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【終章完結】神谷神奈と不思議な世界  作者: 彼方
十一章 神谷神奈と強さの果て
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187 標的――気をつけて――

2024/04/14 文章一部修正








 喫茶店マインドピース。

 静かな落ち着ける空間と珈琲の味に力を入れている店では、宇宙人がアルバイトをしていた。

 赤紫の髪色をした落ち着いた雰囲気の少年、レイは接客。

 灰色のマフラーをした細身の少年、ディストは料理。

 青髪で目つきが鋭い少年、グラヴィーは掃除。


 それぞれが自らの与えられた役割をこなし、グラヴィーは外から店の正面にある大きな窓を拭いていた。

 窓に映るのは茶色いエプロンを着て窓拭きをしている自分。

 どうしてこうなったとグラヴィーは毎日思い詰めている。


 元々侵略するために来たのにいつの間にか喫茶店のアルバイト。そんな事実が未だ心にグサッと来ている。

 色々なしがらみから解放されたとはいえ、平和な日々が続いているので少し気が緩みそうになるのだ。こうも平和に過ごしていると調子が狂うが、こんな生活も良いのではと思う自分もいる。


「まあしかし、たまにいるんだよ。実力差も分からず喧嘩を吹っ掛けてくる不良共が。ちょうどお前のような、バカがな」


 窓を拭いていたグラヴィーは映るのが自分だけではなく、もう一人知らない男も映っていることに気付いた。

 背後の敵意満々な雰囲気を醸し出している少年をグラヴィーは見る。


 黒いタンクトップを着ており、発達した筋肉が形を表している。

 魔力反応はないが身体能力だけでもそこそこ強い。

 この世界で上位の強さを持つ人間だと分かった。

 ……上位といってもピンキリな世界だが。


「分かるぜ、アンタ強いだろ。俺と戦え」


 理不尽。ただ強そうというだけで喧嘩を吹っ掛けられるなど冗談ではない。

 今まで喧嘩を吹っ掛けてきた連中に、そんな戦闘狂みたいな人間はいなかった。


「窓拭きで忙しいんだがな。僕も最近雑魚ばかり相手にしていて退屈だったところだ。お前が雑魚じゃないことを祈ってるよ」


 口ではそう言いつつも、魔力を扱えない人間など相手にならないと思っている。

 青いバケツと雑巾を歩道に置き、一応の警戒をしながら戦闘態勢に入る。


「そんじゃあいくぜっ!」


 大したことがないと決めつけていたグラヴィーは戦慄した。

 少年が意外に速く突進してきたためだ。油断していても音速の三倍程度の速さには対処出来るグラヴィーだが、魔力を扱えない相手がそれほどの速さを持つとは思っていなかった。


