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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一章 神谷神奈と強さの果て
372/608

193 護衛――生きる意味を見つけた――

2024/05/03 文章一部修正









 神音からの衝撃の告白も終わり、店を出た神奈達は笑いながら話していた。

 重くなった空気を少しでも変えるため、何か新しい話題を出そうと必死だった。


「案外秘密って誰にでもあるのもなのかな? 神谷さんも隠し事とかあるの?」


「ええ!? いやないない、私はないって! 私じゃなくて夢咲さんはどうなのさ?」


 秘密と言えることならば転生についてくらいである。

 それを話しても信じてくれるかは分からない。別に転生について話したくないわけではないが、わざわざ話す必要もないと思っている。今世で友達になってくれた者達に前世の自分は全く関係ないのだから。

 神奈は焦って否定して矛先を夢咲に変える。


「ええっと、私はないかなあ……? 霧雨君はある?」


「俺はあるぞ、大したことじゃないがな」


「本当に? 言えることなら言ってくれないかな?」


 斎藤は隠し事をされたくないからそう言うが、普通言いたくないから隠すということにまで頭が回らない。しかし霧雨が大したことがないと思っているのは本当らしく、軽い口調で秘密を口にする。


「夢咲と付き合っているんだ」


 暴露された秘密を知った神奈達はピタッと立ち止まる。

 夢咲は焦ったような表情になり、霧雨の頬をぐいっと引っ張る。


「ちょっ! なんで言っちゃうのよ……! それはまだ秘密だって……あ……」


 彼女の反応が何よりの証拠。気付いた彼女は首を震わせて横に振り向く。

 付き合っていると発言した時、冗談はやめろとでも言っておけば回避出来たかもしれない。しかしバレたと確信出来る程に神奈達の様子がおかしくなる。


「つ、付き合っている? それはあれか? 隠語か何かか?」


「隠語なわけがあるか。正真正銘俺と夢咲は恋人同士になったんだ」


 堂々とした宣言に夢咲は頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯く。

 神音はその堂々としている態度に感心するが、神奈と斎藤は汗をダラダラと流して信じられないという風な目で見る。


「な、なんで秘密にしてたのさ? というかいつから?」


「時期はもう一か月くらい前だ。夢咲が恥ずかしがるものでな、仕方がなかったんだ」


「そもそもどうして名前じゃなくて名字で呼んでるんだ? 恋人同士なら名前呼びじゃないのか?」


 神奈の素朴な疑問に夢咲は霧雨の口を押えようとしたが、その口からもう声が出ていた。


「俺はいいんだが夢咲が恥ずかしいと言ってな。なあ夜知留(やちる)


「もうやめてえぇ」


 ついに夢咲は恥ずかしさから地面に座り込んでしまう。

 意外に初心な彼女の新たな一面を見られて新鮮な気持ちになる。


「そもそもどっちから告白し――」


 神奈が気になったことを訊いている時、スマホから音楽が流れて声が消える。

 自分の物だと気付いた神奈がスマホの画面を見て、誰からの電話かを確かめると【十六夜マヤ】という表示が出ていた。それを後ろから見ている斎藤達は驚きの声を上げた。


「十六夜マヤって、あの歌手の!? 神谷さん知り合いなの!?」


「ああちょっとな、悪いけど電話出るわ」


 日本国内で有名な歌手と知り合いという事実に夢咲も立ち上がって驚く。


「もしもし、どうしたんだ?」


『ごめんなさい、急だったんだけど世界ツアーをすることになったの』


「世界ツアー!? ブログとかで発表されてないよな?」


『そうね、本当に急にプロジェクトが立ち上がって準備で忙しかったの。だから個人的な発表が出来なかったけど、一応私が所属してる会社の七七七プロってところは発表してくれたみたいよ?』


「出発いつ?」


『今日の夕方五時、半田空港よ。さすがに護衛として神奈さんを連れていくわけにもいかないから、今回は、いえ今回からは別の人を雇うことにしたの。出来ることなら見送りに来てほしいんだけど……』


「行く行く! 絶対に行くって! 今から向かえば余裕で間に合うし!」


『ありがとう、貴女にはお世話になったしもう一度会いたかったのよ。それじゃあ神奈、また五時にね』


 プツッという音と共にスマホの画面が真っ暗になる。

 通話が終わったのですぐ空港に向かおうと神奈は思ったが、有名人との会話だからか耳を傾けていた斎藤達が付いていくと目で訴えていた。別に断る理由もないので神奈は斎藤達の同行を許可して、四時半程に空港に辿り着く。


