出て来た。箱の中身は大砲であり、それを見て日野と坂下が顔を青ざめさせる。


「えっと……何それ?」


「ホイポイボックス。物体を粒子に変換することで小箱に収納できる優れものだ。そしてこれは今日のような日のために作った雪玉射出砲。秒速五キロメートルで雪玉を射出するし、砲台も三百六十度動く」


「ホイポイカプ○ルじゃん!? それと何その大砲! 何を想定してたらそんなもん作んの!?」


 霧雨の強みは規格外の科学力。知らなかったDクラスの面子は冷や汗を流す。


「へえ、でも私はそのまま投げた方が速いかも。えいっ!」

「ぐぼはっ!?」


 笑里が雪玉を作って投げると日野の腹に容赦なく直撃する。

 認識すら出来なかった彼は吐きそうになるのを堪えて地面に倒れた。

 笑里の強みは規格外の霊力。身体能力もそれで強化されており、その実力は高いと表現するのも生温い。


「私は避難して雪玉作ることに専念するわ」


 才華の強みは財力。残念ながらこの雪合戦に役に立つ要素がない。


「ひ、日野君……運ぶよ」


「それなら私が反撃しておくわ」


 坂下が気絶した日野を背負い校門近くに寝かせておく。

 反撃を宣言する葵が雪玉を作ると魔力を昂らせる。


「侮れない相手なのは分かったわ。だから私も全力を出してあげる……死ぬことはないでしょう」


 地面は雪に覆われているというのに、青い花びらが葵の足元から嵐のように吹き荒れて葵の全身を覆い隠す。そしてそれが全ていきなりの突風で飛んでいくと、葵の服装はコートから青紫色のドレスに変化する。

 何倍にも膨れ上がった魔力を雪玉と全身に込めて、夢咲目掛けて全力投球した。

 凄まじい速度の雪玉を夢咲はサイドステップで難なく躱す。


「その未来は読んでいたわ。私に雪玉は当たらない。当たる未来を見ているから避けるべき方向も分かるの」


 夢咲の強みは予知能力。制御不可能だが大まかな未来を見ることも出来るし、三秒後に訪れる自らへの害を自動で予知することが出来る。

 宝生組の実力はチートと言ってもいいレベルであり、メイジ学院組で知らなかった者は舐めてかかりすぎた。もっとも葵のように全力で取り組んでも敵わない。


「何……あの化け物達は」


 葵の消えそうな呟きは、誰の耳にも聞こえなかった。







腕輪「因みに、笑里さんが全力で雪を投げたら、空気との摩擦熱のせいで瞬時に溶けて水になります」

神奈「つまり私もか」

腕輪「はい。というかグラヴィーさんより強い人はそうなります」


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