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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一章 神谷神奈と強さの果て
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188 温泉――猫耳ダメイド再び――

2024/04/14 文章一部修正








 温泉旅館ミヤマ。

 秘境のような山奥にポツンと建っているそこは、百年以上も経営している老舗旅館だ。露天風呂では山の木の香りと、川や木々などがある景色が楽しめ、料理は豪勢なものが出てくる。そんな温泉旅館に神奈、笑里、才華の三人はやって来ていた。


 学院が更地になりかけて長期休暇になっている神奈のために、才華が予約して三人で行くことにしたのだ。暇潰しもあるが、温泉に入れば疲労が回復して良い気分転換になる。


「お帰りなさいませえ! お風呂にする? ご飯にする? それとも、お・ふ・ろ?」


 そう、老舗で評判のいい旅館のはずだった。

 三人を出迎えたのは黒い猫耳を付けてメイド服を着た少女だったのだ。風情もへったくれもない。


「……帰るか」


 神奈はくるりと背を向けて帰ろうとする。


「わああ待った待ったすいません! 悪ふざけしてすいませんにゃあ!」


「まだふざけてるだろお前。ていうか思い出したぞお前のこと! 文化祭の時の猫耳ダメイドじゃねえか!?」


 宝生中学校文化祭。神奈は十六夜マヤと一緒に楽しもうとしていたが、その時に神奈を苛つかせたメイド喫茶で働いていたのが、今接客している少女だった。

 名前は深山(みやま)和猫(かずこ)。語尾に「にゃん」と付いていたり付いていなかったり、メニューの名前の件で神奈を揶揄ったりするなど、客に対する態度ではなかったことが苛立ちの原因である。


「あれえ、お客さんもしかして文化祭の時に来てくれたの? それは嬉しいです……にゃん」


「はいさっそく付け忘れた! 何にも成長してねえなお前!?」


 嬉しくない再会を果たす神奈に向けて才華と笑里が口を開く。


「し、知り合い? 随分と個性的な知り合いね?」


「それよりせっかく温泉に来たんだから帰るなんて嫌だよ」


「わ、悪かったよ。帰らないから大丈夫だ。じゃあダメイド、部屋に案内してくれ」


「了解にゃん」


 敬礼してから部屋に案内しようとした和猫は――


「このクソ孫があああ!」


 いきなり跳んできた老婆に蹴り飛ばされて転がる。


「痛い痛い痛いにゃにゃにゃにゃ!」

「えぇ……?」


 蹴られた脇腹を押さえてのたうち回る和猫、躊躇なく蹴った老婆に神奈達は困惑する。

 浴衣姿の老婆が誰か分からない神奈だが、才華の耳打ちで正体が判明する。老婆はこの温泉旅館の女将だった。見せられたパンフレットには優しい笑顔の老婆の写真が載っている。


「珍しく手伝うとか言い出したと思えば恥晒しが! ウチはメイド喫茶じゃねえって言ってんだろうが! ああ!? 旅館の従業員失格だぞ!?」


「いやお婆ちゃんも口汚くて女将失格にゃんですけど……」


 和猫が呟いた言葉を聞いて神奈達はうんうんと頷く。

 まだ和猫はいい、客観的に見て全くよくないのだがギリギリセーフといったところだ。メイド服の場違い感はあれどクレームは来ない。しかし乱暴な口調に加えて暴力を働く女将の老婆を見たらクレーム間違いなしだ。彼女を見た子供は泣く。