 夕陽に照らされる空港内。

 邪魔にならない場所で立つマヤのもとへと神奈が手を振りながら駆け寄る。

 斎藤と夢咲は本物の有名人に興奮していたが、興味がない霧雨や神音は少し冷めていた。


「神奈の友達? 初めまして十六夜マヤです」


「は、初めまして! ふぁ、ファンです!」


「そうだろうけど名前名乗れよ!?」


 興奮と緊張のあまり自己紹介すら満足に出来なかったが気にせず、斎藤はバッグからサインペンとサイン色紙を取り出す。


「さ、ささ斎藤を下さい!」


「それを言うならサインだ! 斎藤はお前だろいい加減にしろ!」


 混乱中な斎藤の後頭部を神奈が叩くと、マヤはクスクスと堪えきれず笑いだしてしまう。

 マヤはサインをした色紙を渡すと、それを大はしゃぎで自慢している斎藤を見て穏やかな笑みを浮かべる。


「いい友達だね、神奈」


「本当に良い奴等だよ」


「そんなにファンだったなら宝生中学校でのライブも見てくれたのかな?」


 その言葉に斎藤は硬直する。


「え、宝生中学校でライブ? な、なんですかそれ?」


「あれ? 見に来てくれたんじゃないんだ……」


「いや本当に知らなくて! 知ってたら絶対に行ったのに! そういえば文化祭の日に騒がしかったけどまさか……」


 魔導祭に向けての練習と日にちが被っていたので、斎藤が修行を効率よく進めるために神音が情報を規制したのだ。そうとは知らずに深刻な表情になる斎藤から神音は視線を逸らす。まさかここまで好きだったとは思っていなかったのだ。悪気がなかったとはいえ、悪いことをしてしまったかと思ってしまう。


「そういえば新しい護衛は? 私も行きたいところだけど、ちょっと気になることがあるから行けないんだよなあ。行く前に私がその護衛を試してやりたいんだけど」


 少し拳を突き出す仕草をする神奈に知っている声が掛かる。


「へぇ、誰を試すって? 兄者、僕らの実力が信じられないようだよ彼女は」


「しかしな弟者。俺達は負けたから何も言えないぞ」


「……え?」


 傍にあった男性用トイレから出てきた二人の姿に神奈や斎藤、神音のメイジ学院組は見覚えがありすぎた。

 赤みがかった茶髪で美形の少年二人、五木兄弟だ。

 護衛の役割だからか見慣れた制服姿ではなくスーツ姿である。


「五木兄弟!? まさか、お前らが……」


「そうさ、俺達が十六夜マヤの護衛だ」


 実力を魔導祭にて十分知っている神奈は実力に関しての心配が消える。

 しかし、マヤと彼等の接点に疑問を持つ。全く関わりはなさそうなのになぜ護衛をしようと思ったのか分からない。


「でもどうしてお前らが?」


「とある文化祭で彼女の歌を聴いたんだ。その時、生きてて初めて感動というものを味わったよ。君の言った通り生きる意味とやらを探していた時、彼女のことが思い浮かんだ。なあ弟者」


「そうだね兄者。彼女の感動的な歌をもっと広く周知させたい、そう思った僕らは彼女に会いに行って頼み込んだんだ。少し恥ずかしいけど、僕らの素直な気持ちも一緒に口にしてね」


「新しい護衛の人を探そうと思っていたから丁度良かったわ。二人から情熱を感じたしすぐにオッケー出しちゃった」


 面識がない二人をすぐ護衛にする警戒心の薄さを神奈は不安に思うが、二人の実力を知っている身としては何も文句を言えない。仮に厄介ファンや通り魔がマヤを襲っても、五木兄弟が守っているならどんな場所でも鉄壁シェルターのようなもの。安全安心、完璧な護衛である。

 それから談笑していると、あっという間に飛行機の飛ぶ時間まで僅かになってしまう。


「そろそろ時間だわ、行ってくるわね神奈。帰りはまあ遅くても三年で帰って来るから、元気にしててね」


「ああ、こっちの台詞だよ。またなマヤ。マヤを頼んだぞ五木兄弟」


 神奈の言葉に兄弟はこくりと頷き、マヤと彼等は飛行機に乗り込む。

 空港の窓から見守っていると飛行機が飛び立つのが見えて、神奈達は見えないと分かっていながらも手を振り続けた。


 少し悲しい別れを終えた神奈は横で号泣する斎藤にドン引きする。

 ファンという言葉に嘘はなく、応援グッズやポスターなど全てを所持しているオタクっぷりだ。会えただけでも嬉しいのに会ってすぐに別れるのは悲しい。そんな嬉しくて悲しい矛盾する感情から涙を止めることが出来なかった。


「十六夜マヤか……噂に聞いた程度だったが、きっといい歌を歌うんだろうね」


「え? 神野さん、まさか十六夜マヤの歌を聴いたことないの!?」


「うん、テレビも見ないしラジオも聞かないからね。有名人の名前も噂程度にしか知らないんだ」


 霧雨も神音に同意したがそれには周囲の人々すら「ええ!?」と驚愕の声を上げた。

 現代の人間がテレビも見ないのはかなりのレアケースだ。


「勿体ないよそんなの! そうだ、今から聴こう!」


 斎藤はそう言うとポケットからスマホを取り出して、イヤホンを繋いで神音に片方を差し出す。

 混乱してあたふたする神音を見かねた斎藤が、イヤホンを彼女の右耳にねじ込む。その後、自分も聴きたい斎藤は左耳にイヤホンの先端であるイヤピースを入れて、二人は流れる曲に耳を傾ける。


 様子を見ていた神奈、夢咲、霧雨の三人は僅かに笑みを浮かべた。


「何だかうまく纏まったって感じだな」


「そうね、これから仲良くなれる。そんな気がするわ」


「そうだな、俺と夢咲のように恋人になったりしてな」


「は、はっきりと口にしないで……」


 犠牲や価値観などから確執もあるけれど、付き合っていけば次第にそれにも慣れていい関係になれる。神奈達はそう考え二人を見守ることに決めた。











腕輪「どうやら、神音さんはマヤさんの楽曲にハマったらしく、スマホに今までの楽曲全てをダウンロードしたようです」

斎藤「僕もしてるよ」


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