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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
二章 神谷神奈と侵略者
37/608

23 適正――この程度なのか――

2023/11/03 文章一部修正+誤字修正


リンナ「え? バチカンに留学? バチカンってどこですか?」

神奈「なんか小さいとこ、詳しくは知らない」









 平和な日常が過ぎていき、特に変わったことなく夏休みに突入。

 宇宙人はディストの情報によれば三人。そのうち二人は神奈の家の中に、腕輪の小規模な結界を利用して閉じ込めているのであと一人。仲間がやられたにもかかわらずなかなか動き出さないことに神奈は少し不安を感じている。しかし相手が動かないのならば神奈も準備が出来る。

 少しでも実力を上げるため神奈は魔法の訓練をしていた。


「なあ、やっぱり属性魔法が戦闘には使えると思うんだよ。威力が下がるって言ってたけどどれくらい下がるんだ?」


「それはやってみた方が早いですね……。では炎が出るイメージで〈火炎放射(フレアブラスト)〉と唱えてみてください」


「いやここで? 家の中でやったら火事になるだろ。庭に行こう」


「……まあ現実を知るのもいい機会ですしね」


 腕輪がボソッと何かを呟いたが、神奈は構わずに庭に出る。

 宇宙人を相手にしてみて特に苦戦することはなかった。ディストが頼りにしている三人目も、神奈にとっては大したことない存在かもしれない。別に魔法を覚えなくても今のままで充分に勝利を収められると神奈も思う。慢心ではなく、相手の戦闘力を実際に見て考え、自分に照らし合わせた結果だ。


 神奈の中には地球を、友達を守るという使命感染みたものがある。だがそれとは別、心の隅では自分の力を最大限に使用してぶつかり合えるのではと思っていた。

 転生してからずっと力加減を調整する日々。

 力を抑制するのはストレスに繋がる。望んでそうしたのなら別であるが、神奈の場合は望まないものだ。ただ日常を過ごすために抑えているだけにすぎない。だから宇宙人という未知の相手に対し、心の隅で期待していたのだ。


 ディストとでは戦いとも呼べない一方的な蹂躙になった。気合を入れていた分、期待していた分、拍子抜けしたというのが神奈の正直な気持ち。今心に残っているのは守りたいという気持ちと、三人目に対しての微かな期待。

 それでも魔法を習得しようとするのは、これ以上強くなっても仕方ないと考える一方、守るためにはもっと力を手に入れるべきだとも考えているからである。


 空に手を掲げて魔法を行使する。

 火炎放射(フレアブラスト)と唱えると、右手が火炎放射機になったかのように炎が放出された。しかしそれを見た神奈の感想は弱いというもの。一般人なら脅威だろう三メートル程度の火柱では、速人にすら通じない。未曽有の危機に対抗する力にはなりえない。この程度かと落胆するしかない。


 しかし腕輪は「……え」と驚きの声を漏らす。


「なんで使えるんですか……?」


「いやお前が教えたんだよね?」


「それはそうなんですけど……」


 煮え切らない態度に神奈は「どうしたのさ」と問いかける。


「……適性がなければ魔法の威力が激減する。それは優秀と言われるレベルの者が上級魔法を使ってようやく効果が出るからです。先程の火炎放射(フレアブラスト)は炎属性の上級魔法であり、適性がなければ火の粉がでるくらいに収まってしまいます。それが神奈さんは初級魔法クラスの威力が出せた。……魔力量が異常なほど多いとはいえここまでとは」


「今ので上級なのか。火の粉って使えている内に入らないだろ」


 優秀な者でそれだとするなら神奈はどれだけ魔力が高いのか。今のところ神奈の魔力量を知る者は腕輪しか存在しない。


 そんな魔法の話をしていると携帯電話の着信音が鳴り出す。

 神奈に電話をかけてくる者とすれば限られる。悲しいことに片手で数えられるくらいしかいない。気付いて携帯電話をズボンのポケットから取り出し、確認してみれば相手は才華であった。


「もしもし」


『才華です。あの別荘の件の日付が決まったので事前に知らせておくわ。日付は八月十日、時間は八時。それまでに家まで迎えにいくから準備はしておいてね』


「オッケー、じゃあまた当日」


『うん、バイバイ』


 プツッと電話が切れた音がしたので、神奈は携帯電話をまたポケットにしまう。

 本日は八月八日。もう夏休みに突入してから何日も経っているのだ。その間、宇宙人問題も宿題も全く進んでいない。


「旅行は二日後ですか? まあ夏休みも中盤に来ていますし良い頃合いなんじゃないですか?」


「そうだな。宿題はまだ片付けてないから旅行が終わった後にやるとして、楽しむか!」


「いや宿題はやっておいた方がいいんじゃ……。でも宇宙人はいつ動くか分かりませんよ? 警戒もしておく必要があるでしょうね」


「分かってるよ」


 もしかすれば旅行中に来る可能性だってある。楽しい旅行でも警戒は怠らないようにしないといけない。


「あ、ならこの魔法を教えましょう! 今回の旅行にピッタリ、役に立つこと間違いなし!」


「そう言われて毎回碌なのきた試しがないんだけど……」


「木の棒をイメージしてください。そしてこう唱えるのです、〈棒作成(クリエイトボーウ)〉と!」


「……〈棒作成〉」


 神奈が魔法を唱えると、手に何かの感触があったので目を向ける。

 無意識に握っていたのは木の棒だ。長さはおよそ一メートル、厚さはおよそ四センチ、なんの変哲もないただの棒である。じっくり見ても変化なく、変わったところも見受けられない。