「うるさいねえ、あたしゃいいんだよ。女将だから従業員の雇用も全部あたしが決めるんだからね。あんたはそこで床に這いつくばってな」


 明らかによくない。全員の心が一つになった。

 従業員である受付の女性も苦笑いだ。


「さぁお客様。お部屋にご案内させていただきます」


「猫被るの早いな!? もうその口調意味ねえよ!」


「おや、なんのことでございましょう?」


「今さら惚けんな! 誤魔化せると思ってんのか!?」


 そんなやり取りもあって神奈達は女将の案内で廊下を歩いて行く。

 長い年数が経ってもしっかりとした木造建築、床は歩いても音がしない。旅館の造りには感心出来る。


 部屋に着くと、窓から見える景色でいっそう感心する。

 山の自然を一望出来るようになっていて、眺めれば心が穏やかになっていく。


「当旅館の一番の自慢でございます。どうぞ何時間でも見ていてください」


「さすがにそんなに見ないよ。てか一番は温泉じゃないの?」


「それではあたしは失礼します。ごゆっくりどうぞ」


 女将が出て行った後。神奈は深いため息を吐きながら和風の座椅子に座り、脇息(きょうそく)に両肘を置く。

 少し大きめの机の上には蜜柑が四個、その他にも個包装の煎餅(せんべい)が置いてある。部屋の中には小さいテレビなどが置いてあり休むには問題ない。


「まったく、どうやったらあんなキャラの濃い人間が産まれるんだよ」


「愉快な人達じゃない。見ている分には面白いと思うわ」


「それ関わりたくないってのと同じじゃない?」


 時間もあるので寛いでいたが、笑里がクローゼットの中から浴衣を取り出す。


「ねえ二人とも、そろそろ温泉に行かない?」


「そうね、山道で汗を掻いたし……二人は掻いてないみたいだけど」


 神奈達は用意されていた浴衣と真っ白なタオルを持って温泉に向かう。

 女と書かれた暖簾(のれん)を潜ると脱衣所があり、三人はそこで服を脱いでロッカー内の籠に入れておく。防犯機能はしっかりしていて鍵付きなので安心だ。


 神奈以外の二人は寒さから白く染まっている肌を露わにする。

 神奈は加護のおかげで気温を感じないので、肌はほんの少し赤みを帯びている。


「なあ、お前らタオルで隠したりしないの?」


 温泉といえば集団で入る場所であり、あまり慣れていない神奈は羞恥心が込み上がる。いくら友達同士でも全て見せるのは恥ずかしくタオルで隠してしまう。

 逆に才華と笑里は堂々としていて、胸部や陰部を隠していない。


「だって湯船に入る時にタオルは取るでしょう?」


「そうだよ、だったら最初からすっぽんぽんでも気にしないよ」


「言い方は気になるけど、そういうもんかあ」


 二人の答えや態度には羞恥の感情など一欠片もありはしない。

 二人がそう言うなら自分もと思い神奈は胸部と陰部をタオルで隠すのを止めた。


「ねえ神奈さん、今更だけど、腕輪さんを外さなくていいの?」


「こいつから離れない限り外せないんだよ」


「呪い?」

「愛です」

「束縛の強い愛ね」


 温泉に繋がる扉を開けると石畳が広がっていて、右にシャワー、左にいくつもの湯船がある。奥には外の露天風呂に繋がる扉もあるが、まずは室内の温泉に入ることに決めた。当然入る前にシャワーを浴びる。

 全身を清めてからいざ温泉に入ろうとした神奈だがそこで迷いが生じる。


「温泉、種類あるな」


 室内の温泉には様々な種類があり、若返り、美肌効果などの効能ごとに分けられていた。

 迷っているうちに才華と笑里が神奈の隣に並ぶ。


「どれにする?」


「そうね、やっぱり美肌効果があるところからにしましょう」


「おお、肌が石鹸みたいにツルツルになるって書いてあるよ」


「大袈裟じゃね?」


 三人は順番に温泉を巡っていき、ゆっくりと堪能する。

 神奈は加護の効果を意図的に切ることで気持ちよく湯に浸かった。


 始めに入った温泉は肌の角質や毛穴の汚れを洗い流す効果があり、皮膚を滑らかにする美肌効果がある。次に入った温泉は微量な放射線で体に負担をかけることにより、免疫力を上げるため「万病の湯」と呼ばれている種類の温泉だ。