「速いが、対応しきれないわけじゃない……!」


「ぐぶおっ!?」


 勢いよくグラヴィーに駆けた少年は地面に沈む。

 グラヴィーが何かしたわけではない。何かしたのはその少年の背後にいた少女だ。

 四方八方に跳ねた黒髪の少女、神谷(かみや)神奈(神奈)が少年に手刀を落としていた。


「か、神谷?」


 一応戦闘態勢になっていたグラヴィーはあまりの呆気なさに間抜けな声を出す。

 タンクトップの少年はピクリとも動かず気絶したのが分かった。


「よおグラヴィー、お前も大変だな。こんなのの相手大変だろ? それにしてもこの町の治安ってこんなに悪かったっけ?」


「あ、ああ……お前は何か用か?」


「待ち合わせだよ。ほら、店の奥の方の席に座ってるピンク髪のあの子。まあというわけで私は行くわ」


 神奈は軽い足取りで店に入っていき、待ち合わせている少女のもとに歩いて行く。

 グラヴィーはまた視線を少年に戻してどうすればいいのかを考える。


「とりあえず……捨てるか」


 意識を失った人間は重いがグラヴィー程の身体能力なら関係ない。

 少年の体を軽々持って思いっきり遠くにぶん投げる。

 周辺に捨ててもすぐ戻って来る可能性があるからだ。


「あの肉体なら死なないだろ」


 どこか遠くへ星となった少年は放っておき、グラヴィーはまた窓拭きに戻る。

 一方、店内では神奈とピンク髪の少女が向かい合っていた。

 既に注文したものが届いており、テーブルにはオレンジジュースが二つ置いてある。


「久し振りだな、話があるってメールが来たときはびっくりしたぞ。……何があったんだ?」


 ピンク髪の少女の名はゼータ。かつて神奈と共に暮らしていた少女である。


「実は先日、アルファ、ベータ、ガンマの三人が襲撃を受けて酷い怪我を負いました。全員数カ所骨折しまして、今は怪我を治すため安静に過ごさせています」


「おいおい本当に治安悪いな。犯人の特徴は?」


「三人はとりあえず男だったとしか憶えていないようなんです。記憶が飛んでしまったみたいでなんとも曖昧なんですが、三人の意見を融合するととんでもない怪物が出来上がってしまいまして」


 ゼータが懐から一枚の紙を取り出してテーブルの上に置く。

 紙には犯人の絵が描かれている。一メートル以上の長髪が逆立っていて、ゴリラのような筋肉と赤く毛深い身体、さらに口癖はウホウホと追記されている。もはや人間ではない何かが描かれていた。こんな人間がいるはずない。

 空想の犯人像を見た神奈は「うわぁ」と声を漏らす。


「とりあえず男なのは分かった。私を呼んだ理由は何だ? 犯人捕まえてほしいとか?」


「あの三人が並大抵の相手に負けるとは思えません。確実に魔法使い。魔法に関係している者が集まるといえば神奈さんが通う学院ではないかと。まあ、危険人物がいることを神奈さんに知っておいてもらいたかったんです」


「メイジ学院にかあ、でも私が負けるような相手はほぼいないしなあ」


 ついこの間行われた魔導祭にて、神奈はAクラス屈指の実力を持つ五木兄弟と戦闘を(おこな)って勝利している。さらにマージ・クロウリーとの戦闘をえて、魔力量が上がった今となっては神音以外なら問題なく勝てると思っている。


「神奈さんも狙われるかもしれません。気をつけてください」


「分かった、心には留めとく」


 それから雑談を少しして、二人はそれぞれの帰路についた。

 神奈は周囲に誰もいないことを確認して、自分の腕に付けている腕輪に話しかける。


「なあ腕輪、リンナ達の強さってどれくらいだったっけ?」


 白と黒で二つに分かれている模様の腕輪はそれに返答する。


「メイジ学院でいえばBクラス上位の実力ってところでしょうか。天寺さんとか日戸さんは例外ですよ? あの二人はAクラス以上の実力がありますから」


「ふぅん、だからかなあ」


「何がです?」


「アルファとかがやられたって聞いても危機感がないっていうか。もちろんその犯人にちょっとした怒りはあるけど、私がやられるって危機感が出ないんだよなあ」


 まだ明るい空を見上げて呑気に言う神奈の考えは正しい。

 アルファやベータなどのクローン達の実力は神奈からすれば非常に低い。

 酷い例えだが虫を潰した奴がいるから警戒しろと言われたも同然なのだ。


「今までヤバいやつらを相手にしすぎたせいかな。この前も怪物みたいな学院長と戦ったし、小学生の頃から強い奴と戦ってたもんなあ」


「そんな人達は例外ですよ神奈さん。そもそも神奈さんが戦ってきた人達の強さがおかしいだけなんですからね。……まあその例外と遭遇する確率が異常なんですが。とにかく、この世界においてはアルファさんでも強者扱いなんですからね」


「はっはっは、笑えないなおい。これから会う敵が全員隼くらいなら楽勝なのに……いや、そもそも敵とか現れなくていいのに。なんで世界って平和にならないんだろ」


 そんなことを呟きながら神奈は帰宅した。

 学院も来年の四月まで長期休暇になってしまったので、家でゲームしたりアニメを視聴するくらいしかやることがない。笑里や才華を遊びに誘おうにも二人は学校がきちんとあるのだ。友達だからといってむやみやたらに誘えない。


「さて、ゲームゲーム。ハイパーダメオブラザーズでもやるか」


 強くなりすぎたせいか神奈には危機感が足りていなかった。

 今もなお、確実に災害になりうる者が成長しているというのに。








 教えて万能腕輪さん!

腕輪「はい今日も、質問何もないです! というわけで勝手に解説しますと……エビチリはエビがチリチリしてる食べ物ではないということです」

神奈「何の話だよ!」


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