「これは?」


「ただの木の棒です」


 それは見れば分かる。紛れもなくただの棒だ。

 しばらく棒を観察したも当然だが何も起きない。


「……捨てるか」


「いや今は使わないかもしれませんがこれは今回の旅行に欠かせませんよ!」


「何に使うんだ、こんなの使わないだろ。老人扱いか? いくら子供とお年寄りは大事にしろって言ってもこれはちょっと」


「杖じゃありませんよ! それは――棒です!」


「そんなの分かってるわ! じゃあこれ何に使うんだ言ってみろ!」


 役に立つと言っても毎回おかしな魔法ばかりである。初めから期待してないとはいえ、教えられるごとに魔法の酷さが際立っている。


「この棒はあの行事で使うんですよ――そうスイカ割りでね!」


「はぁ、スイカ割り?」


「スイカ割りをするときに使う棒、用意するにもどこにあるのか分からない。そんな中役に立つのがその棒なんです! その棒は頑丈で、ちょっとやそっとじゃ折れないのが特徴で、魔法で出せるからコストゼロ! さらに使い終わったら薪代わりに使える汎用性! どうです、これは凄いでしょ?」


 正直いらないだろと神奈は思う。しかもまだやるかも分からないスイカ割り専門、ひょっとすればもう使用することがないかもしれない。

 そんなろくでもない魔法を覚えて一日が過ぎた。

 翌日。神奈は喫茶店でレイと会って旅行の説明をし、神奈の家を集合場所にしたので場所を教えておいた。



 八月十日。ついに旅行当日。

 神奈は朝食を食べながら壁の隅に目をやる。

 二平方メートル程の小さな箱のような結界に閉じ込められている二人――グラヴィーとディスト。侵略に来た宇宙人なので家に残すことは若干の不安がある。さらに不安を増加するのは薄紫の結界を腕輪が作っていることだ。不安要素しか残っていない。


「なんだこっちをチラチラ見て、ここから出す気にでもなったか」


 グラヴィーがそんなことを言うが、神奈は当然出す気などない。腕輪が作った結界だと出れそうだが少なくとも出す気はない。


「おい、聞いているのか! それと腹が減ったぞ、朝食を寄越せ!」


 結界の壁をグラヴィーは何回も拳で叩きつける。音は遮断されないため、ドンドンとうるさいので神奈は眉を顰める。


「うるさいなあ……居候以下の分際で。毎日ご飯あげてるだけでも私偉いもんだよ?」


「何がご飯だ、ペット感覚か! だいたいご飯といっても菓子だけじゃないか! 昨日なんて朝と夜しかないくせに両方ポッテトチップスだったぞ!」


 平日の昼は神奈が学校でいないため、グラヴィー達のご飯は朝と夜の二食のみ。それは休日になってからも神奈が面倒がって変わらない。

 もしも三食にしたら二食に戻すときに文句を言ってくるだろうという考えもあるのだが、すでに量が少ないと文句を言われているので関係ない。文句に苛ついて、最初はちゃんとしたコンビニ弁当だったというのに今は菓子類で済ませている。


「ポッテトチップスは内容量が大きいやつでも二百グラムないんだぞ! 食事にするには圧倒的に少ないだろうが! しかもそれを二人で分けているんだぞ!? 見ろ、ディストなんてなんか痩せこけてきてるじゃないか!」


 確かにディストはあまり食べないため、骨が浮き出ているくらいに痩せている。逆にグラヴィーは痩せてはいるのだがまだまだ元気だ。当分このままでも問題なさそうだと神奈は密かに思う。