 そしてこれから次の温泉に入る前、神奈と笑里は「えっ」と声を漏らす。


「な、なんかここ茶色くないか?」


「うん、身体に悪そうだね……入りたくないかも」


 そこにあったのは薄茶に変色した温泉。

 湯は透明と思っている二人は何かの異常ではないかと考える。


「ああ、含鉄泉(がんてつせん)ね」


 二人に続いてやって来た才華は茶色の温泉を知っていた。


「含鉄泉? これもやっぱり温泉なの?」


「ええ、湯がそんな色なのは鉄分を多く含んでいるからよ。空気に触れることで酸化して茶褐色に変化するの。飲むことで鉄欠乏性貧血に効果があるとも言われているわ」


 説明を聞いた二人はうげっという嫌そうな顔をする。

 色もそうだが、人が入った湯を飲むことに嫌悪感があるからだ。


「あのね、温泉を飲むことは飲泉(いんせん)って言って、珍しいけど悪いことじゃないのよ? 旅館によっては飲む専用の場所が用意されているんだから。それにほら、ここに書いてあるじゃない」


 才華が指す場所には看板があり【当旅館の温泉は飲める成分ではありません】と書かれていた。危うく笑里が試しに飲もうとしていたので神奈は慌てて止める。


「飲める場所と飲めない場所があるのよ。私はどこに行こうと飲まないけどね」


 どうでもいい豆知識だと二人は心の中で思った。

 室内の温泉も十分堪能したので、神奈達は本命である外の露天風呂に向かう。

 外の景色は広大な自然が見渡せる絶景であり三人は目をキラキラ輝かせる。


「いいねえ大自然の景色」


「だよねえ、さっそくはーいろっ!?」


 露天風呂の前には階段があり、段差に躓いた笑里は勢いよく頭から湯船に突っ込んだ。


「笑里いいい! 大丈夫か!?」

「ヴヴァ、ばいびょうぶぶぶぶ」


 露天風呂に慎重に入浴した神奈と才華は、体勢を直した笑里と共に絶景を眺める。

 安らぎを与えてくれるような自然を眺めていると才華が口を開く。


「笑里さん、胸が大きくなった?」


「えっ、どうして分かったの!? 超能力者!?」


「いや、成長期だから当然じゃないの?」


 呆れたような視線を向けた後で神奈は笑里の胸部をじっと見るめる。

 神奈も小学生の時はあってないようなものだったが、中学生になってからは成長が始まって僅かな膨らみを見せている。本当に僅かな、壁と見間違える程度だが一応成長した。しかしそんな自分よりも、隣にいる二人の方が明らかに大きいので少し嫉妬する。


 精神が完全に前世のままなら嫉妬もしなかっただろうが、元々の神谷神奈と前世の自分の魂が融合したせいか嫉妬もする。女性の裸を性的な目で見られないのも同じ理由だろう。女性の性別で生きる神奈にとって大きな利点だったのかもしれない。


「神奈さんも大きく……なった?」


「今の間は何だよ、成長しただろ私の体も。才華はかなり大きくなったな」


「そうなの、最近肩凝りの症状が出始めて、手で隠せない大きさになったし重いし」


「もしかして自慢!? お前そんな性格だった!?」


 わざとらしく自分の胸を押し上げて言う才華に、神奈はザバッと立ち上がって叫びを上げる。


「私だって、私だって成長途中なんだよおおおおお!」


 その叫びは広大な自然に広がると、やまびことなって帰ってきた。

 思わず叫んでしまったのが恥ずかしくなり、神奈はまたゆっくりと湯船に浸かる。










 教えてミヤマさん!

深山和猫「はい、最近登場したミヤマでーす! 因みに藤原才華さんのおっぱいは現在Dカップ。将来どこまで大きくなるのか、必見にゃん!」

腕輪「あああああああ! 私のコーナーが奪われたああああああ!」



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