「せめてお前が食べている物を寄越せ! まともな物食べてないからか涎が出てくるんだよ!」


 グラヴィーは涎を口から零しながら叫ぶ。


「おい後で床掃除しとけよ、汚いから。なんで人の家の床に涎垂らすんだよ。……食べてる物ねえ、もう卵焼きが二個しか残ってないんだけど」


「それでもいい寄越せ! 栄養バランスが偏るだろう!」


「宇宙人でも栄養バランスとか気にするのかよ。まあいいかな、一個ぐらいあげるよ」


 席を立ちあがった神奈はグラヴィーの元へと歩いて行く。その手には箸で掴んでいる卵焼き。鮮やかな黄色が神奈自身にもよく出来ていると思わせる。

 最近神奈はたまに料理にも手を出している。簡単な物に限るとはいえ、冷凍食品ばかりだと飽きるので仕方なく作っている。


「ほら、しっかりお食べ」

「餓鬼扱いするな!」


 神奈は箸で掴んでいる卵焼きをグラヴィーの口元に近付けていく。

 しかし食事には一つ問題がある。結界の存在だ。

 結界は無駄に防御力が高く隙間一つない。その状態では食べ物を入れようにも結界に弾かれるので、いつも腕輪が結界に多少の穴を空けることで食事を提供している。


「あっ」


 今は何も指示してないので、結界を通り抜けることなく床に卵焼きが落ちる。そして神奈は落ちた卵焼きをもう一度掴んで近付けていく。


「腕輪頼む」

「はい、結界に卵焼きが通る程度の穴を開けます」


 結界に穴が空く。食べられるようになったのはいいが、卵焼きが落ちたことに唖然としていたグラヴィーは叫び出す。


「ふざけるなああ! 一度落とした物など食えるか!」


「おいおい、好き嫌いはよくないぞ。我慢して食べなさい。立派な大人になれませんよ」


「お前は何目線なんだ!? 何度も言わせるな、食べるわけないだろうが!」


「へえ、それじゃあこの卵焼きはゴミに出すようだなあ」


 一度落とした物を食べるのには抵抗がある。

 三秒ルールなどもあるが基本的に床に落ちた時点で汚れているものだ。


「なっ、まさかその場合僕達の食事は」


「当然ない」


「くっ、くそっ、分かった! その卵焼きをくれ!」


 グラヴィーがあまりにも懇願するので、神奈は「しょうがないなあ」と呟きながら卵焼きを差し出す。がっつくように食べた瞬間グラヴィーがむせたが気にしない。

 衰弱しているディスト相手には遊ぶ意味もないので普通に差し出す。


「おいなんでディストには普通に与えた!?」


「いや、さすがにここまでやつれられると罪悪感がね」


「ならせめて毎日菓子じゃなくまともな食事を出せ!」


「分かった分かった、帰ってきたらな。私今日から二日間旅行に行ってくるから」


「なっ、待て! お前その間の食事はどうする気だおい!」


 家主の神奈がいないなら食事も用意されない。二日も何も飲食しないのはさすがのトルバ人でも堪える。


「適当に食べといてくれ」


「ここから出られないだろうがあああ!」


 やかましいグラヴィーの声を聞き流しながら神奈は外に出る。

 時刻は現在七時四十五分。太陽が光と熱を放って攻撃を仕掛けてくるが、神奈は加護のおかげで熱など感じないし、眩しい光も特にどうとも思わない。

 外で才華が来るのを待っていると、神奈の視界の奥から半袖短パンの夏っぽい服装でレイが歩いて来た。お互いに軽く手を挙げて挨拶する。


「やあ、待たせたかな?」


「まだ集合の十分以上前だから大丈夫」


「それは良かったよ、実はトイレに行きたくて困ってたんだ。借りていいかな?」


「いいけどさ、ちゃんと家で行っとけよ。トイレは入って奥に進んでから右の方にあるぞ」


「ありがとう神奈。じゃあお邪魔します」


「早く行って済ませろよ」


 レイがトイレに行って十分経過した。

 長すぎると考えていた神奈だが、レイはようやく戻ってくる。


「レイさん遅かったですね。もしや……」


「な、なんだい?」


「女の子の日ですね!」


「レイは男だろ! あと私たちの年齢だと普通まだだって前にも言ったよね!?」


「いえ分かりませんよ、本当は女の子で年上かもしれません」


 もう腕輪の言動は聞き流していいくらい神奈は呆れている。レイも正真正銘性別は男性なので、苦笑いを浮かべて「あはは」と困ったような声を出す。


「……んなわけないだろ」


「うん、残念だけど僕は男だよ」


「なら男の子の日でしょうか」


「そんなものないだろ」


「それなら……」


 まだ何か言いたいのかと神奈は深くため息を吐く。


「――宇宙人ですかね?」


 二人の呆れていた表情が心と一緒に引き締められる。

 普通なら宇宙人など信じないし、疑われても困惑したりバカにするだけ。レイも一瞬質問に驚いていたがすぐに笑い声を零す。


「面白い問いだね。……さて、どうだろう」


「レイが宇宙人なわけないだろ……」


 話しているとき、二人は視界の端に黒く長い車を捉えた。

 目立つ車は神奈達の前に止まり、助手席の窓が開いて才華が顔を出す。


「神谷さんおはよう。早速で悪いのだけど前から四つ後ろに乗ってね。えっと、そっちのレイ君も」


「分かったよ、じゃあ失礼して」


 前から四つ後ろのドアを開けて乗り込むと、すでに全員揃っていたことが判明する。道のり的に神奈達が一番最後の方が行きやすいからである。


「あらあらまた新しいお友達かしらあ。お友達増えたわね才ちゃんも」

「うむ、そうだな」


 車の前から二番目の列の席には才華の両親が座っている。三列目には笑里と夢咲という順だ。一番前には助手席の才華と運転席に座る老人。運転手はいつも登下校で才華を送り迎えしている老執事だ。


「じゃあ早く行きましょう。この辺りだとこの車は目立つでしょ」

「そうですな、それでは参ります」


 その目立つ車で住宅街を走り、神奈達は目的地――海と山が近くにある藤原家所有の別荘に向かっていった。


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